ー裁判の経過と組合員の思い8ー

内航組合員・竹中正陽

 3月28日最高裁は、組合長選挙無効裁判および北山元中執の統制処分無効裁判について、共に上告を棄却する決定を下した。この結果、両裁判の高裁判決が確定した。


藤澤組合長 最高裁で当選が有効
 2010年11月の定期全国大会で、組合長に立候補しながら大会入場を阻止された北山元中執は翌年1月「組合長選挙無効、慰謝料支払い」を提訴。一審の東京地裁は12年1月、組合長の当選無効に加え、組合・藤澤組合長・大内副組合長の三者に金165万円の慰謝料等の支払いを命じていた。
 しかし昨年9月、東京高裁は一転して「当選有効」と判定し、今回最高裁もこれを追認した。
 理由は「全国大会の出席と常任役員選挙の立候補及びその選挙活動は関連しない」というもので、「全国委員でない執行部員は、中央執行委員会が認めた場合、大会に出席し(中略)発言することができる」という規約の表現を杓子定規に当てはめた形だ。
 平たく言えば、中央執行委員会は気に食わない執行部員を大会に出席させなくても構わない。そのことで選挙に不利になることはない、というのが高裁および最高裁の判断ということになる。
 しかし40年にわたり組合大会を見てきた私には、この判断は木を見て森を見ない、極めて近視眼的なものに見える。戒厳令さながらガードマンと人間の盾で北山元中執を排除した2008、2010年の大会は海員組合の歴史上の汚点として残るだろう。しかもそこに到る過程には、不当解雇、違法な降格があり、松山大会の「腐ったリンゴ発言」があった。
 10年の大会中も北山元中執は長期自宅待機中(裁判で違法が確定)で、大会に出席させない理由は何もなかったのである。
 「出席を認める認めないは中央執行委員会の判断次第」という考えは誤まりで、労働組合として、「出席させない正当な理由」があったかが問題とされなければならない。
 担当する会社が倒産、もしくは争議中で現場を離れることができないような場合、中執は堂々と「現場から離れるな」と命令することができるのである。
 このような全体状況と労働組合の正しいあり方からすれば、役員選挙は余りにも異常だった。
 それが組合員の実感であり、裁判所はそのような観点から判断しなければならないはずだ。裁判所はまだまだ遅れていると思う。
 高裁判決で「組合長の当選無効」と判断された場合、組合長不在の大会となることを恐れたのか?全国委員選挙の日程がいつのまにか前倒しされ、大会は1カ月早められた。結局振り回されたのは我々組合員ということになる。


最高裁、慰謝料支払を認定
 もう一つの争点である慰謝料について最高裁は、藤澤・大内両氏の共同不法行為を認め、計110万円の支払いを確定させた。(但し、一審が認定した組合の慰謝料支払義務は否定された。詳細は一昨年10月発行の本誌号外参照)。
 最高幹部が権力を利用して一執行部員(一組合員)に対して被害を与えたことが確定した以上、統制委員会は自ら判断して査問を開始しなければならないはずだ。それが組合自治というものである。
 この点、船員しんぶん6月5日号は「最高裁、組合自治を認める」と大きく書いているが(9頁の資料)、我田引水で的外れも甚だしい。
 裁判所は大会への入場拒否を「選挙の無効原因となるものではない」と判定したに過ぎず、現状が組合民主主義や組合自治に合致しているかは全く別問題なのである。「組合長選挙無効裁判、勝訴」と大見出しを打ちながら、敗訴部分は一切報道しないその姿勢。
 今まで組合費から払った慰謝料の額も明らかにせず、組合に損害与えたことの説明も謝罪もない。果たしてこれが組合自治、組合民主主義といえるのだろうか。
 船員しんぶんは、終始「北山等氏」の表現を使っているが、今も従業員として雇用し、指揮命令下で働かせている者に対して使う言葉ではない。外部から訴えられたのでなく、身内の従業員に対して違法行為を続けた結果、組合費に損害を与えたことを理解してないに違いない。


