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なぜ組合船の会社を辞めたか 
(小型タンカー機関長・30歳代)


 昨年、組合船の会社を辞めて、今の会社(未組織)に移った。この船1隻だけの小さい会社で、手取りが月5万円以上さがったけど、今はほぼストレスがない。あまり遠くに行かなくて、地元に帰って来た時はメインのバースがあって、2~3日乗船すれば家に帰ることができる。それも大きな魅力だった。

毎日が地獄だった
 長いこと内航に乗って来て、どの船でも年配者や年上の部下からギャンギャン言われ続けてきた。特に前の会社では荷役作業のことで、年配者から毎日、毎日、何かにつけてボロカスに言われ、堪忍袋の緒が切れかけていた。あのまま乗っていたら『それならお前がやれよ』とブチ切れて、一発かましていたと思う。
 あまり思い出したくないけど、ケミカル船で結構スラッジが多い荷物があって、揚げ荷中にストレーナーが詰まり、荷役がストップした時は大変だった。僕のせいじゃないのに『何をやっとんじゃ!お前は機関長だろっ!』と、年上の部下が怒鳴り散らす。たまたまカーゴポンプのグリース入れをその日やってなかったのに気付き、鬼の首を取ったように大声に拍車をかける。漁船から来た人で若い僕が上級免状を持って機関長をしていることが気に入らなかったみたい。
 毎日そんな感じで、この人たちが定年になるまで我慢して付き合うなんて考えられなかった。そういう人に限って、『もうこんな会社いつでも辞めてやる。ほかに行く所はいくらでもある。前の会社からいつでも戻って来いと言われている。』とか、ああだこうだ会社の文句や自慢を言うけど、そのくせ会社の人が来ても一言も言わずペコペコしている。ずっとしがみついて辞めない。
 それでいて職場環境を改善する気もなければ、上の免状を取って責任者をする気もない。毎日威張り散らしたり、あからさまにフテ腐れたり。そういう圧迫感、脅迫感から解放されて今はスッキリしている。二度とああいう雰囲気は嫌。5人しかいないので、毎日朝から晩まで顔を合わせる。毎日がストレスだった。
辞める時、会社の人にいろいろ言ってやった。その会社は年間120日位くらい休めて、休暇だけは恵まれていたけど乗っている間が地獄だった。直行直行で満足に眠れない。朝の3~4時に沖に着いてアンカー打って7時には入港作業。荷役が終わって出港したらタンク洗浄、そしてワッチだからもうヘロヘロ。
 仮バースもほとんどなく船内でイライラが溜まっていることとか、若い人が乗ってきても自分と同じ扱いを受けてすぐ辞めてしまうのではないか、もっと船内の雰囲気を改善した方が良い、と訴えた。
辞めてからその船に乗っている仲の良い人に聞いたら、以前は仮バースが乗船中に一度あれば良い方だったけど、今は少し改善されたみたい。僕をやめさせたのは誰だと、船で犯人探しになったらしいけど。

組合船と非組合船の違い
 これまで組合船の会社を2つ、未組織の会社を2つ経験した。一言で言えば、未組織は実力社会、組合船はある意味年功序列社会。組合船ではいくらやる気があって腕が良くても、上が詰まっていれば、昇進できない。そういう感じを受ける。
 だから、若いうちに未組織でとりあえず一等航海士や機関長まで行ってしまうのが得策。会社を移っても、過去の経歴に関係なく実職をとれるし、それなりの給料がもらえる。未組織会社では、だいたい前の会社の給料を聞かれてそれを下回らないようにしてくれる。
 だけど、組合船には標令換算というのがあって、他社歴や陸上履歴で標令が減ったり、実力より年齢で昇進が制限されたりする。
やる気がある若い子が組合船に入っても、二等航海士は何年、一等航海士は何年の経験が必要といった階段があるし、全内航のモデル賃金みたいに何歳の一等航海士で給料いくらとか、基準みたいなのもあって、実力があっても簡単には給料を上げてくれない。
 おまけに年配者も多くて、上がつかえて中々昇進させて貰えない。毎年、基本給はあがるけど‥。
 最初の組合船の会社でも、年配者たちが『俺がいる間さえ会社が潰れなければいい』とか、『俺たちの代までは年金は安泰さ』とよく言っていた。自分たちのことしか考えない、そういう団塊の世代というか年配者たちが上に詰まっていて、ひどい時には、あからさまに怒鳴りちらしてヤツ当たりする。それがイヤでしょうがなかった。 

若い子の考え方
 若い子が会社を選ぶ際には、組合船とか非組合船とかは眼中になく、船種や航路、休暇。それと給料はぼちぼちあれば良いという感じ。休暇のサイクルが短いタグや休暇の多いフェリー会社に行きたがる子が多い。
 かといって車は欲しいし遊びたいしで、今貰える給料に目を取られる。その点、未組織会社は他の会社に移ったら困るので毎月の手取り額は結構いい額になる。免状と実力次第で昇進も早い。だから給料の面でも組合船のメリットを感じていない。僕も組合船の時より、その前にいた未組織会社の方が手取りは高かった。
 組合船では毎年の昇給とか、退職金とか、保証されているとは思うけど、昇進が遅かったりするので若いうちの給料はむしろ低い気がする。長い目で見て、生涯賃金とか退職金、年金とかを総合的に考えれば、組合船の方が良いのかもしれないけど、目の前の辛さに耐えられるかどうか‥。
 組合船には組合が守ってくれるメリットがあるというけれど、いざ会社が潰れた時にどれだけのことをしてくれるか不安だし信用できない。今回コロナウィルスでルミナス神戸の会社が倒産したと報道があったけど、退職金の上乗せどころか、満額すらとってくれないんじゃないだろうか。
 若い子が辞めて他社へ行くのは、乗り合わせた人や上司の人柄とか船内の雰囲気が一番の理由だと思う。給料や休暇よりそっちの方が重要。船の雰囲気が悪ければ1日がとても長く感じるし、やりがいが感じられない。やめる理由の一番はそれだと思う。僕の場合もそうだった。

若い人の組合感は?
 若い人は組合のことをほとんど知らないと思う。組合が船に来るのもせいぜい年1回の春闘か選挙の時だけだし、来てもだいたい荷役中で忙しいから、船長だけが話を聞いたりしている。
 これからの内航を担っていく若い人と話さない場合が多いし、もし乗組員全員で話したとしても、年配者の顔色を窺い、若い船員が自分の意見を言えるはずがない。そもそも組合は会社の実状をほとんど知らないし、当たり障りのないことを言って帰るだけ。来ても意味がない。
 若い人は、船に乗って給料明細を見て初めて組合船ということを知り、毎月組合費を5000円も引かれて、『なんだ!この5000円は(怒り)』となる。年配者は「どうせ組合なんか」という感じで、悪いイメージしか持っていない。

人間関係が良いので移る気はない
 組合船の会社をやめる前に今の会社を探して、給料は安いけど航路が良いので入ることにした。会社は少し経ったら給料を上げてくれると言うから今は我慢している。
 残念なのは、この会社には食料金という概念がないこと。食料は全部船長が買って来て料理する。作らなくて済むのは楽だけど、今までの船は食料金を節約して酒代や小遣いになり、これが結構大きかった。
 そこが少し残念だけど、ガミガミ言う年輩者がいなくて人間関係が良いので今のところ移る気はない。一生この会社にいる気まではないですけど。年末ジャンボで一発当てて、若い子だけの船会社でも作ろうかな。(談)