外国人船員インタビュー

佐藤三郎(元外航船長・安全監督)

 筆者は安全監督として、外国人船員が混乗する船で寝泊まりするので色々な話を聞く機会が多い。以下は職員と職長が韓国人、部員がインドネシア人のバラ積船の話です。

一、最近の船員生活
以下は船長の話です。
乗組員の船内での過ごし方は昔と変わりましたか?
 『そうだね、今は皆が自室にこもってスマホやパソコンで映画やメールなどをしているようで、娯楽室に出てこないね。
 私などは、娯楽室にテレビとカラオケ、エレキギターやドラムがあるので、当直を終わると一杯やりながらワイワイとみんなで騒いだものだ。
 それで年上の上司や若い者同士がお互いコミュニケーションもとれたが、今は寂しいね。
 船長が報告を要求や指示しない場合は、部下の現場担当者が積極的に報告することを期待できない。コミュニケーションが不足で上司の私に報告や助言をしてくれる部下がいないと、船長は船上の全てを具体的には把握していないので、いざという時にやはり不安があるね。』

Q 飲酒する船員を見かけませんが、飲酒のルールは?
 『本船は一日最大で350mlのビール二缶が乗船中の会社のルールだね。私は乗船中に飲まないが、この頃はビールを個人的に船食に注文する船員も少ないよ。乗組員が飲む量は注文量からはっきり分かるしな。
 おかげで飲酒による船員同士のトラブルが無くなったことは良かったことのひとつだな。
 以前乗った別の会社の船ではビールは勿論のこと酒類は一切禁止で驚いたが。』

メールや電話は?
 『乗組員のメールも電話も午後8時頃までに限っているが、勿論、会社負担で一年中何処にいても衛星通信が可能だ。しかし、電話は一人当たりの通話時間を制限している。
 でも、このコロナでは助かったね。航海中も家族と連絡取りたいと思う乗組員の気持ちは船長の私も同じだからね。乗組員が衛星通信を無料で使用できるので皆安心し、私も船内を上手くまとめることができている。こういうコロナの時には衛星通信は有難いよ。』

Q 食糧金は?
 最低基準は一人当たり7ドル半だが、本船は韓国人が13ドル半で、インドネシア人は7ドル半でやっている。
 インドネシア人船員はイスラム教だから、同じ厨房を使って調理しても、豚肉を使わない別のメニューにしている。韓国人用の料理でも豚肉を使っていなければインドネシア船員も食べているしね。味付けはインドネシア人専用の調味料もあるが、韓国人用と同じアルコールを含む調味料も使用しているね。
 インドネシア人船員の仕事中の礼拝は黙認している。でも、礼拝に行かない船員もいて個人差が大きいね。本船内に特別な礼拝用の部屋はない。』

二、コロナ下での乗下船
 以下は新乗船者の一航士に聞いた話です。

Q 今回乗船するまでの経緯は?
 『1年半も乗船中だった前任一航士の交代で3ケ月間別のバラ積船に乗船した。インドネシアで下船し、ジャカルタ空港でPCR検査を受け、仁川空港で再度PCR検査をし陰性だった。
 そして帰宅後2週間の自宅隔離の後に1週間だけ自由に外出できた。その後1週間会社の職務研修を受け、日本での乗船に向けて、コロナ検査のため更に1週間の自宅隔離生活をした。  
 本船乗船のために韓国のPCR検査を受け陰性の証明書を持参したが、成田着後に空港の検査能力の問題で2時間を機内で待機。その後、一般客とは別の船員専用ブースで入国手続きとPCR検査を受けた。結果が出るまで4時間待機し、成田から業者の車で直接に本船に来た。』

Q 短い休暇だったですね?
 『インドネシアでの下船日から本船への乗船日まで5週間余りあったが、自宅で3週間の缶詰状態で、結局、自由に外出できたのは1週間だけだった。
 しかし、缶詰状態の3週間に対して特別の手当がある訳ではない。会社はコロナで船員の交代に苦労しているが、自分はコロナ対策専門の交代要員になったようなものだね。』

Q インドネシア船員の場合は?
『現在、韓国の空港はフィリピン、インドネシア、ベトナム等々の国からの飛行機便を受け入れており、これらの国からの船員は自国のPCR検査陰性証明書を持参し、一旦韓国に立ち寄って再度PCR検査を実施し、韓国発給の陰性証明書を持参して成田にきていますね。』


強風下のホーサー増し取り作業

Q 乗下船で問題はないですか?
 『船機長や一航機士は契約通り半年前後で交代し、その他の乗組員の契約は8ヵ月だが10ヶ月未満で下船でき問題ないね。
 その理由は、韓国の空港でのPCR検査の結果待ちは短く、また韓国と日本の飛行機の便数が多く、自国から日本へのアクセスが便利なこと。更に本船が同じ港に5日間も停泊して時間に余裕があり、このコロナ禍でも乗下船が上手くいっている。しかし、本船の場合は例外で、他の船ではこうはいかないよ。』

三、筆者の感想
① 変わらない下船時の笑顔
 筆者が50年前に初乗船した頃と今も全く変わらない風景は、休暇下船する船員が舷梯を降りる時の晴れやかな顔と陽気な足取りである。乗船中の仕事から完全に開放され、故郷の家族や友人の住む地に向かう下船だけに自然に笑顔になる。

② 報告書類の多さと負担
 筆者が船長であった20年前とは違い、船上のあらゆることが規則通りであることを点検・記録・署名し、陸上の船舶管理部門(会社)に報告する義務が課せられている。
 その報告事項と内容が膨大な作業量で、船長はじめ乗組員の負担が大きい実態を見聞することから、それが安全運航の阻害要因にならないかと心配です。

③ 船長の責任への不安
 実際上も法的にも船長に最終的な権限と責任があることは昔も今も変わらない。
 しかし、会社への膨大な報告書に比較して適切な援助が得られないこともある。更に、コミュニケーション不足もあって、適切に部下の報告や意見が得られるか不安があるようだ。

④ コロナ下の欠員運航
 先日別の船の船長は、「昨年7月に乗組員交代のためマニラに寄港して以降、積地豪州、揚地中国で交代者が来れず。今回やっと日本で2名の欠員補充と、私を含め10名の13ケ月乗船組が下船できる」と安堵していた。

⑤ コロナ陰性証明書
 昨夏、インドネシア船員が成田で入国審査の際にPCR検査の陰性証明書の有効期間が切れていたことがあった。急遽、インドネシアに戻り、検査を実施して新しい陰性証明書を成田に持参。成田で再度の検査実施後、結果待ちのためホテルに一泊し、業者の車で本船に到着した。幸い本船の停泊期間が5日あったので、ことなきを得た。(了)