島国日本は戦争をできない国
編集部
戦没船員を記録する会(平山誠一会長)は、昨年暮れの12月21日に江東区文化センターで「戦後80年記念の集い」を開いた。当日は、海運・港湾関係者や市民約60名が参加した。
「沖縄疎開船対馬丸の悲劇を繰り返さないために」の副題が付され、メイン講演を元外航船長で海洋科学博士の吉野慎剛(しんご)氏が行い、平山氏、元JALパイロットの和波宏明氏、全国港湾書記長の玉田雅也氏が海・空・港湾の現状について、それぞれ報告した。
集会には、那覇市にある対馬丸記念館の平良次子館長からビデオメッセージが寄せられた。同館では昨年夏、戦没船を記録する会が協力して戦争中に被害に遭った商船の展示会と平山会長の講演が行われている。
集会の模様は、共同通信社の海上向けFAX海運水産ニュースに「平和の海希求で教訓探る」として次のように報道された。
「惨禍を繰り返さないための教訓を探ろうと、海・船の現状を学び、有事が発生した場合に海上交通が受ける影響を詳述、民間も輸送に協力する沖縄・先島諸島からの住民避難計画を検証し、問題点を指摘した」
一、吉野慎剛氏の講演
「海上武力紛争のルールと民間船舶・船員および関係航空機等の法的地位について」
国際武力紛争には国際ルール=海戦法規がある。以下、海戦法規等について説明し、氏の見解が述べられた。
① 敵国船舶と中立国船舶
国際法上、そのどちらに属するかは船籍により決定される。決定するのは戦争の相手国であり、敵国船籍は敵性の決定的証拠となる。
他方、パナマ籍などの中立国船舶は、登録や所有、用船形態や他の基準によって敵性が決定される。日本の輸出入に関連する船舶の場合、日本国籍(2024年は368隻)以外の中立国船舶であっても、登録や所有、用船形態から敵性の有無が決定されて敵国船舶になり得る。
② 拿捕・捕獲・没収
敵国船舶は臨検や捜索の必要がなく、即、拿捕が認められ、船体と戦時禁制品と敵国向けの貨物が拿捕・没収対象となる。
敵性が疑われる船舶の場合は、臨検、捜索、拿捕の段階を経て、捕獲・没収か解放が決定される。また、中立国船舶の場合、船上にある戦時禁制品が没収の対象となる。なお、旗国軍艦や旗国と協定を結んだ中立国の軍艦による護送が認められている。
③ 海上戦争保険
保険契約に当初に予想しなかった事態が起きた場合、予告をもって契約を解除することができる。一般的には、更に厳しい契約条件を新たに合意することで、保険が維持される。
④ 海上運送法の航海命令
平時の国家緊急事態(災害等)の際に海上輸送を維持する目的で航海命令の規程がある。政府は、航海命令の実効性を担保するために日本国籍船と日本人船員の増加政策をとっている。
これは、安全保障上の国家緊急事態に際しての海上貿易を維持する目的の政策ではない。
⑤ 日本商船隊の積取り割合
2024年で日本海上貿易に占める日本商船隊の積み取り割合は、輸出が45%で、輸入が63%である。従って、輸出入全体の50%が日本商船隊によるが、他の50%は日本と関係のない海外船主による。
⑥ 外航の日本人船員数
2021年で総数2165名のうち、海上乗組員は418名、予備員が914名、残りの833名が陸上勤務である。
そして、外航の日本商船隊の船員総数6万人のうち日本人船員は418名なので、わずか約0・7%でしかない。
⑦ 結論
※日本の武力攻撃事態下や戦争区域指定状況で日本向け航行中の商船が採る可能性のある行動
〇用船契約か海上保険、または船員雇用契約上の要請により、予定されていた中立国港湾への寄港時に運航の中断、または中立国港湾へ緊急入港し運航を中断する
〇船舶や貨物、または乗組員の安全上の問題で、日本及び日本に武力攻撃している国の寄港地を抜港する
〇運航上の諸契約に問題がなければ日本への運航を継続する
〇但し、船員雇用契約上の正当な権利により船員を下船させるための中立国港湾への寄港は有りうる。その場合、最少定員充足まで出港が不可能となる
※武力攻撃事態下での海上貿易の継続性
〇武力攻撃事態における海上貿易は、運航システムの構造上で自ら停止する性質がある。しかし、日本国籍船ではなく、便宜置籍船を含む中立国船舶を用いる方が、武力攻撃事態下での日本国民の生命線が完全に断たれる可能性は低い。
〇日本の海上貿易に従事する中立国船舶を守る方法は、その船舶を軍事目標の定義と拿捕の対象条件に合致させないことである。中立国船舶に敵性を帯びさせなければ、海上貿易は遮断されない。
〇現代の外航海運は、船主国によって構築された過去の安全保障体制とは異なることから、有事における運用についても、外航海運の実態に即した取り組みが必要である。
※海上戦争保険と用船契約
海上戦争保険は、日本政府による再保険の保証制度の確立が必要である。用船契約は保険制度が保証されると、自由競争の経済原理に基づいて問題は解消され得る。
