ー裁判の経過と組合員の思い17ー

内航組合員・竹中正陽

竹中勝利の地裁判決出る
組合長選挙立候補無視は組合規約違反、ほか数多
くの規約違反を認定し慰謝料支払いを命じた

 8月5日東京地裁は判決を出し、竹中に対する組合および松浦満晴副組合長の違法行為を認め、賠償金と弁護士費用計165万円の支払いを命じました。


組合員資格はく奪は違法
【裁判の請求項目】
1、完全資格組合員の地位確認
2、平成25年11月の長崎大会における組合長選挙の無効確認
3、組合員の権利侵害に対する賠償金300万円、及び弁護士費用30万円の支払い
4、謝罪文の掲載
 これに対し組合は、結審日の5月11日になって突如第1項の「認諾」を表明。認諾=ギブアップを意味し、この結果私の「組合員としての地位」がまず確定しました。
「全面的に争う」としてきたのに、この期に及んで白旗を掲げるとは何事かと腹が立ちましたが、このような汚い手も法律上は許されるとのこと。負けると分かった場合、恥をかかないよう、あらかじめ認諾してしまえば判決主文に書かれないで済むそうです。
 しかし、裁判所は事実認定と判断の中で、組合規約を詳細に分析して、竹中の組合員資格はく奪を
違法と断定。「労働協約上の定年年齢に達して退職した者は、廃業として組合から自動的に除籍される」との組合側主張を退けました。


立候補無視は規約違反
 2013年の長崎大会で、藤澤組合長の統制処分が確定した後、急きょ組合長選挙が行われ、私は所定の立候補届を役員選挙委員会に提出しました。しかし、大内教正顧問のみが立候補したとして、信任投票が行われました。
 判決は、私が選挙前の9月にブリジストン汽船を退職した後も、完全資格組合員として常任役員立候補資格を有していたと認定。組合の行為を組合規約第17条B項8号違反、立候補する権利の侵害と断定しました。
 ただし、「本件選挙に原告の被選挙権の侵害や手続き上の違法な瑕疵があり、本件選挙の違法な瑕疵がその後に行われた次期選挙をも違法なものとするとしても」
大内組合長の任期が既に終了し、新たな選挙が行われていること等から、選挙無効を確認する必要はないと判断。「原告の被選挙権の侵害については、損害賠償により救済を図るべきである。」として、賠償金の支払いを命じました。


数々の規約違反を認定
 その他に、私は10項目の規約違反を訴えていました。
①乗船中の船内委員長就任の拒否
②平成24年全国委員選挙の規約違反に対する苦情申立の無視(選挙日程を理由なく早めたこと。個人加入組合員に投票用紙を発行しないこと)
③会計帳簿閲覧の度重なる拒否
④組合費の受取り拒否
⑤船員職業紹介所への離職登録の拒否、紹介を受ける権利の侵害
⑥組合大会の傍聴拒否
⑦組合本部への立ち入り制限
⑧組合長選挙立候補を否定された件に対する苦情申立ての無視
⑨全国委員への繰り上げ当選拒否
⑩全国委員選挙立候補届の不受理
 判決は、①と⑦を除く8項目を規約違反・組合員の権利侵害の不法行為と認定し、賠償金の対象としました(但し謝罪文は却下)。
(違法行為と認定された8項目の内容については次号に詳述)


◯海員組合が控訴を断念
渡邊執行部員の勝利確定、処分撤回成る
 2月23日、東京地裁は渡邊執行部員の大阪支部長解任・根室事務所勤務を違法な左遷人事と認定し、渡邊部員全面勝利の判決を出した。
 2013年長崎大会の藤澤組合長統制処分に関する発言(「規約違反をしているのは中央執行委員会の方だ、と言いたかったんですよ」等々)についても、「公正な批判」であり懲戒処分は無効とした。
(以上、前号参照)
 組合の出方が注目されていたが、組合は中央執行委員会を開いた結果として、地裁判決を受け入れ、違法な人事発令のあった5年前に遡って身分を回復し、差額賃金を支払った。この結果、渡邊部員の完全勝利のうちに闘いは終了した。
 この裁判では私も証人として出廷し、渡邊部員が解任された直後にたまたま大阪支部を訪れた時に見聞きしたこと、2011年の八戸大会で多数の執行部員が大会に出席できない状況について本部を問い質したこと、統制処分を受けた後の藤澤元組合長と何度か会い、過去の人事発令について聞いた内容などを証言した。
 感想を「渡邊長寿君を励ます会」ニュース7号に投稿したので、ここでは判決が他の執行部員や事務職員、一般組合員にとって持つ意義について触れたい。


