-裁判の経過と組合員の思い13ー

内航組合員・竹中正陽

 昨年11月の組合大会で大内組合長は引退、わずか1年の就任だった。退任あいさつによれば、元々「1年だけと心に決め」ており、組合の全従業員が原点を見つめ直し、組合を「労働組合本来の姿」に戻すことが氏の役目だったとのことである。果たしてそれは達成できたのだろうか。
 この間の裁判・労働委員会の経過にその答えは現れている。

◯竹中の組合員資格
組合は保全異議を取り下げ 竹中勝利の仮処分決定確定

 昨年7月、東京地裁は私の組合員資格を認める地位保全の仮処分決定を出した。しかし組合は決定に不服で異議申し立てを行ったが(本誌14号)、再審査の場で仮処分決定を認め、異議申立を取り下げる意向を表明した。
 その結果、昨年12月10日の3回目の審査で次の内容の和解が成立し、組合は竹中を組合員として認めることになった。
和解条項の要旨は、
1 本裁判の結果が出るまでの間、双方は仮処分決定に従い、竹中が完全資格組合員の地位を仮に保有することに合意する。
2 組合(債務者)は、竹中(債権者)に対し、以下を約束する。
(1)竹中を他の組合員と差別しない。
(2)竹中の希望に従い、船員として雇用の斡旋・紹介に努める。
3 双方は、組合規約を遵守するこ
とを約束する。
4 双方は本件紛争を本裁判で解
決するよう努める。
5 組合は異議申立を取り下げる。
(次ページの調書参照)

 なお、調書に記されている「審尋の要領」とは、審査の場で裁判官の質問に私が答えたもので、和解条項とは異なる。この点2月5日付け船員しんぶんには、組合が誓約した和解条項が記載されておらず、事実を歪めている。
 組合が異議申立を取り下げた結果、仮処分決定が確定し、本裁判のみになったため、私は晴れて乗船することが可能となった。しかし、組合によれば組織会社から60歳以上の求人はほとんど無いということで、12月下旬から未組織のマン二ング会社を通じて内航小型タンカーに乗船している。
  本裁判の争点は、「定年退職=自動的に組合から除籍。それが従来からの取り扱いである」という組合本部の主張が正しいか否かにある。私は組合員資格の確認と併せて、①立候補を反故にした平成25年大会の組合長選挙無効、②損害賠償、③謝罪、を要求している。
 第4回裁判は、5月15日の午前10時30分から、東京地裁527号法廷で開かれます(傍聴自由)。

◯藤澤元組合長の統制処分
退職金満額を払って和解

 藤澤元組合長が提訴した統制処分(3か月の権利停止)無効、組合長地位確認の裁判は、組合が退職金満額を払うことで1月9日に和解が成立し、藤澤氏は提訴を取り下げることになった。
背景には、一昨年(2013年)4月1日に組合が従業員規定に賞罰規定を新設する事実上の改悪を行い、併せて退職手当規定を変更した経緯がある。
「役員または執行部員が統制違反の処分に付された場合」に関する従来の条文:
「その情状により退職手当および慰労金を減額することがある」
      ↓
「減額もしくは支給しないことがある」
 その直後の4月9日に中執委が藤澤氏を統制処分で告発したことから、当時この最初のターゲットは藤澤氏と言われていた。
 事実、藤澤氏と田中副組合長を始めとする他の役員との確執は、前年(2012年)10月の藤澤組合長を4選した大会前後の執行部全体会議や全国評議会の場で明らかになっており、12月には、真偽のほどはともかく、「中国代表部あてのメール」を森田・田中両副組合長(当時)が手に入れて調査を開始したとされている(2013年の長崎大会で配布された資料)。
 また、翌2013年1月には全国港湾・港運同盟の代表と藤澤氏の3者会談があり、藤澤氏の海外出張禁止につながる対立が両副組合長らとの間に生じていたことも明らかになっている(同資料)。
私は、いつか組合員に真実を知らせる必要があると思い、昨年秋に藤澤氏と数回面談してここ数年の諸々の問題の真偽を問い質した。
 氏によれば、賞罰規定・継続雇用職員規定の新設や、退職手当規定の変更は、氏の知らない所で、田中副組合長の主導で行われたとのことだ。機関会議でいきなり提案が為され、氏は「びっくりした」が、多勢に無勢で反対のしようがなかったという。
 なお、藤澤氏が和解に同意した背景には、昨年10月以降、国が指定する難病に罹患して長期入院を余儀なくされ、現在も療養を続けている事情がある。
 しかし、組合員の立場からすれば、「前代未聞の暴挙」と非難していた藤澤氏に対して、3千万円近いと思われる退職金を満額支払うことにした中執委の対応は納得できるものではない。
両副組合長の主導の下、自信と確信をもって処分に付し、大見得を切って組合員に説明した以上、裁判の場で堂々と白黒を付けなければならなかったはずだ。
 「大山鳴動してねずみ一匹」では、この2年間われわれ組合員は茶番劇を見せられてきたことになる。
今回の出費も結局は組合費に跳ね返る。中執委は、負ける怖れがあったから大金を払うことにしたのであろう。その理由と責任を組合員に明らかにする義務がある。

