ー裁判の経過と組合員の思い16ー

◯一億円裁判・最高裁決定出る
海員組合の敗訴が確定

 海員組合が北山元中執を訴えていた一億円請求裁判の最高裁決定が、本年1月19日に出され、最高裁は組合の上告を棄却した。この結果、昨年8月の東京高裁判決が確定した。当然すぎる程当然で、あたりまえの決定だと思う。
 最高裁が上告を棄却する場合は最速4カ月ほどで、そのほとんどが元々上告する意味のない裁判とのことだ。典型的なスラップ訴訟(脅かしのための訴訟)だから審理する意味がないと最高裁は考えたのかも知れない。
 昨年8月に出された高裁判決は、海員組合の主張には「理由がない」と一蹴。北山ブログは「海員組合の再生を図るとの目的をもって掲載されたことが認められる」と認定し、ブログ本文もコメント部分も、「重要な部分において真実であると認められる」と断定した。
そして、『労働組合の運営の在り方を対象とした批判又は論評は、例えば、解散すべきであるといった厳しい批判的意見も含め、それ自体が公共の利害に関する事実に係るもの』なので、厳しい批判も、違法・不当な人事や処分が存在する以上(真実性の存在)、人身攻撃等をしない限り問題ない、と結論付けた。まさに組合の「完敗」と言ってよい。
 津軽海峡フェリーの不当労働行為も、協和海運の組織脱退策動もブログが原因だ、北山ブログのせいで組合員が減った、という主張が裁判所に通用するとでも役員らは思っていたのだろうか。顧問弁
護士が4人もいて、幹部の独走を止めなかったのだろうか。不思議でならない。
 一億円訴訟などという、常識では考えられない裁判を推し進めた現三役は、大会の場で組合員に謝
罪し、なぜこのような非常識な裁判を行ったのか真相を明らかにして、自らの進退を問わなければならないはずだ。
 また、2年半にわたり元裁判官の著名な弁護士など9名もの弁護団を組んで行った裁判費用は総額幾らになるのか?この点も明らかにする必要がある。
 裁判に要した多大な労力と組合費は、本来は組合員の雇用や労働条件向上のために使わなければならなかったのだから、それが当然のことだ。
組合側の弁護士9名は次の通り。
相馬達雄(顧問弁護士)
田川俊一(顧問弁護士)
大和陽一郎(東京高裁および大阪高裁の元裁判官)
大熊政一(顧問弁護士)
堺 充廣(顧問弁護士)
蟹江鬼太郎
竹谷光成
黒田直行
谷岡茉耶
 また船員しんぶんは横一段にブチ抜きで「偽計業務妨害で北山等氏を告発」、「損害賠償金1億円を請求」と大々的に宣伝したにもかかわらず、その後裁判で負けたことは、一切報道していない。
都合の悪いことは隠しとおすやり方は、民主主義とはほど遠く、自己保身と組合私物化以外の何ものでもない。
 組合は、裁判結果や要した費用をすみやかに機関紙誌に掲載し、その責任を明らかにして組合員の判断を仰ぐべきだ。それが組合民主主義であり、無用な裁判闘争を一日も早く終結する道にもつながるはずだ。


◯北山元中執の再雇用裁判 
「再雇用拒否は無効」判決

 北山元中執が訴えていた「再雇用拒否無効裁判」は、昨年10月16日に、北山氏本人と海員組合側鈴木順三総務部長の証人尋問の後に結審。その後本年1月29日、東京地裁から判決が出され、一億円裁判と同様に海員組合が敗北した。
 判決は「北山元中執の再雇用職員としての地位」を確認し、バックペイを支払うよう命じた。ただし、夏冬に支給される期末手当(年間賞与に相当)については、慣例として確立していないという理由で棄却した。
 これに対し海員組合は東京高裁に控訴すると共に、北山氏を就労させず、一千万円もの供託金を積んで本来支払うべきバックペイの支払いを実行しなかった。
 そのため裁判に最終的に負けた場合は年5%の利息を付けてバックペイを支払わなければならず、組合費の支出が増す公算が大きい。
 供託金も、元は組合費であることは言うまでもない。
 幹部は、自分の金でないから痛くも何ともないとでも思っているのだろうか。かって北山氏を無理やり解雇や統制処分を行い、いずれも最高裁で無効とされたことによって、多額の金銭(組合費)を浪費したことを忘れたわけではあるまい。
 組合員への迷惑を考えれば、これ以上無駄な争いはやめるのが組合と組合員にとって賢明な策であることは明らかだ。
 仮に控訴するにしても、北山氏を就労させて給料を支払った上で控訴するのが労働組合として正しい選択だと思う。そのような度量を持たなければ役員とは言えない。
 この裁判の組合側弁護士は前記の、相馬、田川、大和、大熊、堺、蟹江、竹谷、黒田の8人に大谷理香弁護士を加えた9人である。

