【投稿】羅針盤を発行する会との出会い

官庁船勤務船員

 私は、外航や内航船員の経験も無く、投稿するような立場にはないのですが、官庁での約30年に及ぶ海上生活を経験して感じたことを述べさせていただきます。
 私は某商船学校を中退後、官庁船勤務をしており、間もなく還暦退職となる者です。
 商船学校を中退しても、学校で教鞭を執り苦労している諸先輩方の苦労を聞くうちに、雨宮先生の商船教育に関する書物と出会い、この会を知りました。
 船員は、目的地まで数時間で着く航空機と違い、目的地に着くまで、長時間、狭い空間での勤務や不規則な生活を強いられます。出入港作業では風雨にさらされ、寒い、暑い何処にも逃げ場は無く、まさに雨宮先生の言われる特殊な労働環境にあります。
 給料など賃金だけで解決するものではなく、職場への愛着や誇り、家族の支えなくして精神的に持たない職場だと思います。
 幸い、私は転勤異動は多いものの、官庁勤務なので、定期的に陸上勤務を経験しながら、国民の血税に支えられながら何不自由の無い生活をしてきました。
 父の死に目には会えず、作業中の負傷等など決して順風満帆ではありませんでしたが、何とかやってこれたのは、その根底には、商船学校の寮生活で味わった理不尽な生活の日々の経験のお蔭で、不平不満を言わずに黙々と働く、事なかれ主義を貫いてきたからだと思います。
 もし、一般商船で勤務していたらどんな人生を歩んでいたのかと思うと、日々、物思いにふけることが多くなりました。
 日本の経済を支えているのは船員であり、その様な船員の抱える苦悩を語り合う場が、この会の果たす役割と考えます。
 大手の船会社を除き、福利厚生とは無縁な職場環境にある船員は、モノ化されています。
 昔に比べれば自動化が進み、少人数での運航は可能になっていますが、結果的に個人への負担は増すばかりで、高齢化で増々、健康面、精神面への負担は急増しているようです。
 農業、漁業、建築現場や医療現場を支えているのも外国人労働者です。
 made in Japanの船員教育を受けた外国人船員が現場に増えてくるでしょう。
 しかし、狭い船内での協同作業、共同生活をするうえでの人間性、人格を養うことも人材教育の重要な柱と考えます。
 振り返ると理屈ではなく、目配り、気配り、気遣い、自己完結などやはり、これは商船学校の寮生活で培われたものも少なくありません。
 「衣食住足りて礼節を知る」と言う諺通り、衣食住の保障が無ければ、安心して職務に専念できませんし、技量、人格の向上も望めません。船員と言う職業を全うするうえでは、損得だけではなく、肉体的、精神的苦痛を強いられる職場環境を克服するための船員としての心構えと同様に、船員を雇用する会社の支援が不可欠であり、まさに車の両輪と言っても過言ではないと思います。
 コロナ禍、燃料高騰で内航船員の置かれた労働環境は悪化する一方かと思います。
教育現場の同志と協力して、一人でも多くの若者が船員を志し、その職を全うできるよう支えて行こうと思います。
 最後に、今年の夏、来島海峡で沈没し、行方不明となったままの船員の方のご冥福を祈ります。

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