― 裁判の経過と組合員の思い 20 ―

内航組合員 竹中 正陽(まさはる)

今年2月以降の経過について報告する。

◯竹中の組合員資格確認・組合長選挙無効裁判
東京高裁も組合が敗訴
 2月8日東京高裁は、地裁と同様、「竹中の組合員資格はく奪、2013年大会の組合長選挙立候補届不受理、会計帳簿の閲覧拒否などの一連の行為を組合規約違反の不法行為」と認定し、海員組合と松浦副組合長に対して165万円の損害賠償金の支払いを命ずる判決を出した。
 ただし組合長選挙無効については、すでに次の選挙が行われて新たな組合長が選任されている等の理由により、「確認の利益を欠く」と判断。不法行為のみを認定して無効確認は行わなかった。
 謝罪文についても同様に、「訴訟において不法行為責任を認め、慰謝料の支払を命ずることにより損害の回復は図られる」とした。
 また、森田組合長・田中副組合長の不法行為責任については、「義務違反を裏付ける具体的な行為を認めるに足りる証拠はない」として棄却した。
 しかし判決は、「1審被告組合は、従来の組合規約の解釈や運用に反していることを認識しながら、あえて1審原告について組合員資格がないとする取扱いをした」として、組合員資格のはく奪が故意であったことを認定し、地裁判決以上に組合側の不法行為を断罪した。
 地裁・高裁が共に認定した規約違反・組合員に対する権利侵害行為は、次の通り。

①平成24年全国委員選挙の規約違反に関する苦情申立の無視
(組合長が告示した選挙日程を理由なく早めた件、個人加入組合員に投票用紙を発行しない件)
②平成25~27年、過去5年分の接待交際費と裁判費用の帳簿・領収書の閲覧請求をした所、一切応じなかった件
③平成25年10月、組合費の受取り拒否
④同10月、組合付属船員職業紹介所への離職登録の拒否、職業紹介を受ける権利の侵害
⑤同11月、組合大会の傍聴拒否
⑥同11月、組合員資格のはく奪
⑦同11月、組合長選挙立候補届の不受理、立候補権の侵害
⑧同11月、組合長選挙立候補に関する苦情申立の無視
⑨同12月と翌26年7月、全国委
員への繰り上げ当選拒否
⑩平成26年、全国委員選挙立候補届の不受理

両者ともに最高裁へ上告
 私は、判決で認められなかった①組合長選挙の無効確認、②森田組合長と田中副組合長の不法行為責任、③謝罪文の掲示について、最高裁に対して上告・上告受理申立を行った。他方、組合と松浦副組合長は、高裁が認定したすべての項目を不服として上告受理申立を行った。(注)
 私の主張内容は要旨次の通り。
*組合長選挙無効確認について
 「組合員の役員選挙立候補権を規定する労組法5条2項3号は、個々の組合員の団結権を定めた憲法28条に基づく。被告組合が役員選挙のたびに不法行為を繰り返している状態は憲法違反でもある。
 被告組合の非民主的運営の現状からして、これを放置すれば今後も不法行為がはびこるので、無効確認の判定が最も適切である。」
*森田・田中正副組合長の責任
 「私の組合員資格はく奪は、2013年(平成25)長崎大会の前日の臨時中央執行委員会の場で、『中央執行委員会全員の認識として』決定したとされている。松浦副組合長もそう証言した。全員一致で決定したことが明らかな以上、証拠としては十分で、それ以上の各役員の発言内容の証明は不要、
過去の判例もそうなっている。」
 一方組合側は、地裁の審理中に私の組合員資格を「認諾(=訴訟上のギブアップ)」したためか、高裁以降は、組合員資格はく奪に関連する事項にはほとんど論及せず、もっぱら松浦副組合長と会計帳簿閲覧拒否の不法行為が認定されたことを重視し、会計帳簿問題について次のように主張している。
 「『会計監査や会計監査法人による決算監査も受けており、~不明朗が存することが相当の根拠をもって強く疑われるような事態がない』ので、『不正があれば正す』という閲覧目的には理由がない。応じる必要性もない。『そもそも、そのような権能が組合員各一個人の権能として認められていない』。閲覧に応ずるために多大な時間と労力もかかる。」
 なお、この5月に組合は会計処理規則を大幅改悪し、「正当な理由がある場合は、閲覧を拒むことができる」など8項目の制限を付け、外部に公表しない旨の誓約書の提出も義務付けた。従来は、「組合員から閲覧の要求があった場合は、執務時間内に限り、会計事務の渋滞を生じない範囲で認める」となっていたのとエライ違いだ。
 私が会計帳簿の閲覧申請したのは、「最近の組合は自分たちが飲み食いしたり、船主の労務担当を接待し、接待費が大幅に増加している。北山元中執の統制処分の際は、役員が統制委員会のメンバーを中華料理店で飲み食いさせた。目に余る。」、「顧問弁護士を増やし、外部の有名弁護士も雇うため裁判費用が年間数千万円に上るはず。」との情報が寄せられたからだ。
規則の改悪には、最高裁でも敗訴した場合に備え、何が何でも閲覧させたくない本音が伺える。
(注:上告と上告受理申立
 最高裁への訴えには2通りあり、憲法違反や裁判所の訴訟手続きに重大な法違反がある場合が「上告」、法令の解釈上重要な問題を含む場合や過去の判例に反する判決に対しては「上告受理申立」と、分けて行わなければならない。)

