裁判の経過と組合員の思い 4

全国委員・竹中正陽

 現執行体制に替わり5年になるが、井出本前組合長・北山元中執の裁判を筆頭に、組合内の訴訟は継続して発生し止まる気配はない。
 執行部自ら「英断」を下さない以上、組合員が決起して止めさせない限り争いは永遠に続くように思え、怒りと共に言いようのない無力を自分自身に感じる。


岸本恵美さん解雇
 組合本部事務職員・岸本恵美さんの依命休職に関し、昨年9月「依命休職処分無効」の労働審判が出されたことは前号で報告した。その後組合は審判結果を受け入れず、裁判所に異議を申し立てたため、自動的に本裁判に移行した。
 ところが裁判に移行した矢先の10月31日、組合は岸本さんを「依命休職期間満了」を理由に解雇した。組合の従業員規定10条は「次にあてはまる場合は解雇する」として依命休職もその一つとなっている。審判結果を尊重して「依命休職」を解除することも中央執行委員会の判断次第だが、徹底的に争う道を選択したことになる。
 審判が出された後、岸本さんは組合本部を訪れ審判結果に従い復職するよう求めたが、組合は拒否した模様である(岸本恵美さんを励ます会ニュース1より)。


解雇無効訴訟始まる
 昨年11月18日、東京地裁で「依命休職処分無効」裁判の第1回弁論が行われた。直前に組合が岸本さんを解雇したため、「解雇無効・従業員地位確認」が加わることになった。
 12月21日の第2回弁論では準備書面を出さなかった組合に対して、「ちゃんと反論して頂かないと攻防上負けになりますので」と裁判長がたしなめる場面もあった。
 処分理由は、「5年以上前から、職務中にインターネットを私的利用し、ヤフーなど許可されてないサイトの接続、私用メールアドレスでメール送受信を行った」というもので、組合は証拠として膨大なクリックログ(ヤフー→スキー→天気予報等、ワンクリック毎の全記録)と、秒単位の集計結果を提出したという。
 また組合の主張は、『組合の根本は、組合員相互の扶助と友愛にある。そして、組合内では一般企業より秩序や規律が重んじられる』『組合員は、自らの意思で自分たちの収入から組合費を支払っているため、自分たちが執行部や事務職員の給料を賄い、共に組合を運営している意識が高い。したがって、業務中に自分自身の娯楽や趣味に興じているようなことがあれば、組合費を無駄に使用していることになるので、組合員は絶対に許さない。』 『組合の常任役員は組合員の貴重な組合費を預かり、組合活動をし、組織の運営管理を受託している。その組合費の使途については、組合員から厳しく評価され、不当と判断されれば、追及され責任を取ることになる。このように、原告の行った行為は、絶対に許されない行為であり、仮にこれを許してしまえば、約8万人の組合員に対して原告を許した理由を説明することができない』とのことである。
 なお、弁護士は労働審判と同様、岸本さん側は萩尾健太氏、組合は法律顧問の田川俊一氏・同事務所の竹谷光成氏である。


08年大会の役員選挙裁判
 北山元中執の裁判は、解雇無効訴訟(10年3月16日最高裁決定で確定)、「腐ったリンゴ」裁判(11年8月23日東京高裁判決で確定)、プライバシー侵害訴訟(同8月29日東京地裁判決で確定)の3つが終了していたが、新たに08年組合大会への入場を阻止し、役員選挙立候補届を無効としたことに関する裁判が確定した。
 昨年11月24日東京高裁は、北山氏の立候補届を無効にしたことを違法とし、組合・藤澤組合長・大内副組合長が連帯して110万円を支払うよう命令した。組合側がこれを受け入れたため高裁判決が確定した。賠償金と遅延損害金も実際に支払われた模様である。
 組合長・副組合長も執行部員であり、執行部員が組合員に損害を与えたことが確定した以上、当然謝罪しなければならない。
 謝罪は当人に対してだけでなく、組合員全員にすべきことは明らかである。「賠償金」という形で組合費を損失させた上に、組合員の「役員を選ぶ権利」をも侵害した労働組合の根底を揺るがす重大な規約違反だからである。
 また、この様な行為は当然統制処分の対象でもある。中央執行委員会および統制委員会はいったい何をしているのだろうか。


「組合長の当選無効」判決
 1月24日東京地裁は北山元中執の訴えを認め、『平成22年11月12日に実施された被告全日本海員組合の組合長選挙における被告藤澤洋二の当選が無効であることを確認する(判決主文)』と判決し、合わせて藤澤組合長、大内副組合長に対し、計165万円の慰謝料を支払うよう命じた。
 判決は組合規約を詳細に引用した上で、平成20年大会の入場拒絶、21年大会の「腐ったリンゴ発言」、22年大会前の記者会見での「次期組閣案」発表、同大会で北山氏を非難した本部説明、等を問題視し次のように判定した。
 『被告藤澤らは、被告組合の中央執行委員会の構成員として、本件入場拒絶を指示したと認められるところ、これが裁量権の濫用に当たる違法な行為であることは前記2で説示したとおりであり、これにより原告は、自らの当選に向けた選挙活動を事実上妨害され、その立候補権を実質的に侵害されたものである。したがって、被告藤澤らが、本件入場拒絶を指示したのは、原告に対する故意による共同不法行為というべきである』
 『被告藤澤らは、本件入場拒絶を決めたのは資格審査委員会であり、自らは関与していない旨主張するが、同主張に理由がない』
 『全国委員でない執行部員を全国大会に出席させるか否かを決する権限は、中央執行委員会に存し、その判断については同委員会の裁量に委ねられる面があることは否定できないものの、その裁量権といえども無制限に認められるものではなく、裁量権の逸脱、濫用がある場合には違法となるというべきであり、以上に説示した内容からすれば、被告組合による本件入場拒絶は、明らかに裁量権の濫用に当たるものであるから、これを違法と認めるのが相当である』
 ガードマンや若手執行部員を人間の盾にした大会「防衛」、選挙前に組閣案を発表するような「選挙運動」(このような記者会見は職務とはほど遠く、職権の濫用であり、勤務時間中に行われたとすれば職務専念義務違反でもある)。役選ではその他にも色々な手法が駆使されたと聞いているが、地裁段階とはいえ裁判所から指摘された以上、真摯に受け止め改めるのが労働組合の取るべき態度だろう。


