ー裁判の経過と組合員の思い12ー

前号以降の海員組合内部の裁判・労働委員会の状況を報告する。
◯東京都労委が命令
「海員組合は団体交渉に応じよ」

6月23日、東京都労働委員会は海員組合に対して、「従業員労組との団体交渉に応じよ」と命令した。労働組合法が1945年に制定されて以来、労働組合が不当労働行為救済命令を出されるのは、史上初めてのようだ。
【命令主文】
1 被申立人全日本海員組合は、申立人全日本海員組合従業員労働組合が、平成25年4月25日及び5月7日に申し入れた団体交渉に誠実に応じなければならない。
2 被申立人組合は、本命令書受領の日から1週間以内に、下記内容の文書を申立人組合に交付するとともに、同一内容の文書を55センチメートル×80センチメートル(新聞紙2頁大)の白紙に楷書で明瞭に墨書して、被申立人組合の従業員らの見やすい場所に、10日間掲示しなければならない。


○○年○月○日                         
全日本海員組合従業員労働組合
組合長 北山等 殿                                               全日本海員組合                                                         組合長 大内教正
当組合が、平成25年4月25日及び5月7日に貴組合の申し入れた団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。(後略)
・・・・・・・・・・・
 海員組合は昨年4月1日に、従業員規定を大幅に変更(事実上の「改悪」)、新たに賞罰規定と継続雇用職員規定を新設した。
 賞罰規定では懲戒解雇、論旨解雇、降格、出勤停止、減給、戒告の6種類の懲戒処分を詳細に規定。
例えば、「業務上の報告等を偽り、組合に対して重大な損害・影響を及ぼした場合」、「組合の重大な秘密、又は情報を組合外に漏らし、あるいは漏らそうとし、又は組合及び他社の重大な秘密を不正に入手した場合」は諭旨解雇及び懲戒解雇の理由となる。
 また、再雇用職員の単身赴任手当、住宅手当補助、帰省旅費が廃止され、給料や期末手当も各個人ごとの契約となり、勤務先の違い等により収入に大幅な差が生じることになった(本誌10号)。
 加えて、A元執行部員が、わずか1年で契約更新を拒否されたことを機に、従業員労組(全日本海員組合従業員労働組合・北山等組合長)が、昨年4月結成された。
 命令書等によれば、従業員労組が、雇用や賃金について団交を申し入れたのに対し、海員組合は、労組の結成は私怨をはらすことが目的だとか、組合員の氏名を明らかにせよなどと理由をつけ、団交を拒み続けた。このため、従業員労組は昨年5月に不当労働行為救済申立てを行った。
 その後、都労委の勧めにより一旦海員組合は形式的には団交に応じたものの、再び同様の理由を持ち出し、実質的に交渉を進展させようとしなかったため、今回の命令が出されたもの。
 団交には田中副組合長が出席して陣頭指揮をしていたとのこと。
 命令には、謝罪文の掲示も付加されたが、今日まで履行されていない。労働委員会命令は、たとえ再審査中であっても即時履行する義務があり、海員組合は、日々労組法違反を積み重ねていることになる。労働組合が労組法違反を犯すことの重大性を、現役員は察することすらできないのだろうか。
 労働運動に関する見識の高さで著名なブログ〈シジフォスの神話〉の、今年7月7日号に憂慮の声が上げられている。


海員組合が再審査請求
海員組合は、都労委命令を不服として中労委に再審査申立を行った。9月1日に開かれた中労委の第1回調査の席上、中労委側は和解を打診したが、双方の隔たりが大きく、和解の見込みはないと判断。また事実関係では両者ほとんど異論がないため、審問(証拠・証人調べなど)をする必要はないと判断し、当日をもって結審を宣言、命令が出されることになった(命令の日時は未定)。通常、1回の調査で結審することは極めてまれとのこと。 
 組合側は6人の弁護士に加え、松浦中執、中執企画室長、総務部長が出席していた。

