― 裁判の経過と組合員の思い 21 ―

内航組合員 竹中 正陽(まさはる)

前号以降の経過を報告する。
◯竹中の組合員資格確認・組合長選挙無効裁判
「組合内権力闘争の終結に全力を尽くす。」

これは、2013年の組合長選挙立候補届に竹中が書いた立候補の主旨である。しかし、立候補届は無視され、廃棄された。
「不正があれば正すため」
これは、竹中が接待交際費と裁判費用の会計帳簿閲覧を求めた時の、閲覧理由である。これも組合によって拒否された。
これら組合が行った一連の行為に対し、本年2月東京高裁は、地裁と同様「組合規約違反の不法行為」と認定した。
会計帳簿の件は、当初鈴木総務部長は閲覧をOKしたが、閲覧日を決める段になって延期に延期を重ねた。その後組合は、「閲覧目的を明らかにせよ」と条件を付けてきた。竹中は組合の求めに応じ、「不正があれば正すため」と伝えたところ、副組合長の意向で拒否決定されたのが経過である(担当は田中、松浦両副組合長)。
裁判所は、竹中の主張を認め組合を断罪したが、高裁判決後の5月になって、中央執行委員会は突如、会計処理規則の大幅改訂(改悪)を全国評議会に提案し、変更してしまった。内容は次の通り。

会計処理規則を改悪し、閲覧を拒否する理由を新設
◯従来の規則

「組合員から(中略)会計帳簿類の閲覧の要求があった場合は、その事務所の中で執務時間内に限り、会計事務の渋滞を生じない範囲で認める」という規定のみ。
◯新規則
「請求の理由を明らかにして請求しなければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当する場合またはその他正当な理由がある場合は、これを拒むことができる」として次の8項目を新設した。
1.請求者が、その権利の確保または行使に関する調査以外の目的で請求を行ったとき、または当該請求の目的が、閲覧を求める会計帳簿類と関連しないものであるとき
2.請求者が、組合活動の遂行を妨げる、または組合員の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき
3.請求者が、組合が自ら行っている事業または実質的にその運営方針を決定している事業と実質的に競合し、またはその利益に反しもしくはこれを損なう事業を営み、またはこれに従事する者であるとき
4.請求者が、会計帳簿類の閲覧によって知り得た事実を組合組織の外部の者(以下、第三者という)に通報するため請求を行ったとき
5.請求者が、過去3年以内に、会計帳簿類の閲覧によって知り得た事実を第三者に通報したことがあるとき、またはこれを不正に利用したことがあるとき
6.請求者が、過去2年以内に、同一の会計帳簿類を閲覧したことがあるとき
7.当該請求を認めることにより、会計事務に著しい渋滞が生じるおそれがあるとき
8.当該請求を認めることにより、組合または第三者の正当な利益が害されるおそれがあるとき

そして、これらを守る誓約書を提出するよう義務付けた。
これは、組合員が閲覧を求めても、何かと理由を付けて閲覧できないようにする目的以外の何ものではない。今後、帳簿の閲覧を求める組合員はいなくなってしまうだろう。労働組合運営の透明化・組合費の使途の明確化という流れに真っ向から反するものだ。
これまでも組合大会等の場で、接待費や裁判費用、顧問料の額を代議員から質問されても、本部は一切明らかにしなかった。
この改悪は、現場組合員が洋上にあるため、幹部請負・組合員との乖離に傾きがちな船員労働組合の負の特性をさらに強め、隠ぺい体質に拍車をかけることになる。
「不正があれば正す」のは、あたり前で、身に覚えが無ければ堂々と閲覧させて然るべきだが、高裁判決後も閲覧拒否を続けている。
 裁判は双方が最高裁に上訴し、現在最高裁の判断待ちである。

◯海員労組による損害賠償請求裁判
北山元中執の証人尋問終了

北山元中執に対する再雇用拒否で損害を受けた海員労組が、海員組合に損害賠償を求めたもの。
組合側が森田組合長と田中副組合長の証人出廷に応じなかったため、北山元中執(海員労組の組合長)のみの証人尋問が行われた。
9月15日証言台に立った同氏は、契約更新を拒否された時の経緯、海員労組結成以来行われて来た理不尽な扱いの数々、組合を結成したメンバー3人が全員雇止めにされるなどの差別や嫌がらせについて赤裸々に証言した。
パワハラ・セクハラに悩む女子職員など10人近い従業員から相談を受けたが、みな解雇や降格、左遷を恐れて組合加入に二の足を踏み、退職を選んで行ったという。その人達が加入すれば逆に結成メンバーと同じように解雇されかねないので、同氏は勧誘を躊躇せざるを得なかったとのこと。
また海員組合側は、自ら同氏の契約更新を拒否しておきながら、「北山氏の就業場所がなくなったから団交に応じる必要はない」と主張していたとのこと。
尋問の中で、海員組合は北山氏が今年8月に65歳になったのを期に契約更新を拒否し、雇止めにしたにもかかわらず、呉市が同氏を採用し、引き続き館長として勤務していることが明らかとなった。
また、5年前に就任した当時、つぶれる寸前であった会館を同氏が立て直したこと、海員労組のメンバーは全員65歳で雇止めにされたが、65歳以後も臨時雇用職員という形で雇用され続けた職員が20名に上ることも証言された。
それに対し海員組合側は、「組合員は何人か?それは従業員か?」、「組合従業員もあなたのブログを見ているのか?」、「今後も裁判提訴するつもりなのか?」等々、およそ争点とかけ離れた、探りを入れる質問に終始し、傍聴者のひんしゅくを買っていたとのこと。
裁判は次回最終弁論で結審、来春にも判決が出される見込みだ。
12月1日(金)午前10時
東京地裁519号法廷