◯渡邊執行部員の処分無効裁判
「降格無効・懲戒処分無効」判決出る

 2月23日、東京地裁は渡邊執行部員の請求内容をほぼ全面的に認める判決を出した。
 判決内容は要旨次のとおり。
1.解任、減給処分等の無効確認。
①平成23年1月発令の北海道地方支部副支部長の解任無効
②平成25年12月発令の減給1か月10%の懲戒処分無効
③平成26年2月発令の機関会議への出席停止措置の無効
2.処分無効に伴い、月額給与・期末手当の差額及び年5%割合の遅延損害金を支払え。
3.被告全日本海員組合ならびに被告松浦満晴は、連帯して慰謝料百万円および弁護士費用十万円を支払え。
4.被告全日本海員組合は、解任処分及び減給処分が無効である旨の通知を被告組合のチームウエアーに掲載せよ。

 処分理由がない以上、北海道地方支部副支部長の解任と減給処分の無効は多数の人が予想していたが、判決は、松浦総務局長(現副組合長)が行った「本部呼び出し」のやり方がいかに常軌を逸した違法なものであるかを突っ込んで分析している点が特徴的だ。
 事情聴取は2日間で計5時間以上にわたり、その間、松浦被告が2時間ほど離席していた間も、鈴木総務部長と職員1名が沈黙の中でも監視を続け、個室トイレのドアの外まで付いて行ったことが明らかになっている。
 この点について裁判所は、『途中で松浦被告は離席しているのに休憩を挟むこともしない一方で、原告がトイレに行った際には被告組合の者が付いていくなど、話の内容以外の点でも原告を精神的に圧迫する面があった』とし、『本件事情聴取は、従業員に対する注意、指導として社会通念上許容される範囲を超えて、原告に故なく精神的苦痛を与え、その人格権を侵害したものとして違法である』と断じた。
 近年執行部員が「本部呼び出し」により、松浦局長、鈴木総務部長らから3対1等で事情聴取を受け、最終的に「退職願い」を書いて辞めて行った例を幾つか聞いているが、彼らの無念もこの判決で少しは晴れるに違いない。
 組合大会における組合員の発言について、裁判所が立ち入って判断した点も大きい。
 裁判所は、『そもそも労働組合における統制権は、組合内部の統一と団結の維持のために必要かつ合理的な範囲で認められるものであり、この見地からすると、労働組合の決定には反対者も協力すべき義務があるとはいえ、他方で、労働組合内における民主主義を維持することも非常に重要であり、組合員の有する言論の自由は最大限尊重されるべきであって、執行部や組合の方針を批判することも、その批判の内容が事実に基づく公正なものと評価される限り、すなわち、虚偽の事実を述べたり、事実を歪曲したり、中傷や悪意のある個人攻撃と評価される場合を除いては、統制処分の対象にはならない』と正当な論理を述べた。
 その上で、『たしかに原告の発言は、藤澤元組合長の統制違反の問題と直接関係するものではない。しかし、労働組合は規約に則って統制権を行使するのであり、統制処分が正当と認められるには当該統制処分が規約に適合していることを要し、また、労働組合にはあまねく規約を尊重することが求められるところ、仮に、労働組合が統制違反とは別の問題では規約に適合しないことをしている事実があるとすれば、翻って統制処分の正当性に問題が生じることにもなり得るから、かかる事実を指摘する発言は、組合員の統制違反の問題そのものに関する発言でないからといって、統制処分と無関係な個人的見解を述べるものとして直ちに排斥すべきではない。この意味では、原告の発言も公正な批判足り得る』と断定した。
 平たく言えば、組合員の言論の自由は最大限尊重されるべきで、議題に直接合致しないものであっても、事実に基づく批判であれば、正当なものとして、処分の対象にならないということだ。
 また、藤澤元組合長の統制処分について、「翻って統制処分の正当性に問題が生じることにもなり得る」と疑問を投げかけている点は注目に値する。
「渡邊長寿君を励ます会」のニュースによれば、判決後、渡邊君と萩尾弁護士は組合本部を訪れ、地裁判決を受け入れて紛争を終わりにするよう申し入れたという。応対した鈴木総務部長は中央執行委員会に伝えると回答したとのことだ。常任役員には真摯な対応が求められる。
この裁判の組合側弁護士は、前記の田川、竹谷、黒田に加えて、北新居良雄(顧問弁護士)、岩本信行、五十嵐崇仁の計6名である。

