総目次 
「船員にこだわる物言い ー商船船員を魅力あるものにするためにー」

雨宮洋司著

Ⅰ 最初に述べておきたいこと
1.私のこだわり
2.時代を考える
3.新制商船学校の果実
4.大切な二つの点とお話したいこと


Ⅱ 商船船員(職業)にこだわる理由
1.時代背景と私の名前
(1)「神国日本」を信棒した父
(2)父との調和をめざす母の夢
2.海軍船員からの距離感の醸成(その1)
(1)貧困な国民国家の時代
(2)現代の若者
(3)海上自衛隊員の「活用」
(4)商船科教育機関の再編
  =資本と国家の長期戦略
(5)商船系教員の苦悩
3.海軍船員からの距離感の醸成(その2)
(1)代用教員と高校図書館での思い出
(2)水産大学での思い出
(3)商船大学入学のやり直し
(4)商船大学再出発を印象づけた二人の先生
(5)先輩船員たちの思い出
(6)戦地に送るような思い
(7)競争力強化政策の意味
(8)優秀な船員確保の危惧
4.商船船員と海軍船員の同じ点と違う点
(1)共通点
①慣海性
②共同生活
③両養成機関の補完性と日本の独自性
(2)大きな違い
(3)両者の労働力の特徴
①海軍船員のモノ化
②商船船員のモノ化
ⓐ特徴を持った日本の会社
ⓑ日本の商船船員が持つ特徴
ⓒ商船船員のモノ化阻止
船員の意識・行動の重要性/船内生活条件のアップと政治スタンスの重要性/日本人船員の共生への役割

Ⅲ 船員(職業)特殊性論の展開
1.海上運送サービスの特徴について
2.船員(職業)の特殊性を構成する三要素
(1)海という自然環境に影響されること
①海洋気象への対応と船員
②船と運航の技術レベルと船員の対応
③航路の自由性
他の交通機関の通路との比較/乗船履歴との関係
(2)長期連続の航海と言うこと
①船上の仕事継続に必要なこと
②船内生活の継続に必要なこと
備品の必要性/不可欠な質的側面
③共生の視点でのイニシャチブ
日本人船員の役割/船員の家庭生活との関連/船員労働力再生産との関連
(3)大量の貨物・多数の船客を運ぶということ
(4)特殊性軽視のリスク
①市場至上主義経営リスク
②資源に着目した「海の理解」教育政策のリスク
3.特殊性の別表現としてのシーマンシップ論
(1)コインの表側
(2)シーマンシップの現代的意義
①表現の仕方とその論拠
②重要な二要素
③シーマンシップ体得の課題
(3)シーマンシップの一般化
①帆船海王丸(Ⅰ世)の富山誘致運動が契機
②県民へのシーマンシップ説明
③シーマンシップ一般化の壁

Ⅳ 海陸職業を同一視する諸相と抗い(あらがい)の視点
1.同一視の諸相と疑問点
(1)同一視する人たち
(2)商船学校の混迷
①商船学校の成果と軽視
②商船学校混迷化 の背景
(3)船員の夢を断ち切る指導
①陸への転換指導の無念さ
無念さの内容/商船学校内で生じたこと
②夢をつぶした指導の述懐
(4)手荒な女子への門戸開放
(5)中学・高校の職業指導と船
員(職業)
①船員職業指導の難しさ
②進路指導の理念と現実のギャップ
2.海陸同一視策に抗う
(1)商船船員教育補完策の必要性
(2)商船教育の再出発点
(3)市場任せの船員政策批判
(4)重要なアジアにおける歴史的視点
(5)四面環海の日本と日本人船員(職業)の新役割
①日本人船員(職業)による共生のイニシャチブ
②オランダへの関心
3.特殊性軽視のリスク
(1)市場至上主義のリスク
(2)真の〝海洋理解教育〟のために

Ⅴ 特殊性を克服する諸政策の断片(船員労働団体の混乱と船員部会での議論)
1.海員組合の混乱とその影響
(1)海員組合混乱の諸相
①竹中裁判
②北山裁判
③その他の争い
(2)組合混乱の影響
①船員側委員の発言力低下
②日本人船員確保への影響
2.船員部会(国交省)での議論 
(1)船員部会の各種情景         
①顕著な当局の強気発言
日本人船員確保検討会の設置に関して/船員法改正のパブコメ手続き/道路偏重政策/マスコミ報道/行政の縦割り/委員発言の限界/対策なき丁寧な報告
②〝要望〟事項となる船員側発言
人命の安全強化策/外国人技能実習生の保護/疲労軽減策/水先人問題と船員側委員/要望事項になってしまう理屈
③当局と船員(組合)側委員の
激論
条約に合わせた日本法の改正/予備自衛官補に関する議論
④ILO海上労働条約の国内
法化論議
当局による〝グローバルスタンダード〟の意味合い/旗国検査と寄港国検査(PSC)制度の導入/労働時間と休息時間規定の〝緩和努力〟/その他船員を守る条項の国内法化
⑤船員部会での政策基調
当局による特殊性把握/海陸同一視的論議の各種事例
⑥漁船員の地位向上に関した議論
漁船員の最低賃金制度/漁
船員の安全問題/漁業労働条約(188号)未批准への疑問
⑦船員確保育成策に関しての議論
日本人船員確保育成策に関して/外国人船員の確保策に関して/内航船員確保育成策に関して/船員部会での有用な報告と発言
⑧船員部会の限界と期待
~まとめ~
船員部会の限界点/労使各委員と当局への期待/国内法化の問題点とILOの利用
3.外内航船員経験者からの問題提起
(船員社会の再生は可能か・竹中正陽)