統制処分の無効が確定
 北山元中執の「組合員権無期限停止」の統制処分は、中執委からの告発に基づいて統制委員会で審議され、一昨年1月の全国評議会で決定した。同年11月の八戸大会で夜11時近くまで審議されたことは記憶に新しい。統制委員会は本人の査問すら行わず、大会でも代議員の要求を無視し、査問報告書を配布しないまま審議を行うという異常な運営だった。
 最高裁決定の結果、組合と中央執行委員全員が連帯して200万円の慰謝料を支払うことが確定し、船員しんぶんへの謝罪文掲載が命じられた(9頁参照)。ここで問題なのは、「お詫び」した8人の役員が、組合と組合員にどのような被害を与え、反省と責任をどう果たすかということだ。
 組合の損害は慰謝料だけではない。裁判費用、9人の弁護団費用、執行部や事務職員の人件費、統制委員会や全評・大会に要した費用。
 何より大きいのは、「余計な活動」に労力を割かれ、組合本来の活動を阻害された組合員の損害である。
 「お詫び」文章の中の、「関係者の皆様に対し、多大なご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」の「関係者」とは、組合員に他ならない。


統制委員会がすべきこと
 2つの最高裁決定を受けて、統制委員会がなすべきことが鮮明になった。具体的な処理として、
 ①北山元中執に対する統制処分の取消しを審議すること。
 ②「お詫び」した8人の常任役員に対する統制処分の審議。
 ③大会への入場を拒絶した件で、藤澤・大内氏の統制処分の審議。
 以上は、独立した機関である統制委員会が自ら実行しなければならない。最高裁決定はあくまで外部からの「強制」であり、組合自治の観点から、自ら正すべきは正すのが正常な姿だからである。
 最後に、統制委員会として、誤った決定を行った原因追及と責任を機関紙で公表すること。
 仮に全委員一致で処分勧告を決めたとすれば、松浦統制委員長だけでなく、他の統制委員も道義的責任は免れない。本人の査問すら行わないずさんな調査、誤った判断で組合員に大きな迷惑を掛けた以上、何らかの反省とケジメが必要である。最低限、各統制委員は自ら行った行為を反省し辞任しなければならないはずだ。
 そして新しい統制委員会は二度とこのようなことが起きないよう、判決で指摘された点を記録し、引き継いで行かなければならない。特に「査問のあり方」、「事理明白な場合」について、基準を持って置くことが必要だと思う。


パワハラ裁判
 一昨年1月「自宅待機命令無効」の高裁判決が出された後、組合は上告を断念し、給与差額と慰謝料計220万円を支払い、2月から北山元中執を専任部長として復職させた。しかし与えられた仕事は、先任事務職員の命令下でパソコン等の単純事務作業を繰り返す毎日であったという。
 その後移った外航部でも、交渉やミーティングから外された上に、挨拶や会話もろくにしてもらえず、毎日インターネット上の英文資料の和訳を際限なくさせられていた。
 中執委に訴えても改善されないため3月、パワハラ(役職を利用して精神的苦痛を与え権利を侵害した行為)の是正と慰謝料支払いを求めて東京地裁に提訴。来たる9月6日午前11時から夕刻まで、北山氏本人、森田副組合長、松浦中執、鈴木総務部長、浦外航部長(当時)の証人尋問が東京地裁703号で行われることになった。
 北山氏は一昨年8月に60才で退職した後再雇用され、現在呉海員会館の館長をしている。


