社会保険審査会で公開審理開かれる

公開審理の概要

 5月16日厚生労働省内に設置されている社会保険審査会でビキニ労災の公開審理が行われた。

 1954年3月から5月にかけて、南太平洋ビキニ環礁で米国が計6回の水爆実験を行い、第五福龍丸を始め1000隻にのぼる日本の漁船・外航船が被爆した。

 その後、ガンや肝臓病などに罹患した高知県・宮城県の漁船・外航の元船員や遺族計11人が船員保険の職務上傷病による療養費や遺族補償を求めたもの。    

 2016年2月の申請に対し、全国健保協会船員保険部は「被爆の事実は認めるが、健康に影響を及ぼすほどの放射線被爆量は確認できなかった」として17年12月棄却、不服審査請求した関東信越厚生局の審査官も18年7月同様に棄却したため、上部機関である社会保険審査会に訴えていた。

 11件の審査が2つの委員会に分かれて行われ、両委員会とも判定を下す3名の審査委員(元東京高裁裁判官や医師)、事業主や労働者を代表する参与委員計8人、船員側の代理人7人、健保協会側5人に加え、各報道機関の記者など約20名が傍聴する中で行われた。

船員側の意見陳述

 船員側代理人の聞間元(ききまはじめ)医師、太平洋核被災支援センターの山下正寿さんらは次のような意見陳述を行った。

『元船員や遺族の聞き取りを行わず、厚生労働省が指名した有識者会議の報告書のみに基づいて、不支給の決定を下したのは不当だ。本人から聴取しなかったことは請求権を侵害する行為。元船員らの思いに耳を傾けて判断すべきだ』   

 『有識者会議の報告書の放射線量評価方法自体が非科学的だ。米軍基地のある島々に限られるなど、当時の米国による極めて粗いメッシュのモニタリング結果のみに基づいており、当時日本政府が現場に派遣した科学調査船・俊鶻丸のデータすら無視している』

『当時、放射線を実測したのは第五福竜丸が唯一であった。報告書の算定手法で第五福竜丸の放射線を試算すると、わずか0・08ミリシーベルトにすぎない。実測値の5万分の1になってしまい矛盾する。算定手法が誤っている』

『元船員の歯・染色体を実測した結果、広島の爆心地から1・6キロの被ばく線量に相当する319ミリシーベルトを検出した。被爆と健康被害に因果関係があり、労災として認められるべきだ』

意見陳述を行う船員側代理人。右から聞間元・山下正寿氏ら。毎日新聞より

船員保険当局の弁解

請求人から聞き取り調査を行わなかったことについて、健保協会は『提出された資料から判断できるので聞き取りは必要ないと判断した』と回答した。また、『時効により請求権が消滅している者がいる』と時効論まで持ち出した。

 更に、第五福竜丸の実測データとの比較を行わなかったことについては、『第五福竜丸は本件審査に含まれてないので検討していない』と弁解した。

(編集部注:労災保険法に基づく不服審査では、本人が希望した場合、聴取を行うことが法律で義務付けられているが、この件では、船員保険部や厚生局の審査官は本人からの聴取を拒否していた)。

参与委員の意見

立川博行参与委員(海員組合中執)など多数の参与委員から、労災を容認する意見が出された。

『本人の意見聴取をしていないことは大きな問題だ』

『有識者報告にある線量は、実測に基づくものではないので、正確ではない』、『線量評価を有識者会議の報告書のみに依拠して棄却したのは疑問。元船員側の提出データも検証すべきだ』

『第五福竜丸以外は健康追跡調査を実施せず、核実験が行われている海域と知りながら漁を継続させた。水産庁は予防義務があったのにしていない。被爆の事実があり、一定の病気に罹患した以上労災を認めるべきだ』

『人道的立場で救済を』等々。

一方、少数の参与から、『アメリカに損害賠償請求すべき』、『責任は水産庁や、事業主にある。損害賠償ということであれば分かるが、労災での救済には疑問』、『船の位置から考えると相当量の被ばくをしたとことは推測できるが、職務遂行性が妥当かと問われるとイエスともノーとも言い難い』、『よく分からない』等の意見が出された。

 通常公開審理が行われた3~4カ月後に決定がなされるということから、秋ごろに結論が出されると予想されている

太平洋核被災支援センターのホームページ等を参照。編集部)