―産別労組の団結権―

柿山 朗(元外航船員)

一、弾圧は産別運動の否定
①関西生コン労組弾圧とは

 2018年7月~2019年11月、警察は関西のミキサー車の運転手を中心にした産業別労働組合、全日建運輸連帯労働組合・関西生コン支部(以下関生支部という)の組合員89名を逮捕して71名を起訴した。
 警察は、賃金引き上げ要求のストライキは「威力業務妨害」、日々雇用労働者の正社員化要求は「強要」、会社倒産に対して雇用保障の解決金を獲得した争議を「恐喝」とでっち上げたのである。
 企業の壁を越えて組織する「産業別労働組合」を根絶やしにしようと国家権力と大資本が仕組み、警察と検察が一体となった戦後最大の労働組合弾圧事件である。


②コンプライアンス活動
 関生支部のコンプライアンス活動は、工事現場の安全や法令順守を労働組合が点検して改善を求める運動である。
 阪神淡路大震災の時に高速道路が横倒しになり、マンションやビルが倒壊した。生コン業界の労働組合である関生支部はおかしいと感じ、被害の詳細を調査・研究した結果、生コンの適正な基準や工法が守られていないため、設計通りの強度が実現していないケースが見つかった。
 コストやスピード優先で水増しの生コンが使われたり、塩分が残る海砂を利用して鉄筋が錆びてしまったケースもある。
 また、工事現場では、有効期間が切れている車検証のステッカー等の指摘もする。企業内部からの改善が難しいからと放置すれば、労働者の安全や人権にかかわる。企業の外からの働きかけが重要となる。それが、産別労組のコンプライアンス活動だ。


③大阪港SS事件
 2017年に関生支部が運賃値上げを要求してストライキを行った。その際、セメントメーカーから生コン工場へセメントを輸送する運転手に対してストライキへの協力要請をした。これが輸送を威力業務妨害したと事件化され、刑事裁判にされた。
 だが、実際はどうだったか。大阪港SS(サービスステーション)に入ろうとするバラセメント車輛の前に立ちはだかったのは、宇部三菱セメントや輸送業者らの多数の社員や管理職。準備していたプラカードを掲げ「業務妨害はやめてください」と連呼し、その様子をカメラやビデオで撮影していた。また組合員は車輛に近づけなかったこと、出荷予定はほぼ無かったことなどから、業務妨害は「自作自演」であったことがわかる。 
 一審判決は、「大阪港SSの専属輸送業者に関生支部の組合員は存在しない。だから、同輸送業者は関生支部が争議行為の対象とする使用者とは言えない」として、懲役2年6カ月という信じがたい重罰を課した。 
 本年2月の控訴審判決でも、一審の重罰判決が見直されることはなかった。
宮里邦雄弁護士(元日本労働弁護団会長)は判決を次のように厳しく批判する。
 「産業別労働組合も企業別労働組合と同様、憲法28条及び労働組合法により、団体行動権を保障される。本判決がいうように、組合員不在の企業は使用者ではないとの形式論理で、産別労組の争議行為を正当性判断の俎上にすらのせないのは、産別労働組合へのはなはだしい無理解であり、産別労組の否定という点で憲法28条違反のそしりを免れない」

二、FOCキャンペーン
①国際シンポジウム 

 2019年9月、「コンプライアンスと産業別労働組合の役割」というテーマで国際シンポジウムが京都で開かれ、私も行った。主催したのは全日建運輸連帯労働組合(以下連帯ユニオンとし、関生支部とは区別する)だ。
 シンポで発言したのは全国港湾労働組合のメンバーである藤木茂ITF(国際運輸労連)インスペクター。「出航してしまえば船は小島のような存在。そこでの労働条件を守るには港で停泊中に船に乗り込み、船員の労働条件に問題がないか検査する仕組みが必要だ」と述べた。
 BWI(国際建設林業労組連盟)に加盟する韓国建設労組のイ・ヨンチョル副委員長は「現場で産業安全が守られているかを労働者自身が点検することが重要だ。法令違反を是正する活動で弾圧されることがあってはならない」と発言した。
(この項、「賃金破壊」竹信三恵子著・旬報社に詳しい)
 下の漫画は、国際連帯によるFOCキャンペーンでのコンプライアンス活動が成果をあげている好例として描かれている。

葛西映子作(連帯ユニオン編「労組やめろって警察に言われたんだけど」、旬報社より)


