「内航未来創造プラン」への意見を募集します(編集部)

本年6月29日、国土交通省海事局内に設置された「内航海運の活性化に向けた今後の方向性検討会」から、「内航未来創造プラン~たくましく日本を支え進化する~」が発表された。
「プラン」は、『おおむね10年を見据えた』内航海運政策の具体的指針とされている。本誌は、その重要性に鑑み、今後読者の皆さんと意見を出し合い、内航船員が直面する問題を掘り起こし、解決策を共に考えたいと思います。
今号では、プランの内容、策定に至る経過等を紹介するので、皆さんの積極的な意見、感想を寄せて下さるようお願いします。

Ⅰ プラン策定の経緯
 検討会は、『我が国産業を支える内航海運の生産性を高め、高品質なサービスを持続的に提供するため、中長期的視野に立った新たな内航ビジョン策定』を目的として昨年4月、海事局内航課内に立ち上げられた。4月から3回の会合を開いて7月に中間とりまとめを発表し、その後5回の会合を開き、今回最終プランを発表したもの。
 竹内健蔵東京女子大学教授を座長とし、大学教授2名、金融機関・造船工業会・鉄道運輸機構の役員各1名、内航船主団体役員6名、荷主団体役員4名、海員組合の平岡国内局長の計16名の委員、7名のオブザーバー(うち6名が中央官庁の役人)で構成されている。
 検討会設置に先立ち、国土交通大臣の諮問機関である交通政策審議会・海事分科会基本政策部会は、「海洋立国日本の前進に向けた今後の海事行政の目指す方向2015」をH26年6月にとりまとめ、発表した。
それは、『今後、海事行政が目指すべき方向や取組について、海事行政の全体にわたる羅針盤として示すべく』作成されたもので、中長期の海運・船員政策立案に向けた基本的考えを示している。
 「プラン」は、その大筋に基づいて、内航海運の具体的政策指針を検討したものであるため、最初に同とりまとめを紹介する。
 「とりまとめ」は国土交通省HP→海事→審議会・報告書等で、「プラン」は海事→報道発表資料の6月30日分で印刷可能です。

Ⅱ 海事分科会基本政策部会の「とりまとめ」
基本政策部会は、「検討会」座長の竹内健蔵教授や野川忍明治大学法科大学院教授など4名の大学教授と政治解説者・篠原文也氏の計5名の委員と9名の臨時委員(大学教授など学識経験者7名、三菱
商事役員1名、ジャーナリスト1名)で構成され、船主団体や海員組合などの海事関係者は含まれていない。
概要は次の通り(A4版44頁)。

1.「とりまとめ」の概要
「我が国経済や国民生活を支える基盤となるサービスの機能を引き続き発揮」し、「海事クラスターの強化や海事産業自体が成長産業 となることを通じて経済再生や地方創生に貢献」することで、「海洋立国日本を前進」させることを使命とする。そして、「目指すべき方向と必要な取組」として、以下の9点を掲げる。
①安定的な国際海上輸送の確保
②内航海運・内航フェリーの活性化
③使いやすい地域公共交通の実現④優れた船舶の供給を通じた造船業の「稼ぐ力」強化
⑤観光立国の推進
⑥海洋開発の推進
⑦航行の安全確保、環境負荷低減、
防災・減災、IT技術の活用
⑧海運・造船分野での人材の活躍⑨海に対する国民の理解と関心の醸成

2.船員に関する項目(抜粋)
①安定的な国際海上輸送の確保
〈国際競争力を強化し、海上交通の要衝を押さえる〉
*トン数標準税制等による日本商船隊の国際競争力強化と日本籍船の増加
*パナマ運河、シェールガス輸送、北極海航路等の輸送ルートの新たな展開への対応
*カボタージュ制度維持、など
②内航海運・内航フェリーの活性化
*モーダルシフトの推進(船舶の大型化・省エネ化やパートナーシップによる積荷の集約化の推進など)
*船舶・船員の高齢化の克服(共有建造制度や税制上の支援措置による代替建造の促進など)
*経営基盤の強化(グループ化や集約化など)
⑧海運・造船分野での人材の活躍
〈待ったなしの人材確保〉
*内航船員の供給体制の強化(船員教育機関の定員拡大、民間短期養成制度の拡充等による就業ルートの拡大、教育の高度化等)
*外航船員の供給体制の強化(トン数標準税制等による支援。船員供給国との戦略的な政策対話の実施による外国人船員の安定的な確保など)

Ⅲ プラン作成の考え方
1.海事局内航課の基本認識
 基本政策を基に検討会が立ち上げられた。検討会をリードした海事局内航課の基本認識は次の通り。
 『内航海運は国内物流の約4割、産業基礎物資輸送の約8割を担う、我が国の経済活動と国民生活を支える大動脈ですが、船舶と船員の2つの高齢化、中小事業者が99・7%を占める脆弱な経営基盤への対応など、様々な課題を抱えている状況にあります。
 こうした中、国土交通省においては、石井国土交通大臣が陣頭に立ち、本年3月に「生産性革命本部」が立ち上げられたところです。
 我が国の経済活動と国民生活を支える内航海運においても、我が国の産業全体を物流から着実に支えていくとの視点に立ち、事業のあり方を見つめ直し、あらゆる面からの改革に取組むことが必要と考えています。このため、中長期的視野に立った新たな内航ビジョン策定を目指し、(中略)今後の内航海運のあり方についての具体的な方策を検討する。』

