― 商船船員を魅力あるものにするために 15 ― 

雨宮洋司(富山商船高専名誉教授)

目次
Ⅰ 最初に述べておきたいこと
Ⅱ 商船船員(職業)にこだわる
理由
Ⅲ 船員(職業)特殊性論の展開
Ⅳ 海陸職業を同一視する諸相
と抗い(あらがい)の視点
Ⅴ 特殊性を克服する諸政策の断片
Ⅴ-1 船員労働団体の混乱と船員部会での議論

1.海員組合の混乱とその影響
2.船員部会(国交省)での議論 
(1)船員部会の各種情景     
① 顕著な当局の強気発言
②〝要望〟事項となる船員側発言
③ 当局と船員(組合)側委員の激論
④ ILO海上労働条約の国内法化論議
⑤ 船員部会での政策基調
⑥ 漁船員の地位向上に関した議論
⑦ 船員確保育成策に関して の議論
◯日本人船員確保育成策に関して
(以上前号まで)
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◯ 外国人船員の確保策に関して
(船員部会での議論)

 『成長戦略船員資格検討会のまとめ〈2010(平成22)年5月〉』を見ると、国交省の成長戦略の中身が判明してきます。
 曰く「国際競争力を強化するために、船員資格の手続き見直し(規制緩和)を行う」。つまり、外国人が持つ船員資格(外国発行の免許)を日本が承認することに関して、〝それは世界に遅れること13年後の1998(平成10)年に、ようやく日本籍船に外国人を配乗することになった。現地(外国)発行の免状承認には日本の海技試験官による承認試験〈2010(平成22)年度から外部委託〉、または船長による能力確認で行ってきているが、船社(ユーザー)にとっては、講習などを踏まえるとそれに1~2ケ月要するのでオペレーションに支障が生じることに不満がある〟としてその対策が練られます。対策としては、外国の海技免状承認が得られやすくなる方法の導入です。
 海事法令講習は陸でやる代わりに船上Eラーニング方式(情報機器利用)で行うこと、一等、二等、三等の各航海士区分を廃し、合体して航海士とすること、船長による能力確認をフィリピンやインドネシア以外にも拡大して、簡素化(期間を3ケ月から1ケ月へ)すること、これ以外に外国の機関(商船教育機関等)が承認するところの卒業生には能力があるとみなすルートを作ること、船舶料理士関係は船社が実施する海外研修施設等での講習で試験合格にすること、船舶衛生管理者試験(現行はSECOJ管轄)に必要な実習の大半をEラーニングで代替し、実習は8時間程度にすること、船舶管理者資格(現在まで海技教育機構での3時間の座学講習)も同様にEラーニング講習化すること、危険物取扱責任者(現在、船社の海外研修施設で実施しているもの)は船上Eラーニング方式化にすること、等々が第22回〈2011(平成23)年4月〉部会で説明されています。
 これらはまさに、外国人船員確保のためのなりふり構わない船員資格ダンピングのオンパレードと言えるものです。どうしてこれが、日本の真の成長戦略になるのでしょうか。
 これに拍車をかけるのが船主委員の、『当局資料のなかで、貧弱な海外船員教育機関という表記はおかしい。その理由は、日本におけるよりも増して(外国の商船教育機関には)いろいろな資本投下をして(外国人)船員教育には力を入れているのに…(第17回)』の発言です。
 さらに、船員(組合)側委員も、2009(平成21)年度予算項目の説明に関して、『日本とフィリピン・ASEANの取り決めに基づいて、東南アジア船員の教育訓練(フィリピン人船員のレベルアップ事業や教官育成支援での人的ネットワークづくり等)を充実化していく方向性が出たことは高く評価したい(第3回)』と述べて援護射撃を行っています。その後の「LNG運搬船員資格教育調査」に関しての発言(第58回)もその延長線上にあるといえます。
 第4回〈2009(平成21)年2月〉部会での説明には、当局の政策背景が読み取れます。
 『将来、国際的にも不足するといわれる船舶職員(BIMCOの推計で2015年に2・7万人)に関して、主たる供給地域であるアジア船員なかでもフィリピン船員の奪い合いになると思われる』ということで、日本とASEANの船員フォーラムプロジェクトは、日本がフィリピン人船員を囲い込む具体策を紹介し、外国人船員確保育成策の必要性を明確にしました。