岸本恵美さん裁判、和解決裂
 裁判長の薦めにより、昨年12月、1月、3月と常時15~20名の傍聴者が見守る中で和解協議が続けられた。組合側からは、田川・大熊・竹谷弁護士に加え、松浦総務局長、鈴木総務部長が出席した。
 岸本さんが出した和解案。
 1、休職処分の撤回、解雇の撤回。
 2、処分中のバックペイの支払い。
 3、本部事務職員に原職復帰し、元職であるJSSへ出向。その際以下を約束すること。
  ①復職後、同じ理由に基づく他の処分は一切行わないこと。
  ②身分は事務職員のままとし、先任事務職員や用務員にしないこと。
  ③原告だけでなく全ての事務職員について、本人の了解なく異動させないこと。異動に応じないことを理由に退職勧奨をしないこと。
  ④JSSでの勤務について、組合は原則として関与しないこと。
  ⑤他の従業員との賃金差別、労働強化その他の差別をしないこと。
  ⑥5月7日以降勤務開始とし、有給休暇日数残は40日とすること。
  ⑦本部会館内の行動の自由の承認
  ⑧従業員組合の設立ないし外部の組合への加入を承認し、団体交渉に誠実に応じること。
 4、組合は岸本に謝罪すること
 5、和解内容は公開とし、「船員しんぶん」や「海員」で組合員や従業員に知らせること。
 また、原職復帰が認められない場合は、3項の代わりに60歳までの年収相当額(約14年分)と、60歳で定年退職した場合に支払われる退職金満額を要求。
 これに対し組合は、「処分撤回とバックペイの支払いは応じるが、原職復帰前提の和解は断る。解雇が撤回された後原告が退職に応じるなら、将来分の賃金相当額を支払う」と回答し、将来分の賃金相当額として「基本給の16か月分の解職慰労金」を提示、謝罪や和解内容公開については何の回答もないという不誠実な態度だった。
 そのため岸本さんは直ちに組合提示を断った結果、和解協議は決裂となった。


宮脇元中執らが証言
 和解決裂後の4月12日、岸本さん本人、上司であった全日本海員福祉センター(JSS)福井常任理事、宮脇元常任理事(元中執)の証人尋問が行われた。
 福井氏は、都合の悪い質問には「記憶がない」を連発したものの、岸本さんの仕事振りは有能でテキパキと仕事をこなしていたこと、業務上の問題は何もなかったこと、
 業務に支障がない限り私的なインターネットを容認していたことなどを正直に証言。自身もヤフーを使っていたと述べ、ヤフーの使用自体を不正アクセスとする組合側の主張を覆す格好になった。
 クリックログ自体を今初めて見たこと、組合から岸本さんのパソコン使用状況を聞かれたことがないことも証言。組合はJSSから何も聞き取り調査をしないで処分したことが分かった。
 宮脇元常任理事も同様に、岸本さんは仕事を確実に行い何の問題もなかったこと、空いた時間にインターネットを見ることを容認していたこと、組合の情報関係管理基準はJSSには適用されず、JSS独自の就業規則があることなどをはっきりと証言。パソコンはJSSの備品であり、JSSの了解なしにクリックログを収集し処分したことに不快感を表明した。
 また苦情申立てを無視したことは従業員規定に反すること、パソコンの私的利用を証明する資料や本人の弁明資料がない中央執行委員会の議事進行は、以前では考えられないと証言した。
 岸本さんは、函館転勤命令が出される前に、鈴木総務部長や松浦局長から呼び出しを受け「1千万円は下らない背任行為」を詰問されたこと。組合側の証拠には事実と異なる偽造があること。ご主人も同行して苦情申立てをしたが受領を拒否され館外に追い出されたこと。労働審判で勝利した後も、組合を訪れ復職を求めたが拒絶されて解雇されたこと、などを証言。
 パソコンについては、手空きの時間にインターネットを見ることは認められていたこと。組合が提出したクリックログには、受講先の調査や受講者の交通費清算のため交通機関のホームページ閲覧など業務関係も含まれていること。
 育児休暇中、派遣の人が岸本さんのパソコンを使っていた間のクリックログにも私的利用時間が多数存在することなどを証言した。この結果、処分は何ら精密に調査されたものでなく、本人の聴取すらない荒っぽいものであることが明らかになった。
 裁判は7月5日に結審、秋口には判決が予想される。


