— 裁判の経過と組合員の思い 26 —

内航組合員 竹中 正陽(まさはる)

27号以降の裁判・労働委員会の状況について報告する。

東京都労委が証人尋問 

 海員組合の従業員で作る海員労組(北山等組合長・海員組合元中執)が、海員組合による定年後の賃金切下げや更新拒絶等の差別行為の是正を求めた件で、5月17日証人尋問が行われた。

 尋問を聞くうちに、我々組合員には知る由もない幹部による恣意的人事の数々が明らかになり、思わず声を挙げそうになった。定年後も続く恐怖政治。同じ執行部員でも役員に気に入られた者は定年後も長きにわたり優遇され、そうでない者はかくも辛酸をなめる。その徹底ぶりにア然とした。

 大倉実元執行部員(元関西地方支部副支部長)は、平成23年(2011年)10月に定年退職した後、福岡市が運営する博多海員会館館長として再雇用された。しかし、翌年4月、突如再雇用職員規定が変更され、期末手当(年間臨手)が廃止された。

 追い打ちをかけるように、平成25年4月に「継続雇用職員規定」が新設され、賃金は各人毎の個別契約となり、支給額も時間給方式に変更された。

(注)H25年の新規定

 「給料は、定年退職時の身分により、執行部員は組合従業員規定の執行部員20歳標令タリフを基礎とし、算出した時給額とし、勤務形態(フルタイム、パートタイム)、本人の能力・技能・経験、及び健康状態などを総合的に勘案し、個別の継続職員労働契約に定める」

 それまでの賃金規定は、全員一律に定年前の年収の8割(最初の2年間)・7割(次の2年間)・6割(4年目以降)と年収ベースで決まっていた。

 しかし、新規定は時給方式、それも、標令20歳の執行部員の基本給に基づく時給とされた。改悪以外の何ものでもない。

 (その後私が調べたところ、元執行部員が継続雇用職員になった場合は時間外手当もなく、「継続雇用の条件については、組合の定めるところに異存はありません」と誓約しなければ採用されないことになっている。

 平成25年4月といえば、当時の藤澤組合長が中央執行委員会内で孤立し、田中副組合長らにより統制処分に掛けられた時である。田中副組合長らがこの賃金改定案を提出した時、藤澤氏は驚いたが、多勢に無勢で成すすべがなかったと私に語っていた。全評でも現場代議員が、『みなさん、これで良いんですか』と問いかけたが、執行部所属の代議員は無言だったとのこと。

 その年の長崎大会で藤澤氏は統制処分にされ、放逐された。)

◯大倉元執行部員の証言

『本来なら組合に雇ってほしかった』

 単身赴任と相まって生活が『かなりしんどくなり、続けるのが困難』となった大倉氏は、海員組合にたびたび抗議したが一向に改まらなかったという。

 他にも処遇に関して多くの不満があり、従業員労組には顧問弁護士もいることから、平成28年8月(65歳となる平成28年10月末の2カ月前)に従業員労組に加入。そして、数カ月前から後任者を探していると告げられていた大倉氏は、65歳をもって契約終了と思い、翌9月鈴木順三総務部長と会った折、組合に加入したことを通告した。

 すると10月下旬頃になって、突然海員組合は『後任者を用意できない』と福岡市に通知。困った福岡市は大倉氏に対して、『後任者が来なければあなたにも責任がある。』と迫った。

 出向契約書(証拠)によれば、海員組合と福岡市は翌平成29年3月まで大倉氏を出向させる契約を結んでいた。福岡市にすれば、「同じ海員組合の人間だからちゃんと責任を取れ」という当然の主張である。

 やむなく大倉氏は、福岡市の求めに応じて個人で契約を結び、翌年3月まで職務を全うすることにした。10月末のぎりぎりの時期のやりとりだった。

 大倉氏の証言から、海員組合は後任者を出さず、さりとて雇用延長を求めることもせず、有無を言わさず退職にすることで福岡市との契約も途中破棄したことが明らかとなった。大倉氏は『本来なら組合に雇ってほしかった』と証言を結んだ。