① 言論の自由、批判の自由
 判決は「執行部や組合の方針を批判することも、その批判の内容が事実に基づく公正なものと評価される限り」言論の自由として「最大限尊重されるべき」と断定。
 そして統制処分の議題と直接関係なくても、中央執行委員会が他の問題で規約違反を行っている場合は、「翻って統制処分の正当性に問題が生じることにもなり得るから、かかる事実を指摘する発言は、統制処分と無関係な個人的見解を述べるものとして直ちに排斥すべきではない。」とし、渡邊部員の発言を「公正な批判」と認定した。 
 すなわち、中央執行委員会には自分勝手の恣意的な判断や人事でなく、公平な執行業務が求められると裁判所は言っているのである。従って、発言をやめさせた議長采配の方がむしろ問題なのである。
 組合員や代議員は、正しいことは正しい、誤りは誤りと堂々と主張し、「公正な批判」を臆することなく展開すべし。それが組合民主主義であり、組合を発展させる道と裁判所は言っているのである。


② 苦情申立制度の活用
 組合員は誰でも組合に対して、「組合員のためにしたことや、組合員のためにしなかったこと」に対して苦情を申し立てることができる。「苦情の再申し立てに対しては、(中略)かならず文書による回答が送られる」と組合規約(102条以下)に規定されている。
 組合事務職員も、「この規定の適用実施について苦情がある時は、理由を付し、所管の長を通じて総務局長に申し立てることができる。」と従業員規定(75条)に書かれている。
渡邊部員はこれらを臆することなく活用した結果、不条理を正して目的を達成することができた。
 組合規約や従業員規定に定められた権利は、先輩たちが産別組織として長年かけて築いてきた成果でもある。十分に活用して、役員の姿勢を正させることが、本来の明るい組合を取り戻すことにつながるはずだ。
 渡邊部員は松浦中執(当時)の本部呼び出しによりパワハラを受けたが、労基法違反や上司によるパワハラ・セクハラに対しては、労基署や労働局などの公的機関の活用や、他の「駆け込み寺」も併用する必要がある場合が多い。私の周りにもそのようにして身を守っている未組織船員がいる。
 とりわけ組合従業員でもある執行部員・事務職員は、労働基準法や労組法などの労働保護法を労働者としての自分に完全履行させる気概がなければ、とうてい未組織の組織化や、ブラック企業に対抗できるはずがない。

◯阿部元執行部員の裁判
「再雇用拒否は無効」の判決
【労働契約法第19条】

(有期労働契約の更新等)
第19条  有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。
1  当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
2  当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