審尋調書(第3)(和解)
審尋の要領
債権者
1 債権者は、債務者から本和解条項第2項(2)の雇用の斡旋又は紹介を受けたときは、その船員とし
ての就労に努める。
2 債権者は、後進の育成・支援に努める。
3 債権者は、債務者の組合機関(全国大会,全国評議会,中央執行委員会等)の決定やその活動方針が適法
に確立した合理的内容のものであるときは、これに従って債務者の組合活動に協力するよう努める。
和解条項 別紙和解条項記載のとおり
(別紙)              和 解 条 項
1 債務者と債権者は、原事件(東京地方裁判所平成25年(ヨ)第21162号)に係る平成26年7月14
日付け仮処分決定(以下「原決定」という。)に従い、次の(1)ないし(3)のいずれかの事由が発生す
るまで、債権者が、債務者に対し、その完全資格組合員たる地位(以下「本件地位」という。)を仮
に保有することを合意する。
(1)債権者の本件地位の確認を求める請求に係る本案訴訟事件において、審級を問わず、債権者の本件
地位の確認を求める請求を棄却し、その他債権者の本件地位を認めない旨の裁判があったとき。                     
(2)上記(1)の請求に係る訴訟が裁判によらないで完結したとき。
(3)原決定中、申立てを認容した部分が取り消され、又は変更されたとき。
2 債務者は、債権者に対し、前項の期間中、以下の事項を約束する。
(1)債権者を他の完全資格組合員と差別しない。
(2)債権者の希望に従い、船員としての適切な雇用の斡旋及び紹介に努める。
3 債務者と債権者は、組合規約を遵守することを相互に約束する。
4 債務者と債権者は、本件地位に係る両者間の紛争に関し、本案訴訟事件の手続において解決を図る
よう努めるものとする。
5 債務者は、本件異議の申立てを取り下げる。
6 申立費用は、各自の負担とする。                

◯一億円損害賠償裁判
組合が完敗

 1月15日、東京地裁は組合が訴えていた、北山元中執に対する一億円損害賠償請求を全面的に棄却する判決を出した。
 判決の要旨は、
①ブログの「重要な部分は真実」であり、組合が「人事等に関して違法な行為を繰り返していると言われても仕方がない」
②ブログが組合の「業務を妨害するものということもできない」
③コメントの投稿記事も、組合の「現状を踏まえた意見として不当なものであるとは言い難く」「業務を妨害することが明白であるということはできない」
 判決は北山元中執の主張を全面的に認めるもので、組合の完敗と言って良い内容だ。
 組合は即刻控訴したそうだが、この裁判では10名もの弁護士が名を連ね、関西からも毎回数名の顧問弁護士と助人弁護士が出廷している。
 顧問弁護士に対しては毎月定額の顧問料に加え、法廷への出廷や、書面を作成するたびに、日当や手間賃が掛かるのが普通だ。弁護士の数からして、その費用たるや一回の法廷に付き100万円は下らないのではないか。
 その上、この種の裁判では、仮に損害賠償が認められても、得られる金額はわずかなものだそうだ。
 結局すべては組合費に跳ね返って来る。「費用対効果」という点からも、裁判を続ける意味が何処にあるのか疑わしい。
 また、昨年9月に証人で出廷した平岡中執の証言によれば、藤澤元組合長は最後まで提訴に反対したとのこと。氏は訴状への捺印すら行わなかったとのことだ。
 私が藤澤氏に直接確認した結果も同様であり、氏は「サラリーマン相手に一億円請求なんて馬鹿げている。俺は反対して訴状に印鑑を押さなかったが、田中副組合長ら他の役員が主導してやってしまった」と語っていた。
 結局、全てのツケは組合員に来る。このような裁判は即刻やめるよう、組合員として声を挙げていきたい。

◯渡邊執行部員・処分無効裁判
組合が和解案

 昨年12月16日の第5回裁判で、突然組合側は「これ以上の主張・反論は予定していない」と発言した。それを受けた裁判官が和解の意向を尋ねたところ、組合は和解の意思を表明。これに対して渡邊君側は「請求内容がすべて認められるならば」と協議に応じた。
 1月22日の6回目の裁判は審問室で行われ、傍聴者の同席も認められたとのことだ。席上組合側の和解案が裁判長経由で伝えられ、その要旨は、①和解成立の翌月1日付で組合は、北海道地方支部副支部長道東支部勤務の人事を発令する、②降格人事に伴う賃金差額は和解金という形で支払う、というもの。
裁判官は組合に対して、和解案を文書で提出するよう求めたそうである。次回2月26日も、引き続き裁判官主導の和解協議が予定されている。


