ルールに締め付けられる船内
    組合、職場委員への期待度ゼロ

コロナの世界的蔓延による各国の移動制限や上陸禁止措置。外国人船員を含め、現場船員がかつてない不自由と権利侵害を強いられるなかで、外航海運各社は空前の利益を上げている。
現役船長に話を聞いた。
                               (編集部)

Ⅰ 日本人船員の状況
Q コロナの影響は?

 今まで経験したことがない大変な状況だ。
 コロナでどの国も船員の乗下船を制限していて、港が限られるので、乗船期間が延びている。日本人は通常6カ月のところ、今は8~9カ月になっている。
日本に帰って来ても検疫が来ず、乗下船が許可されない港があるため、デビエーション(船を遠回り)して韓国で下船させたりする。
 乗船前と下船後に、それぞれ2週間自宅待機を命じられるのも辛い。外出不可なので家族以外に人と会わないようにしている。
 せっかく日本に帰って来ても、洋上で長いあいだ実質隔離生活を送っていたにもかかわらず自宅隔離を求められる。そもそも日本国内であっても下船する港によって公共交通機関が使えないなど対応が異なるのもおかしな話だ。
 上陸不可の港が多いし、感染防止のため会社自体が上陸禁止措置を取っているので、せっかく外国に行っても上陸できない。これが、若い人にとって特に辛いようだ。日本に帰ってきても買い物にも出られない。
 外国を見て回るという船乗りになった大きな目的が達せられないし、何より、船内で蓄積されたストレスを発散できないのが大きい。それが理由で辞めて行く若い人もいるのではないか。

Q 若い人が辞める理由は?
 コロナに限らず、若い人が辞めて行っている。辞める率は以前より増えている気がする。
理由の一つは会社の安全管理システム(SMS)。今は、何かにつけてルール・ルールで、SMSでがんじがらめになっている。
 船内では、それが人間関係となって現れる。上司にもよるが、三航機が、船機長や一航機士など日本人上司との日々のやり取りに耐えられずに辞めて行くケースが増えている。
陸勤中に辞める人も多くなっている。若い子に限らず、結婚等を機に、陸の方が良いと思うようになって、最近は中堅クラスも辞めている。

Q 船内生活面での不満は?
 今は船内で酒盛りやカラオケをすることはない。日本人船員は食事が終わると個室に入り込んで、パソコン等に勤しんで、カタフリというのがほとんどない。
人(船長)にもよるが、私は部下が半休を取れるよう毎週日曜に当直に入るよう心掛けている。それでも半休の時に一緒に少し飲む程度だ。
 レクレーション大会や焼肉パーティーを毎航海するようにしているけど、パーティーも一時間程度でお開き。みな個室に帰って行く。
 フィリピン人船員などがその後、部員食堂や娯楽室でカラオケやゲームに興じる姿は昔も今も変わらない。私もたまにそこに参加するけど、彼らは彼らなりにストレスの発散方法を心得ているが、日本人の今の若い子は、人との付き合いが下手な面がある。

Q アルコール規制の状況は?
 アルコールのルールはどんどん厳しくなっている。
 会社や船種にもよるが、一日ビールなら何缶、ワインならグラス何杯が限度と細かく規定されている。当直前4時間はもちろん禁止、飲む場所や飲める酒の種類も細かく規定されている。
 ボンド品を船長を通じて購入するのみで、陸で買って持ち込むのも禁止されている。
全員の飲酒量を自己申告させ、毎航海集計して報告するよう会社から義務付けられているが、船のレクレーション費でパーティー時に提供する分もあるので、船全体の購入量と消費量、残量が合うはずがない。
 SMSルールの細かさには誰もがも息苦しい思いをしている。

Q 船内での働き方の問題は?
 各種の報告や記録、チェックリストなどが増えて、どの職も書類作業に振り回されている感じだ。
 特に三航士は、消火設備、救命設備の定例メンテナンスや記録など、各種ルーティンが次々とやって来るので毎日何かある感じだ。当直の合間を縫ってこなさなければならないので、いつも何かに追われている。
 
Q 賃金、休暇等の労働条件については?
 株価の上昇など経営状況が良い時はボーナスもそれなりに上がるし、賃金面で大きな不満はない。
ただ、若い人は、特殊な労働環境にも関わらず、陸上と比べて給料が飛びぬけて高いというわけでもないので、不満が多いと聞く。
 昇給・昇進であまり差がつくことはないが、給料に差があるとすれば、免状が取れなかったり英語の点数により昇進が遅れる場合だ。
 休暇はまあまあもらえているが、コロナ対応で乗船予定が頻繁に変わるのは困ったものだ。隔離期間の扱いも会社によってまちまちなのではないか。

Q 賃金、人事評価や昇進のシステムは?
 人事評価のやり方は昔とあまり変わっていない。
最初に一航機が一次評価して、各人の技術習熟度や向上心など細かな項目について点数を付け、特徴をコメント欄に記入する。
 それを船機長が点検してコメントを付し、点数も含め本人に見せながら面談して、注意や叱咤激励することになっている。本人が記入するコメント欄もある。

