ー続・裁判の経過と組合員の思い2-

全国委員・竹中正陽(まさはる)

 前号で、近年の海員組合の状況について、「長期間続いている重苦しい雰囲気に終止符が打たれ、組合が一日も早く本来の活動にまい進するよう願う」と記した。しかし事態は一向に改善されず、泥沼に向かっているように見える。
 昨年11月の組合大会で私は、「こういう争いを、2度と見たくない。執行部は度量をもって事に当たってほしい」と述べた。
 その思いもむなしく、海員1月号(大会特集号)では、大会の会場運営や裁判に関して、本部のやり方を批判する発言は全て跡形も無くカットされた。私は初日に4回発言したが、掲載されたのは1つだけ。他の代議員の多数の発言も、関連する本部答弁もカットされ、質疑自体が存在しなかったように「編集」されている。
 また今年から、発言した代議員の名前は全て伏せられた。その一方で、本部答弁は実名入りで詳細に記録されている。
 この様な「編集」も組合民主主義なのだろうか。現場代議員の発言は、たとえ耳の痛いものであっても事実は事実として伝える。それが組合民主主義であり、「現場に軸足」の精神のはずである。


「腐ったリンゴ」判決
 一昨年の松山大会で、大内副組合長が行った「腐ったリンゴ」発言は前号で紹介した。 要約すると、 『太平洋汽船担当の北山氏は、会社とグルになって竹中議員を解雇しようとした。日正汽船のエージェンシーショップ問題でも、会社との約束を破って業界紙の記者に漏らし、会社は被害を被った。この発言が嘘だと名誉棄損で訴えるなら受けて立つ。もっと汚いことをやった。リンゴが腐った、腐りかけから周りを腐らすガスが出る。彼はそういう人間。』
 これら全評・大会での一連の発言を名誉毀損として、昨年3月、北山元中執は藤澤組合長と大内副組合長を東京地裁に提訴した。
 私は自分の解雇の裏に何があったのか知るために、北山・大内両氏の証人尋問を聞きに行った。
「そういった事実は一切ない」と証言する北山氏に対し、大内氏は「北山氏から電話で呼び出され、料理屋に出かけると会社専務がいて接待を受けた」と証言。
 料理屋の場所や会話の内容を聞かれると、「記憶にございません」「忘れました」を連発し、専務と北山氏がグルになった件は、具体的な話はなく、「その場の雰囲気でそう思った」とのこと。
 接待の時期も、自身が関東支部に転勤した直後の平成5年春(解雇の2年後)と大内氏は証言。「時期があわない。解雇当時北山氏は名古屋支部長。解雇に関与できるわけがない」と矛盾を突かれた大内氏は、「北山氏は解雇には関与しなかったが、解雇の後に関与した」と主旨を変えてしまった。
 エージェンシーショップを業界紙の記者に漏らしたという件も、「直感的にそう思った」と証言。
想像の世界のような話を、大会の場でよくも堂々と言えたものだと私は感心した。
 本年3月4日、東京地裁が大内氏の発言を名誉毀損と断定し、慰謝料120万円を命じたのも当然と思う。判決は藤澤組合長に対する請求は棄却した。


他の裁判経過
 08年大会へ入場を拒否され、役員立候補も無効とされた件で東京地裁は、北山氏の請求を認め、組合・藤澤組合長・大内副組合長の3者に対して計165万円の支払いを命ずる判決を昨年10月27日に出した(3者が高裁に控訴し、現在も係属中)。
 また、昨年の大会に際して、「出席を拒絶してはならない」旨の仮処分命令が、大会前の11月5日に出されたが、組合は命令に従わず、入場を阻止したのは大会論議にもあった通りである。
 北山氏による提訴は、前記2つの裁判(08年大会と腐ったリンゴ裁判)に加え、昨年7月に提訴した執行部員としての地位確認・自宅待機無効等を求める裁判、今年1月に提訴した、作年の大会出席拒否に関する損害賠償・組合長選挙無効を求める裁判、の計4つが現在も係属中である。
 また、藤澤・大内両氏が、昨年12月に提訴したプライバシー侵害裁判(両氏の住所が書かれている判決文を、北山氏がブログに掲載したことによる)も地裁で進行中とのことである。
 他方、前号で紹介した名誉毀損裁判(井出本前組合長、柳田元総務部長、川島元組織対策室員に対して、組合・組合長・執行部員等15名が、名誉毀損による損害賠償を請求した件)は昨年11月18日、東京高裁で判決が出され、井出本氏等の控訴が棄却された。
 この結果、組合および原告16名に対して、計126万円を支払うよう命じた地裁判決が確定した。
 井出本氏等が、作成・メール送信・配布した文章も、「創価学会が他の宗教を認めない排他的な宗教団体(カルト)である旨の意見ないし論評を表明し、‥‥創価学会が、原告組合の巨額の資産を取得することを目的として原告組合の役職員等を独占しつつあるとの事実を摘示するものであり、‥‥原告組合が排他的な宗教団体(カルト)に組織を乗っ取られつつあるとの印象を与えるものであって、原告らの社会的評価を低下させるもの」(地裁判決より抜粋)で、名誉毀損に当たることが確定した。(裁判の内容は、筆者が裁判所で記録を閲覧して要約した)


