海技教育機構フォローアップ委員会が点検結果を公表

(編集部)

 一昨年7月、練習船青雲丸で、機関科実習生3名が連続して自殺・自殺未遂・失踪した件で、機構は第三者委員会の提言に基づき31項目の再発防止策を策定、昨年春から実施に移した。(本誌25・26号)

 その後外部の識者3名を含むフォローアップ委員会が設けられ(栗山博史弁護士、庄司るり東京海洋大学教授、見上博日本内航海運組合総連合会審議役、および機構の役職員10名)、昨年9月から今年3月にかけて計4回の会合を開き、再発防止策の実施状況を点検、今年4月報告書を出した。(機構のHP、2019年度ニュースの4月17日)

 委員会は、「相当性」、「進捗状況」「有効性」の三つの観点から評価、検証を行ったとされる。

報告書の概要

1.対応策の相当性の検証

 機構が策定した31件の対応策について、4件を除き、第三者委員会の提言の趣旨に適った内容であると認められた。

 4件の指摘事項とそれに対する追加改善内容は以下のとおり。

(1) 相談窓口の周知

[指摘事項] 相談の窓口や仕組みについて、機構以外(学生の所属組織)の学校については、十分協議の上、情報交換・共有することが望ましい。

[改善内容] 大学・高専との連絡会議の場などを通じて調整し、周知を図る。

[実施時期]2019年度中

(2) 相談しやすい配慮①

[指摘事項] 「相談窓口の設定」で、窓口ごとに受付内容が限定されるような誤解を与えないよう、基本的な区分設定はありつつも、どんな相談も受け付ける運用が望ましい

[改善内容] 複数あるいずれの相談窓口を利用しても良い旨を周知する。

[実施時期]2019年4月

(3) 相談しやすい配慮②

[指摘事項] 生徒が悩みを打ち明けやすくするため、話した内容が組織内で当然に共有されるのが前提というような誤解を与えない工夫を願いたい。

[改善内容] 相談を受けた場合の対応手順を指摘事項の趣旨を反映して変更する。

[実施時期] 2019年度上半期中

(4) 問題発生時の対応

[指摘事項] 問題が発生した際の対応の手順について、問題のケースと重要度のレベルに応じた手順を用意しておくことが必要。

[改善内容] 外部専門家の意見等を参考にマニュアル形式で設定する。

[実施時期] 2019年度中

2.対応策の進捗の検証

機構が設定した実施時期に対して計画どおり実施されているか、進捗状況を検証した結果、次年度以降も継続検討となる以下の3項目を除くすべての項目において、当初の計画に沿った進捗が認められた。

(1) 多様な実習生の混乗

[検討の方向性] 多様な実習生が混乗している現状を改め、できるだけ同じ属性・経歴の実習生が乗船し、同じ知識レベルの学生が、安心して十分な指導を受けられる環境で実習に取り組めるようにすること。

(2) 教官の勤務環境

[検討の方向性] 教官の勤務環境を改善するため、以下の対応について検討を行う。

・教官・乗組員の不足の解消

・実習生の混乗の見直し

・乗船実習を希望しない学生の乗船取りやめ

(3) 学生の卒業要件

[検討の方向性] 海大の卒業要件に乗船実習を入れるべきか否かの検討を行う。

3.対応策の有効性の検証

 継続検討とした3件を除き、着実に実施されれば効果が期待される。しかしながら、今後、定着度を確認するとともに、対応策の効果が発揮されているかどうかを不断に検証する必要がある。

4.今後の対応

 機構は今後、策定した対応策について着実に実施しその定着を図るとともに、実績の確認や有効性の検証、およびそれらを踏まえた必要な変更・修正などを不断に行っていくべきである。同時に、4件の指摘事項についても、有効性の検証および改善に取り組み、その結果については機構理事会に報告すること。

 機構は、『委員会の検証結果を踏まえ、対応策を着実に実施し、その定着を図るとともに、実績および効果の確認や有効性の検証を行い、必要な改善を継続的に図ってまいります。』としている。


トピックス】     (6月)

日本船主協会のオピニョンから

 国際船舶制度、日本籍船の外国人船員全乗、トン数標準税制が実現した今になって、この発言??
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外航日本人船員に関する議論の有り方日本船主協会理事長 ⼩野芳清 日本商船隊はかつては日本人船員により運航されていた。今から半世紀前には約6万⼈の外航日本人船員が日本商船隊を動かしていたが、今世紀に入ってからは約2千人規模で推移している。大幅減少の主因は、海運関係者であれば誰でも知っているとおり、30数年前の急激な円高に伴う日本人船員の国際的コスト競争力低下による大規模な雇用調整とその後の新規採用の手控えである。本邦企業である外航海運会社が日本人の雇用に寄与しないのはけしからんとの議論もあろうかと思うが、国内での競争ではなく国際市場における激烈な競争を強く意識せざるを得ない民間営利企業である外航海運会社にとっては、会社存続のためにやむを得ない行動であったと考える。
  これまでの外航日本人船員に関する世間一般の議論は、この大幅減少という側面にのみ着目し、例えば外航海運企業はもっと日本人船員を雇用すべきだ」「日本人船員の減少は日本の安全保障にとって由々しき事態である」といったものがほとんどであった。しかし、冷静に、かつ、純粋に経済合理性の観点から考えてみると、国際的コスト競争力を失った日本人船員を未だに約2千人も外航海運会社が抱えていること自体が不思議に見えてくる。限りなくゼロに近づいてもおかしくないのに!
 なぜこのような不思議な現象が見られるのであろうか?これまで見聞きしたことをもとに約2千人規模で維持されている理由を私なりにまとめたものを以下列挙してみたい。
(1)事業の性格上、船舶運航現場の経験に基づく判断が必要な陸上業務が存在するため、その要員として会社に対するロイヤルティーが高い日本人船員が一定数必要である。
(2)事業の性格上、様々な国籍の船員を雇うが、この異文化集団をマネージするための要員としてロイヤルティーが高いと思われる日本人船員に白羽の矢が立っている。
(3)評判の高い日本人船員の配乗を荷主が強く要求してくる場合がある。
(4)上記各種要請に応える人材の継続的な確保のため、技能伝承対象者と
して若手日本人船員が必要である。
もちろん会社毎に微妙に事情は違うと思われるが、以上が邦船社の事情の最大公約数であろうと私は考えている。もし私に認識の誤り等があれば是非ご指摘いただきたい。
 これらの事実から分かることは、わが国外航海運会社の過去から現在に至る日本人船員に係る雇用行動は、純粋な経済合理性の観点に大きく支配されつつも、企業存続という大目標達成のために経済合理性をある程度犠牲にしたギリギリのラインを意識したものだった、ということである。今後もこの行動原理が劇的に変化するとは考えにくい。
 外航日本人船員に関する議論を行う際、船員数のみに気を取られるあまり、この企業行動の本質をしっかり認識しないまま政策論議をし制度設計を行えば、議論自体がかみ合わないばかりか、出来上がった制度がうまく機能せず、最悪の場合にはわが国の「インフラのインフラ」である外航海運産業の日本国内での存続そのものを危うくする恐れもあると私は考えている。今後の外航日本人船員に関する各種政策論議が、安全保障の観点も含め、地に足のついたものであり、かつわが国の将来にとって実りあるものになることを切に願って止まない。    以上