新刊本紹介 
おおすみ事件 (輸送艦釣船衝突事件の真相を求めて)
      大内要三著 本の泉社(税込1320円)

2014年1月15日の朝、釣船の船長を含む4人の釣り仲間が釣船「とびうお」でボートパーク広島を出発して釣場に向かう途中、後方から17・4ノットの第一戦速で追走してきた海上自衛隊呉基地の大型輸送艦「おおすみ」に衝突され、釣船の2人が死亡、1人が負傷した。
 運輸安全委員会は衝突原因を「とびうおの直前の右転」とし、検察も同様な判断から「おおすみ」艦長らを不起訴処処分にして事故の幕引きを図った。そのため、亡くなった釣船船長の遺族らが真相究明と国家賠償を求めて広島地裁に提訴した。この事件の真相を解明しようとしているのが本書である。

数多くの写真と図表が使われていることから分かるように、著者は事故当時の新聞やテレビ報道、国会答弁、海上保安庁・運輸安全委員会・自衛隊の各報告書、法廷での両者の主張とAISやレーダー記録等の証拠資料、尋問記録などを丹念に追い、事故の真相を浮かび上がらせる。
 特筆すべきは、著者自ら現地に足を運び、市民運動家や地元議員の人達と交流を重ねる中で「真相究明会」の活動にも関わり、原告の栗栖絃枝さんや寺岡章二さんへの取材を重ね、いわば内面から事件を照射していることである。
 また、米潜水艦に当て逃げされた日昇丸事件、潜水艦なだしおと遊漁船第一富士丸、米潜水艦グリーンビルと練習船えひめ丸、イージス艦あたごと漁船清徳丸の衝突、潜水艦おやしお、護衛艦くらま、練習艦しまゆきの事件などを点描し、この事件の背景、海技免状適用除外とされる自衛隊の存在など、多角的な視点を提供する。安全保障問題、特に自衛艦と民間船の衝突事故の真相究明・被害者支援に深く関わって来た著者の面目躍如の作品となっている。
 他に「あたご事件 イージス艦・漁船衝突事件の全過程」など、多くの著書があり、本誌にも「おおすみ事件国家賠償、証人尋問へ」(31号)、「自衛艦おおすみ事件国家賠償、証人尋問を傍聴して」(32号)を寄稿されている。

       (編集部)