②バージニア・レインボー事件
 1987年10月、海員組合はFOC・マルシップキャンペーンを行い、大阪港でバージニア・レインボーを査察した。
 乗組員はⅠTFの組合員だが、BC(ブルーサーティフィケート)を所持せず雇い入れ契約書も所持していなかった。乗組員は正和航業を通じて乗船するが実質的な船主は東海商船であること等が確認された。12月、東海商船は海員組合を相手取って訴訟を提起した。

*東海商船の主張
 荷役ボイコットが正当となるのは、船主と乗組員の間に労働争議が存在するときだけである。
本件の場合、船主と乗組員の間に何ら労働争議はなかった。
 また、全日海は東海商船との間に何ら労使関係はなかった。全日海やITFが便宜置籍船対策として行う荷役ボイコットは、船主と乗組員と間に労働条件に関する具体的な紛争がないのに行う政治運動であって労働運動ではないから違法である。

*海員組合の反論
 点検活動によりITF協約が締結されていないことがわかった船舶に対して、船主にITF協約の締結を求める便宜置籍船対策活動は、労働条件の維持・改善を目的とするものであり、憲法28条で保障された労働組合運動である。
 従って本件は、その目的において正当であり、手段、態様も平和的説得活動の範囲内であるから、何ら違法ではない。よって損害賠償義務は発生しない。


*高裁では逆転勝利へ
 判決は「憲法28条は、勤労者の団結する権利を保障している。労働組合が労働条件の改善を目的として行う団体行動である限りは、それが直接労使関係に立つ者の間の団体交渉に関係する行為でなくても、同条の保障の対象に含まれうると解するのが相当である」とした。


③敗訴したふたつの裁判
 ジャパン・レインボーと神戸港でのパシフィック・レインボー事件での控訴審判決は「両船での行為は平和的説得の範囲を超える様態、方法による荷役妨害であって、社会通念上相当なものとは認め難い」という不当なものだった。FOCキャンペーンは、困難はあっても何度も繰り返すことで社会の認知度を高める以外にない。
 2001年、東海商船は民事更生法の適用を申請、事実上倒産した。姿を隠す大手船主の意向を受け、矢面に立った同社だが、その末路は哀れだ。
 (以上、「便宜置籍船との闘い」全日本海員組合発行から)


三、流れは変わりつつある
①始まる国賠訴訟

 2020年3月、全日建連帯労組と関生支部の委員長ら5名が、国、滋賀県、京都府や和歌山県などを相手取って国賠訴訟を提起した。逮捕された組合員と家族に「労働組合をやめろ」と迫った警察・検察の違法行為の数々、きわめて厳酷な保釈条件を決めた裁判所の行為などの責任を追及する闘いだ。
 原告側代理人5名の中に萩尾健太弁護士の名がある。彼は竹中組合員の組合長選挙立候補資格はく奪・選挙無効裁判、渡邉長寿執行部員の降格無効裁判や岸本恵美事務職員の解雇無効裁判など一連の海員組合民主化裁判で勝利のために奮闘・貢献した弁護士である。


②暴露される国家権力弾圧
 22年1月17日、大津地裁公判で、弁護側が請求した取り調べ録画が再生された。大津地検の横麻由子検事が、黙秘を続ける組合員に対し組合脱退勧奨発言を繰り返し迫る衝撃的なシーンである。京都新聞が取り上げ大きな反響をよんだ。
 捜査員が「雇用関係のない企業や建設現場へなぜ行くの?それは許さない」と恫喝。大阪地検の天川啓子検事は家族へ携帯電話をかけまくり「今のうちに組合をやめるよう言ってほしい」等々。


③全国のユニオンが共同声明
 大阪高裁は、加茂生コン事件で組合員を無罪とした。これを受けて私の所属する名古屋ふれあいユニオンを含め全国33のユニオンが共同声明を出した。
 「全国各地で活動するわれわれユニオンは、さまざまな労働者の相談を受け付け、企業に団体交渉を申し入れ、不当労働行為に抗議し、問題解決を図ってきた。活動が刑事事件化されたならば、ユニオンの活動は成り立たなくなる。組合排除の意図を隠さず確信犯的に不当労働行為を重ねた企業が免罪され、正当な組合活動を行った組合員が刑事犯とされる暴挙が許されて良い筈はない」
       (次号に続く)