組合員から見れば、昨今の執行部不足から、後任を出すことが難しいのは明らかだ。にもかかわらず、なぜ大倉氏に雇用延長を求めず、退職に導いたのか。福岡市との契約を破ってまでそうすることに、卑劣な意図を感じざるを得なかった。

◯北山等元中執の証言

 北山氏は平成24年8月に60歳で海員組合を定年退職、呉海員会館の館長として再雇用された。5年後の平成29年5月、雇用契約を更新せず8月末の雇用終了を文書で通知されたという。

 海員組合には65歳を超える元執行部員が沢山雇用されていることから、氏は『自分も働かせてほしい』と要求したが、鈴木部長の回答は『あり得ない』というものだった。

 その後海員組合は、雇用終了の直前になって、氏の頭越しに遊佐中四国地方支部副支部長を後任に充てようと呉市に画策した。しかし呉市は、北山氏の財団法人呉海員会館常務理事の任期が翌年6月まで残っていることからこれに応じず、氏に常務理事兼館長として任期を全うするよう依頼した。

 その後も呉市は、会館の財政を立て直した功労者として北山氏に常務理事兼館長を2年間継続するよう依頼。理事会に諮った結果、海員組合の中四国地方支部長ただ一人が反対し、理事長である呉副市長ほか、IHIなど地元の有力企業の理事全員が継続就任に賛成したという。

 北山氏は『私を追い出すために無理やり現役を引っ張ってきて。遊佐さんも可哀想だと思った』と証言。また、就任以来、集客努力を積み重ねた結果、収入は倍増しオープン当時の水準に回復、「閉館の危機」から救われたことが提出された証拠(損益表)をもとに証言された。

 本部の部長や地方の支部長に欠員が多い中で、現役バリバリの若手執行部員を海員会館に押し込むやり方自体異常だが、常務理事の任期が切れる翌年6月まで北山氏を雇用延長し、後任者に十分な引継ぎ期間を設ければ何の問題もなかったはずだ。

 気に喰わない者を追い出すためには、現地の事情や自ら結んだ契約書さえ無視する。なりふり構わない強引さでことを進めるやり方は博多と同様だ。ここでも海員組合の評判を落としたことは想像に難くない。                                          

 組合の顧問弁護士らが、寄ってたかって、『ある程度の年齢になれば、自分がポストにいることで後進の席を失くすと誰しも考えるが、あなたは考えているのか』、『今賞与はどの位貰っているのか』などと、争点から外れたイジワル質問する品性の低さも驚きだった。

◯鈴木順三総務局長の証言

『再雇用制度が始まった平成18年以降、再雇用者は25名、うち10名が船員宿泊施設に勤務した。25名の内65歳以降も継続勤務したのは9名。内2名が船員宿泊施設勤務者で、理由は後任者が見つからなかったから。現在、65歳を超えて勤務する職員は計5名』等と証言。

 鈴木氏によれば65歳を超えて雇用を続ける条件は、『後任者がいるかどうか、特殊な業務かどうかなど』とのこと。大倉氏への対応と明らかに矛盾する。

 その一方で、『大倉さんのお陰で博多海員会館の運営は順調なので、引き続き出向させて貰えないかと福岡市から要請を受けていた』とも述べ、証言のチグハグさが目立った。

 さらに、北山氏の後任に若手執行部員を選んだのは『地域で顔がきくこと、会館運営の数字的部分を勉強して貰う』ためで、執行部員が減っても、『船員自体が減少し、交通手段が良くなり携帯電話で連絡が取れる』ので問題ないと平然と証言した。

 さらに驚いたのは、現在海員組合には「臨時雇用職員」という制度?があり、同じ定年退職者でも、本部勤務の数名は臨時雇用職員契約で、65歳以降も引き続きボーナス(期末手当)が支給されるという。他方、大倉氏のような「継続雇用職員」にはボーナスが支給されない。