 その具体策は、フィリピンの民間商船学校生への乗船実習機会の提供拡大を図ること、及び旧航海訓練所の元練習船・青雲丸(現フィリピン練習船のOCA号)を使った乗船訓練や社船訓練でのカリキュラムづくりなどを日本のODAを使って航海訓練部職員が行うこと、またインドネシア人へも乗船機会を広げること、フィリピンなどのインストラクター養成を日本が行うこと、OCA号の改修をODAで行うこと、等々になります。
 こうした政策展開で、日本の承認制度(もともとはタグボートに乗り組む人の免状付与のためにつくられた船舶職員法第23条の改正〈1998(平成10)年〉であったはずなのに、今では外国人船員への免状承認規定に適用している)を使って日本船社支配の船に乗れる外国人船員の囲い込み策を〝アジア人船員国際共同養成プロジェクト〟の名目で行う内容になっています。
 さらに、海運業界の要望として『FOC、日本船、その他の船に自由に乗れるようにすべき』という本音も吐露されています(第4回、2009(平成21)年2月)。
(外国人船員確保策で留意すべきこと)
 便宜置籍国とフィリピンなどのアジア船員供給国の利用が世界の流れになっており、そのシステムの全面利用を手に入れた日本の船社が、そのメリットを簡単に手放すことは大変難しいことと思われます。
 そのシステムはあたかもボーダレス経済社会における自由な経済現象の到達点のように見えますが、それは公正公平で切磋琢磨していくべき経済社会の〝理想的姿〟には到底思えません。ましてや国を単位に規制・保護や税制度が行われる国際社会の現実から見ても、外国人船員が乗り組んだ便宜置籍船の存在は、グローバル経済社会に名を借りた途上国・地域の利用という姿にすぎないと思えるのです。
 最近、税金避難地を利用していた先進各国の政治家や資産家らの存在がパナマ文書やバハマ文書で明らかになり、違法でなくても、関係した政治家らが批判され、道義上の責任を取って辞任へ追い込まれたりしております。そのことは〝合法とはいえ節税の抜け穴探しは許されない〟〝金持ちだけができるもの〟〝そのような格差の存在はおかしい〟という否定的国際世論が背景にあるからです。
 FOC利用の海事関係者も、それを他山の石としなければならないでしょう。
 他国への出稼ぎ大国として定着しているかに見えるフィリピンにしても、自らの足で立つことの模索史に注目しておくべきです。スペインやアメリカによる支配そして日本による占領を経た末に、ようやく到達した共和国としての独立は民族悲願の賜物なのです。国内的には現在も続くミンダナオ島のモロ民族解放戦線の存在があり、当局との交渉経緯や一連の反政府運動の歴史的経緯を考え、歴代大統領の言動(特に、教育などのインフラ重視政策と領土保全策)にも注意する必要があります。
 そして今日、2016(平成28)年の大統領選で当選したドゥテルテ(フィリッピンのトランプとも称される)の動向にも留意しなければなりません。日本側の経済的利用としてのフィリピン人海外出稼ぎ船員依存の現状は、相手国にとっても願ったりかなったりの正当性を持つと考えている人はいるかもしれません。しかし、経済発展の速さと民族自決意識に基づく独立国としての方向性は、決して衰えることはないでしょう。いわゆる新自由主義政策の展開で日本の動きと歩調を合わせているかにみえますが、フィリピンからの米軍撤退実現にみられるように民族自決の感情は根強いことも知るべきです。
 南沙諸島における中国脅威論で米軍との基地共同利用が最近進展しつつあり、フィリピンの提訴による国際司法裁判所の中国敗訴判決もありますが、新大統領による中国戦略などを見ると敗戦国としての日本の歴史的立場とは大きな違いがあることが分かります。
 良く耳にする〝フィリピン人は陽気だ、使いやすい、英語が話せる、日本人とうまくいく〟等といった日本人による使いやすさに関したフィリピン人船員の評判ですが、両国船員間の関係改善に取り組んだベテラン日本人船員(職業)ら関係者による船内での労苦の足跡を想起する時、今後もこれまでと同じようにそれが持続していく保証はないでしょう。
 そのことを考えると、フィリピン人船員確保のための日本政府や船社による支援強化策と日本支配船確保のためのトン数標準税制適用拡大策、さらにはアジア船員確保のための船社による商船大学の現地設立や商船教育に携わるアジア人教員への訓練指導強化策等の支援手法は、短期的に何とか保たれていると見たほうが良さそうです。
 フィリピンは日本以上に、四面環海の国になりますので、彼らが海との関連で様々なことを独自に考えることは当然ですし、単なるボーダレス経済でのアメリカ的自由競争原理の流れにどっぷり浸って進んでいくことだけが優先されるとは思えません。
