-裁判の経過と組合員の思い6ー

全国委員・竹中正陽

統制処分無効の高裁判決
 昨年1月全国評議会は、北山元中執に対する統制処分(全権利の無期限停止)を決定した。
 その後北山氏の抗告により11月の定期全国大会で審議されたが、統制委員会の査問報告書は議場に配布されず、審議時間が制限された上、代議員の沢山の挙手にも関わらず議事は打ち切られた。
 しかも無記名投票の結果を報告する際、議長は「白票」を無効票に計算した数字を報告して議場の承認を取った。組合規約では、白票は有効投票数に加えなければならず、明らかな規約違反である。
 「承認」の前提となる数字に誤りがあった以上、「承認」自体が無効であり、議長は正しい数字を報告して再度議場に測らなければならなかった。労働組合の議事決定は、規約に従った厳格な手続きが求められるからだ(組合民主主義)。
 その後代議員が、白票は有効票として計算する規約条文を読み上げ、計算をやり直すよう求めたが、議長も本部役員も無視した。
 規約では、統制処分を決定するためには、有効投票数の3分の2以上の賛成が必要で、規約通り計算すれば、必要数をわずか1票上回る僅差だった。わずか1票差ではみっともないと思ったのかも知れない。
 何人かの代議員が大会で発言したように、この統制処分には最初から無理があった。
 第一は、統制委員会が規約にある本人の査問を行なわず、「事理明白」と勝手に解釈したこと。
 第二は、北山氏が経営側に渡したとする資料は、本人が渡したのではなく、組合の漁船部長や総務部長の要職にあったOBが渡したらしいこと。しかも組合は、そのOBから何も聴取せず、「勝手に」北山氏の仕業と決め付けたこと。
 第三に、北山氏の罪状を示す証拠は、別の裁判(中央魚類との未払い労働債権訴訟)の経営側役員の証言記録であること。敵対する相手の証言をそのまま正しいと認めることは通常ありえない。
大会で私達が指摘した通り、このずさんな処分は本年1月の東京地裁判決で無効とされ、2百万円の慰謝料に加え、船員しんぶんへの謝罪広告の掲載も命じられた。
 判決は、「被告組合に損害賠償責任を発生させた被告藤澤及び被告組合に不法行為による損害賠償責任を発生させた被告大内の行為が統制違反として処分の対象となりうる」とまで述べている。
 去る8月22日、東京高裁も地裁判決を踏襲し、統制処分無効の判決を出した。組合と組合長ら役員は最高裁に上告したが、提訴以来わずか1年半程のスピード判決は、最高裁においても覆る可能性がほとんど無いことを示している。
 高裁で組合側は、4人の法律顧問を含む9人の大弁護団を組織、本部と関東地方支部から10人以上の傍聴者を動員して、藤澤組合長の証言を求めたが、裁判官は、「時間延ばし」と言下に却下した。
 大弁護団も、執行部の傍聴動員も全て組合費の無駄使いであることを、組合幹部はどう弁解するのだろうか。


岸本恵美さん裁判

 組合本部事務職員・岸本恵美さんの裁判は、依然として準備書面による論戦が続いている。
 6月に提出された書面では、組合は前言をひるがえし、「原告が2011年3月に起きた東日本大震災に関するニュースを見ていた点については、問題としない」と従来の主張を変更した。この結果、東日本大震災のニュースを見た時間は「パソコンの私的利用」に当たらないことが明らかとなった。
 また、岸本さん側の「求釈明」に対する組合の回答拒否(回答できない?)は5項目に上ることが明らかになった。
 ①配転処分発令前に松浦中執が詰問した、「1千万円は下らない背任行為」の根拠は何か?
 ②配転処分発令前の4回の「対話」についての録音テープの提出。
 ③パソコンの私的利用も一つの理由として処分されたという事務職員の労働審判の結論は? 和解したとすれば和解の内容は?
 ④岸本さんが育児休暇中に、同じパソコンを操作していた派遣スタッフのパソコンログの提出。
 ⑤東日本大震災に関するニュース等が私的利用にカウントされている。比較のため、プライバシーの観点でも問題がないと考えられる組合長、副組合長の作年3月のパソコンログの提出。
 去る8月24日の第7回弁論で裁判長は、「9月27日の組合長当選無効裁判の高裁判決の結果を見て、組合側に回答を求めるか、裁判所の見解を出す」旨表明したとのことである(岸本恵美さんを励ます会ニュース5号、6号)。
 次回10月5日に示される予定の裁判長の見解が注目されている。


