元官庁船勤務船員

 知床の遊覧船事故は、単に当事者だけの問題ではなく、経費削減、安全運航の軽視など海運業界を取り巻く末端にまで、国の許認可を含め様々な諸問題を露呈しました。
 振り返ると某商船学校の酒と暴力の温床の寮生活に耐えかね、官庁船で30年以上海上勤務をしました。見習い船員の頃、神戸にあった海文堂で、雨宮先生の「商船教育時評」を感慨深く読んだ記憶があります。それから気が付くと月日は流れ、退職を控え、再び先生の「船員にこだわる物言い」をネットで購入し、自分の半生を振り返り、「羅針盤を発行する会」を知りました。

 先の見えない教育現場で苦しむのは学生だけでなく、教職員も同じです。私見ですが、雨宮先生は、先ず、教育現場の再建から着手され、甲機に偏重した教育だけでなく、文系などの幅広い学問の習熟を提唱されました。
 船員は、自然と共存する職業であり、国際的、多角的な視野を持ち、日々、勉強に励み、研鑽しなければ、モノ化されたまま、単なる海の使い捨て労働者になります。
 現場の教職員を含め、学生も試行錯誤を重ねながら、日々努力を続けてきたものと思いますが、海運業の低迷とともに、社会から取り残された商船系学校の衰退は修復不能状態にあります。
 どんなに自動化、省力化が進んでも、ボースン、ナンバンと言われる職人は、増々、必要であり、彼らの存在無しに安全運航を維持することはできません。人から人へ伝承される海技を熟知しているのが、「羅針盤を発行する会」の皆様ではないでしょうか。

 大手船会社は、海外に自前の船員養成機関を設立し、日本の商船系学校には高いハードルが立ちはだかります。
 夢を持って商船系学校に入学する若者は、我々の宝物であり、彼らの夢を撃ち砕かないように、我々は教育現場に足を運び、受験指導や部活動などの支援をしながら、志ある者には、道が開けるように何か出来ることを始めようと思います。
 来年も皆様がよい年をお迎えされますようにお祈り申し上げます。