増島忠弘著
ジーマ・キャプテンの おっとびっくり航海記

ジーマエンタープライズ発行(税込1100円


 「順風満帆と天歩艱難(てんぽかんなん)の狭間で生きる船乗りたち」と、少々難解な副題が付いたこの本の中身は愉快、痛快。軽い気持ちで読み進めることができる。途中せんべいを食べながら、夜半にはウイスキーをチビチビやりながら、ほろ酔い気分のうちにあっという間に読み終えてしまった。
 外地上陸の楽しい思い出、シンガポールや中国での修繕ドック、海賊来船、食料不足の魚釣りにゴキブリ騒動、外国人クルーの病気やケガ、クルー同志のケンカやサボタージュ、船内レクレーションとパーティーなど、外国人クルーとの悲喜こもごもの数々。
 似たような体験があるものだと思いながら読み進めるうちに、次第に自分の乗船経験がよみがえり、「あの港ではこうだった」「あの船は大変だった」「あのクルーには泣かされた」など、まるで自分が追体験しているような気持になる。
 しまいには、「この対応はおかしい」「俺だったらこうしない」と自分と比べながら一人笑いしたり、途中で目を閉じ昔を思い出しては涙がにじんだり、同じ外航出身の私にとって、知識を得るためでなく、昔を懐かしく思い出させてくれる本だった。
 著者は鳥羽商船高専を卒業後、外航の中小会社に31年間在籍。雑貨船を皮切りに、タンカー、鉱石船、コンテナ船、冷凍船で世界中を航海し100近い港に入港したという。入港地の多さを羨むと共に、日々の出来事を克明に記録していることに感心する。そのような几帳面さも兼ね備えなければとうていこのような航海記は書けないだろう。今となっては書きたくても書きようがない自分のずぼらさが身に染みた。
 海員組合の機関誌「海員」に2007年から2年間連載した混乗船エッセイを大幅に加筆、さらに新米航海士として初乗船以来の全員日本人時代のエピソードも収録されている。
 ほど良く酔わせてくれたせいか、翌日ふと思い返してみると詳しい内容はよく覚えていないのだが、読んでいる最中は楽しい気分にひたることができる、そんな本もあっていい。
 フィリピン人クルーへの上から目線など、ええカッコしいの所は多少気になるが、一杯やりながら軽い気持ちで手にするのに最適な一冊かも知れない。
 アマゾンでも購入可能。当会でも取り扱っています(四六版332ページ、送料180円)。


竹中正陽