◯阿部元執行部員の裁判
和解不調に終わり、判決へ

 「統制委員会のデータを組合のパソコンからUSBで抜き取った」という理由で、再雇用の更新を拒否された阿部博元執行部員が訴えていた裁判は、昨年12月2日、阿部氏本人と組合側鈴木順三総務部長の証人尋問が行われた。
 再雇用拒否理由について、鈴木総務部長は自信ありげに、「自分は情報の管理者、機械の管理者」と大見得を切っていたのが印象に残る。データやインターネットの閲覧、USBの挿入記録などをチェックする最新のソフトを導入し、組合従業員のパソコン使用の実態を、絶えず監視しているのかと、背筋の寒い思いがした。
 証人尋問が終了した後裁判官は積極的に和解を勧め、両者を別々に呼んで意向を聞いた。
組合側には、阿部氏が非を認めれば金銭を支払って和解する様子が伺えたとのことだが、阿部氏本人はそれに納得せず、裁判官の勧めに応じなかった模様である。和解あっせんが不調に終わった結果、判決が出されることになった。
判決は東京地裁620号法廷で
3月23日(水)午後1時10分から。

◯竹中の組合員資格確認・組合長選挙無効裁判
証人尋問終了、結審へ

 本年1月15日に、竹中側証人として西村寿水・海員組合元執行部員と藤田政男清水ポートサービス船長、組合側証人として大山浩邦関東地方支部長と鈴木順三総務部長の証人尋問が行われた。同じく2月19日には、竹中本人と松浦満晴副組合長の尋問が行われた。
 いずれも、30余名の傍聴者が見守る中、午前10時から昼休みをはさんで午後4時まで、休憩時間は取らずに丁々発止のやり取りが続いた。
 2月19日の午前は私の尋問が行われたが、組合側は例によって、直前になって5点の新証拠を提出するという姑息な手に出た。仮処分審査以来の常套手段だ。
そ のため私は尋問の場で初めてその証拠を目にしながら質問を受けることになったが、もったいぶるような代物ではなかった。

定年退職=組合から除籍?
 西村、藤田の両証人が自身の体験に基づいて、事実に沿った証言を堂々と行ったのに対して、組合側の大山、鈴木、松浦の各氏は、「組合員が労働協約上の定年=60歳に達して定年退職した場合、その時点で組合から除籍される。それが従来からの組合規約の解釈であり、実際の運用もそうであった。」等と、虚偽の証言を臆面もなく行っていた。
 竹中が60歳を超えて組合員を続けていたのは「船員職業所の担当者の間違い」で、竹中が沢山の実例を挙げている他の組合員の例も、「会社による異動通知の記入ミスや組合職員の見逃し等々による、組合コンピューター登録上の間違い」という主張だ。
 しかし、組合は自身の主張を裏付ける資料は「存在しない」として、証拠を全く提出せず、大山、鈴木、松浦の各氏が、ただ口で述べているだけである。

裁判長が矢継ぎ早に質問
 松浦氏の尋問の最終局面で、裁判長は、2013年の長崎大会での組合長選挙について、矢継ぎ早に質問を開始した(以下、裁判長の質問内容は、竹中や傍聴人の記憶による)。
 「なぜ一般組合員に知らせないで選挙を行ったのか、当日その場で選挙告示を行い、すぐ投票して構わないと規約の何処に書いてあるのか。」、「大内顧問が当選したとされるが、顧問は組合員なのか。それは規約の何条に書いてあるのか。私の見た限りそのような条文は見当たらない。」、「仮に長崎大会の選挙が無効だとしたら、本来組合長でなかった人が告示した選挙で選ばれた現組合長の当選も、無効になるという考えもあるのではないか?」等々。
 松浦氏は回答に窮し、規約の条文を見つけることができなかった。
 また、竹中が組合規約と規則に基づいて3年前から請求している会計帳簿の閲覧についても、裁判長は鋭い質問を投げかけた。
 「まだ閲覧が行われていないようですが、すぐに実施する気持ちはありませんか。それとも、判決によらなければなりませんか。」と。
 それに対して松浦氏は、「閲覧させる気持ちはありません。」と返答した。
 最後に裁判長は、「組合長選挙が無効かどうかの判断は、難しい法律論になるので、次回から3人の裁判官の合議とします。」と表明し、 双方が最終書面を提出して次回で結審ということになった。

今後の裁判予定は次のとおり。
◯阿部博元執行部員の再雇用拒否無効裁判 判決
3月23日(水)午後1時10分
東京地裁620号法廷
◯従業員労組による海員組合に対する損害賠償裁判
4月15日(金)午後2時
東京地裁619号法廷
◯竹中裁判結審
5月11日(水)午前10時
東京地裁527号法廷


(次号につづく)