Q 透明度や公正度、賃金体系が個別協約になった影響は?
 人事評価は下船時なのでせいぜい年1回程度。かなり気を遣うが、どうしても一航機や船機長の主観が入るのは避けられない。その点は、不満があれば本社でのブリーフィング時に人事に言えるようになっている。
 個別協約になって個人間の競争が激しくなったとは感じない。ただ、他社の賃金体系が分からなくなったので、横のつながりはあまり感じられない。もはや産別である意味があるのだろうか。
 
Q 緊急雇用対策の影響は?
 今は緊雇対を経験した人はほとんどいなくなった。はっきりしたことは言えないが、緊雇対の結果、会社全体の海技の質が落ちたり、愛社精神が減ったということは余り聞かないし、ないと思う。
 しかし、日本人の部員がいなくなった影響は大きい。
 日本人部員がいた頃はボースン、ナンバンが作業計画を立てていたが、今は一航機が立てるようになった。特に一航士の負担が増えている。計画作りから結果の確認まで、現場から目を離せない。
 外国人船員も、日本人の職長から仕事を教わった世代がいなくなり、質が落ちたように感じる。最近のチーフコックの日本食のレベルが落ちているのは仕方がないのだろう。
 緊雇対後の数年間、新採用を控えたため、人員構成がアンバランスになった。上が少なかったり下がつかえたりで、昇進や実職経験に差が出た。その影響はまだ残っている。

Q 会社の経営計画や無人化船など最新技術導入への関心は?
 現場ではほとんど関心を持っていない。最近無人化実験を始めたと聞くが、無人化船といっても、せいぜい人が少し減る程度で、仕事がなくなるとまでは誰も考えていない。
 特に外航船が無人になるとは誰も思っていないんじゃないかな。太平洋の真ん中でエンジンが止まったら、リモートではどうにもならない。
 会社もそのあたりは十分に分かっていると思う。

Q 船長として最も苦労する点は何か?
 外国人船員の食事の問題。メシに対する不満は士気に直結するので。
 チーフコックの意識にもよるが、日本人に忖度して日本人の食事に金をかけ、極端に差を付けたりする。彼ら同士のイサカイが始まり、チーフコックの吊し上げに発展する時がある。そういう時は仲裁に苦労する。
 元々は食料金の問題がある。外国人船員の食料金は協約では一日7ドル半だが、こんな金額で賄えるのはシンガポールやフジャイラくらいで、物価の高い日本や豪州ではやっていけない。
 メシの問題には本当に気を遣う。


Q 若い職員は外国人船員をどう見ているか?仲間と思っているか?
 いまの日本人の若い子は初めから混乗船で育っているせいか、仕事面では外国人クルーともうまくやっている。自分たちの若い頃よりずっと外国人馴れしている。
 でも、勤務時間以外で外国人クルーと一緒に楽しんでいるというのは、あまり見たことがない。

Ⅱ 海員組合への評価
Q 海上社員の海員組合、職場委員への評価、期待度は?
 期待する人は誰もいない。何故組合費を払わなければいけないのかと、誰しも思っているのではないか。
 コロナで何もやらない組合だということがはっきりした。何のための産別か?内地下船すらできない状況は、まさに組合の出番だった。対官庁で出来ることがあったはずだ。
 「海員」誌が回ってくるとむかつくという人もいる。カラーで金ばかり掛けて、中身は全くない。「海上の友」の方がよっぽど良い。
 国際船員協会とのテレビ番組を見たが、まったくクダラない。ただ、船員に成れと言うだけ。本来やるべき労働条件、福祉の改善など、肝心なことをしていない。会社がノーと言うこと、難しいことはやろうとしない体質が染みついている。
 
Q 職場委員の意識、志向は?
 たまにアンケートをする程度で、最近はコロナでの制約もあり船にも来なくなった。
ブリーフィングで本社に行っても、職場委員に会おうとは誰も思わないのではないか。
組合に忖度しているようにも見える。昔は労務に対してものを言う人間が職場委員になったものだが、いまは何をしているかもよくわからない。
 
Q あなた自身、最近の海員組合をどう見ているか?
 昔の組合とは様変わりしてしまった。今はどうしようもない。今の役員は組合員がソッポを向いていても何も問題ない。うるさくなくて、もっけの幸いと思っているのではないか。
 彼らは何もしなくても給料が入ってくる。非居住組合員の上にアグラをかいているとしか言いようがない。
 10数年前の役員同士の意見対立、大会での役員選挙戦が分かれ目だった。以来真っ逆さまに転げ落ちてしまった。当時の組合長だった井出本さんに聞いてみたい気がする。
 今回の大会の役員選挙も考えられない。組合員に何も知らせないで勝手にやってしまう。行きつくところまで来た感がある。
 一般組合員は何も知らされず、組合の中身をほとんど分かっていない。それが最大の問題だと思う。
 
Q どうしたら良いか?
 役員には一般組合員がなるのが最適だ。
 会社を辞めずに、何年間か組合長や中執をして、任期が終われば元の海上籍に戻る制度が良いのではないか。主役は現場から出るべきで、プロの執行部がそれを補佐するイメージだ。
 海上技術部員制度がよくなかったのかもしれない。最初から幹部候補生としてチヤホヤするから勘違いする。その結果が今の事態だ。彼らは自分の出世のことしか考えてないのではないか。