 「臨時雇用職員」という制度自体初耳だが、鈴木氏によれば、これは不利益扱いに相当せず、あくまで『ルール』とのこと。

 また、継続雇用職員規定は全国評議会に掛けて決定されたが、臨時雇用職員の規定はなく、まさに、役員の「お手盛り」であることも証言から暴露された。

 継続雇用職員規定が差別の温床となり、その後数々の問題を引き起こすことになったのは良く知られているが、裏に「臨時雇用職員制度」まであるとは。ここまで根が深いとは私は思いもよらなかった。今の海員組合には、もはや「何でもあり」なのだろうか。

 最後に審査委員長から、『大倉さんの後任者がどうなったのか福岡市に聞かなかったのですか』と質問されたのに対し、鈴木氏は『関心がなかった』『意識してなかった』と回答。審査委員長が『随分無責任ですね』と述べたのが印象的だった。

 審査委員長は北山氏の件についても、『呉市が最終的に北山さんと契約してしまったことに対して、おかしいと言わなかったのか。北山さんの任期が満了する翌年に誰かを派遣することを考えなかったのか』と質問。

 鈴木氏は『常務理事の任期が残っていたので~』『市の評議員もいて、市が仕切っているので~』と口ごもり、答えにならない答えをしていた。

 審査は7月に双方が最終書面を提出して結審、命令が出されることになった。命令日は未定。

◯大倉元執行部員の裁判

最高裁が海員組合の上告棄却

 7月19日最高裁は海員組合の上告受理申立を棄却し、大倉元執行部員の勝利が確定した。

大倉氏が、再雇用職員規定改悪の違法、期末手当等の支払を求めた裁判は、作年5月に東京地裁・今年1月に東京高裁で、いずれも大倉氏が勝利し、海員組合が最高裁に上告していた。

 既に海員組合は、高裁判決に従い支払いを済ませているが、問題はそこに止まらない。高裁判決は、改訂された再雇用職員規定が、労働契約法7条・12条違反であると認定した結果、大倉氏への支払を命じたからである。(本誌25・27号)。

 新規定が違法であることが確定した以上、旧規定に基づき、該当する全職員に対して謝罪し、過去に遡って賃金差額を支払わなければならないはずだ。また、組織内においては、旧規定を復活する手続きを取らなければならない。それが労働組合として取るべき態度のはずだ。

2件の中労委命令出る

 海員労組が不当労働行為の救済を求めた2件の団交拒否事件について、4月12日、中労委が命令を出した(海員組合が最近出した大会用の活動報告書7頁では、北山氏個人の申立となっているが、虚偽である。いずれも海員労組が申立てたもの)。

 ひとつは、「平成25年に新設された継続雇用職員規定の遡及的撤廃と旧再雇用職員規定が有効であることの確認」と「組合従業員規定の労働基準監督署への届出」を求めた交渉での不誠実な態度を改めるよう求めるもの。石川県地労委でも不当労働行為と認定されたが、海員労組は更に突っ込んだ内容の命令を求めていた。(本誌21~23・26号「4件目の不当労働行為」)

 結果は、海員労組の勝利に終わり、海員組合は「今後、このようなことを繰り返さないようにします。」という謝罪文を交付するよう命じられ、実行した。 この点についても、活動報告書は、『一部説明不足であると命じたものの、団体交渉を命ずる必要はないとの命令が交付された』と記載しているが、石川県地労委に続き、中労委も不誠実団交による不当労働行為と認定し、謝罪文の提出を命令したのが事実である。

 もう一つは、執行部員や先任事務職員の手当について、「時間外手当は執行部員手当や役職手当に含まれる」とする解釈の撤回を求めた交渉における海員組合の対応に関するもの。

 中労委は、執行部員や先任事務職員の労働条件は「義務的団交事項に当たらない」と判断し、申立を棄却した。理由は、「現在の海員労組が再雇用職員で構成されており、執行部員や先任事務職員が加入していない」というもの。

 双方とも2件の命令を受け入れ、命令は確定した。

 中労委では他に、臨時雇用職員の採用条件および労働条件に関する交渉での海員組合の不誠実な対応について、審査が続けられている。石川県地労委により不当労働行為と認定されたことを不服とした海員組合が再審査を申し立てたもの。(本誌27号)

◯中労委第4回調査

20年1月15日(水)13時半

港区芝の労働委員会会館

(続く)