1ヶ月早い組合大会
 例年11月に開かれてきた組合大会が、今年は1カ月早い10月9日からと発表された。
早めた理由は公表されていないが、今年1月に出された「組合長当選無効判決」にあることは明らかで、大会前に判決が確定することを恐れたのであろう。
 仮に大会前に組合長の当選無効が確定すれば、藤澤氏は、組合長として大会に出られないどころか、60歳の定年を過ぎているため執行部員でもなくなり、大会に出席することすらできない。組合長不在のまま大会を迎えるみっともない事態になれば、その責任も問われることになる。
 更に、定年を過ぎた執行部員は常任役員、顧問等を除き、組合員でなくなるため、次期役員選挙に立候補することすらできない。
 従って、大会前に判決が確定するか否かは、藤澤氏にとって死活問題だったのだろうと推察する。
一方我々組合員の側からすれば、大会を1カ月早められた結果、従来踏襲されてきた組合の日程は大幅な変更を余儀なくされ、随所にきしみが生じている。
 その第一は、全国委員選挙投票期間の短縮である。
 当初の選挙告示では、投票期間は8月17日までだった。しかし、いつのまにか8月1日までに変更された。国内部委員会等で質問が出たが理由の説明は一切ない。
 第二は、活動報告、活動方針案等の大会書類の作成と配布の遅れである。以前は大会の2ヶ月ほど前に方針書が一般配布されていたが、今回現場代議員に届けられたのは8月末から9月初旬、中には地区大会の2日前の9月5日に受け取った例もある。これでは「大衆討議」の時間がなくなる。
 第三は、意図があってのことか、各地区大会の日程を異常に早めた結果、地区大会の意義を損なわせてしまったことである。大会より1カ月以上も前の9月6日から7日にかけて多くの地区大会が開かれた。方針案配布からわずか数日で、方針書を読む十分な時間がない。これでは各船内の論議を集約した結果を修正案にまとめ、地区大会に提出することはほとんど不可能だ。
 大会を1カ月早めた弊害は計り知れない。


全国委員選挙への苦情
 全国委員選挙規則では「不測の事態が生じた場合は、中央選挙委員会は、中央執行委員会の承認を得て、その日程を変更することができる」とし、「遅滞なく、その理由とともに告示しなければならない」とある。
 しかし、選挙日程が大幅に早められたにもかかわらず、「理由を付した告示」は行われず、どんな「不測の事態」があったのか、我々組合員は何も知らされていない。
 この点私は、6月に規約に基づく苦情申立を行ったが、選挙委員会の回答は以下であった。
 『1月31日付船員しんぶんに掲載した選挙告示の選挙日程を記した箇所のうち、最後の行の「当選人決定告示2012年9月10日(月)予定」の「予定」という文字は、選挙日程の全てに掛かるものである。紙面のスペースが足りなかったため、最後の行の下に入れざるを得なかったにすぎない。
 この選挙日程は、あくまで全て予定であり、その後中央選挙委員会で決定した結果を中央執行委員会の承認を得た上で3月31日の船員しんぶんに掲載した。従って、全国委員選挙規則の「日程の変更」には当たらないので、理由を付して告示する必要はない』
 しかし、選挙告示の「予定」とは、あくまで当選人発表日のことで、開票作業には不測の事態もあるため、以前から発表日を「予定」として告示してきたものである。
 また、国政選挙の例を見れば分かるように、候補者届出日、投票日が「予定」という選挙告示はありえない。告示された候補者届出日、投票日はあくまで「決定」であり、天変地異等による不測の事態が生じた場合には変更することもありうる。
 仮に1月に告示された選挙日程が全て「予定」にすぎないとしたら、「決定」した日程を再度組合長自身が告示しなければならない。なぜなら告示は、規約上組合長自身が行わなければならないからである。
 このような組合規約を無視した勝手なやり方に対し、私は本部に苦情再申立を7月に行なった。
 ところが本部中執企画室に何度催促しても、「回答日は未定。回答するか否かも未定」の返事だった。
 組合規約では、苦情再申立に対しては、「かならず文書による回答が送られる(規約101条)」ことになっているが、この規定も無視された。そこで8月末の全国評議会に対して、苦情再申立てしたが、これも無視し、苦情の存在すら報告されなかった。
 私は、外航会社を退職後、組合に個人加入して内航船に乗ってきた。今回、全国委員選挙の投票用紙が送付されなかったので選挙委員会に申し立てたところ、「企業に在籍中の個人加入組合員は投票権がない」との回答であった。
 規約では個人加入を含む完全資格組合員は、「規約に従い一般投票や組合の各種選挙投票を行う(17条)」権利が認められている。
 私はこの件も合わせて苦情申立を行ったが、同様に無視された。
 本組合には離職者をはじめ数多くの個人加入組合員が存在し、未組織会社に在籍する個人加入組合員に対するケアは、「未組織の組織化」にとって最重要課題だ。
 未組織対策は組合の浮沈にかかわることを組織全体で再認識する必要がある。