◯海員労組に対する4件目の不当労働行為
中労委が和解提案へ

6月に続き、8月4日、10月12日に東京芝の中労委会館で調査が行われた。海員組合側はその都度、松浦副組合長、鈴木中執兼総務部長に加えて本部の執行部員数名、そして3人の顧問弁護士を筆頭に大勢の弁護士が列席している。
10月12日に委員会側は双方別々に意向を聞いた後、次回に和解提案を行うと告げた。
この件は海員労組が、再雇用職員規定改悪の撤回、従業員規定の労基署への届出等を求めた団体交渉に関して、石川県労働委員会が海員組合の態度を団交拒否の不当労働行為と認定したもの。
労働組合による不当労働行為の連続という前代未聞の事態に対して、中労委がどのような和解案を出すのか注目される。
次回第4回調査は12月8日(金)14時より、同じ中労委会館。
この他に中労委の場では、協和海運の不当労働行為事件の再審査が行われている(昨年12月の神奈川県地労委の救済命令に対し、会社側が再審査申立てしたもの)。
なお、海員組合の大内教正顧問は中労委の労働者委員を既に退任し、労働保険審査会の労働側参与になっているが、現在も「中労委あっせん員」に名を連ねている。

◯大倉元執行部員の裁判
大倉元執行部員と鈴木総務部長の証人尋問へ

関西地方支部副支部長の後、ホテルポートヒルズ福岡(博多海員会館)の館長を勤めた大倉元執行部員が提訴した裁判は、書面合戦が続いていたが、10月13日の裁判で双方の主張が出揃い、証人尋問が行われることになった。
提訴内容は、2012年の再雇用職員規定の一方的改訂は改悪=不利益変更であり無効、月給の減額分・期末手当未払い分・慰謝料を支払え、というもの。
裁判の焦点は、賃金の大幅削減にもかかわらず、事前に従業員に周知せず、意見を聞くこともなく決定された規定は有効か?という点。海員組合側は、賃下げの理由を、「就業体系の違い」「東日本大震災における財政的問題」と弁明しているが、現役従業員、特に組合長を始めとする役職者の給料を年々アップしている現状とどう整合させるのか注目される。
大倉氏は65歳で契約更新を打ち切られて組合を退職したが、優秀に館長を続けてきたため、福岡市はその後も館長に任用し続けた。そして裁判提訴後の本年3月末に博多海員会館を退職した(本誌前号のインタビュー記事)。
海員組合は大倉氏の契約を打ち切りながら、後任者を出さなかったため、出向先を失った上に、長年続いて来た博多海員会館館長というステイタスも失った。後任の館長は一般公募され、福岡市との繋がりも薄れることになった。
◇11月20日、証人尋問
鈴木順三中央執行委員兼総務部長、大倉実元執行部員
午後1時30分より約2時間
東京地裁631号法廷

活動報告書のごまかし
 今年の活動報告書7頁に、北山元中執や阿部元小名浜支部長ら3件の裁判の報告があるが、いずれも組合が敗訴したことを正確に伝えず、判決や命令の内容を手前勝手に歪めている。組合員に真実を伝えるため、以下正しく報告する。
①「Ⅸ 北山氏の再雇用職員地位確認請求事件について」
◯報告書の記載
判決や命令で、「(北山氏に対して)注意や警告を行い本人に弁明の機会を与えた上で判断するべきであるとの見解が示された」
◯真実
判決は報告書のような生ぬるいものではない。東京高裁は、「(海員組合の)人事及び労務政策については、裁判所から累次にわたり違法との指摘を受けてきたが、1審被告は、 このような判決を受けてもその基本的姿勢を容易に改めようとしなかった」と過去の人事まで含めて不法行為を断罪し、過去3年分の給与に加え、夏冬の期末手当まで支払うよう命じた。
組合は最高裁へ上告受理申立をしたものの、完敗を認めざるを得ず、謝罪文を提出して取り下げた。

②「北山等氏が組合長の従業員組合からの損害賠償事件について」
◯報告書の記載

「判決では(中略)団体交渉開催の遅延についてのみ指摘され、確定した」
◯真実
判決は、海員組合が行った団体交渉拒否の不当労働行為に関して、「(労働委員会の)行政救済では十分に回復されない損害を不法行為に基づく損害賠償で私法的に救済する必要」があると認定した。
そして、労働委員会とは別に裁判所も命令を発し得るとして、組合だけでなく陣頭指揮した田中伸一副組合長の不法行為も反論の余地なく断罪した。海員組合側は一旦控訴したものの、自ら取下げ、組合と田中副組合長が連帯して賠償金を払って終了した。報告書は肝心なことを覆い隠している。

③「阿部博氏の再雇用職員地位確認等請求事件について」
◯報告書の記載

「(阿部氏に対して)契約更新しなかったことは相当性を欠くとして、高等裁判所から和解案提示もあり~和解が成立した」
◯真実
東京地裁は組合の行為を、「他の見せしめにする不平等」で、「社会的相当性を欠く」不法行為と断定し、過去3年分の賃金を支払うよう命じた。組合は不服として控訴したが、高裁途中で地裁判決に基づく金額を支払い、控訴を取り下げることを表明したため和解に至ったもの(本誌19~21号参照)。
このように報告書は、裁判所や労働委員会から断罪された内容を組合員に歪めて伝え、真実を覆い隠している。


(以下次号)