◯竹中の組合員資格
竹中勝利の仮処分決定出る

 7月14日、東京地裁は私の組合員資格を認める仮処分決定を出した。
 昨年10月末以降、組合は私の離職組合員登録を認めず、組合費の受け取りを拒否した上に、守衛が両手を広げて立ちはだかり本部事務所内への立ち入りを阻止した。
 また、昨年の長崎大会で、急きょ発表された組合長選挙に立候補したが、立候補届は無視された。
何度理由を尋ねても無視されたため、私は昨年12月に3点の地位確認の仮処分を申し立てた。
①完全資格組合員としての地位
②組合費を納入できる地位
③常任役員選挙に立候補しうる地位。
 仮処分審査における組合の主張は、「労働協約上の定年年齢(60歳)で定年退職した者は、その時点で自動的に廃業により除籍される。」という今まで聞いたことのない奇想天外のものだった。これには裁判官も首を傾げるばかり。
 組合の「へ理屈」に反論するため、執行部や職場委員のOBが過去の資料を大量に提供してくれた。
 また元執行部の井出本榮、飯田忠光、三宅隆、西村寿水さんが陳述書の提出や、審査に出席して組合のウソを論破してくれた。
 その結果、次のような勝利決定が出されることになった。
 決定書の記載がこの裁判の本質を表している。
 『そもそも、債務者の組合員数は、最盛期には16万人を超えていたが、日本人組合員については約3万人にまで滅少し、組合員数の減少に歯止めがかからない厳しい現状(甲1,甲47)にある。
かかる債務者のおかれた立場からすれば、本来あらゆる手段を尽くして少しでも組合員数の拡大を図らねばならないはずである。衰退を甘受するわけではなかろうに、なにゆえ年齢制限など設ける必要があるのか埋解しがたい。
 また、労働組合は労働者の地位の向上 (労働組合法1条)を目指すことをその組織の性格とする存在であるところ、雇用確保が労働者の地位向上の主要な部分を占めるがそれに限られるわけではない。
 就労の意思及び能力がある者に対し広く門戸を広げ、それぞれの要望に応えるのが産業別単一労働組合としてのあるべき態度ではないかと思われる。よって、債務者の主張は採用することができない。』
 仮処分決定後、私は組合を訪れ、「この決定をもって訴訟は終わりにして欲しい」と要望したが、後日の組合の回答は、「保全異議申立」と「起訴命令申立」だった。
 「保全異議申立」は仮処分審査のやり直しを求めるものであり、「起訴命令申立」は、仮処分で負けた組合が、「本裁判で決着をつけよう」と徹底抗戦の意思表示をしたことを意味する。
 この結果、今後再度の仮処分審査と本裁判が並行して行われることになった。
 私は本裁判では、組合員資格に加え、組合長選挙の無効確認、田中副組合長・森田副組合長・松浦中執による計330万円の損害賠償、謝罪文の掲示を請求した。
 組合員に対し、気に食わないからと言って勝手に資格をはく奪することは、労働組合の信義に背き、 組合規約上も許されるものではないからだ。
 第1回裁判が10月31日の午前10時半より、東京地裁527号法廷で行われる。

◯1億円損害賠償裁判
平岡中執の衝撃証言

 北山元中執のブログ(いかんぜよ海員組合)により名誉を棄損されたとして組合が訴えていた裁判の証人尋問が9月11日行われ、北山元中執と平岡中執が証言した。
 組合は1億円請求の根拠として、津軽海峡フェリーと協和海運の不当労働行為問題を挙げた。
 前者は、ブログを見た北海道地方労働委員会の審査関係者が、申立人である藤澤組合長の適格性に疑問を呈したため、審査が遅れ損害を受けたというもの。
 しかし、北山氏の大会入場をガードマン等を配置して阻止する中で行われた2010年の組合長選挙が、東京地裁により無効と判定されたことは紛れもない事実であり、問題のすり替えも甚だしい。
 後者は、ブログを見た協和海運が組合を軽く見て脱退工作を実行したというものだが、いずれも何の証拠もなく「私はそう思う」の類で、証言に信憑性があるとは思えなかった。そもそも1億円提訴は去年の6月で、協和海運問題は今年起きた事件だ。
 また平岡中執はブログの影響で、少なくとも100名が脱退したとか、従業員を募集しても優秀な人材が集まらない、団体交渉で使用者から難癖をつけられたり組合員からの問い合わせで困っているなどと証言したが、いずれも証拠はなく単なる難クセに見えた。
 そもそも組合員の減少は、「企業経営の悪化」、「減船」、「日本人船員総数の減少」等であったはずであり、ブログが理由との論議は聞いたことが無い。
 9人もの弁護士を立て、多額の組合費と手間ひまを使って本末転倒の理屈を並べる様に、組合員としていたたまれない気分になった。このような大きな裁判は、事前に全評や大会で論議して行うのが正しい組合運営の在り方だと思う。
 更に驚いたのは、平岡氏の証言によれば協和海運組合員の地位確認の仮処分申請が横浜地裁で既に却下されていたことだ。機関誌紙には一切書かれておらず、一般組合員に何も知らされていない。
 また、1億円裁判の提訴に藤澤組合長は最後まで反対したとのこと。訴状の印鑑すら藤澤氏は押さなかったようだ。藤澤組合長に対する統制処分の告発が4月9日、4月16日には統制委員会の審査が開始されている。1億円提訴は6月末であることから、平岡中執の証言は本当かも知れない。
 誰が主導し、どのような論議を経て1億円提訴が決定されたのか?賞罰規定の新設や再雇用職員の労働条件の「改悪」しかり。決定の経過がほとんど見えない。主人公であるはずの我われ組合員には知る権利があるはずだ。