 長期的には、両国双方の船員にとって最善の方策は、まずは日本籍船および日本船社の支配船に乗るフィリピン人をはじめとする外国人船員を大切にする船員政策の展開が必要です。その内容は、日本人船員政策と同じで、船員(職業)特殊性(不利益性)に配慮したその軽減策を日本側が率先してすすめること、及びそのスタンスを提示することです。
 具体的には、新たに発効した海上労働条約の諸条項を上回る船内生活を豊かにする諸施策、つまり諸設備の充実と労働諸条件向上の提示が大変重要になります。こうして、アジアの人々と共生する日本の真の姿を率先的に示すことで、優秀なフィリピン人等アジア船員の継続的確保も長期的になされていくに違いありません。

○ 内航船員確保育成策に関して
 「内航船員の不足数は5年後に1900人、10年後には4500人になる見通し」ということを、国交省海事局人材政策課は明らかにして〈『内航船員の育成・確保策』2009(平成21)年4月27日〉、様々な施策が今日まで講じられています。
 その策は、内航海運企業の体力強化を行う方向で、船舶管理会社(船員派遣業)の公認とグループ化を進めること、その結果、多くの内航船員が雇用されるようにすること、そのような基本線に沿う業界要望の国庫補助事業を拡大すること、同時に、国交省管轄の海技教育機構(航海訓練部、海技大学校、海上技術学校・短大校)では即戦力船員の育成に重きを置くこと、ほかに女性船員の発掘、水産高校卒業生や退職海上自衛官の確保にも力を注ぐこと、等々といったものになります。
(予算案に見る内航船員対策)
 第3回、第11回、第17回、第19回の当局による2009(平成21)、2010(平成22)、2011(平成23)各年度の内航船員対策に絡む予算の説明をみましょう。
 まず、2009(平成21)年度においては、前年度からスタートした日本船舶・船員確保計画の設定〈2007(平成19)年12月答申の具体化〉に基づくもので、共同型船員確保育成事業(中小業者のグループ化)をすすめること、船舶管理会社の船員教育訓練費の一部補助を行うこと、新規船員資格取得講習費用の一部補助をおこなうこと、船員計画雇用促進事業として未経験船員の採用訓練での事業者への補助金(退職海上自衛官や船員教育機関以外の女子一人につき12万円、それ以外は8万円)の支給を行うこと、等々となっています(第3回)。
 2010(平成22)年度予算では、陸から海へのモーダルシフト誘導策として、国による環境対策費負担措置について次のように説明されています。
 「省エネ対策に資する低炭素型内航海運船舶の導入支援のために、共有建造制度で建造された特定省エネ船舶への船舶使用料の軽減措置(海運事業者購入の陸上輸送用シャーシー・トラクターヘッドへの補助など)の実施。もちろん、今までの、省エネプロペラの付け替えや塗料の塗り替え補助は継続する」等。
 さらに、国際コンテナ戦略港湾(阪神港、京浜港)に就航する内航フィーダーコンテナ船使用料の金利分軽減措置(最大1・2%)を行うこと(これは日本港湾のハブ化を狙う新港湾政策と衝突しかねません)も盛り込まれました(第11回)。
 2011(平成23)年度概算要求の説明では、さらに内航船社援助の数々が紹介されています。
 「元気な日本復活特例枠として、内航船員練習船の大成丸を建造するため9億円を確保すること」が目玉であり、中小内航海運業者グループ化への助成金や新規船員資格取得のための補助金、トライアル船員計画促進の事業、緊急雇用促進助成金(失業船員を雇用したとき、事業者へ1人当たり100万円支給)」等の補助対象事業が紹介されています(第17回)。
 さらに第58回では、内航船員確保のために、船員教育機関を卒業しない人への社船実習に必要な費用についての企業助成を加えています。
 このような各種施策を想定して、第6回部会の説明では、『船員確保計画を当局へ提出したのは147事業者であり、それらを当局は認定しております。それによると、船員確保予定数は、2009(平成21)年度開始時は退職自衛官採用予定が8人、女性は6人と少なかったが、それら(確保計画を提出した)事業者の船員採用予定者数は多いので、5年後の船員不足数1900人は回避できる見込みである。ただし新規の供給源(退職自衛官や女性など)を増やす必要はある』として内航船員不足解消に自信をもっています。
 第29回〈2012(平成24)年1月〉部会では、内航グループ化策に応じた企業への支援強化策として、新規船員資格取得助成とトライアル雇用促進の助成金をダブルで取得できるようにして、それまでの1人最大36万円を51万円へ補助金増額を行うことが報告されました。
