ー裁判の経過と組合員の思い11-

内航組合員・竹中正陽

 今年初頭、海員組合と従業員・組合員関係の訴訟は、東京地裁と東京高裁合わせて計7件行われていた。その後新たに提起されたもの、終了したものを併せて報告する(企業との係争は除く)。


岸本恵美さん裁判
4月10日に和解成立

 組合本部総務部の事務職員岸本恵美さんは、昨年9月に休職処分と解雇の無効・バックペイの判決が出され、10月に復職した。
 しかし、解雇中の有給休暇の扱いや期末手当の支払い、復職後の勤務場所・仕事内容等に関する協議に組合が応じない中で、岸本さんは地裁判決で棄却された、解雇中の期末手当の完全支給(約196万円分)、組合の謝罪等について東京高裁に控訴していた。
 東京高裁は1月16日の第1回弁論で即日結審を宣言、双方に対して強力に和解を勧めた(前号にて既報)。
 2月と3月の2回の協議で、組合側は解雇中の期末手当(年間賞与)の未払い部分について全額支払う旨を表明、また今後も岸本さんの勤務を認める意向であることが分かり、主な焦点は謝罪条項、今後の誓約条項などに絞られた。
 4月10日、3回目の協議で組合側は、「控訴人は、パソコンの私的利用をしたことを認め深く反省し、以後、パソコンの私的利用をしないことを約する。」など、岸本さんに誓約を迫る条項を入れることを提案したが、裁判官の強い説得にこれを撤回、併せて期末手当未払い額に加えて遅延利子及び+αを支払うことを了承し、次のような和解が成立した。
○和解条項要旨 
1 組合は未払いの期末手当と遅延損害金等として220万円を支払う。
2 組合は、一審判決通り、岸本が労働契約上の権利を有する地位にあること、平成23年5月1日付けの
依命休職処分が無効であること、岸本が現在奨学金制度運営管理部の事務職員であることを確認する。
3 岸本は、従業員規定,労働契約及び法令に従って服務することを約する。岸本は、出向先で勤務時間中にパソコンの私的利用をしたことを認め、今後、勤務時間中にパソコンを業務以外では使用しないことを、奨学金制度運営管理部に配属された際に誓約済みであることを相互に確認する。
4 組合は、岸本に対し、従業員規定、労働契約及び法令に従った取扱いをし、他の従業員との不当な差別を行わないことを約する。岸本に対し本件休職の処分理由とされた事実に基づいて、一切の処分を行わない。
 この結果双方に一切の争いがなくなり和解成立となった。
 岸本さんは、『裁判が始まってからの約3年間はとても長い長い期間でした。思い返せば、全くの素人が裁判に足を踏み入れることを決め、何をどうしていいのか分からず、焦りや渋り、不安な気持ちと緊張感に潰されそうになったこともあります。それも今思えば懐かしい思い出ですが、裁判を終え自分で自分を褒めてあげたいと思います。これからは裁判結果を誇りに思い、元気な生活を送りたいと思います。』と語っている。