新たな統制処分
 北山氏の罪状は終始一貫せず、移り変わっているように見える。3年前の解雇当初は、「懲戒解雇」でなく、「普通解雇」であった。
 その後、「組合役員を誹謗中傷する怪文書の配布」等が解雇理由とされ、次に出てきたのが一昨年大会の「腐ったリンゴ」発言である。
 リンゴ発言が事実とすれば、遠の昔に北山氏は統制処分されていなければならないはずだ。しかし、何ら問題にされず、解雇理由にすら挙げられなかった。
 ところが、今回また別の理由により、「組合員権利の無期限停止処分」が去る1月21日の全国評議会で決定された。
 新たな罪状は、「現場組合員の未払労働債権の取り扱いに関連して、中央魚類株式会社と本組合との間で争われた裁判において、会社側に味方して資料提供を行ったというあるまじき背任行為」(1月25日付船員しんぶん)というもの。
 しかし、提供したとされる資料や裁判の詳しい内容は、一般組合員に報告されていない。私には中央魚類の名前も、裁判の存在自体も初耳であった。
 北山氏のブログによれば、統制委員会で本人の喚問は行われておらず、資料の内容も知らされてないという。
 組合規約には、「統制委員会は、統制違反や組合員の権利侵害にかかる事件について調査審問を行い」「組合のどの機関からも独立して任務を行い」(規約107条)、「事理が明白で当人の喚問を必要としない場合を除き、審問には告発された当人を1回以上喚問する」(108条)とある。
 統制委員会は「査問報告書」を作成し勧告を行うのみで、処分の決定は全国評議会が行うことが規定されている(中執の人事権に基づく、単なる解雇処分とは根本的に異なる)。また、当人が希望すれば全評の場で弁明の機会が与えられ、決定に不服の場合は大会に抗告できるようになっている。
 私の知る限り、「事理が明白で当人の喚問を必要としない場合」とは、ピストル密輸で逮捕され、本人が罪を認めたり、刑事罰が明らかな場合、などに限られている。
 組合幹部リコール運動の時も、統制委員会は事実関係を正確に把握するため、何度も喚問を行い、査問報告書を本人に渡した上で、弁明の機会を与えたという。
 今回、当人の喚問を1度もしなかったとすれば、統制委員会のメンバーはなぜクロと判断できたのか疑問だ。また、弁明の前に査問報告書を当人に示さなかったとすれば、組合員の弁明権を損なうことになり、規約違反であろう。
 さらに言えば、なぜ「組合員権停止処分」なのか。仮に、船主側に有利な証拠を提供し、組合員に損害を与えたとすれば、「除名処分」に値するはずだ。処分の手続きにおいても、内容においても、不可解という他はない。
 統制委員会や全評に選ばれている現場代表は、どのような意思で勧告や決定をしたのだろうか。


頻発する降格人事
 昨年の大会以後、驚くような人事が頻発している。
 大阪支部長は根室事務所に異動となり、1ヵ月後に執行部員に降格された。従来女子事務職員1人が勤務していた根室で、何か特別な任務があるのだろうか。
 また、北陸支部長は九州関門の執行部員に、本部広報室長代行、外航部副部長補、中国代表部代表も執行部員に降格。中には3階級下がった結果、月給が7万円近くダウンした人もいるという。
 「降格の理由を本人に説明したのか。彼らが何か悪いことや大きな失敗をしたのか。理由を教えて欲しい」と、2月の国内部委員会で代議員が質問したところ、「人事は適材適所でやっている」の一言、 具体的な理由は何も説明されなかった。「適材適所」であれば、降格する必要は何もないはずだ。
 事務職員の人事でも、勤続10年になる、外航部の先任事務職員が、今年1月、事務職員に降格された。税込み33万円強の月給が25万円以下になり、妻子をかかえ、いたたまれずに退職したという。


女子事務職員が提訴
 組合本部の女性事務職員・岸本恵美さんに対して、4月1日に函館へ転勤する人事が出された。
 事前の打診や内示もなく、一方的に発令された上に、老いた両親、幼稚園の子供という家庭状況から、とうてい転勤できないとのこと。
 従業員規定による苦情申立書の受領も拒否され、3月24日、東京地裁に地位保全の仮処分裁判を提訴、現在審理中にあるという。
 これまで本部事務職員は、遠くてもせいぜい関東支部、外部団体に出る場合も東京都内の通勤圏内に限られていたはずだ。突然、なぜこのような冷徹な人事が出されるのか理解に苦しむ。
 外航の組合員は20年ほど前に緊急雇用対策を経験した。
 当時私の所属する会社は、乗組員に対して原発などへ出向命令を次々と出した。一旦行ったら中々帰れず、行かなければ責められる。結局沢山の仲間が退職して行った。
 当時の会社でも、一応は本人に説明して同意を得る努力をしたし、協約に基づき組合へ苦情申し立てすれば、最終的には本人の意向を尊重したものだ。
 組合は緊雇対を「2度とあってはならない」と総括している。当時私達が受けたものと同様の苦痛を、今組合職員に味あわせてよいはずがない。
 転勤命令の一方で、昨年4月に8名、今年4月に10名もの職員が採用されているのも解せない。