2.中間とりまとめの概要
「早急に着手すべき取組」として、5点を掲げている。
1.産業構造強化
内航海運業界や市場の姿を正  確かつ客観的にとらえるための実態調査を実施。
2.船員確保・育成
船員派遣制度を活用した事業者間連携の促進、事業者への支援を検討。
3.船舶建造
既存の省エネ技術を活用した船舶等への代替建造促進のための支援方策を検討。
4.業務効率化
業務効率化・コスト削減に効果的な設備等の導入促進に向けた支援方策を検討。
5.需要獲得
新規荷主が利用しやすいよう、
RORO船・コンテナ船とフェリーの業界横断の連携体制・一括情報提供サイトの構築を検討。

Ⅳ「未来創造プラン」の内容
1.プランの要旨
プランはA4版59頁から成り、目次の要旨は次の通り。

『Ⅰ 内航海運の現状
1.内航海運の果たしている役割
2.近年の内航海運に関する諸状況の変化
3.内航海運事業者の現下の状況
4.今後の輸送需要の見込み
Ⅱ 内航海運の目指すべき将来像と今後の内航海運政策の基本的な方向性等
1.内航海運の課題等
2.内航海運の目指すべき将来と今後の内航海運政策の基本的な方向性
(1)今後概ね10年を見据えた内航海運の目指すべき将来像
「安定的輸送の確保」、「生産性向上」
(2)今後の内航海運政策の方向性
(3)施策の効果の検証・評価のため
の指標の設定について
①「安定的輸送の確保」に係る指標、②「生産性向上」に係る指標
Ⅲ 今後取り組むべき具体的施策
1.内航海運事業者の事業基盤の強化
(1)船舶管理会社の活用促進
(2)荷主企業・内航海運事業者等間の連携による取組強化
(3)新たな輸送需要の掘り起こし
(4)港湾インフラの改善・港湾における物流ネットワーク機能の強化等
2.先進的な船舶等の開発・普及
(1)IoT技術を活用した船舶の開発・普及
(2)円滑な代替建造の支援
(3)船舶の省エネ化・省CO2化の推進
(4)造船業の生産性向上
3.船員の安定的・効果的な確保・育成
(1)高等海技教育の実現に向けた船員教育体制の抜本的改革
(2)船員のための魅力ある職場づくり
(3)働き方改革による生産性向上
4.その他の課題への対応
(1)内航海運暫定措置事業の現状と今後の見通し等を踏まえた対応(2)船舶の燃料油に含まれる硫黄
 分の濃度規制への対応、
(3)海事思想の普及 』

2.プランの特徴
 業界対策として、「船員や船舶の高齢化といった構造的問題」に対処するため、荷主・オペレーター・オーナー・行政からなる「安定・効率輸送協議会」を設置し定期的に協議する。
 国交省に船舶管理会社の登録制度を創設し、船員雇用・配乗管理に活用を計る。また、船員派遣会社の認可要件を緩和して参入し易くし、派遣会社の2割増を計る。
 船員関係では、「目指すべき将来像」に、「生産性向上」を強調。
『船舶や船員等の内航海運の生産手段の能力を最大限発揮させ、輸送量を最大化することを目指す。』とし、「政策の方向性」として、『将来の自動運航化のための技術開発を進めるに当たっては、甲板部の当直の体制を2人体制から1人体制にする、機関部に常駐する船員を減らす等、省力化のターゲットを明確化した上で、そのためにどのような技術開発が必要かを検討すべきである。』等とする。
 そしてH27年度からの10年間の目標数字を掲げる。
★「生産性向上」に係る指標
a 内航貨物船の平均総トン数:
715総トン→858総トン
b 内航海運の総積載率:
42・6%→44・5%
c 内航船員1人・1時間当たりの
輸送量の17%向上:
3882トンキロ/時間→
4542トンキロ/時間
「船員の安定的・効果的な確保・育成」として次の3項目を掲げる。
(1)高等海技教育の実現に向けた船員教育体制の抜本的改革
ニーズに合致した船員養成、4級海技士養成定員拡大等を目指し、「海技教育機構の内航船員養成に関する調整会議」において検討。海技教育機構の養成定員の段階的増加(390→500人)など。
(2)船員のための魅力ある職場づくり
*499総トン以下の船舶の船員
居住区拡大に係る船員配乗のあ
り方の検討、安全基準の緩和
*船舶調理士資格の効率的な取得方法に係る検討(検討会の設置)
*船員派遣事業の許可基準の見直しに係る検討 等
(3)働き方改革による生産性向上
*「後継者確保に向けた内航船の
乗組みのあり方等に関する検討会」(仮称)を設置し、実態に即した船員配乗のあり方を検討
*荷役作業の負担軽減の実現に係る議論等
*将来の技術革新の進展・働き方改革の方向性を踏まえた配乗・定員の見直し検討 等

◯ご意見・ご感想を!
本誌では、内航船員の高齢化、若者の定着率の低下など、内航船が抱えている問題点を掘り起こし、どうすれば内航船員の未来を切り開くことができるか、読者の皆さんの考えを順次掲載していきたいと思います。
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  (羅針盤編集部