船員をエッセンシャルワーカーに認定せよ!

編集部

 世界中で猛威を振るうコロナは海運・船員にどんな影響を与えているか。新聞やテレビで報道された例を紹介し、皆さんと考えてみたい。以下、社名・船名は全て公表されたものです。

一、観光船・旅客船・フェリー業界
〇磐梯観光船の破産
 昨年6月15日、白鳥の形で人気を博していた福島県猪苗代湖の観光遊覧船を運航していた「磐梯観光船」が自己破産した。コロナの影響で客足が遠のき、4月から休業していた。

〇東京ヴァンテアンクルーズ解散
 東海汽船の子会社東京ヴァンテアンクルーズが運航するレストラン船「ヴァンテアン」が昨年6月30日で運航を終了。同社は解散し、東海汽船はレストラン船事業から撤退した。同船は3月から運航を休止していた。

〇ルミナスクルーズ破産
 神戸を起点に明石海峡や大阪港を巡る大型レストラン船「ルミナス神戸2」を運航するルミナスクルーズは昨年3月に民事再生法による再建手続きを申請。しかし資金繰りの目途がつかず、9月23日に破産が決定した。同船は、同じく神戸で「コンチェルト」を運航する神戸クルーザーの親会社ファースト・パシフィック・キャピタル社が買い取り、運航することになった。

〇上海フェリーの「蘇州號」運航停止、会社解散
 大阪~上海間を運航する上海フェリー(株)の「蘇州號」は昨年9月をもって運航を停止。同船は神戸の日中国際フェリーが引き継ぎ、12月から運航を再開した。従来の「新鑑真」と併せ2隻体制となったが、両船ともコロナの影響により1月から貨物輸送のみを行っている。

〇内海フェリー消滅
 高松~小豆島草壁港を結ぶ内海フェリーはコロナによる乗客減少などで経営が悪化、自主再建を断念し、今年3月末で運航を休止し、国際両備フェリーに吸収合併された。従業員26人全員が船と共に同社に移籍した。

〇九州郵船乗組員のコロナ感染
 博多・壱岐・対馬航路等を運航する同社は、12月から1月にかけて接客担当の乗組員3名、運航要員1名のコロナ感染を発表。濃厚接触者を下船させ船内消毒等の措置を講じて運航を再開した。検査の結果が陰性であっても自宅待機やホテル隔離を継続、その後乗組員の感染はなく現在は収束している。

○外国クルーズ客船の乗員
 外国のクルーズ客船にも多くの日本人が働いている。昨年横浜港に滞留したダイヤモンドプリンセスの日本人乗員は、医師と外国人乗客との対面通訳に追われた。彼ら彼女らはクルーズの予定に併せ、半年等の期間雇用契約で下船=解雇を繰り返して生計を立てている。昨年春以降、世界中で外航クルーズが休止し、仕事はない。

〇内航旅客船業界全般
 国内の観光船・旅客船・フェリー会社は昨年3月以降多くの会社で、減船、減便、催し物の中止等を余儀なくされている。
 国交省によれば、観光船事業は9月以降経営改善しているものの、10月の運送収入が50%以上減少した事業者が4割以上、観光船以外についても9月以降改善傾向にあるが、10月の運送収入が30%以上減少した事業者が4割以上ある。国の資金繰り支援を80%の事業者が、雇用調整助成金を72%の事業者が活用している。
 また、大阪~新門司間を運航する名門大洋フェリーのように、今年新造するフェリー2隻の設計を変更、旅客用大部屋を取りやめ、トラックドライバー用個室を増設するなど、船体整備の長期戦略の見直しに着手した会社もある。