渡邊長寿執行部員が提訴
 本年3月25日、道東支部(釧路)の渡邊長寿執行部員(48才)が、①副支部長からヒラ執行部員への降格(平成23年1月1日付)、②減給1ヶ月10%の懲戒処分(平成25年12月25日付)、③機関会議への出席停止(平成26年2月10日付)、の無効確認を求めて東京地裁に提訴、併せて組合と松浦中執に対し、差額賃金、精神的損害に対する慰謝料の支払いを求めた。
 松浦中執に対する請求は、昨年長崎で行われた組合大会終了後、理由も明らかにしないまま六本木本部に出頭させ、大会での発言を理由に反省を迫り、長時間会議室に拘束してトイレに行く時も監視付きにしたことによる。
 東京地裁の第1回弁論が5月13日行われ、執行部OBら10数名が傍聴する中で渡邊君の本人陳述が行われた。
 それによれば、同君は大会で、藤澤元組合長の統制処分に関して、疑義を唱える発言を行っている途中、議長から発言を制止された。
 その後の本部呼び出しで松浦中執は、「全国委員である前に組合従業員である。従業員としてあるまじき発言だ」と迫り、「反省とは何か」、「反省とは反省だ」の問答となった。松浦中執の報告を受けた中央執行委員会は昨年12月、減給1ヶ月の懲戒処分を出した。
 それに対して同君は減給処分の撤回を求めると共に、平成23年1月の副支部長からヒラの執行部員への降格を始めとする一連の行為(※)に対して、従業員規定に基づく苦情申立を行ったところ、実質的な回答はなく、逆に「機関会議への出席を停止する」という大内組合長名の指示文書が出されたため、提訴に及んだという。
 ※一連の行為とは、平成22年の大会後、突然大阪支部長を解任され、退職する女子職員の後任として根室事務所に配属され、「事務職員と同じ業務だけさせておけ」という本部指示により交渉等の執行部業務から外されたこと。全国大会・水産部委員会・北海道管内執行委員会への出席阻害、質問状や組合規約に基づく苦情申立の再三にわたる無視などを指す。同君は未だに降格や配転の理由は知らされていないという。
 渡邊執行部員は、法定での陳述を次のように結んだ。
 『平成22年の大会以後、降格などの陰湿な人事異動が相次ぎ、先輩や後輩、数多くの仲間が志半ばで組合を去りました。悔しさと不安から眠れない夜を何日も過ごしました。家族も「労働組合なのに、なぜこのような理不尽なことがまかり通るの?」と苦しみ、悩み、涙を流しました。
 労働組合は、いろいろな考えの人が結集し、互いに尊重し合い、自由闊達な意見を闘わすことで発展していくはずです。また労働組合は、仲間を大切にして励まし合う弱者の味方でなくてはなりません。今の海員組合は大事なものを忘れ、組合員が次々と距離を置き始める、そんな組織になりつつあります。
 今私が心配するのは、標的にされた者に同情すると、次は自分に害が及ぶことを怖れ、見て見ぬ振りをする風潮が蔓延し、執行部同士の友情や人間関係が希薄になっていくことです。
 私は、これまで内部自治による組織の再生を目指してきましたが、人事権の濫用は増長するばかりです。私に対し行われてきた見せしめの処分を撤回させることで、日々活動に勤しんでいる執行部員や事務職員、現場組合員に勇気を与えたいと思い提訴することを決意しました。
この裁判が、組合民主化の一歩となり、以前のように笑顔の溢れる海員組合に戻るよう願ってやみません。』
 次回は7月1日(月)午前10時30分より、東京地裁619号法廷。
 現役執行部による提訴という、海員組合の歴史上重要な裁判が始まる。傍聴自由なので、多くの組合員、OBが傍聴して、「今何が起きているか」注視して欲しい。

