― 規約違反の役員補充選挙行われる ― 
                                    組合員・竹中正陽

〈海員組合定期全国大会〉

役員補充選挙相次ぐ

 11月8・9日、第82回定期全国大会が発祥の地神戸で開かれた。大会初日、粛々と進行が開始された冒頭、「組合長は本日体調がすぐれず欠席」と報告された。壇上では2人の副組合長が真ん中に陣取り、組合長席は元々用意されていない。この時は風邪でも引いたのか程度に軽く考えていた。
 ところが、大会プログラムの「組合長あいさつ」の項を議長がひと言も触れずにすっ飛ばし、次の来賓挨拶に進むのに違和感を覚えた。通常「組合長あいさつ」は事前に印刷されているはずで、組合長が欠席なら副組合長が代読すれば良い話だ。そのための「組合長代行」ではないか。何のために、普段から仰々しく「代行」「代行」と呼んでいるのか、と。
 昼休み、各所はその話で持ち切りだった。曰く、「海外出張が多いのでコロナに罹ったのでは?」、「体温検査に引っ掛かったのでは?(大会場の神戸国際展示場は体温37度5分以上で入館禁止)」、「内紛勃発か」等々。
 やがて、森田組合長は、前日の執行部会議にも欠席し、そもそも神戸に来ていないと聞かされた。昼休みに会場入口で配布される「組合長あいさつ」の印刷物も、今年はなかった。
 そして午後の会議の冒頭、役員選挙委員長が、いきなり「昼に森田組合長から辞任届が出された。規約第35条C項により本大会で補充選挙を行う」と発表、13時40分に立候補締め切りとされた。わずか30分後だ。
 突然の出来ごとに、議場は何が起きたのか掴みかねているのか、シーンと静まり返ったままだった。キツネにつままれたとはこのことかも知れない。傍聴席は一瞬ざわつき、互いに顔を見合わせていた。
 議長は型通り、「ご異議ございませんか」と議場に問うたが、「異議ナシ」の声はごく少数だった。他の委員補充選挙の立候補締め切りは15時とされた。
 その後活動報告の審議は15分で終わり、14時過ぎには立候補者名簿が議場に配られ、即会場模様替えが行われて組合長補充選挙が実施された。
 14時40分からの会計報告審議も報告に10分、審議は5分で終了し、休憩の後の15時30分、松浦満晴副組合長の当選が発表された(代議員199名のうち189票。白票9、無効票1)。
 次に、副組合長が欠員となったことから、直ちに補充選挙の実施が発表され、活動方針案が提起された後の16時が立候補締め切りとされた。16時30分立候補者名簿が議場に配布され、会場模様替えの後投票。その後17時から活動方針審議が1時間で終了し、18時過ぎ、鈴木順三中執の当選が発表され(白票8、無効票0)、欠員となった中執1名の補充選挙が19時立候補締め切り、翌日投票とされた。
 こうして、矢次早やの議事進行で、瞬く間に初日が終了。中執には斎藤洋関東地方支部長が当選した。いずれも対立候補はなかった。
 大正時代に各地の船員団体を統合して日本海員組合を結成して以来100周年ということだったが、その今日的意義が大会で語られることはなかった。

乱れ飛ぶ憶測

 突然の辞任劇に加え、体調不良と言うだけで病名等の説明は一切ない。議長や役員は組合長の動静に触れようとせず、避けているように見えることから、様々な憶測が聞こえて来た。
 「森田組合長はまだ50代半ば、辞任しても執行部籍があるはずなのに、役職発表が何もないのは不可解。実質的な更迭ではないか」、「あらかじめ分かっていなければ、あのように手際のよいやり方はできない」、「役員を辞めれば顧問になるのが普通だが推薦もなかった。10数年前と同じで権力闘争に違いない」、「数年前から田中・松浦連合と森田組合長の意見が対立していた」、「統制処分に該当するようなシッポを握られ、辞任せざるを得なくなったのでは。退職金のこともあり、藤澤組合長の二の舞は避けたのでは」、等々。
 しかし、どれも憶測の域を出ていない。幹部はともかく、一般の執行部員や職場委員、船主筋にも、情報は閉ざされているようだった。
 体調不良であれば休養すれば良く、過去に病気で長期休職した役員も複数いる。組合員の総意で選ばれ、7年間も務めた組合長が、顧問にも推薦されず、行方も分からない状況は異常というしかない。組合員の知る権利が損なわれている。

突然の役員選挙は規約違反

 事前告示のない役員選挙は組合員の立候補権を侵害している。
 補充選挙の実施に際し、役員選挙委員長は規約35条C項によると述べた。
 しかし35条C項は「常任役員、会計監査、統制委員が任期中に欠員となった場合の補充選挙は、全国大会において、前条の規定にそって行い、補充者の任期は、前任者の残りの期間とする 」とされ、34条は、立候補者が履歴書や過去の組合活動記録を提出すること、 投票は直接無記名投票で行い、推薦による立候補も認めることなど、選挙の手続きを定めたものに過ぎない。
 それ以前の根本規程として、37条(全国大会の任務と権限)で、活動報告や活動方針の審議、役員選挙は全国大会で行わなければならないと規定し、38条(全国大会の開催)は「定期全国大会については、開催予定日の2カ月前までに、臨時全国大会については開催予定日の1カ月前までに、それぞれ会議の場所、開催日時、会期、主な議題、議案の提出期限を示して、機関紙上に招集告示をしなければならない」と定めている。
 役員選挙は活動方針等と同様、最重要事項であるから、事前に組合員に広く通知するよう定めたものだ。突然実施されれば、大会出席者以外知りようがなく、出席者であっても事前準備ができない。まして洋上にある組合員は立候補のしようがない。
 規約第17条(組合員の権利)A項は、「組合員は、人種、信条、年齢、性別、組合内外の地位や身分などに関係なく、全てこの規約のもとに平等な取り扱いを受ける」とし、B項8は、「完全資格組合員は、規約の定める要件のもとに常任役員、会計監査に立候補する権利を持つ」と定めている。全組合員に立候補権があり、規約違反は明白である。
 本組合は、過去に常任役員が辞任し補充選挙が行われたことが2度あった。1971年汽船部委員会(現在の外航部委員会)が春闘妥結結果を否認したため正副組合長が辞任、1980年同じく汽船部委員会が諸手当交渉妥結結果を否認したため中執を含め全常任役員が辞任した。いずれも、2カ月後に臨時全国大会を開き役員選挙を行う旨の事前告示をして選挙を実施した。
 これが正しいやり方であり、今回も、来年の定期大会まで副組合長が代行するか、補充選挙を行う場合は事前に全組合員に告示して臨時大会を開かなければならなかったはずだ。
 2013年の長崎大会では、藤澤組合長(当時)の統制処分が決定した直後に、急きょ組合長補充選挙が行われた。今回も同様のやり方で、組合規約が踏みにじられてしまった。
 こうした規約違反が堂々とまかり通るところに、今の組合の深刻さが現れている。規約違反は組合民主主義を形骸化し、組合員を遠ざけ、やがて組合自体をも蝕んでいく。現場組合員が奮起して、組合員が主人公の組合を取り戻しに行こう。   

(内航組合員)