堂ヶ島マリンの全員解雇、海員組合から脱退
 西伊豆で洞窟めぐりの小型観光船7隻を運航する同社は、地元自治体の営業自粛要請に従って昨年4月から臨時休業し、13名全員の解雇を海員組合に申し入れた。翌5月、組合は退職金等の賃金支払いや事業再開時は組合と協議することを条件に全員解雇に合意、同月末をもって全員が解雇された。しかし6月になって会社は組合に無断で7月末の運航再開を発表。組合は協議を申し入れたもののこれを無視し、解雇した13名のうち6名を再採用して運航を開始した。
 組合は運航開始前の7月9日に東京都労働委員会に不当労働行為救済の申立てを行い、街宣車を出して抗議を続けるものの、会社は交渉に一切応じず、運航を続けている。組合の申立内容は労組法7条2号(団体交渉拒否)、同3号(組合への支配介入)のみで、残る7名の復職要求は入っていない(船員しんぶん昨年7月25日号)。
 なぜ組合は全員解雇を認めたのか。組合員の身分救済が申立項目にないのはなぜか。その後の報道がなく不明である。

JR九州高速船の運航停止、希望退職募集
 博多~釜山・対馬間で高速船ジェットフォイルを運航するJR九州高速船は昨年3月より全船の運航を休止していたが、11月になり約110人の従業員を、希望退職募集、出向元であるJR九州への復帰で70人程度に減員すると発表した。希望退職は40人規模になる見通し。
 同社は既存のジェットフォイルを全て売却し、今後はパナマ籍の新造大型船クイーンビートル1隻体制とし、対馬航路は無期限停止とのこと。なお同社従業員は海員組合ではなくJR九州労組に加入している。
 同じく日韓航路に携わる関釜フェリー、カメリアラインも昨年3月以降は旅客輸送を取り止め、貨物輸送のみとなっている。また外航クルーズ会社では昨年3月~11月は全社が運航を休止、11月より一部の会社が国内クルーズを始めた。

国交省がカボタージュ緩和、海員組合の要請を無視
 また、JR九州高速船会社は、釜山航路の再開が望めないことから、クイーンビートルの国内周遊許可を、九州運輸局を通じて国土交通省に申請した。
 これに対し海員組合は、パナマ籍である同船の国内就航はカボタージュ規制(船舶法3条)に違反し、国内海運秩序の崩壊に繋がるので容認できないとして反対を表明。昨年11月国交省に対して、「カボタージュ制度が緩和された場合、フェリー・旅客船産業はコストが優位な外国船籍に駆逐され壊滅的な打撃を受けることはもとより、早晩、内航海運産業にも波及することや、船員の雇用問題にまで発展することが危惧される」として認可しないよう申し入れた。
 併せて海事振興連盟にも要請を行い、交通政策審議会海事分科会でも組合長が出席して大きく取り上げた。
 しかし、今年3月10日国交省が、日韓航路再開までの間に限るとして特別許可を与えたため、同船は3月20日より世界文化遺産である沖ノ島の周遊クルーズを開始した。今後は博多湾や糸島沖、志賀島などの周遊も開始する。

二、内航海運への影響
 鉄鋼需要の減少により大手鉄鋼各社の高炉が休止したため、鋼材船の係船、用船料の引き下げ等が行われ、用船料は「戦後最大の下落」(内航総連栗林宏吉会長)と言われる。
 鉄鋼生産量の減少に加え、リモートワーク等の影響により紙需要も減少し、一般貨物船でも係船当番のみを残して長期係船に入った船が多い。また、自動車生産の落ち込みにより自動車船の稼働も減少した。
 黒油タンカーはさほど影響は大きくないものの、移動制限や国民の自粛により航空機燃料やガソリン需要が減少したためジェット燃料船や白油タンカーの係船が多くなっている。内航全般の荷物量は回復傾向にあるものの、昨年春から夏にかけて船種により異なるが15~25%減少した(国交省調べ)。
 内航船約5000隻のうち、499トン以下が78%、999トン以下は90%に上り、その多くがいわゆる一ぱい船主だ。そのほとんどが未組織会社で、船員不足も重なり予備員を用意できない会社が多い。こうした小型船の会社でコロナ感染が生じれば、全員下船させて船内消毒をした後に運航を再開しようとしても交代者がいない。それどころか用船を切られれば即廃業に直結する。
 また、内航船員の年齢構成は、60歳以上が28%、50歳以上だと53%に上るが、小型船は高齢者が特に多いため、船内でコロナが発生すれば大変なことになる。そのためコロナ対策には神経を使い、東京や大阪など大都市での乗組員交代を避け、なるべく地方の港で交代させたり、仮バースでも上陸禁止を言い渡す会社、食料買い出しのため最小限の上陸だけ認めている会社もある(499トン以下船のほとんどが各自買い出し・自炊)。
 内航船のこのような境遇から、コロナ感染例はほとんど公表されておらず、琉球海運の貨物船「しゅれいⅡ」は極めて稀な例だ。同船はコロナ感染者が発生したため運航を停止。予定の航海をキャンセルして、全乗組員13名を交代させ、船内消毒をして運航を再開した。これは、常時予備員を確保している一定規模以上の会社ゆえ、可能なことだろう。