※船員の乗船について
〇中立国船舶の民生用輸送の環境が整えば、中立国船員の乗船の確率は高まる。戦争危険区域の就航であっても雇用条件次第で乗船が可能である。
〇日本籍船舶の場合、攻撃での戦災か拿捕の二択を強要されるので船員の乗船は困難。
※補足
はくおうや、ナッチャンワールドなどのPFI船舶は、防衛出動の用船時は自衛艦で船員全員が自衛官として乗船するので、徴用船ではなく軍艦となる。(2026年度以降はフェリー2隻と貨物船4隻の体制となる)
二、海・空・港湾からの報告
① 戦没船を記録する会、平山誠一氏
「先島諸島の住民避難計画を検証、戦時下の輸送は不可能」
政府は「武力攻撃事態対処法」と一対を成す「国民保護法」に基づき、島民と観光客計12万人を民間の航空機、船舶で本土に6日間で避難させる計画だ。これを船乗り目線で検証する。
〇重要なのは「住民避難命令」発令のタイミング。
武力攻撃事態が始まる前に、「予測事態」がある。「もしかしたら侵攻するのではないか」と政府が予測する時。それ以前は「平時」で平時に避難はできない。カラ振りになったら大変なことになるからだ。かつ、武力攻撃事態になった時では遅い。
「予測事態」の間に、このタイミングしかないと確信を持って言える時に総理大臣が避難命令を発動することになる。
〇民間フェリー8社による住民輸送をシュミレート
国民保護法で指定公共機関とされているフェリー8社から各1隻動員されると仮定する。
(指定番号34オーシャントランス、35商船三井さんふらわあ、36名門大洋フェリー、37新日本海フェリー、38太平洋フェリー、39阪九フェリー、40マルエーフェリー、41宮崎フェリー)。
8隻の旅客定員数の合計は約5000名。平均航海速力≒23・5ノット=43・5㎞。石垣島と宮古島の中間点を出発点とし鹿児島港までの距離を1000㎞とする。海象気象は航海に最適とし、海難はじめ不測の事故はゼロと仮定する。
そうすると、1000÷43・5=23時間。これに物資の積み込み・出入港待機時間を最短4時間と仮定すると往復で23×2+4=50時間となる。以上から5000名を輸送するためには50時間必要と計算できる。
その結果、6日間(144時間)に輸送できる人数は、144÷50=2・88航海×5000=14400名となる。
〇まとめ
「武力攻撃予測事態」という、いつ武力攻撃事態となるのか明確な答えのない緊迫した混乱極まる状況の中で、短期間で12万人の移送を保障できはしない。移送半ばで「武力攻撃事態」となった場合は戦時下での輸送となり、継続は不可能。しかも武力攻撃事態がいつ終わるのか誰も予想できない。
このような危ない仕事を誰が引き受けるのか?民間人船員を戦時下で強制動員する法律はない。船員に対する罰則規定はなく、罰則規定があるのは自衛隊員だけ。皆さんの闘いのなかでさすがにそこまではできなかったのが現状だ。しかし先の戦争と同様、何もかも民間に任せ、民間を動員しようとしている。戦前と同じ状況になっている。
② JAL元パイロット、被解雇者労働組合、和波宏明氏
「政府は無理を承知で押し付けてくる」
「2万人を短期間に移送するのは無理」と言いたいが戦時は無理を押し付けてくるのが権力というもの、無理にシュミレーションすればできてしまう。
移送する際の二大拠点は石垣空港と下地島の空港。石垣空港は2000ⅿ、下地島は3000ⅿの滑走路を持つ。羽田・石垣線はボーイング767(250人乗り)と787(290人乗り)。下地島はジャンボ機が離着陸できるので500人乗れる。石垣空港を時間延長して24時間化し、767を15分に1本飛ばせば5日間で12万人運べる計算だ。自治体の許可が必要だが「人命救出」名目だとおそらく今の市長は同意するだろう。
政府から押し付けられたらノーと言える乗員もおそらく今の現場には残っていない。ものを言う乗員が解雇された今、粛々と受けるだろう。加えて戦時中なので、割安な運賃でなくプラスの条件を政府が付けてくると会社は飛びつくだろう。
地上で働くグランドハンドリングという人たちも必要だが、JALは過酷な労働環境に加え労働条件を切り下げたことで優位な人材が流出してしまった。そのため防衛省と今年6月にコラボレーションして退役した自衛隊員の再就職先にした。両者にとって都合が良いということだ。おそらく、この人たちを使って秘密保護法のもとでパイロットに知らせないものまで運ぶことになるだろう。
ベトナム戦争時に、ノースウェストやパンナムなどの民間会社が武器弾薬や食料・兵隊を運んだ。政府は今、それを日本の航空会社にさせたいのだろう。
そういう状況にある社内の仲間たちとどうやって連携し、反対していくか。今が正念場と思っている。高市政権になってますますそういう危機感を持つ。