職員も未組織労働者
 組合職員もまた労働者、しかも未組織労働者であることが、忘れられているように思う。
 裁判の結果以前の問題として、従業員の権利、働く者の権利が組合内でどう保障されているのか、という問題が根底にある。
 執行部を含め総従業員数250人。職員だけでも百人以上の本組合に、(執行部は別としても)これまで職員組合の話が出なかったこと自体、不思議でもある。
 組合職員もまた労基法上の労働者であり、労働3権はすべて保障されなければならないはずだ。
 労働組合がない以上、従業員規定に則った苦情申立、不服の場合の苦情再申立というルールはなおさら尊重されなければならない。
 組合内で苦情申立のルールを容易に活用できるようにし、回答に不服の場合は、勤務したままで、訴訟もしくは個別労使紛争のあっせん申請等ができるような規定が必要ではないか。それが近代的な労使関係につながると思う。


竹中の苦情申立却下
 私は、昨年外航会社を定年退職した後、組合に離職登録して、本部の船員職業紹介所のあっせんで内航船に乗船した。1隻限りでなく、継続乗船可能の契約だった。
 生まれて初めての内航船は、朝入港、午後出港のRORO船で、ワッチワッチと停泊作業の連続で本当にしんどく、腹回りが見る見るうちに細くなった。
 ようやく内航の生活に慣れ、会社も私を認めてくれて、次の乗船の話も出た頃、突如下船命令が来た。「配乗の都合上」としか言わず、口を閉ざす会社部長。一瞬何が起きたのか分からなかったが、すぐに合点がいった。
 本船には就航以来、船内委員長がいないので、私は全乗組員の了解の下、組合支部に船内委員長の申請をしたのはわずか4日前のことだ。このことは会社部長にも報告し、了解を得ていた。
 突然の下船命令に疑問を感じて支部長に電話したところ、「定年退職者の乗船は協約に抵触する。当社の現状は協約上問題があるので、若い人を採用するよう会社に申し入れた。」とのこと。しかし、それは表向きの理由に過ぎず、船内での活動や大会に出席することを嫌ったのではないかと思う。
組 合本部のあっせんで乗船したのに、なぜこの様な形で下船させられ、次の乗船も白紙にされなければならないのか。
 私は支部長の措置に対して、本部に苦情申立てたが、本部は、「担当支部の対応は・・・・担当支部との協定の無い中での臨時雇用船員の配乗は看過できないとの認識に基づくもの」と、支部長の対応は当然であるとした。
 組合から下船させられたも同然のような回答に対して、大会後の全評に再度苦情を申し立てた。しかし、中身の論議もせずに、取り上げるか却下するかの採決に付され、却下されてしまった。
 傍聴席から見る限り数は微妙だったが、議長は挙手を数えることもなく、すぐさま「多数により却下」と宣言。本人の発言を一切認めず、全国委員としての発言も許可されず、「傍聴者の発言は認めない」の一点張りだった。
 このようなやり方は、今までの組合ではありえないことだ。


おわりに
 内航の若者不足は深刻で、高齢者が乗らなければ船が止まってしまうのが実情だ。私の乗船中も、定員10人のところ60歳以上が常時3~4人いた。30~40代の働き盛りが少なく、最高齢は71才。私などまだ若い方(?)で、未組織からの高齢派遣船員もいた。
 こうした内航の現実を組合はどう考えているのか。杓子定規な対応では、今後も未組織船員が増えるばかりだ。
 「協約に抵触する」と言いながら、他方で、組合費を徴収し続け、高齢者の存在を「黙認」している現状。高齢者といえども、継続乗船しているレッキとした組合員なのだから、早急に、嘱託制度などの協定を結び、協約上「公認」しなければならないはずだ。
 組合を見続けて40年、今日ほど異常な事態が続くことは、かってない。組合の外では、組合自治の精神を忘れたかのように繰り返される訴訟。内では人事権を盾にしての処分や人事発令。
 私に対する理不尽なやり方も、それと無縁ではなく、根は底辺でつながっているように見える。
 組合はどこに向かっていくのか。産別組織の良き伝統が、音を立てて崩れつつあるのを肌で感じる。このままでは近い将来、内部から崩壊しかねない。
 組合が一日も早く本来の姿を取り戻すよう、現場組合員、執行部員が声を上げるよう切に望む。


(2011年4月)