北山氏「パワハラ裁判」勝訴
 北山元中執が本部勤務中の2012年3月に提訴した(個々の常任役員に対して提訴)、パワハラ裁判の判決が5月23日出され、組合側はまたも敗訴した。
 解雇無効の最高裁決定(10年3月)、降格処分無効・自宅待機無効の高裁判決(12年1月)の後、組合は同氏を専任部長として復職させたが、最初の勤務先である総務部では事務職員の下で組合員登録のパソコン作業をさせ、その後外航部では、来る日も来る日も外国のインターネット上の海賊情報の英文和訳という際限のない仕事をさせた。
 外航部では和訳結果の確認もせず、他方、必要な部分は他の職員に命じて和訳させていたという。
判決は、「本件外航部業務指示は、原告に対して必要性のない単純な作業を命ずるものであって、不当に精神的苦痛を与える」、「社会通念上著しく合理性を欠き、その裁量を逸脱濫用するものとして違法」と断定し、慰謝料80万円、弁護士費用8万円の計88万円を支払うよう命じた(請求は慰謝料200万円、弁護士費用30万円)。
 内訳は、藤澤元組合長に対して慰謝料5万円・弁護士費用5千円、松浦中執に対して同15万円・1万5千円、森田中執に対して同60万円・6万円で、大内・田中副組合長ら5名に対する請求は棄却した。
また、80万円の根拠として、外航部での業務指示分を60万円、3回の苦情申立を無視した分を20万円とした上で、総務部勤務時の苦情分を各5万円、外航部の苦情分を10万円と、一回毎の苦情に対する慰謝料も明確にした。
 判決の特徴は、①森田中執(当時)に対しては、不要な英文和訳をさせていると知りながら放置したことに加えて、苦情申立に対処しなかった点も不法行為として断罪したこと、②松浦中執に対しては更に踏み込んで、従業員規定に基づく苦情処理の責任者として、外航部だけでなく総務部の作業に関する苦情についても、回答や必要な措置を取らなかったことを違法としたことにある。
 裁判所は総務部での作業は違法行為に該当しないと認定したが、違法行為かどうかに関係なく、苦情申立には回答する義務があり、放置した場合は「不法行為を構成する」と判定したのである。
 従業員規定は、企業で言えば就業規則(労働基準法89条、労働契約法7条など)に該当し、そこに書かれている内容は雇い主と従業員との約束事である。従業員規定に基づく苦情申立を無視したことに対して、明確に断罪した点に判決の大きな意義がある。
 労働協約や就業規則を監視する立場にある労働組合は、企業にもまして就業規則を遵守する義務があり、違反した場合罰せられるのは当たり前と言える。
 この判決に対して、森田副組合長と松浦中執は控訴したそうだが、このような判決が次々と出されていることで、世間の海員組合に対する評価が低下していることが分からないのだろうか。
 なお藤澤元組合長は、中央執行委員会の責任者として、苦情処理に対して必要な措置を取らなかったことが問題とされたが、藤澤氏は組合長として責任を認め、控訴しなかったと伝えられている。

竹中の仮処分審査が結審
 昨年10月より、組合費の受取り拒否・離職登録の拒否・組合長選挙立候補届けを無視された私は、①組合員としての地位、②組合費を納入できる地位、③常任役員選挙に立候補しうる地位、を仮に確認することを求めて、12月に東京地裁に仮処分申立を行った。
 組合側は弁護士6人を付け、執行部を含め総勢10名近くが毎回出席した。裁判長は終始「話し合い解決」を模索し、6月3日の4回目の審査で再度組合に対して、「竹中さんの組合員資格を昨年秋に遡って認めるということで話し合い解決できないか」と進言。
 これに対し組合側松浦中執は、「前回と同じです。遡っては認められません。」と回答。この結果裁判官は和解を断念、7月18日までに決定が出されることになった。
 なお、請求内容の「③常任役員選挙に立候補しうる地位」は、①の組合員資格次第であることが明らかになったため取り下げた。


組合の主張要旨
 ○従来より、「60歳で定年退職した者は、組合規約9条C項4号の『廃業による除籍』により自動的に資格を失い、組合員登録から除籍される」扱いをしてきた。従って竹中は、昨年9月にB汽船を下船後、退職した日をもって自動的に除籍となった。
 ○それ以降組合員として認めなかった(組合費の受取り拒否、離職登録の拒否等々)のは、「年齢が63歳であり、組合員資格を持ち得ないことが明確であった上、債権者の希望する就職支援活動には組合員登録の必要が無かった」から。
 ○これまで竹中が60歳を超えても組合員であったのは、「中央執行委員会の裁量によって組合員資格を認めた」に過ぎない、等々。