(六級海技士資格の規制緩和策)
 第13回〈2010(平成22)年3月〉部会で内航船主側委員と当局の間で、六級資格に関してこんなやり取りがありました。
 内航船主側委員『新六級受講資格に水産高卒も可能なようにしてもらいたい。新六級(航海)の課程はあるが機関の課程がないのはなぜか』。これに対して当局は『当面、海技大学校の募集要項の関係になるので、前向きに検討したい。どれだけの需要があるかを知りたい』と述べております。さらに、船員(組合)側委員も船主と同様、当局の早い動きを期待するという発言をしています。
 こうしたやり取りの背景には、内航船員や漁船員の確保育成策と合理化策を絡めて、乗船履歴を有している人たちが六級海技士免状の取得を取りやすくすることで、船橋や機関室で職員として当直させること(199トンの場合は船長、499トンの場合は一航士、機関関係は出力が750KW未満の沿海域船に乗れる)、さらに、その海技免状取得によって、船員が陸の職業へ逃避しなくなるのではないかという淡い期待もあるようです。
 それに応えるべく当局は、内航船員不足対策を規制緩和政策に絡めて、六級海技士免状取得の特例措置を次々と打ち出していきます。
 まずは、若手内航船員確保のために、国の船員教育機関卒業ではない者を獲得する目的で、民間の学校(尾道海技学院など)に特別コースづくりをしていくというものです。それは文科省が専修学校の内容を正規の学校制度とリンクさせるために義務づけているもの(1~2年間で相応のカリキュラムを履行すること)とは関係なく、国交省の省令や告示だけで、独自に六級海技士短期養成内容を決めることが出来るようにすることです。
 そこで学んだ船員未経験者は、18歳以上ならば学歴に関係なく一定の乗船履歴を持つことで筆記試験が免除され、身体検査のみでその資格取得が容易になるようにしたわけです。当初は航海だけのコースでしたが、その5年後、機関コースも認可されました〈第58回、第61回2015(平成27)年1月〉。
 それと同時に、必要な乗船履歴期間の短縮も行いました。
 それまでの2年を6ケ月へ短縮し、さらに乗船履歴は社船実習の代替でも良いこと(その場合、国から8万円が補助される)とし、その結果、船員未経験者の六海技士免状取得は、乗船期間を含めて10・5ケ月の短さで取得できるようにしたのです(第58回)。
 その後、第68回〈2015(平成27)年8月〉部会で、船員(組合)側委員が『すでに乗船経験が長い船員が六級海技士(機関・二種)を取る場合、免許をより取りやすくするための特例措置(短期間の講習による代替 ‖以前は10年の乗船経歴者は9日間の講習で、5年から10年の者は12日間の講習で合格していた)が必要で、当局はその検討を行うとしていたが、その進捗状況はどうなっているのか』と質問しています(第61回)。
 当局は『底引き網団体と巻き網団体とに、そのニーズがあるかどうかを照会中である』、つまりニーズが確認できないので、そこに踏み込んでいないと答えています〈第64回、2015(平成27)年4月〉も参照)。
 労使の要求に基づいた当局の対応は、その流れから見てそれほど遠くない時期に現実化するでしょう。第76回〈2016(平成28)年4月〉部会での船員側委員による質問に対し、当局は『パブリックコメントが終わって間もなく省令改正になる』と答えておりますから。
 この背景としては、短期養成の特別コースへの入学者数は80名に満たなく(平成27年度)、さらに海上技術短大校の入学定員増は10名程度であり、退職が近い5千人の内航船員の存在等々を考えたとき、焼け石に水といえるからです(第64回)。
 さらに、水産高校卒業生が海上技術学校卒業生と同様に、卒業後すぐに航海当直部員として当直が可能なようにするため、国内法(船員法及びその施行規則)が規定する甲乙丙3種類の基準を最低基準「丙」へ一本化し、STCW要求基準と同様にするということで、内航人材の30%を占める水産高校卒業生への配慮をしています〈第34回、2012(平成24)年7月〉。
 このように海技免状取得の容易さを進めているのですが、船員不足対策を海技免状取得の容易さの導入(規制緩和?)等で乗り切る策は、まさに泥沼的といえましょう。このままでは、日本国家による船舶安全運航の人的担保としての海技免状制度の信用性は危険領域に入り込んでしまったといえそうです。
(その他の要望と実現)