◯再雇用職員の差別待遇問題
大倉元執行部員が提訴
 海員組合の執行部員・事務職員は常任役員を除いて60歳で定年となり、以後は本人の希望に応じて、再雇用職員として最低65歳までは雇用が保障されてきた。
 ところが、2012年4月、再雇用職員規程が突如改悪され、それまで一律公平に支給されてきた月々の給料と期末手当(年間臨手に相当)が、各人との個別契約によるとされた。その結果、派遣先・出向先等の仕事内容の違いによる冷遇だけでなく、収入面でも優遇される者と、そうでない者に大幅な差が生じることとなった。
 個別契約は公表されないため、誰が幾ら支給されているかも、お互い分からない状態に置かれるようになった。
これに対し、何人もの再雇用職員が抗議し、改善を求めたが組合本部は聞く耳を持たない等の経過を経て、従業員労組(海員労組)が結成されたのは既報の通り(本誌20号「闘って良かった」ほか)。
 本年初め、新たに、元関西地方支部副支部長で博多海員会館の館長を勤めた大倉実さんが、再雇用職員規定の改訂無効・未払い賃金(月給の減額分と期末手当未払い分)の支払い・慰謝料支払いを求めて提訴し、裁判が始まった(大倉さんは提訴後の本年3月末に博多海員会館を退職)。
 現在のところ裁判は、書面による主張合戦が行われており、海員組合側は、再雇用職員規定の改訂は組合財政上の事情によるもので有効等と主張している模様。
(16ページの大倉実さんインタビュー記事参照

◯海員労組に対する4件目の不当労働行為
中労委の審査始まる
 海員労組が、再雇用職員規定改悪の撤回、従業員規定の労基署への届出等を求めた団体交渉に関して、本年1月11日、石川県労働委員会は、海員組合の、のらりくらりとした団交態度を団交拒否による不当労働行為と認定、海員労組を救済する命令を出した(4件目の不当労働行為)。
 海員組合は命令を受け入れて謝罪文を提出したが、海員労組側は、命令の中身が不十分として、中労委へ再審査申立を行った。期末手当支給・不支給の理由を問い質しても、「就労体系の違い」等と、抽象的な回答を繰り返すような交渉態度について、正確に判断して命令を発するよう求めるものだ。
 6月2日、東京芝の中労委会館で第1回審査が行われ、海員組合側は松浦副組合長、鈴木中執兼総務部長を始め顧問弁護士らが、海員労組側は北山組合長、阿部・大倉交渉委員らが出廷した。
 和解の意向を打診する委員会に対して、海員労組側はその意思のない旨を表明、証人尋問を行って命令を出すよう求めた。
 海員労組側は弁護士一人なのに対し、海員組合側は例によって、元高裁裁判官を含めた総勢10名もの大弁護団を組織している。
 第2回審査は8月4日(金)14時より、同じ中労委会館。

◯海員労組による損害賠償請求裁判
海員組合は、森田組合長と田中副組合長の出廷に拒絶反応
 北山元中執に対する再雇用拒否(既に不当労働行為が確定し、北山氏は復職済み)により被害を被った海員労組が、海員組合に対して損害賠償を求めた裁判が大詰めを迎えた。
 6月16日の法廷で、証人を決めるための論議が行われ、海員労組側は最高責任者である森田組合長・田中副組合長の証人出廷を強く求めた。これに対し海員組合側は固くなに拒絶反応を示し、出廷に応じなかった。
 その理由は、北山元中執の再雇用拒否を決めた時の中央執行委員会に出席していた松浦中執・現副組合長が、別の裁判(北山元中執の再雇用拒否無効裁判)で、その時の状況を証言した裁判記録があるので、それで十分だというもの。
 その結果、証人は海員労組側の北山元中執一人と決定、海員組合側の証人はゼロという異様な事態となった。被告である森田・田中の両氏は、自らの潔白を示すためにも進んで出廷して証言するのが普通だと思うのだが、不思議でならない。
 北山元中執の再雇用拒否は2013年夏の中央執行委員会で決定したとされている。当時既に藤澤組合長は統制処分に掛けられており、中央執行委員会内で孤立していたことが、2013年秋の大会で配布された裁判資料の録音記録で明らかになっている。
 同じ頃に北山元中執相手に起こした一億円裁判については、藤澤組合長が裁判自体に反対したにもかかわらず、他の役員が一致して提訴に踏み切ったことも一億円裁判の中で明らかになっている。
既に藤澤組合長は中央執行委員会内で孤立して死に体であり、一億円裁判にも反対していた以上、当時副組合長であった森田・田中の両氏が主導して決定したと考えるのが自然だ。海員組合側の対応には首を傾げざるをえない。

*北山元中執の証人尋問
9月15日(金)15時半
東京地裁519号法廷


(以下次号)