③全国港湾書記長・玉田雅也氏
「港湾が真っ先に狙われる」
鹿児島まで千キロ。話を聞いた時、とても無理だと思った。飛行機はできるというので迷う所だが、そういう事はさせないと言う観点から今港湾で何が起きているかを伝えたい。
安保3文書が改定された時一番最初にPAC3がフェリーターミナルの真横に入ってきた。実弾入りだ。これが目の前で起こった。政治が絵に描いたようになった。
先島諸島の人々にとって船は生活航路。毎日新鮮な野菜が入って来て新鮮なものを送り出す。その生活航路が脅かされる。同様に、あとに残される港湾労働者や、グランドハンドリングの人達はどうなるのか。それは想定されてない。戦争は外交の失敗と言われるが、失敗で命の危険に晒されてはたまらない。
今港で問題になっているのは国家安全保障戦略による特定利用港湾。26港に加え2港が予定されている。商業港が軍港に変更される。最近、はくおうやナッチャンワールドの臨時配船が多い。5月~9月だけで5回。労働組合との事前協議で武器弾薬は無いが、重量物や大型建設機械が運ばれてくる。特定利用港湾という名のもとで着々と準備されている。災害訓練という名が、いつのまにか有事訓練に変わっている。政治の反映がここにも現れている。
ウクライナ戦争では港湾都市マウリポリが一番先に攻撃された。イラク戦争でも港湾都市が真っ先に攻撃された。港湾労働者が一番最初に被害者になる。一生懸命エッセンシャルワーカーなどとおだてられ、戦争に協力させられて、一発目でやられる。このことは絶対に許さない。
ITF国際運輸労連の大会でアラブとイスラエルが発言したら議場が大騒ぎになった。その時委員長が「そうは言ってもITFは戦争に反対だろう、それで動け」と言ったら2千人の代議員から大きな拍手が起こった。皆な戦争反対では合意できる。日本国憲法も国連も戦争は違反と言っているわけだからそうさせない。そういう時代に向かって一緒に苦労したい。
三、私の感想(編集部J)
日本は島国であり、日本商船隊の現状と元船員の経験から、次のような感想を持った。
① 中立国船舶でも敵性船舶となる可能性が高いこと
船舶が中立国船舶であっても、その登録や所有、用船形態から敵性の有無が決定されることから、敵国船舶になる可能性が大きいと思う。
また、現在、日本籍船、および日本法人が関係する便宜置籍船は日本商船隊の75%を占めている。つまり、武力攻撃事態においては、日本商船隊の4分の3の船舶が運航できない状態になる可能性が高いことになる。
従って、運航可能な船舶の逼迫で輸送される物資が減少し、物価は高騰してしまう。
② 海外船主の積取り割合が50%
日本の海上貿易に占める海外船主の積取り割合は、輸出入平均で50%である。
従って、海外船主が運航する船舶に敵性を帯びさせずに日本の海上貿易を継続した場合であっても、従来の輸出入の50%しか確保できない。
この点からも輸送量が減少し、原材料も物価も高騰する大きな要因となる。
③外国人船員賃金の大幅な上昇
海外船主の船はもちろん外国人船員が乗船している。また日本商船隊でも、実際に海上勤務する日本人船員は僅か0・7%しかいない。
武力攻撃事態において、日本人船員なら日本法が適用され、時の政府や周囲の環境のなかで、外航船員として乗船を続ける、または、乗船せざるを得ないことも大いに有り得る。
しかし、外国人にとって船員という職業は、上質な生活の糧を得るための仕事に過ぎず、武力攻撃事態の海域に就航する船への乗船は、そのリスクと提示された賃金次第となる。従って、高額な賃金での乗船もあれば、逆にリスクを考えて乗船しないことも大いにあり得る。
結果として、乗船する船員が少なければ、ますます船員の賃金は上昇し、物価高騰の一つの要因となる。
④ 戦争保険料の高騰による輸送運賃の急激な上昇
武力攻撃事態における戦争保険の適用で保険料が跳ね上がるが、その保険料コストが最終的に荷主に転嫁される。
従って、保険料の上昇はそのまま物流コストやエネルギー価格の上昇に直結する。(海上保険料が平時の数倍から数十倍、状況によっては100倍以上に上るという報道もある)
⑤ 日本は戦争が不可能な国
日本の貿易量全体に占める海上輸送の割合は、99・6%(重量ベース)となっている。
前述のような要因から、輸入物資の急激かつ大幅な減少で食料・石油・ガス・鉱石・石炭・家畜飼料等々の価格が急激に上昇し、消費者物価が高騰すると思われる。
また、原材料の輸送困難による輸入量減少で、製造業による輸出が減少し、かつ、輸出の為の船舶輸送の困難により国の輸出収入が急激に減少すると思われる。従って、武力攻撃事態になれば、日本の経済は壊滅的な打撃を受けると思われる。
このような実態から、日本は戦争が不可能な国であると、つくづく思います。
(2026・1・30)