自宅待機は無効
 続く1月25日東京高裁は、『平成22年8月1日付け自宅待機命令が無効であることを確認する(判決主文)』と判決した。
 解雇無効が最高裁で確定した後、組合は北山氏を自宅待機とした上で部長付から先任事務職員に降格した。地裁判決はこれを不当とし、給与差額の支払いと共に、藤澤組合長・大内副組合長に計200万円の慰謝料支払いを命じた。しかし「自宅待機命令は業務命令権の濫用」としたものの、発令自体が無効とまでは認めなかった。
 一般に、労働者には賃金請求権のみ存在し就労請求権はないと言われているが、今回高裁は一歩踏み込んで北山氏の請求を認めた格好である。
組合がこの判決を受け入れず最高裁に上告するとすれば、恥の上塗りであるばかりか、組合費の無駄使い(北山氏の給与に加え裁判費用、従業員の人件費)が更に増加することになる。


「統制処分無効」の判決
 同1月27日、東京地裁は北山氏の統制処分(組合員権無期限停止)に対して、「組合員としての権利を停止されていない地位を有することを確認する」との判決を出し、組合および中執全員に対して、連帯して200万円の慰謝料支払いを命じた。加えて、船員しんぶんに謝罪広告を掲載するよう命じ、訴訟費用の1%を北山氏、残る99%を組合および中執全員とする異例の決定をした。
判決は次のように断じている。
 『被告組合において、目下のところ、別件解雇事件判決等によって無効あるいは不法行為に該当すると認定判断された解雇を行った被告藤澤の行為が、統制違反として処分の対象となるか否かについての検討がなされた形跡は伺えないから、別件判決交付行為のみを統制処分の対象とするのは本末転倒と言わざるをえないものである』
 また、統制委員会についても、『本件処分については、組合規約105条A項4号及びB項に該当する原告の行為がそもそも認定できず、統制委員会の査問手続にも重大な瑕疵があったものと言わざるを得ず、本件処分が無効であることが明らかである』とした。
 中央執行委員はもちろん、自らの意思で立候補したはずの統制委員諸氏は、この判決についてどう思うのか組合員に説明する責任があると思う。(以上、北山氏に関する判決は、ブログ「いかんぜよ海員組合」を参照した)


石川執行部員が懲戒解雇
 神戸地方支部、ITFロンドン本部の後、本部外航部に勤務していた石川整君に、1月12日中執決定による懲戒解雇が発令された。除名処分の例はあるが、懲戒解雇は組合史上初めてとのことである。
 懲戒解雇は今後の就職を限りなく不可能にする極刑であり、「組合の名誉を著しく傷つけた」「組合や組合員に多大な損害を与えた」など、よほどの理由が必要である。
そのような行為があれば、もちろん厳罰に付さなければならず、また、同じ例が二度と起こらないよう、戒めとして他の従業員へ発表すると同時に、我々組合員にも公表しなければならない。
組合を傷つけることは組合員を傷つけることであり、執行部の活動は組合員の委託を受け、組合費で運営されている以上当然である。そこに個人のプライバシーが顧慮される余地は無い。
 しかし組合員はもちろん組合従業員に対しても処分理由は発表されず、人事発令を承認・決定した1月の全評においても具体的内容は説明されなかったという。
 統制処分の場合、規約に基づき本人に弁明・抗告の機会が与えられるだけでなく、統制委員会や全評で組合員の代表に報告され、更に大会で全組合員に公開されることになる(大会に出られない組合員には「海員」誌で公表される)。従って、従業員と組合員が、「二度と起こさない」という意識を共有することができるのである。
 懲戒解雇に値する行為は、当然統制処分の対象でもあり、今回組合がなぜ統制処分を行わなかったのか疑問である。
 石川君は1年程前に降格された5人の一人で、副部長から執行部員に落とされたばかりだ。当時国内部委員会で現場からの質問に対し本部は、「人事は適材適所でやっている」としか答えなかった。今回も組合員への説明が全くないことは大きな問題だ。
 また、元本部事務職員・三宅徹平君が不当な降格で退職を余儀なくされたとして、給与・期末手当等の差額、精神的苦痛に対する慰謝料・通院医療費等、計約2百10万円を請求する労働審判を申し立てたことは前号で報告した。同労働審判は既に終了したものと推察されるが、内容について組合は一切公表していない。

 今起きている全ての問題は、常軌を逸した役員選挙戦が行われた2004年の大会に端を発しているように見える。当時の役員、関係者は組合員に対して真相を説明する責任があると思う。
   (2012年1月31日)


追記:この原稿を書いた後に、組合が北山元中執の就労を受け入れることが知らされた。