Ⅵ 新船員政策のために 
1.特殊性を克服する諸施策の基本
(1)船員制度近代化政策失敗の総括
(2)近代化政策破たん要因の探
 求
(3)謝罪の必要性と二つの失敗要因
①必要な〝お詫びの言葉〟
②二つの失敗要因
第一の失敗要因〈専門分化構想を採用していたら…〉
第二の失敗要因〈船員(職業)の特殊性を正しくとらえていたら…〉
(4)新船員政策づくりの要点
①支援体制の充実と外内航一体化策
陸からの支援態勢の充実/外内航分離策からの脱皮
②船員(職業)特殊性の軽減策
特殊性に配慮した船員政策/商船船員のモノ化阻止
2.船員教育研究機関の再構築と船員の新役割
(1)再構築へ向けて
①行政改革の展開と商船学の動揺
②両商船系大学の国策対応と商船学
東京海洋大学海洋工学部の充実のために/神戸大学海事科学部への期待/日本の海政策に欠けているもの
③商船系高専に関して
商船系高専の位置づけ/商船系高専政策への注目点
④商船系大学・高専に共通の課題
船員職業教育の深化/海政策の拠点にふさわしく
⑤国交省の船員教育機関に関して
(2)アジアにおける〝共生〟の課題
①日本人船員の共生役割の重要性
②富山でのアジア共生への挑戦
旧富山商船高専での取り組み/附属小学校での環日本海域授業交流の実践
(3)〝海洋市民育成〟の必要性
(4)再考
~船員と平和憲法の関係に
ついて~
あとがき

(以上)


ホームページに寄せられた感想文1

雨宮先生の著書を通じて


官庁勤務船員

 知床の遊覧船事故は、単に事業者だけの問題ではなく、経費削減、安全運航の軽視など海運業界を取り巻く末端にまで、国の許認可を含め様々な諸問題を露呈しました。
 振り返ると某商船学校の酒と暴力の温床の寮生活に耐えかね、官庁船で30年以上海上勤務をしました。
 見習い船員の頃、神戸にあった海文堂で、雨宮先生の「商船教育時評」を感慨深く読んだ記憶があります。それから気が付くと月日は流れ、退職を控え、再び先生の「船員にこだわる物言い」をネットで購入し、自分の半生を振り返り、「羅針盤を発行する会」を知りました。
 先の見えない教育現場で苦しむのは学生だけでなく、教職員も同じです。私見ですが、雨宮先生は、先ず、教育現場の再建から着手され、甲機に偏重した教育だけでなく、文系などの幅広い学問の習熟を提唱されました。
 船員は、自然と共存する職業であり、国際的、多角的な視野を持ち、日々、勉強に励み、研鑽しなければ、モノ化されたまま、単なる海の使い捨て労働者になります。
 現場の教職員を含め、学生も試行錯誤を重ねながら、日々努力を続けてきたものと思いますが、海運業の低迷とともに、社会から取り残された商船系学校の衰退は修復不能状態にあります。
 どんなに自動化、省力化が進んでも、ボースン、ナンバンと言われる職人は、増々、必要であり、彼らの存在無しに安全運航を維持することはできません。人から人へ伝承される海技を熟知しているのが、「羅針盤を発行する会」の皆様ではないでしょうか。

 大手船会社は、海外に自前の船員養成機関を設立し、日本の商船系学校には高いハードルが立ちはだかります。
 夢を持って商船系学校に入学する若者は、我々の宝物であり、彼らの夢を撃ち砕かないように、我々は教育現場に足を運び、受験指導や部活動などの支援をしながら、志ある者には、道が開けるように何か出来ることを始めようと思います。
 来年も皆様がよい年をお迎えされますようにお祈り申し上げます。
(2022・12・21)


感想文2

船員教育の良心、継承してくれる人を

老機関長

 7年におよぶ長い連載が終わった。雨宮先生ご苦労様でした。
 船員を単なる運び屋、船の動かし屋としか見ない今の風潮。
 今、船員不足の解消とか、船員の確保育成を声高に叫ぶ人達の中に、真に船員を愛し、本気で船員のことを考えている人がどれだけいるでしょうか。単に自分の利益や都合で言っているようにしか見えない人のなんと多いことか。
 その点、雨宮先生の視点はまったく違うように思えます。
 今の船員の惨状は、戦争に突き進んで行った戦前・戦中の船員教育の反省に立って再出発した戦後の新船員教育が目指した「新しい学問としての商船学の確立と、新時代にふさわしい見識をもった船員の育成」が、船員制度近代化や緊急雇用対策、その後の船員教育機関の統廃合など、コスト重視の政策でとん挫させられたことと重なっているという視点。
 新学問としての商船学とは、技術取得だけでなく、現場で応用し発展させる能力と国際的視野、労働条件、労働環境など船員の人間性回復も視野に入れた船舶運航学術の学問体系で、それを模索していた教員たちがいたとのこと。
 単に船乗りになるため商船学校に入っただけの近視眼的思考の身には青天の霹靂でした。
 本の内容のすべてを理解したとはとうてい言えませんが、水産大学、商船大学の両方を経て外航の航海士、航海訓練所の練習船教官、富山商船高専で培われた船員を見る温かいまなざしを随所に感じました。
 先生の良心を継承してくれる人が現れることを願っています。
(2023・3・13)