 内航関係の要望(実現したものも含む)は多岐にわたります。ここに3点だけを記しておきましょう。
 ※船舶料理士資格取得のための乗船期間は、陸の料理師資格所持者の場合、船舶料理士資格取得に必要な1年間の乗船経験を1ケ月または3ケ月(船舶料理士指導有無との関連)へ短縮しました(第25回)。
 ※船員不足対策に関して、内航船主側委員は『内航へ500名が入って、700から800名が辞めている。また高専卒では実習を終えたのに、陸上へ行ってしまうのが多いので、当局はもう少し頑張って、陸へ流れる人を海上就職へ誘導したらよい』と発言して当局の尻を叩きます(第65回)。
 ※内航船の法定定員削減に関しては第34回部会で、次世代内航船の乗組制度が『スーパーエコシップ(SES)と高度船舶安全管理システム搭載船の陸からの機関監視の結果、機関作業省力化のため、乗組制度の見直しによる実証実験で、機関部職員は3名から2名(機関長1名と一機士)にする運航を認めることになった』と当局から報告されました。これに対して出席していた船員側委員は『すでに終わった検討会の報告を突然今受けたが、この船員部会だけ船員側が出席できる場になっていることの認識を深くしてほしい』といった要望を行いましたが、事実上の船員部会承認となります(第34回)。

○ 船員部会での有用な報告と発言
(船員派遣事業者に関する報告)

 2005(平成17)年度から開始された船員派遣事業者に対する6ケ月ごとの当局監査によるフォローアップは、労使が揃う船員部会で報告されるため、派遣事業者の品質向上の点で非常に有効であり、そのようなフォローアップ態勢づくりは新規政策展開の際には不可欠だと感じます。例を述べましょう。
 監査で見つかったこととして、『常傭雇用契約なのに、派遣先の派遣期間が切れると派遣元が会社都合で船員を解雇した例もあって、その事業の廃止指導に入ったこと(第8回)』や、2010(平成22)年度の報告では、『110社が派遣事業者で、雇用船員数1日当たり2593人であるが、実際の派遣は1日当たり千人である。派遣先は753社で、1人当たりの平均派遣料金は100万円、賃金は60万円、派遣期間は3ケ月未満が主で6ケ月と9ケ月を合わせて50%以上の短期派遣が目立つ(第29回)』となっており、内航派遣業の実態が確認できることになります。
(船員教育機関の就職状況の報告)
 船員(職業)への就職状況について、数値をあげた船員部会における報告も現状を知るうえで極めて有用です。
 例えば第15回〈2010(平成22)年6月〉部会では『入学状況(倍率)は大学が3・9倍、高専1・8倍、海技校の本科が2・1倍、専修科(短大校)が1・9倍となっており、卒業生の船員(海上)就職(平成22年4月1日段階)状況は大学(乗船実習科)が84名のうち外航への就職70名で83・3%、高専は132名のうち88名が海上就職で66・7%、海技教育機構関係の学校は313名で、そのうち海上へは281名の89・8%となって、高専の海上就職率の低さ』が報告されています。前に述べたように、高専だけが乗船実習科制度を設けていないのでその比較には無理があります。
 このような報告内容から明確になることは、入学倍率を前提に求人数をみると、船社は優秀な学生確保のために、文科省の場合、商船系大学をまず考えているようで(平成21年度の外労協・旧中小労協からは2大学の乗船実習科就職希望者84名に対して60人の求人、5高専へは132名の卒業生に対して70人の求人)、国交省の海技教育機関であっても、海上技術学校卒(本科)より専修科(短大校)卒への船社求人の多さ〈本科卒へは75、乗船実習科へは140、専修科(短大)へは406〉は歴然としており、高学歴志向が根強いことを示しております。
(船員(組合)側委員の貴重な発言)
 船員(組合)側委員が組合定期大会の決議四項目を紹介する(第37回)などPR的部会の利用があるとはいえ、船員(組合)側委員の発言が一定の効果をもたらしていることも事実です。
 例えば、『漁業部門の最低賃金制は四業種以外の全業種で導入すべきである』、『それを労使だけの話し合いでやることには限界であり、当局のイニシャチブが必要〈第8回、第27回(2011(平成23)年9月)』、さらに前述した、南アのケープタウン港外で発生した日本籍船マグロ漁船の座礁事故に関する船員側委員の要求もあります(第32回)。
 前者の漁船員最低賃金問題は、船員側委員が発言を続けた結果、公益委員の貴重な発言に至ったことは前に述べた通りです。
(2)船員部会の限界と期待
(次号に続く)