離島航路の旅客船、減便相次ぐ(日本) 編集部

一、船員不足に悩む旅客船


 内航船の船員不足が叫ばれて久しい。今や船員の有効求人倍率は4倍以上となっている。フェリー業界も同様で、特に離島航路の旅客船は賃金の低さもあってか、内航への移籍を希望する人が多い。人口減少のみが原因でなく、若者の都市への憧れ・移住、地元漁業への嫌悪等による離島の過疎化が背景にある。その結果として、旅客・荷物の減少による採算悪化、そこに燃料代や修繕費の高騰が輪を掛ける。
 離島航路は「海の国道」に当たり、住民の命綱だ。経営難があれば本来国の責任で対処しなければならないはずだ。しかし近年の急激なコストの増大に対し、国の支援はまったく追いついていない。昨年来、船員不足が理由で運航停止や減便に追い込まれた航路を紹介する。

〇むつ湾フェリー
 津軽半島と下北半島を結ぶ同社は、航海士・機関士の退職により船員が休暇を取れない状況に陥ったため、昨年来毎週水曜・木曜などに運休日を設けてきた。しかし、その後も補充ができないため今年も同じ状態が続いている。

〇東海汽船グループ
 東海汽船は船員に法令通りの休暇を付与するため今年のゴールデンウィーク中の減便を行い採算が悪化。また今年から傘下の船会社が廃業したため貨物船部門が1隻減少し4隻体制となった。同社グループで八丈島などの伊豆諸島、父島・母島航路等を運航する伊豆諸島開発は、慢性的な船員不足で乗組員の休暇取得が困難なため、常時大量の船員を募集している。

〇壱岐汽船
 船員不足を理由に6月17日から減便開始。松江市の七類港・鳥取県境港市の境港と、隠岐諸島をこれまで3隻のフェリーで1日3往復、高速船が2往復していた。しかし、夏のかき入れ時にもかかわらず乗組員の手配がつかないため、七類港と隠岐諸島を毎日1往復していたフェリー「くにが」が完全運休。高速船レインボージェットもお盆の時期を除き、1往復に減便した。そのため運航間隔も長くなり、「これまでは隠岐諸島を回るのに1泊でよかったのに、これからは2泊必要になり仕事に影響が出るかもしれない」ビジネスマンもいるとのこと。
 会社によれば、フェリー3隻を運航するためには、97人の船員が必要だが13人足りない。最近6年間で、26人採用したが、「休日を確保できない」「労働時間が長い」などの理由で39人が退職したという。島根県や地元自治体が「人材確保に関する確認書」を結び、支援に乗り出すという。

〇四国汽船
 香川県の直島を中心に宇野や高松を結ぶ同社は、深刻な船員不足により昨年来航路の維持が困難になっていたが、今年4月岡山を本拠とする両備グループに全株式を譲渡、傘下に入った。
 両備グループによる経営指導の下、社名と航路は維持されるという。

〇小豆島の各フェリー会社
 船員不足により一昨年来姫路-福田航路を減便していた同社は、船員の採用が進んだため昨年2月に通常運航を始めた。しかし、船員不足に対応するため昨年6月高松―土庄航路の夜間便を休止から廃止とした。小豆島ではコロナ禍が重なった旅客数の減少・船員不足等により内海フェリーが数年前から航路を休止していたが会社譲渡されている。
 神戸を拠点に小豆島や高松間を運航するジャンボフェリーも、船員不足が主な理由で、今年は瀬戸内国際芸術祭の期間に出す臨時便「直島ライン」の運航を取りやめた。

〇中島汽船
 松山市と瀬戸内海の中島や怒和島など6つの島を結ぶ高速船を2月1日から計15便を7便に減らした。上下14便あるフェリーは通常通り運航する。海技免状を持つ船員が昨年末から相次いで退職する想定外の事態となり、船員は休暇を取得できない状況に陥ったことによる。
 赤字が続いたため愛媛県と松山市が年間約1億4000万円(2023年度)を補助していたという。学生や教職員の通学・通勤への影響が大きい。
 ほかに瀬戸内海では大崎上島―下島を結ぶフェリーが一昨年廃止届を出したが呉市が赤字補填しながら運航を続けている。

〇五島旅客船
 長崎県五島列島の上五島と下五島を結ぶ生活航路を運航する同社は、船員不足による過重労働が安全を損なうとして、今年6月から高速船TAIYOを日曜・月曜に全便運休させ航路維持に努めている。船員が確保でき次第運航を再開するという。

〇奄美海運
 鹿児島市と徳之島・喜界島・奄美大島・沖永良部島を「フェリーあまみ」と「フェリーきかい」の2隻体制で結ぶ航路を、船員不足により6月1日から週5便から4便へ減便した。また、寄港地の一つ、沖永良部島の知名港への寄港を取り止めた。今年になって船員の退職が相次ぎ、船員が8人不足しているとのこと。