組合従業員の賞罰規定新設
 今年4月より、組合従業員規定に「賞罰規定」が新設され、懲戒解雇、論旨解雇、降格、出勤停止、減給、戒告の6種類の懲戒処分が規定された。
 懲戒解雇・論旨解雇の理由として、統制処分、金銭や物品窃取に始まり、パソコンの私的利用や飲酒運転による傷害に到るまで27項目が規定され、その詳細さには経団連も驚くほどだ。
 一例を上げると次の通り。
 *所属の長の再三の注意にも関わらず、職務怠慢により組合員に著しく迷惑をかけたり、組合の業務に大きく支障を与えた場合
 *組合の重大な秘密、又は情報を組合外に漏らし、あるいは漏らそうとし、又は組合及び他社の重大な秘密を不正に入手した場合、又は、組合の運営に関し、真相を歪曲して宣伝流布を行い、又は組合に対して不当な誹謗中傷を行うことにより、組合の名誉・信用を毀損し、又は組合に損害を与えた場合
同様に、降格・出勤停止・減給・戒告も26項目が詳しく規定されている。「許可なく業務外の目的で組合の文書、写真、図面、帳簿等を閲覧転写または転記した場合」「組織外非行行為により組織秩序が乱れた場合」などは、こじつければ誰にでも当てはまりかねない。職員が窒息してしまう程の独裁体制が進行しているように見える。
 新設された賞罰規定は、組合長以下の全役職員、従って執行部、海上技術部員、事務職員はもちろん、再雇用職員や用務員にも適用される。


再雇用職員規定の「改悪」
 昨年4月、組合の再雇用職員に関する規定が変更された。
 その内容は、①単身赴任手当の廃止、②従来全評で承認されてきた率による期末手当(いわゆる年間臨手)を、勤務先の支給状況等により個人ごとに支給の有無を雇用契約時に決定する方式に変更。
 この結果、出向先などの違いにより、期末手当の出る人と出ない人が生じることになった。
 更に、今年4月より賃金体系の大幅な変更(賃下げ)が行われた。従来執行部員は、最初の2年間は60歳退職時の基本給・執行部手当・役職手当の8割、次の2年間は7割、それ以降は6割であった。
 それを、①支給総額を新任執行部員タリフ(標令20歳の額)・事務職員タリフ(標令18歳の額)とする。②組合住宅の貸与もしくは賃貸住居補填の廃止。③単身者の帰省旅費の廃止などである。この結果、再雇用職員の年収は激減することになった。
 この「改悪」により、今後再雇用を継続する職員が減るのは目に見えている。高齢者雇用安定法が今春改定されたが、その骨抜きを企む経団連も喜ぶに違いない。
 我々組合員にとって、これ以上訴訟が増え、組織の混乱が続くことは耐えられない。組合の主人公は組合員である以上、賞罰規定の新設も、給与規定の変更も、組合員へ報告して判断を仰ぐべき問題であると思う。


「海員労組」の結成
 懲戒規定の新設や再雇用職員規定の大幅改悪、近年の従業員に対する異常な人事発令を背景に、4月18日に「全日本海員組合従業員労働組合」が結成された。
 結成趣意書によれば「私たちは、従業員としての権利と生活守る闘いを通じて、全日本海員組合の再生を目指します。」とされ、北山等組合長が就任している。
 早速、再雇用職員の契約更新拒否の撤回を求めて団体交渉を要求。これに応じない組合に対し、東京都労働委員会に不当労働行為の申立てを行い、近く調査が開始される。また、東京地裁に労働審判を申立てたとのことである。

 藤澤組合長に対して副組合長らが辞任を要求し、これに応じない藤澤氏を中央執行委員会が統制委員会に告発したとのことである。告発があったことや統制委員会の進行状況は全評でも報告されず、今のところ伝聞の域を出ていない。
 仮にそれが事実とすれば、相変わらず組合員不在の権力闘争が続いていることになる。
もはや幹部の自浄能力は期待できず、組合員が立ち上がるしか道は残されていないように見える。
(次号に続く)