組合員 竹中正陽(まさはる)

6.船主団体の責任
 前記したように、基金は海員組合と船主団体・国際船員労務協会が作る管理委員会で予算・実行・監査・会計報告が行われていた(はずだ)。したがって、横領自体は組合側に責任があっても、委員会の一方当事者として船主団体側の責任はまぬがれない。
 今日各社は、コンプライアンス遵守、従業員の人権尊重を社是として公表している。
日本郵船では「船上で必要となるスキルについて適切なトレーニングを受ける必要~、船上勤務においては、メンタルヘルスを含めた労働安全衛生が確保され、結社と団体交渉の自由や自身の苦情提起に対して救済へのアクセスが確保される必要がある」として、グループ企業全体に「船員の人権尊重に向けた取組み」を行うという。
 商船三井や川崎汽船もそれぞれ「商船三井グループ 人権方針」「川崎汽船グループ人権基本方針」を制定し、船員の人権が損なわれないよう取り組むとしている。これらはインターネットで容易に見ることができる。
 そして、非居住特別組合員は、各社の従業員でもある。自ら原資を拠出し、自社の従業員のために使われるはずであった基金。しかも管理委員会には自分たちの代表が当事者として参加している。そのような立場にいながら、史上まれな横領事件に対し、だんまりを決め込んでいてよいのだろうか?
 船主団体側は、仮に横領の事実を知らなかったとしても、事実が明るみになった以上、真相究明・再発防止・損害の賠償に向けた行動を取る義務を従業員(外国人船員)に対して負っているはずだ。早急に、第三者委員会を設置し、各基金の流用額、流用の手口を調査し、事件を防げなかった機構上の欠陥を洗い出し、再発防止策を講じて欲しい。
 そして、当然ながら過去に遡って会計報告・監査のやり直しを行い、それを従業員・組合員にはもちろん、世間に対して公表し、透明な運営に向かって欲しい。それが真の人権尊重・コンプライアンス経営のはずだ。

7.非居住特別組合員の権利
 非居住特別組合員制度が出来たのは、日本人船員の大量首切りを招いた緊急雇用対策と同じ1986年の組合大会であった。
 緊急雇用対策は、希望退職等による減員・船の海外売船(パナマ籍等へのFOC化)がセットになっている。海外売船のためには国の許可が必要で、当時運輸省は海員組合の了承がなければ売船を認めない措置を取っていた。
 そのため、会社の売船申し入れに対し海員組合は、新たに乗船して来る外国人船員を組合員にするよう要求し、組合費を会社が納入するシステムを作ったのである。組合員(日本人)が急激に減少することを見越した組合運営上秀でた?措置であった。
 しかし、外国人は日本人組合員と異なり、組合員としての権利は大幅に制限されて今日に至っている。
 組合規約には「組合員は、人種、信条、年齢、性別、組合内外の身分や地位などに関係なく、すべてこの規約のもとに平等な取扱いを受ける」(規約17条)とされている。
 にもかかわらず、非居住特別組合員は、船内役員や全国委員、職場委員、組合役員等への立候補権・選挙権がない。船内委員会を含め組合活動上のシステムそのものがない。
 賃金など労働条件に関して要求を出したり、討議する場すらない。日本人組合員に認められている組合役員のリコール権、組合の行為に対して苦情を申し立てる権利は、もちろんない。
 彼らに認められているのは、「担当組合機関に対し労働協約等について意見を述べ、または苦情を申し立てること」「組合の共済給付を受けること」「組合の施設を利用すること」のみである。その一方、義務として「組合の方針を支持すること」がしっかりと明示されている(非居住特別組合員に関する規則)。
 これについて、元組合長の中西昭士郎さんは、
 『彼らの規約上の位置づけをハッキリさせる必要があったから、俺の時に規約を改正して非居住特別組合員制度を作った。
 最初の組合費は確か20ドル位。彼らの声を反映するためにインスペクターや外国人スタッフ制度、退職金制度も作った。労働条件や権利を拡大する運動のために、組合費を40ドルに上げて、本人が払うようにしたんだ。時代に遅れないよう、制度もどんどん変えていかなければいかん。
 今の非居住の問題は何と言っても、組合費に見合った見返りを彼らに与えること。金を一番払っている者が何も言えないのが今の状況だ。彼らにきちんとした権利を与えなければ、このままでは組合が大泥棒にされてしまう。』と語っている(羅針盤11号海風気風)。
 大泥棒という点で、まさに中西元組合長の予言が的中したわけだが、権利拡大については、藤澤組合長時代の2008年大会に、関東地区の外航職場委員・全国委員22名全員が連名で、「外国人執行部員やISSの任務と権限の拡大・組織的拡充を含め、非居住特別組合員がより積極的に本組合の活動に参画できるシステム」、「船内委員会・代議員制度」の検討を要求する地区提案を提出した。本部もこれを受け入れ、字句修正のうえ方針化された。
 また、非居住特別組合員の要望として、「月例賃金増額、食料金改善、レクリエーション設備・上陸用交通手段などの福利厚生、継続雇用化」をIBF交渉で要求するよう提案し、これも方針として採択された。かつては、職場委員が非居住特別組合員の要望を大会で取り上げていたのだ。(機関誌「海員」2009年1月号)
 このような流れの中、一時は外国人組合員2名をプロ執行部に登用し、2012年にはフィリピン人国際スタッフ(ISS)を10名に増員した。しかし、それ以降急激に減少し、今はわずか3名となった。非居住特別組合員の権利拡大も行われないまま、今日に至っている。
 外国人船員の権利は、10数年来の不当人事、裁判、組合長の統制処分等によりかき消され、置き去りにされてしまった。むしろ一時期より後退している感がある。
 彼らの要望を叶え、海員組合を真にコンプライアンスを遵守する近代的、民主的組合にするためには、何と言っても、職場の同僚である外航の職場委員・全国委員の奮闘が欠かせない。積年の膿を出し切り、改革に向け声を挙げて欲しい。


(続く)