〇安栄観光
 石垣島と波照間など周辺の島々を結ぶ安栄観光も、船員不足により昨年来多くの航路の減便を余儀なくされている。国交省は同社の「うみかじ2」の座礁事故の原因が、船員不足により数カ月にわたり船員法の規定をオーバーしたとして昨年2月、海上運送法に基づく「輸送の安全の確保に関する命令」を出した。同時に減便を含む運航体制の改善を命令。
 同社は船員の労働時間の見直し、休日確保など改善に取り組んだ結果、減便を決めた。人員不足が解消されれば元の体制に戻すという。
 同じく石垣島が拠点の八重山観光フェリーも船員不足が報道されている。

二、教員不足により館山海上技術学校が閉校


 今年6月、国交省は国立館山海上技術学校の来年4月の生徒募集を取り止め、2027年度末で廃校すると発表した。教員の確保が難しく、教育体制を維持することができなくなったことが理由だ。
 1980年代後半に日本船主協会の主導のもと、関係官庁、海員組合など海運界全体を取り込んで行われた緊急雇用対策という名の船員首切り。引き続き進められた混乗化・外国人船員化策による、日本人船員の採用停止、船員教育機関の縮小。その結果、教員を排出して来た外航出身の航海士・機関士の絶対数が減少した。今や教育機関に限らず、各船会社で運航を司る海務監督・工務監督などの技術者を筆頭に、海事産業全体が海出身の技術者不足にあえいでいる。まさに、緊急雇用対策以来の政策のツケが今回って来たと言える。
 国交省「内航未来創造プラン」では、海技教育機構の定員を400名から500名への増員を目標にしているが、具体的な道筋は示されておらず、絵に描いた餅になりかねない。
海技の伝承は、外航・内航・漁船が一体となって初めて成し遂げられる。内航のみならず、外航日本人船員を増加させる施策が急務である。

三、他山の石、韓国・アメリカの船員不足


〇韓国:カボタージュ緩和により船員不足は日本より深刻
 韓国の内航業界では、50歳台の船員の割合が約7割に達し、高齢化が深刻な事態になっている。それは、カボタージュ規制が徐々に緩和されてきたことが主因と見られている。
 従来は、カボタージュ制度のもと、取締役全員が韓国民であるなど自国船舶の定義が厳格化されていたが、1978年に一部緩和され、出資者の過半数、取締役の5分の3が韓国人、かつ社長が韓国人であれば自国船の定義を満たすとした。
 1999年にさらに緩和し、外国企業でも韓国籍船を保有すれば国内航路に参入できるようにした。加えて2003年には一部の港間で外国船によるコンテナ輸送を認めた。そして極めつけが、2004年に国内航路への外国人船員導入を条件付きで認めたことである。
 外国人船員の条件は、20歳~45歳の部員に限ること。6カ月~1年間の雇用契約とすること(但し延長可能)。内航海運業界全体で700人に制限すること、1社に付き船員数の半数以下にすること。また乗船できる外国人船員数が船の定員別に定められている(表参照)。
 韓国では少子高齢化による人口減少という背景に加え、若者が閉塞的な船内生活や離家庭性を嫌い、船員希望者が減少、離職率も増加の一途という。

(定員別外国人可能人数)

(流通科学大学商学部・李志明講師著「韓国内航海運におけるカボタージュ規制の動向」などを参照した)

〇アメリカ:トランプ大統領にとって船員不足が障害
 今年4月、トランプ大統領は海運・造船業の弱体化が国防上の弱点と考え、軍の艦艇建造能力向上・兵站能力向上のため造船業と自国商船隊の復活、中国海運業の弱体化を目的とする新たな大統領令に署名した。中国製もしくは中国籍の船に入港料を課し、中国製、中国製の部品が使われているクレーンなどの港湾設備などに新たな関税を課すよう指示した。
 また、戦時に米国産の車や燃料、食料を運搬するために招集できる商船隊、特にタンカーや車両運搬船が不足しているため、急きょ造船体制を大幅に増やす計画で、これには共和党、民主党問わず、垣根を超えて協力しているという。
 しかし造船業の熟練工不足と共に、船員が圧倒的に不足しており、海軍も海運業者も船員の確保に苦労している。とりわけ船員不足が計画の最大の障害になっているとのこと。
 アメリカのダフィー運輸長官は「米船籍の船を増やしたいと思うなら、もっと船員が必要だ。現時点では米船籍の船を大幅に増やしても乗組員が十分にいない」と述べたと報道されている。

(2025・9・1)