― 裁判の経過と組合員の思い 24 ―

内航組合員 竹中 正陽(まさはる)

東京高裁が地裁判決を大幅変更、田中副組合長も断罪

見せしめ、財政攻撃も認定

海員組合の従業員を対象としている海員労組(北山等組合長)に対する海員組合役員による差別・迫害行為をめぐる裁判で、また新たな判決が出された(以下の二重カッコ内は判決から引用)。
7月17日、東京高裁は地裁判決を変更し、同じ不当労働行為であっても、団体交渉拒否と組合長に対する雇用更新拒否とでは、性質が全く異なると判断。団交拒否の『損害以外の無形の損害を受けたものと認められる』と認定した。
森田組合長だけでなく、田中副組合長、海員組合にも賠償金(計11万円)を支払うよう命じた。
無形の損害については、『本件更新拒否の結果、北山は実家のある石川県に居住せざるを得なくなり、団体交渉の場所について被告海員との間で折り合いがつかなくなって、団体交渉に支障が生じただけではなく、新規加入希望者に対する見せしめ、勧誘活動への阻害の効果や、組合財政を私費で負担していた北山の収入が途絶えたことによる組合財政への悪影響があったことが認められる。』とし、他の従業員に対する見せしや、財政攻撃の意図も認定した。
その根拠として以下のように書かれている。
『別件訴訟において主張された団交拒否、不誠実交渉(労働組合法7条2号)、支配介入発言(同条3号)と本件訴訟における本件更新拒否(同条1号、3号、4号を主張している。)は、労働組合法7条において類型が同一の不当労働行為とはいえず、成立要件も同一とはいえない。しかも、その損害については、いずれも法律上保護されるべき利益としての第1審原告の団体交渉権を侵害するものとして共通する点が認められる』
実に論理的で、アッパレ(賠償金の低さを除けば)と言うしかない判決である。

◯この裁判の背景
執行部員に対する遠隔地への配転、解雇、再雇用拒否、賃金減額等が続出する中で、海員労組が平成25年4月に結成され、すぐさま労働協約締結を求める団体交渉が申し入れられた。しかし海員組合は長期間にわたり団体交渉拒否を続け、未だに暫定労働協約すら結ばれていない。
長期間にわたる団交拒否に対しては、既に東京都労委・中労委等により数多くの不当労働行為救済命令が出され、海員組合は断罪されてきた。労働委員会とは別に、裁判所も、団交を陣頭指揮した田中副組合長及び海員組合に対して、賠償金を支払うよう命じ、判決は既に確定している(本誌21号)。
他方、団交拒否のほかに、組合長の雇用継続を拒否されたことによる賠償を求めて、海員労組が訴えたのがこの裁判である。
これに対し、東京地裁は、海員組合と田中副組合長は、既に別件訴訟(団交拒否による損害賠償請求裁判)で賠償金を支払い済みとして、森田組合長のみに支払いを命じる判決を2月9日に出した。海員組合と田中副組合長はこれを受け入れたが、森田組合長は判決を不服として控訴していた。

◯海員組合の権力闘争の内情も描写
高裁判決は、地裁判決の構造、考え方をガラリと変え、「団体交渉拒否による損害賠償裁判と、組合長の雇用更新拒否による損害賠償裁判は同一で、海員組合と田中副組合長は、既に損害賠償金を支払い済み」という海員組合の主張(地裁判決と同様の考え)を一蹴しただけではない。
北山元中執に対する雇用更新拒否や一億円請求裁判、藤澤元組合長追い落としの統制処分が同時進行した状況について、裁判所はかなり正確に把握していることが分かるので、長くなるが原文を記す。
『第1審被告森田及び同田中の不法行為による責任について
第1審被告らは、第1審被告森田及び田中は、本件更新拒否の決定に中心的な役割を果たしたことを認めるに足りる具体的な証拠はない旨主張している。確かに、第1審被告海員の第23回中央執行委員会議事要録には、第1審被告森田及び同田中の発言等の記載はなく(乙8)、しかも、本件更新拒絶(平成25年7月18日)当時の第1審被告海員の組合長は藤澤であって、第1審被告森田及び同田中は副組合長であった。
しかし、平成22年10月から被告海員の中央執行委員に就任した平岡英彦は、別件の訴訟において、平成25年に北山に対する訴えを提起する際、藤澤が反対の意向であった旨の証言をしており(甲18)、また、当時の総務局長松浦満晴作成の陳述書(甲21)によれば、第1審被告海員の中央執行委員会内部で、藤澤組合長と副組合長の第1審被告森田及び同田中らとの間に対立のあったことが認められ、現に、本件更新拒絶直後の
同年9月20日に組合長藤澤は「3か月間の全権利の停止」の統制違反処分を受け、第1審被告海員は組合長不在となったことが認められる(甲22)。

そうすると、当時の第1審被告海員の中央執行委員会内部の状況、第1審被告森田及び同田中の地位、経験からして、組合長藤澤は実質的に中央執行委員会の意向を決する力を失っており、中央執行委員会における実質的な支配は第1審被告森田及び同田中らに存したものと認められ、少なくとも、北山につき、合理的な根拠がないまま、本件更新拒絶をすることを中央執行委員として防止することができたのに、 これを怠った過失があるというべきである。
したがって、第1審被告海員がした本件更新拒絶について第1審被告森田及び同田中も第1審原告に対する不法行為責任を負うもの
というべきである。』
判決に驚いたのか、控訴しなかった田中副組合長と海員組合も森田組合長と共に最高裁に上告した。

欺瞞に満ちた活動報告書
左記は、先頃発表された海員組合の大会用の活動報告書である。


Ⅸ 竹中正陽氏地位確認等請求事件について
本件は、同氏が60歳で定年退職(平成22年4月20日)した後も組合員資格を有し続けると主張し、平成25年11月の組合長選挙に立候補できなかったことは違法であり同選挙は無効であると、訴えたものである。
裁判所においては、組合の主張が認められ、組合長選挙無効の訴えは却下されたが、一部組合員の地位を侵害したものと判断され、平成29年11月17日に確定した。なお、組合員の地位侵害については、規約規則に則り対応する


突然組合員資格をはく奪され、組合長選挙への立候補届も反故にされるなど一連の不法行為を訴えた裁判は、昨年11月に最高裁で私の勝利が確定し、違法行為を働いた松浦副組合長と海員組合が、190万円余りの慰謝料を支払って終了した(本誌24号)。
これまで海員組合は、全評や船員しんぶん等で組合が正しいと主張してきたが、裁判の終了にあたり、仮処分裁判以降、敗訴を続けてきたことを反省し、過ちを正す姿勢に転ずると思っていた。
しかし、ここには反省のかけらもない。60歳以降も組合のあっせんで乗船し、全国委員も続けてきた私の組合員資格をはく奪したのは、平成25年の長崎大会の直前だ。少なくとも、組合長選挙や全国委員選挙の立候補届を無視したことなど裁判所が違法とした10件の規約違反行為を反省し、今後に向けた是正措置・再発防止措置、関係役員の処分を明らかにするのが労働組合のとるべき姿勢だろう。
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大倉元執行部員が勝訴した裁判は、海員組合が控訴したため、引き続き東京高裁で審理中。海員労組が組合員への雇用差別救済を求めた審査も、引き続き都労委で調査中。紙数の都合で詳細は次号に。
他に、海員労組申立ての2件が中労委で、1件が石川県労委で、いずれも結審し命令待ちにある。

(次号へ続く)