他の訴訟の進行状況
①北山元中執のパワハラ裁判
 北山元中執に対して、外国のインターネット上の英文和訳を際限なく命じ、和訳結果の報告もさせない一方で、必要な部分の和訳は他の職員にさせていた件で、今年5月東京地裁は北山氏の請求を認め、藤澤組合長(当時)・森田副組合長・松浦中執に対し、計88万円の損害賠償を命じた(前号)。
 しかし東京高裁は10月2日の判決で英文和訳を「必要な業務」と認定、森田副組合長・松浦中執に対する請求部分は棄却された。この件では、藤澤元組合長は控訴しなかったため、藤澤氏の賠償すべき金額は維持されている。

②藤澤元組合長の処分無効裁判
 本年7月以降非公開の進行協議が数回行われ、引き続き書面による論争が行われている。
 昨年12月に藤澤氏が提訴した後、組合はそれまで支払っていなかった退職金の支払いを申し出たが、藤澤氏は受領せず、和解も進展しなかったと伝えられている。
 また、藤澤氏が送ったとされるメールは、裁判の場においても組合は提出していない模様だ。

③渡邊執行部員の処分無効裁判
 本年3月に提訴(請求内容は、執行部員への降格・退職する事務職員の後任としての根室事務所勤務・大会等機関会議への出席停止・大会発言に対する減給処分等の差別の是正)して以来、3回の法廷弁論が開かれた。
 組合が明らかにした大阪支部長解任理由は、関西地方支部長への報告を怠った職務怠慢、大阪支部内での部下との意思疎通の不足、現場組合員の信頼がない、というもの。しかし、その内容については、 「月日を特定できない」「人事の機密」を理由に何も明らかにしないため、渡邊君は具体的内容を明示するよう求めている。
 次回は10月28日11時30分、東京地裁619号法廷。

④北山元中執の再雇用裁判
 引き続き東京地裁において書面による論争が行われている。次回は10月31日、午前10時、521号法廷。

全国評議会の大内組合長あいさつ
 最後に、9月29日に行われた組合全国評議会における大内組合長のあいさつの要旨を紹介する。
 『一つだけ言っておきたい。執行部は組合員のために存在する。しかし、中にはサラリーマン的に、給料を貰って適当に、その場しのぎ的にやっている執行部員がいる。
 この一年、「やる気のない者は去れ」とあらゆる機関会議の場で言ってきた。この一年に二ケタの人が退職した。その全てがそうとは限らないが、やる気のない者、あるいは自分の能力に限界を感じて、自らの道を選んでいく。
 今後も組合員のためにならない執行部は排除する。それが組合員から課せられた我われ役員の義務である。そのことで、たとえ不当解雇というそしりを受けようとも、組合員のために敢えて、そのそしりを受け止める。
 敵意を持って向かって来るものに対しては、徹底的に抗戦する。』
 議場はしーんと静まり返り、拍手ひとつなかった。


次号に続く(10月10日)