三、漁船への影響
〇外国人実習生が乗船できず遠洋マグロ船が出漁延期
 インドネシアやベトナムから実習生が来られないため、出漁の中止や延期が目白押しの状態が昨年来続いている。
 昨年4月以降、気仙沼のマグロはえ縄漁船の出港見合わせが相次いだ。遠洋マグロ船の乗組員は通常25人前後で、その約7割がインドネシア人。従来は出港前に空路で日本に入るか、出港後にインドネシアの港で合流していたが、同国が入国拒否対象国となったため空路での入国ができず、かつ、世界中で入港制限や乗船規制が広がり、港での合流も困難となったことによる。1日遅れれば、1隻につき約70万円の損失とのことだ。
 気仙沼に限らず、神奈川県三崎など各地のマグロ漁船も外国人実習生が入国できないため出漁の大幅延期を余儀なくされた。マグロに限らず茨城県神栖のイワシやサバ巻き網漁は実習生の来日が予定より8カ月遅れた。同様の例は日本全国の漁業はもちろん、広島や岡山など瀬戸内のカキ養殖にまで及んでいる。

〇兵庫県但馬のズワイガニ漁
 例年11月に解禁されるズワイガニ漁。船員の高齢化とインドネシア人技能実習生の入国制限のため、昨年は3隻が廃業して44隻、従事者は前年の411人から350人、うち技能実習生は94人から63人に減少した。
 そのため1隻当たりの人数は8・7人から8・0人に減少、網の投入や甲板に引き揚げたカニの選別など、1人当たりの作業量の負担が増加した。
 ある船では、実習生の来日めどが立たない上、60代の甲板員が療養中で、船員7人が5人に減少した。船主は「5人では無理が利かず、水揚げ量が確実に減るので、急きょ期間限定で1人確保した。6人いれば仕事は回せるが、けがや病気で休む人間が出たときが怖い」と語る。実習生の来日の遅れから出漁が遅れ、11月12月の2カ月で年の半分を稼ぐと言われるズワイガニ漁は大きな打撃を受けた。

〇ケープタウンのロックダウン
 日本かつお・まぐろ漁業協同組合によれば、昨年6月遠洋マグロ漁船10数隻が海外の寄港先で身動きが取れなかった。
 ケープタウンではロックダウン(都市封鎖)が始まり、船員が下船できず2カ月以上船内にとどまったり、機関長が体調不良で日本へ帰国したため、代わりの機関長を送り込もうとしたが、国際線の離着陸が禁止されて入国できず、船は出航できなかった。乗組員の上陸も許可されず、24人が操業できないまま船内で生活を続けたという。
 ある船では、長期修理のためケープタウンの造船所に入り、全員が一時休暇で日本に帰国した。その後ロックダウンが始まったため乗組員は再入国できず、船だけが港に取り残された結果、ミナミマグロ漁の最盛期を無駄にすることとなった。