 阿部博元執行部員(元小名浜支部長、退職時は総合政策部副部長)の「再雇用拒否無効裁判」で、3月23日東京地裁は、再雇用拒否の無効、バックペイの支払いを命ずる判決を出した。
 判決は労働契約法19条(横線部)を引用した上で、阿部氏が契約更新を期待することについて合理的な理由があり、本件雇止めは「社会的相当性を欠く」「他の見せしめにすることは不平等」で「無効である」と断定した。
 ただし、夏期・冬期の期末手当の支払義務はないと却下した。
 これは、本年1月の北山元中執に対する判決と同様の判断だが、長期の私傷病休職や欠勤等の特別な事情がある場合を除いて、全従業員に定率の期末手当を支給してきた事実を無視している。
 組合がこの様な主張を行っていたとすれば、創立以来培われてきた産別組織としての伝統を汚し自ら放棄するものだ。「組合従業員」を「船員」に置き換えれば容易に分かるように、会社に対して、個々の組合員に対する年間臨手の査定を容認することになる。
 組合側は再雇用拒否の理由として、組合貸与のパソコンから統制委員会の資料を自分のUSBにコピーした等を掲げていたが、裁判所は、松浦中執(当時)自身が私物のUSBへのデータコピーを阿部氏に依頼したことがあること、組合が阿部氏への注意や指導、職員らに対する警告を発した形跡がないのが実情であることから、雇止めは無効と判定した。
 また、組合の調査がデータが流出されたとする時期の2年後で、北山元中執の統制処分が最高裁で無効とされた後であることなどから、「他の見せしめにすることは不平等」と判断した。最高裁で負けた「犯人探し」を行ったと、裁判所は見たようだ。
 判決を不服として組合は控訴、阿部氏も期末手当の回復を求めて控訴し、舞台は高裁に移行した。
その後、高裁裁判官による熱心な和解あっせんが始まったということだが、既に阿部氏は65歳の誕生日を迎えている。組合は大所高所の視点に立って和解解決に踏み出し、従業員労組との共存を図るべきだと思う。
 それがこれ以上無用の争いを避け、組合員と組合従業員のためでもある。


◯北山元中執の再雇用裁判
高裁はさらに組合を断罪
「期末手当も支払え」

 7月5日、東京高裁の判決が出された。高裁は地裁判決を踏襲し、「本件更新拒絶は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であるとは認められないというほかない。」と断定、組合の請求を棄却した。
 地裁が却下した期末手当については更に詳細に分析を加え、「従業員のうち、少なくとも3か月を超える私傷病欠勤のない者については、年2回期末手当を支給し、支給率については従業員各人に対する査定の結果によって支給率に差を設けることをしないことが長期にわたって行われてきた」と労使慣行が定着していることを認めた。
 この結果、月々の給料に加え、地裁では認められなかった未払いの期末手当として、5回分約508万円と遅延利子、今後の期末手当の支払いも命じた。
高裁判決は一億円裁判の判決以上に組合を断罪している。
 『本件ブログは全体としてみると1審被告の人事や係属する労働関係訴訟等を公表して1審被告の民主化、健全化を図ることに主眼があり、(中略)1審被告の人事及び労務政策については、裁判所から累次にわたり違法との指摘を受けてきたが、1審被告は、 このような判決を受けてもその基本的姿勢を容易に改めようとしなかったこと、(中略)一般に従業員が組織秩序の維持を図るべき義務を負担し、誠実義務を負うとしても、本件においてはこれを根拠に1審原告に本件ブログヘの投稿の削除義務があるとはいえない』
 組合は完敗どころか、過去の敗訴判決まで引き合いに出され、さらに断罪される結果となった。にもかかわらず、懲りずに最高裁に上訴。また組合費が浪費される。

従業員労組による損害賠償請求裁判
 従業員労組が組合と田中伸一副組合長に対して、不当労働行為(2件は中労委で不当労働行為が確定済み)による損害賠償220万円を求めた裁判は、7月15日に結審し、判決が出されることになった。
4月15日には北山元中執(従業員労組の組合長)と、松浦副組合長の証人尋問が行われたが、その際、従業員労組側は被告・田中伸一副組合長の証人尋問も要求していた。これに対し海員組合側は「必要ナシ」と主張、裁判官もこれを認めて結審となった。
 これだけ多くの裁判が行われても、証人のほとんどが松浦副組合長や鈴木総務部長で、田中副組合長自ら証人に出たことはない。
判決は、9月30日(金)午後1時10分、東京地裁619号法廷

◯再雇用拒否の不当労働行為が確定
北山元中執が原職復帰

 7月25日、石川県労働委員会は再雇用拒否を不当労働行為と認定し、原職復帰を命じる命令を出した。海員組合は中労委への再審査申立を断念し、8月1日付けで人事を組織内に発表。北山元中執が3年振りに復帰することになった。詳細は次号。


(次号につづく)