竹中の主張要旨
 ○組合規約には年齢や定年退職で異なる扱いをする規定はなく、組合員は年齢に関わらず平等である。産別組織のため、退職や下船雇止により組合員資格を喪失させる規定になっていない。
 ○組合員は自ら脱退や廃業の意思表示をしない限り、年齢に関わらず、退職後3年間は組合費の失業自動免除により組合員籍がある。
 ○組合は、過去60歳以上で離職中の組合員に対して、多数就職あっせんをしてきた。今回の措置は、物言う組合員に対する排除であり前例のない扱いである、等々。
 併せて私は、組合規約・規則、海員や活動報告書、大地震の際に組合本部が発信した組合員リスト(60歳以上で離職中の組合員が多数掲載)、定年退職後3年以内に死亡した者に出された共済給付例、元執行部4名と現場組合員の陳述書、等を提出した。
 また、井出本榮元組合長と飯田忠光元執行部員には審査に同席し、組合規約上3年間は組合員としてきたこと、付属船員職業紹介所の業務内容、60歳以上の組合員を多数乗船斡旋したことなどを証言して頂いた。


 これに対し組合は、会社側が提出する異動通知の記入ミスや、コンピューターのデータ入力上のせいにして、要旨次のように弁解した。(注:債務者=組合)
 ○「本来、雇用主は、退職年齢前の退職と、退職年齢(60歳)後の退職(廃業)とを区別して債務者に通知しなければならない」、「廃業の通知を受けたデータ入力担当者(事務職員)は、除籍の登録をし、組合員資格を抹消する。しかし単に「退職」との通知を受けた債務者のデータ入力担当者は「退職」の登録を行う」
 この結果、「定年に達したために除籍されなければならない者が、債務者のコンピューターのデータ上、組合員資格が存続しているかのような外観が残存することになる。」
 ○60歳以上の定年退職者に死亡給付を支払ったのは、「本部のデータ上では組合員としての記録が残っていたため、担当支部の判断で支払がなされたものと推認される」
 ○毎年の活動報告書の表にある「離職組合員数」には、「組合員資格を有していた者も、資格を失った者も含まれる」等々。


他の訴訟の進行状況
①藤澤元組合長の処分無効裁判
昨年12月19日、藤澤元組合長が「統制処分の無効・組合長の地位確認と給料支払い・損害賠償金支払い・謝罪文の掲示」等を求めて東京地裁に提訴(本訴)。
2月と4月に公開弁論が行われた後、裁判長主導で進行協議に入った。次回7月7日も非公開の進行協議が行われる予定。

②一億円裁判
「北山ブログ」により誹謗中傷されたことにより、「組合員が離脱を考えたり、海事関係者が海員組合を侮蔑するようになった」として、13年6月海員組合が北山再雇用職員(当時)に対し、1億円の損害賠償を請求したもの。
 これまで6回の弁論が行われ、組合側はようやく1億円の内容と請求理由について明らかにした。それによれば、今年1月に横浜で起きた協和海運の組合員24名の脱退による組合費の収入減、不当労働行為救済申立やデモ行進の費用も1億円に含まれるとのこと。
今年起きた問題も、後付けで損害理由に入れるとは、まさに「何でもあり」の感を拭えない。
このほか、津軽海峡フェリーの不当労働行為審査の混乱・遅れもブログのせいにしているとのこと。
次回は7月7日(東京地裁415号法廷。13時15分)。今後徐々に立証の段階に入る見込み。


③再雇用拒否裁判
(北山元中執)


④再雇用拒否裁判
(A元執行部員)
2件とも労働審判で決着が付かず本訴に移行。現在東京地裁で書面による論争が行われている。
北山氏の再雇用拒否裁判は、次回7月11日13時10分より、東京地裁521号法廷。

⑤海員労組による不当労働行為申し立て
海員労組が昨年、東京都労働委員会に申し立てた件(海員組合が団体交渉に応じなかったことに対する救済申立)は、近く決定が出される予定とのこと。
また、その後の不誠実団交に対して、海員労組は自身の住所である石川県労働委員会に救済申立を行った。これに対して海員組合は、東京都労委に管轄を移すよう請求したが中労委は却下、海員労組のある石川県で審査が行われることになった。


以下次号。(6月10日)