〇マグロなど魚価相場の下落
 外出自粛に伴う外食産業の停滞は魚価の下落をもたらした。
 在庫が増加し、保管用の大型冷蔵庫が満杯のため、水揚げ作業にも支障が出た。中には、入港後3カ月以上も水揚げできない運搬船もあり、漁業者の資金繰りは悪化するばかりという。
 外国人観光客に人気のミナミマグロの相場も急落著しい。不漁に加え、かつお魚価の下落により高知の一本釣り漁船5隻が廃業に追い込まれた。

〇漁船でクラスター発生
 昨年12月、神奈川県三浦市の漁船でクラスターが発生。同船は11月30日に出航した後、70歳代の乗組員1人に症状が出たため、翌日県内の他の港に寄港し下船させたが、他の20~60代の乗組員5人も発症したことから、3日に三浦市に帰港した。乗組員9人のうち残る3人は検査で陰性だった。
 静岡県でも今年3月、県が停泊中の漁船のクラスター発生を公表。全乗組員29人のうち16人の陽性が判明、残りの13人は陰性だった。同船は出港前の抗原検査は全員が陰性で、2月下旬に県内から出港したが、3月上旬に複数の乗組員に発熱などの症状が出たため引き返していた。船内は換気が不十分で、マスクの着用が徹底されていなかったとのこと。

四、船員交代の困難が続く外航
 外航ではコロナが蔓延した昨年春以降、契約期限を超えても下船出来ない船員の例が多数報道された。その数は昨年末に40万人に上ったと言われる。
 昨年8月にモーリシャス沖で座礁したWAKASHIO号も、超過乗船者らが家族と連絡できるよう船長が配慮し、携帯電話の電波を求めて島に近づいたとされている。
 外航会社は外国人乗組員を交代させるための専用機のチャーターや、本来の航路を逸脱して船を直接フィリピンやインドなどの船員供給国に廻して(デビエーション)交代させるなどの策を講じている。そのための費用が年間10数億円かかる会社もあるという。
 船員供給国側でも、世界の船員120万人のうち最多の23万人(日本でも外国人船員の7割以上がフィリピン人)を占めるフィリピンでは、昨年7月以来政府は船員が円滑かつ安全に交代できるよう、各空港に船員専用の特別レーンを設けるなどの策を講じて来た。
 しかし、今年3月に入り感染者が急増したため、マニラ首都圏を中心にロックダウンを従来より強化、マニラ空港の入国者数を1日1500人に制限、国内交通も制限するなど、船員交代を困難にする動きが各国で生じている。
 一方、オーストラリア政府は、従来海上労働条約(MLC2006)に従い、連続乗船期間11カ月を厳格に守るようポートステートコントロールして来たが、昨年3月以降一時的に緩和し、船主やオペレーターの申請があれば本人同意などを条件に最長14カ月まで認めていた。しかし今年3月より従来の基準に戻すことを発表するなど、船員の人権を重視する動きも出ている。