◯石川県労委が命令
「海員組合は石川県内で団体交渉に応じよ」

 去る1月29日、石川県労働委員会は海員組合に対して、従業員労組(北山等組合長)との団体交渉について「石川県内において、これに応じなければならない」と命令した(命令の交付は2月19日)。
労働組合が不当労働行為救済命令を出されるのは、昨年6月の東京都労委に続くもので、海員組合は2度目の不名誉な「記録」を作ったことになる。
 しかも今回の命令は、単に「団体交渉に応じよ」だけでなく、「石川県内において」が付け加えられている。そこには都労委命令以上に、「厳罰」の意味が込められていると思う。不当労働行為の態様がより「悪質」な場合、このような命令が出されるとのことだ。
【命令主文】
1 被申立人は、申立人が平成26年3月4日及び同月10日付けで申し入れた団体交渉について、石川県内において、これに応じなければならない。
2 被申立人は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートルの白紙に記載して、被申立人の従業員らの見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。

記  

                  
全日本海員組合従業員労働組合
組合長 北山等 殿
平成 年 月 日
全日本海員組合
組合長 森田保己                                                                              
当組合が行った下記の行為は、石川県労働委員会において労働組合法第7条第2号に該当する不当労働行為であると認定されました。今後、このような不当労働行為を繰り返さないようにします。(後略)
・・・・・・・・・・・


 命令書によれば、従業員労組が求めていた交渉内容は、①暫定労働協約の締結、②A元執行部員の再雇用契約の更新、③従業員規定・再雇用職員規定等の労働基準監督署への届出、④北山元中執の再雇用契約の更新、の4点であり、海員組合は「東京都内」での開催に固執し、これに応じなかった。
 他方、従業員組合は1回目の交渉は海員組合の主張に沿って東京都内で行うことに応じたのだから、2回目は石川県、その後は東京と石川の交互開催を提案した。
 命令は、「これはもはや団交の開催場所の問題ではなく、団交の開催そのものを否定するもので、合理性は到底認められない」と厳しく断罪している。
 東京都労委に断罪された時の団交では田中副組合長が出席して陣頭指揮を行い、今回は松浦中執(現副組合長)が対応していたとのこと。津軽海峡フェリーや横浜の協和海運、愛媛のフェリー会社「ごごしま」など、各地の支部が船主側の不当労働行為と闘っている中で、本部は同様の不当労働行為を従業員労組に対して行っていたことになる。
 とりわけ今回の場合は、松浦中執が石川県に交渉に出向けば済むところを、県労委の審査に大勢の弁護士と組合職員を連れて泊りがけで行く結果となり、その上不名誉な命令まで出されてしまった。
組合費の無駄使いも甚だしく、組合員にとって、こんなに馬鹿らしいことはない。

◯協和海運の東京高裁決定
賃金仮払いを命令
地位保全は棄却

 1月9日、東京高裁は協和海運を解雇(新会社への不採用)された11名の組合員が訴えていた件で、標準生計費相当の賃金仮払いを命ずる決定を出した。
 これは、横浜地裁の不当な仮処分決定を覆すもので、11名の組合員と家族にとって前途に明るい光が差し、神奈川地労委での不当労働行為審査にも大きな弾みをもたらすことは疑いない。
 しかし、請求内容である①地位保全(従業員としての地位を仮に定めること)と、②賃金仮払いのうち、東京高裁は不当にも前者を棄却した。仮払い額も賃金の全額ではなく、標準生計費相当に減額されたとのことだ。
 今回地位保全が棄却された理由は不明だが、仮処分は本裁判と異なり、「従業員としての権利を有する地位にあること」や「賃金仮払い」が認められても、「地位保全」が認められるとは限らないそうだ。
 「地位を認めること」と「地位を仮に定める」ことには大きな違いがあり、仮処分で後者が認められるためには、「著しい損害又は急迫の危険」を避けるための緊急性が必要とのことだ。
背景には、賃金の仮払いは認めても地位保全は認めないという、最近の労働裁判の悪傾向(経営側の意向を重んじ、労働者の権利を軽視する)があるような気がする。
しかし、地位保全が認められなくても、賃金の仮払いや従業員としての権利を有する地位が認定されれば、健康保険・厚生年金保険の遡及加入が認められるケースが多く(社会保険審査会の決定あり。船員保険も同様)、11名は解雇撤回に向けて大きな武器を手にすることができた。
 なお、地位保全が棄却されたことについて組合は報道せず、2月の国内部委員会でも報告しなかったそうだが、理解に苦しむ。
 裁判の状況や問題点を組合員に包み隠さず報告して、直面する課題をみんなで論議して次の方針を決めていくことが大切だと思う。正確な情報が伝わらなければ、組合員の間違った判断につながりかねない。
 高裁決定の成果を生かし、親会社のダイトーや川崎汽船が表に出て来ざるを得ないよう、産別組織の総力を上げた運動につなげて欲しい。


(次号に続く)