― 裁判の経過と組合員の思い 23 ― 

内航組合員 竹中 正陽(まさはる)

◯東京地裁、組合長個人の不法行為を認定

「森田組合長は、海員労組に賠償金を支払え」

海員従業員労組(海員労組)が「代表者である北山組合長が再雇用を拒否されたことにより兵糧責めに合い、また従業員が委縮するなど、組合活動上の損害を受けた」として海員組合・森田組合長・田中副組合長の3者を訴えた裁判で、2月9日東京地裁は、3者による不法行為を認定し、森田組合長個人に対して計11万円の支払いを命じた。
定年退職後、再雇用職員として呉海員会館の館長を勤めていた北山元中執は就任の1年後に再雇用を拒否(=解雇)されたが、高裁勝訴判決と石川県地労委命令を得て2016年10月に復職した。
しかし、その後も海員労組に対する差別・嫌がらせが止まないため、損害賠償を求めていたもの。
ところが、奇妙なことに、判決は3者の共同不法行為を認めながら、田中副組合長と海員組合に対しては、賠償金の支払いを免除した。その理由は「以前の裁判で、田中副組合長が交渉委員長として団交に出席した際の発言内容・態度が、不当労働行為かつ賠償金支払いに相当する不法行為であると認定されて確定し、既に賠償金の支払いが済んでいる」というもの。(本誌20・21号参照)

「2つの裁判は同内容であり、田中副組合長と海員組合は既に賠償金を支払い済みなので、2度払う必要はない」という理屈だ。
この判決に対し、田中副組合長と海員組合は受け入れたが、森田組合長は「組織として意思決定を行ったもので、個人に責任はない」として東京高裁に控訴した。
海員労組も、「前の裁判は団体交渉における不誠実な対応に関するもの。この裁判は組合長に対する直接の弾圧で、不法行為の性質や態様、及ぼす影響が異なる」等として控訴した。
5月22日、東京高裁で第1回の控訴審が開かれ、双方が書面を出した後に即日結審。判決が出されることになった。
◆判決:7月17日午後1時30分 東京高裁812号法廷

◯海員組合の4件目の不当労働行為・中労委審査が結審

海員組合は2013年4月に突如従業員規定を改悪し、懲戒解雇等の賞罰規定を新設した上、退職手当規定も改悪して、退職手当を支払わないケースを記した条文を新設した。(退職手当不支給の最初の該当者が、統制処分で失職した藤澤元組合長だった。同氏が処分無効の裁判を起こした結果、組合は退職手当を支払った。)
同時に、従来の再雇用職員を廃止し、「継続雇用職員規定」を新設。月給額や期末手当(=夏冬のボーナス)の有無を個人ごとの契約とし、合意しない場合の更新打ち切りや解雇条項を新設した。
これに対し、海員労組は、改悪された規定の撤回や、労基署への届出を求めて交渉を開始したが、海員組合は拒否。理由の説明もしなかったため、石川県地労委により不当労働行為と認定された。
昨年6月に第1回調査が行われて以降、地労委命令の内容や、海員労組側が追加で申し立てた内容を巡って論争が続けられてきた。
途中、海員労組が森田組合長と田中副組合長が証人に出るよう申請したが、海員組合側が拒否したため証人尋問は行われず、書面による論争だけで、5月24日の第6回調査で結審した。命令日は未定。

◯東京地裁判決、大倉元執行部員が勝訴
「海員組合の新規定は労働契約法違反」

5月31日、東京地裁が、また海員組合敗訴の判決を出した。大倉実元執行部員(元関西地方支部副支部長・博多海員会館館長)が、再雇用職員に対する給料減額や、継続雇用職員規定を新設して期末手当不支給としたことは違法、給料減額分・期末手当未払い分・慰謝料の支払いを求めた裁判で、東京地裁は、新規定を違法として総額約400万円の期末手当の支払いを命じた。
判決は、「東日本大震災で組合費収入が減り、復興のため支出が増加した財政悪化が理由」という海員組合の主張を一蹴し、次のように判定した。『正規職員及び役員の待遇を上げる一方で、再雇用職員のみに不利益を課すべき合理的理由は見出し難い。さらに、本件新期末手当規定の施行後にも、原告以外の再雇用職員について、被告が期末手当を支給していた例があるところ、その合理的な根拠もうかがうことができない。』したがって、新規定は『労働契約法7条本文に規定する合理的な労働条件が定められているものということはできない』とし、労働契約法7条違反と断定した。
財政悪化と言いながら、自分たちの給料は毎年上げる一方で、再雇用職員に対する規定を改悪し、減給した役員を断罪したものだ。
そして、『本件新期末手当規定を定めた本件改定自体がその効力を否定されるべきもの』で、『労働契約法第12条の規定により無効』。従って、旧規定に基づいて、全員一律に期末手当を支払うべきとした。
さらに、65歳になった2016年10月で雇用を打ち切った後の、12月の期末手当についても、「12月1日に在籍していないので払う必要はない」とする海員組合の主張を従業員規定違反として退け、支払うよう命じた。

◆労働契約法7条(労働契約の成立)本文
「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする」

◆労働契約法12条(就業規則違反の労働契約)
「就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による」

また、判決には、同じ仕事の再雇用職員でも、期末手当が支給される者とされない者がいること。契約書に「期末手当ナシ」と書かれていても支給した例、抗議して争う姿勢を見せた者に支給した例など、デタラメとしか言いようがない実態が書かれている。これらも合理的根拠ナシと断罪された。
自分たちの賃金は5年連続して上げる一方で、弱い立場にある再雇用職員の賃下げを行い、かつ、同じ立場の職員でも従順な者は優遇し、そうでない者は差別する。
労働組合の役員として恥を知らなければならない。
通常、未払給与の遅延利息は民法の5%と聞いていたが、賃金確定法の遅延利息上限の14・6%を命じられたのも分かる気がする。
そのほか、大倉元執行部員が、鈴木順三総務部長の求めに応じて、「期末手当ナシ」の契約書にサインをしたことについても、「サインは自由な意思と認められない」と判定するなど、注目すべき判決となっているが、詳細は次号に。

他に、海員労組が申し立てた3件の不当労働行為審査が進行中。

◯組合従業員の時間外手当等に関する規定改訂の説明拒否
7月12日10時半、中労委調査

◯海員労組組合員への雇用差別
7月12日15時、都労委調査

◯「臨時職員」の労働条件等に関する説明拒否・不誠実団交
鈴木総務部長の証人尋問が終了し、6月4日に結審の予定。

(詳細は次号)