○朝日新聞  昨年9月30日社説

コロナと船員
「漂流」30万人に支援を
いま世界で30万人以上の船員が、長期にわたり船を下りられず「漂流」している。肉体的、精神的に追い詰められ、安全な航行を続けられるかどうかも心配されている。この危うさを各国は認識し、対応を急がねばならない。
国際海事機関(IMO)など国連の八つの機関は今月、共同声明を出した。「洋上で人道上の危機が起きている」とし、長引けば世界経済に深刻な影響を及ぼすと警鐘を鳴らす。
日本など主要国が批准する海上労働条約は、船員の乗務期間を連続11カ月まで、と定める。だが現在乗船中の30万人以上が超過しており、17カ月以上乗り続けた船員もいるという。原因は、新型コロナウイルスの感染拡大である。
船員の多くを占めるフィリピン、インド、さらに国際的なハブ港を抱えるシンガポールやアラブ首長国連邦で、国内移動や出入国が厳しく制限された。ハブ港と結ぶ航空便が大幅に減ったことも重なり、船員の交代は極めて難しくなっている。
「数カ月も船上生活が続き、インターネットに接続して家族と話したかった」。先日モーリシャス沖で日本企業の貨物船が座礁した事故で、船員は島に近づいた理由を地元捜査機関にこう供述しているという。
国際運輸労連は、遠洋航路の現状を「海に浮かぶ刑務所だ」と嘆く。上陸して散歩するのを禁じられたり、救急医療を拒まれたりした例があり、自殺した船員もいる、と訴える。
感染対策との両立は簡単ではないが、新たな試みもある。シンガポールは今月、医療・検査施設を持つ「船員交代円滑化センター」を開いた。乗組員の交代を支えるため、政府と労使が出資して約7800万円の基金もつくる。こうした事例は参考になろう。
海運は世界の貿易の8割以上を担う。コロナ対策に欠かせない医療物資や食料品などを運ぶのも多くは船である。グテーレス国連事務総長は、船員を医療従事者などと同様に「欠かせない労働者」だと指摘する。海運の重要性を再認識したい。
日本にとって海運は命綱といえるほど重要だ。資源の輸入、加工製品の輸出のほぼすべてを洋上輸送に頼る。日本の船会社が運航する船の輸送能力は世界の約1割を占める。一方で、それらの船に乗る約5万5千人のうち、日本人はわずか4%だ。
外国人船員らの厳しい労働に日本の経済と暮らしが依存している現実をふまえれば、日本は官民あげて対策に乗り出すべきではないか。他の主要国にも呼びかけ、船員らを助ける国際的な方策を主導してほしい。
(朝日新聞HPより)

五、国連およびILOの決議
 このような状況下、昨年12月1日に国連総会は、「グローバル・サプライチェーンを支えるため、新型コロナウイルスの世界的大流行の結果として船員が直面している課題に対処するための国際協力」に関する補足的決議を採択した。これを受け、ILOは同月8日、「新型コロナウイルスの世界的大流行によって海上に閉じ込められている船員の悲惨な状況に対処するため」として次のように決議し、各国に要請した(要旨)。

海上労働と新型コロナウイルスの世界的大流行に関する決議 
 国連諸機関を通じた数々の行動や嘆願にもかかわらず、数十万人の船員が通常の海上勤務期間をはるかに越え、ある者は乗船期間が既に17カ月以上にも達しながらも働き続けている。
 船員の疲労が船員個々人の心身の健康のみならず、航行の安全、海洋環境の保護、保安に多大なリスクをもたらしている。
 2006年の海上労働条約は、送還される権利や陸上で医療を受ける権利など船員の諸権利を規定し、条約批准国は船上における最長勤務期間を12カ月未満とする必要がある。同様に、2007年の漁業労働条約も漁船員の送還される権利、陸上で医療を受ける権利を規定している。ILOは、加盟国に対して以下の緊急行動を求める。
 *IMOの「乗組員交代のための諸手続の推奨される枠組み」を考慮に入れ、乗組員の交代を妨げる障害を特定し、安全な乗組員の交代と船員の旅行を確保する測定可能な時限計画を定め実施すること
 *船舶の積み込み・積み降ろしのための安全で妨げられない移動を円滑化する目的、及び上陸許可の目的のために船員を基幹労働者に指定すること
 *船員が持参する国際的に認められている書類の受諾を検討すること
 *即時の医療を必要とする船員が国籍を問わず陸上の医療施設に受け入れられ、緊急治療、必要な場合には緊急送還を受けられることの確保
 *査証その他の書類要件の免除、適用除外、その他の変更などの一時的な措置の検討
 条約批准国は関連する省庁と調整を図り、他の批准国と協力し、社会的パートナーである労使団体と協議の上、コロナ禍の間、条約を完全に実施する措置を採用するよう求める。
 企業は「国連のビジネスと人権に関する指導原則」に沿い、新型コロナウイルスの世界的大流行がもたらしている船員の人権に対する実際の及び潜在的な影響を特定し、防止し、緩和し、対処法を説明するデュー・ディリジェンス(相当なる注意)を遂行するよう求める。
 ガイ・ライダーILO事務局長は、船員が直面している問題が許容できないほど長引いていることを指摘し、「この基幹労働者は私たちに必要な食料、医薬品、商品の輸送を続けているが、その長期化している海上滞在期間、そして陸上の船員がこれらの人々を解放できない状況は支持できない」と訴えている。(ILO駐日事務所HPより)