Q 一般の執行部員に対しては?
 執行部員にはもうちょっと頑張って欲しいと思う。
 役員から給料を貰っているのではなく、組合員から貰っているのだから、もっと志を持って欲しい。一致団結すれば今の体制も変えられるのではないか。

Q 職場委員に対しては?
 「もっとしっかりしろよ!」の一言だ。最近は職場委員が会社と組合の顔色を窺ってばかりにみえるが、少なくとも大会など組合の場では会社の顔色を見ず、自分の意志で発言しろと言いたい。組合に対してはっきり物が言えないでどうするんだ。

Q 現場の意見、要求を実現する方法は?船内委員会は機能しているか?
 船内委員会なんてもはや存在しないのと同じ。若い人は存在すら知らない。カタフリもないのだから、話題にもならない。
 やはりもっと職場委員が現場に足を運ばなくては。いつまでもリモートではだめ。

Ⅲ 外国人船員の状況
Q 外国人船員の船内での働きぶりは?

 いずれも良く働く。みんな根はいい人間だ。
 今は外国人船員は、みなリピーターで、彼らの働き振りに不満はほとんどない。日本人の三航士より、フィリピンの三航士の方が良く動くので楽なくらいだ。
日本人の若い子の場合、会社からも教育することを求められているのでやはり気をつかう。

Q 彼らが苦労している点、悩み、不満は?
 仕事そのものへの不満はほとんど聞かない。
 賃金面も、昔はオーバータイム(OT)をやりたがったが、今はOTの超過時間がほとんどないにもかかわらず、不満はまったくと言ってよいほどない。
 むしろ、OTより休みが欲しいと言うくらいだ。甲機で休みの違いがあり、機関部はⅯゼロでまとめて休みを取れるが、甲板部は中々そうはいかないので、たまに、「このC/Oは半休をくれない」というような声を聞くことがある。
 ネット環境への不満はかなりある。航路や船にもよるが、Ⅴサットは南半球では繋がらない海域が多い。特に南インド洋は繋がらない。WAKASHIOの事故も一概に乗組員を責められない気がする。

Q コロナの影響は?
 今はコロナの問題が最大の悩み。特にトランパー(不定期船)は入港先が変わるので、先の見通しが立てづらく、乗組員の交代に苦労する。交代を許可しない港が多いし、船員の交代自体を認めない国もある。
 おまけに、上陸不可なので、乗船中一度も上陸できない。フィリピン人はカラオケや麻雀など、発散方法を心得ているが、それでもストレスは溜まっている。
 乗船時の待機期間の問題もある。フィリピンの場合、地元で2週間、マニラで2週間。計4週間の待機が義務付けられていると聞く。船のスケジュールが変わればさらに待機が長引く。乗船前に2カ月くらい待機していたクルーもいた。スタンバイ・フィー(待機手当)が出るが、休暇中の賃金が出ない点は以前と変わらない。

Q 外国人船員の定着度合、会社への帰属意識・ロイヤリティーは?
 ほとんどがリピーターなので定着率は高いと思う。帰属意識も高い。ただ、昔と違って職員の若い人の多くは、将来は陸の仕事に就くことを考えているようだ。60歳まで船に乗ることは考えていないのではないか。
 会社も彼らの将来設計を考えてやらなければいけない。せっかく船機長になっても陸上での仕事のために辞めてしまうのであれば、会社が陸の仕事を用意することも考えてほしい。

Q 外国人船員のJSUやAMOSUP、ITFへの意識、期待度は?
 JSUへの期待はまったくない。なぜ金(月40ドル)を取られなければならないのか。マニラのマリーナーズホームに無料で泊まれるので助かるが、ただそれだけと言っている。
 AMOSUP(フィリピン船員労組の一つ)はマフィアというクルーもいる。そもそも労組として見ていない。味方とは思っていない。
 ITF(国際運輸労連)への見方はまったく違う。船員の福利厚生のため活動してくれる、イザという時の駆け込み寺と見ている。実際、コロナでHELP通報した話も聞いている。「交代が来なかったらITFに言うぞ」と船長に言えば、船長が会社になんとか手配するようプッシュする。ITFは、そういう存在になっている。
 その点、JSUやAMOSUPが「やってくれる」とは思いつきもしない。

Q どうしたら良いか?外国人船員にとって、労働組合はどうあるべきか?
 非居住特別組合員だとか言って、組合費の二重取りをする制度から改めるべきではないか。組合は非居住特別組合費を欲しければ、AMOSUPから徴収するのが筋だ。
 とはいえ、組合が組合員のために何もしないというのは、外国人に限った話ではない。
 日本人を含め、給与天引きを辞めてひとりひとりから徴収するようになれば、少しは組合員のために何かしようと思うようになるのではないかな。組合のサービスに納得しない人は、誰も組合費を払わなくなるから、組合も少しは必死になると思う。(了)