現場重視か幹部主導か。本末転倒な規約改正
 労組法5条は、「連合団体である労働組合又は全国的規模を持つ労働組合にあっては、その役員は、単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること」と規定している。「同盟罷業」と「規約」についても同様の条文で「代議員の直接無記名投票」を義務付けている。
 ここで重要なのは、直接無記名投票が義務付けられているのは、「役員」「同盟罷業」「規約」の3点のみで、「活動報告」「決算報告」「活動方針」「予算」は義務付けられていないことである。
ところが今大会に提出される規約改正案は、労組法への整合を理由に「代表指名制度の廃止」を揚げ、一方、従来から批判の的であった委任制度を温存している。
 「現場代表である全国区や企業区選出の代議員が、執行部員に委任できる制度はおかしい。結果として多くの執行部員が2票持つことになり、執行部優先で物事が決まり、現場に軸足を置く方針に反する。現場は現場に、執行部は執行部にしか委任できないようにすべきだ」というのが、従来の委任制度への批判だ。
 一方、代表指名制度の目的は、乗船などで出席できない組合員が、同僚の組合員に代行させること。船員の特殊性ゆえの、本組合になくてはならないものである。
 できるだけ多くの現場組合員が大会に出席できるよう望むなら代表指名制度の廃止はできないはずだ。「役員」「同盟罷業」「規約」の投票ができないようにすれば良いだけで、廃止する必要は全くない。
 被代表指名者が、活動報告や活動方針の論議に参加することは労組法と何ら矛盾しない。
現場重視を考えれば、むしろ委任制度を縮小すべきで、代表指名を廃止するのは本末転倒、現場主義を捨てて幹部主義に後戻りすることになる。厚労省からの指摘を利用し、労組法に抵触する部分と、そうでない部分を混同させる手法を代議員は見破る必要がある。
 また、会計監査2名のところを、「1名以上」と、実質減員する必要がどこにあるのか。本来会計監査は、執行機関から独立した見識を持ち、大切な組合費の使途について厳格に監査しなければならない。その会計監査が1名になれば、ミスや見逃しの恐れが生じる。従って会計監査の減員につながる規約改正は時代の逆行である。
 更に、規約5条を変更して顧問を組合員から除外する必要性も全くない。顧問が役員選挙に立候補するのを防ぐことが目的とすれば、それこそ幹部の保身のための規約改正と言われかねない。


清水地区大会の決議案
 最後に、9月7日静岡支部で行なわれた清水地区大会で、絶対多数で可決され、大会で論議することになった決議案と修正案を紹介する。組合運動にタブーはないので、全国大会で自由闊達に意見を闘わせ、組合を良い方向に導いて欲しい。
(9月20日)
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共同不法行為を行なった常任役員全員の統制処分を求める決議
 本年1月27日東京地方裁判所は、北山等元中央執行委員に対する統制処分(全権利の無期限停止)は無効と判決した。同時に、本組合ならびに常任役員全員が連帯して計200万円の慰謝料を支払い、船員しんぶん紙上に謝罪広告を掲載するよう命じた。また、8月22日東京高等裁判所も本組合ならびに常任役員全員の控訴を棄却し、同内容の判決を下した。
 北山元中執に対する統制処分は、2010年11月30日に中央執行委員会が告発したことが発端である。その後統制委員会は、本人の喚問を一度も行なわないまま全権利の無期限停止を全国評議会に勧告し、処分が決定されたものである。
 判決は、中央執行委員会の「意思決定の結果として、本件処分がされたものであって、本件処分が無効で、違法なものである以上、共同不法行為者としての責任を免れない」として、中央執行委員会の告発を「共同不法行為」と断定している。
 組合規約第105条(統制違反として処分の対象となる場合)では、「組合員に被害を与えた場合」、「組合員を傷つけるようなうその告発をした場合」は処分の対象となる。一組合員に対して、常任役員が共同して「不法行為」を行なったことは、まぎれもなく統制処分に値する。
 嘘の告発により組合員を傷つけ、被害を与えた常任役員全員に対して、厳重なる統制処分を求めるものである。
 以上決議する。
【提案理由】
 常任役員も一組合員も、規約の下平等である。常任役員に対しても、統制処分の規定は厳格に履行されなければならない。
 組合員に対して不法行為を働き、大きな被害を与えたことが司法の場で明らかになった以上、当該行為を行なった者を統制処分にすることは当然である。
第6号議案の修正案
 第1章 予算編成の前提となる組織動向と組合財政事情。「今後の課題」の「その他」に下線部を追加する。
 未収組合費については、引き続き担当部署と連携して回収に取り組む。
また、組合が被告とされた裁判において、違法な人事発令に基づくバックペイならびに差額賃金・慰謝料・損害賠償金・和解金、等を支払った場合は、該当する人事決定に賛同した常任役員もしくは該当する行為を行なった常任役員がこれを弁償する。
【提案理由】
 近年本組合に対して、執行部員や事務職員など組合従業員もしくは元従業員により、違法行為に基づく金銭支払いを求める裁判が多発している。北山元中央執行委員に対する不当解雇の件のように、裁判で組合が敗訴し、違法な行為の結果多額の金銭を支払ったケースも存在する。
 このような支出は本来あってはならないものであり、組合財政を圧迫する。従って、組合従業員もしくは元従業員、組合員もしくは元組合員から、違法行為に基づく金銭請求が行なわれた結果として組合が金銭を支払った場合、当該行為が常任役員によるものであった場合は、当人に対して弁償を求めるものである。
(次号に続く)