六、JAⅯSTECの対策
 深海調査船「ちきゅう」「しんかい6500」など多くの研究船で世界レベルの研究を続けるJAⅯSTEC(国立研究開発法人・海洋研究開発機構)は、昨年7月来、船員や乗船する研究者・学生に対して、以下の対策を実施している(要旨)。

○乗船前の措置
 18日前から健康記録簿への検温結果・体調異常等の記録、および行動備忘録の作成
 14日前から感染防止手段を可能な限り用いるよう留意し、不要不急の外出の回避、3密場所への立ち入り回避、公共交通機関を利用する場合は混雑時の回避、乗船者同士のグループ行動・移動は避ける
 *船員、研究者全員の乗船5日前以内のできるだけ出航日直前にPCR検査と医師の診断(機構が手配した医師が船や機構会議室を訪れて実施。受診者の氏名・連絡先・所属等を医療機関に伝え、事前にカルテを作成しておく)
 *乗船予定の研究者がPCR検査で陽性と判定された時に備え、次々席研究者、次席研究員及び予備員を指名し、実施要領書に記載。予備員も乗船者と同様に健康管理簿等の作成PCR検査受診等を実施
 *指導教官が陽性の場合、その学部の学生は乗船できない

○乗船後の措置
 乗船後、日本の港から4日間以上の遠方航海は、以下を義務付ける(計画書で事前申請)。
 *出港後、日本の港から4日以内の位置で、乗船者全員が14日間洋上待機
 *全期間を通じて出港以降、航海途中で新乗船者がないこと
 *傷病者が出た場合(感染の疑いがある場合を含む)緊急搬送が受けられる港が複数確保されていること
 *全期間を通じて外地における補給なしで日本の港に戻ることが可能な航海であること

○乗船不可の基準
 乗船および訪船不可の基準を、厚生労働省感染者感染症対策専門家会議の「帰国者・接触者相談センターに御相談いただく目安」に基づき、以下としている。
 *息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
 *重症化しやすい方(高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患等の基礎疾患や透析を受けている者。免疫抑制剤や抗がん剤等の服用者)で、発熱や咳など軽い風邪の症状がある場合
 *上記以外の方で発熱や咳など軽い風邪の症状が続く場合

七、海運・水産立国日本に問われるもの
 今年1月、コロナ変異株が国内航空会社のパイロットから検出されたことを受け、国土交通省は航空業界に対して、入国拒否の対象国・地域を往来した全てのパイロットや客室乗務員への帰国後の検査を要請、航空各社は検査を開始した。従来厚生労働省は、運航に支障が出ることを懸念して航空機乗務員を検疫対象外としてきたが、これを維持しつつ、各社の責任で検査を実施させることにしたもの。
 任意、かつ各社責任という点で疑問は残るものの、航空労働者と同様エッセンシャルワーカーである船員、船という陸から離れた密閉された空間で長期間働く船員に対する国の施策の欠如を感じざるを得ない。
 去る3月25日、国連の5機関(ILO、ICAO、IⅯO、IOⅯ、WHO)は、国境を越えて移動する航空機乗務員と船員にワクチンを優先接種するよう共同声明を出した。外航や遠洋漁船乗組員へのワクチン優先接種はもちろん、国内船員、特に旅客と接触する機会のある旅客船・フェリー船員への定期的PCR検査の義務付けとワクチン優先接種は不可欠だ。前記JAⅯSTECの対策を、そのまま当てはめるのは無理としても、同水準の対策を講じて欲しい。
 日本は、海運・水産立国として、昨年来IMOが度々出している声明や、ITFが昨年7月16日に呼び掛けた船員交代の危機に関する声明(深まる船員交代の危機:各国政府は迅速な行動を)、そして前記ILO決議に基づく船員への施策を、率先して実施しなければならないはずだ。      (編集部)