竹中正陽
船員の過重労働
働き方改革への逆行
コンテナ大手・井本商運
昨年6月14日、国土交通省神戸運輸監理部は内航コンテナ輸送の最大手・井本商運(本社神戸)に対して、内航海運業法20条の「輸送の安全の確保に関する命令」を出した。
同社が定期用船する2隻のコンテナ船が、船主の意見を十分聞かずに運航計画を決め、船員法の労働時間限度を超えて運航させたというもの。
船員の過労を防止する措置(内航海運業法12条及び安全管理規程21条)を取らなかったとして是正するよう命じた。関東運輸局の立ち入り検査で発覚したという。
同社は非を認めて国に是正報告書を提出した。
今後は信頼回復に努めるとして、「乗組員の労働時間に配慮した運航計画作成の実施と記録保存の徹底」、「運航計画に対して、船舶管理会社(労務管理責任者・船長)から意見を受けた場合は、その内容を確認し、意見を尊重した上で運航計画を見直す」等を実施するとのこと。
船員の間では、同社が運航するコンテナ船はスケジュールがタイトで休みが取れないことで有名だった。
これまでタンカー大手の鶴見サンマリン、外航クルーズ船の商船三井フェリーが同様の是正命令を受けている。
いずれも、「船員からの告発に決まっている」とのもっぱらの噂だ。船員の静かな逆襲が始まっているのかもしれない。
浸水隠ぺい・記録改ざん
会社閉鎖へ
JR九州高速船
二度の隠ぺい、社長が直接指示
ジェットフォイルに替わり、博多ー釜山を結ぶ総アルミの高速船として鳴り物入りで登場した新船クイーンビートルは、2023年2月~5月にかけて船首溶接部からの浸水を隠して運航。国交省の立ち入り検査で発覚し、6月に安全確保命令(海上運送法19条)を受けた。
同社は改善報告書を提出したものの、翌年にも度々浸水が発生、都度運航を休止して修理したが、再度浸水の事実を隠し、航海日誌への虚偽記載、裏帳簿を作って漏水量を記録、漏水センサー位置を60㎝上にずらすなどして運航を続けた。
これらのことが同年8月国交省の抜き打ち検査で乗組員の事情聴取から再度発覚した。社長が直接指示していたとされる。
史上初の管理者解任命令
社長、船長ら刑事罰も
安全確保命令違反の罰金は、知床遊覧船の事故を受けて上限が100万円から1億円に引き上げられた。同命令に加え、国交省は安全統括管理者と運航管理者の解任命令を制度発足以来初めて発出した。
これを受け、JR九州は、高速船社の社長ら3名の懲戒解雇を発表。10月には海上保安庁も船舶安全法・海上運送法違反の疑いで強制捜査、社長や船長ら8人を書類送検した。同船は、修理を施しても玄界灘の荒波に耐える保証がないため、今後韓国・日本間に就航しないことを条件に、韓国のパンスターラインに今年5月売り渡される。
クイーンビートルの新船受け取りを経験して
5年前私は、臨時の仕事で同船を豪州フリーマントルの造船所に受け取りに行った。その時の苦労が思い出される。
当時はコロナ下で、空港に着くなり乗客全員が警備員に囲まれ、パトカーに先導されてホテルに2週間カンヅメ。廊下にも出られず、体力を維持するため狭い個室内をひとりジョギング。
同船は、米軍艦船の建造で有名なオースタル造船所で作られた総アルミの三胴船。船体からエンジンまで最新のセンサーと自動化技術が導入され、波浪や風を先取り感知して揺れを防ぐなど、見たこともない最新設備を備えていた。受け取りに来た船員たちは皆な若くまじめで、ドックの技師に次々と質問していた。
彼らは、新卒者を除いて、外航、内航、国内フェリーから移って来た元海員組合員だった。当時はコロナのため釜山航路は休止しており、仲間のほとんどが自宅待機。政府の休業補償金が出る最低限の暮らしを続けていた。日本に帰っても、運航できる見通しが立たず、いずれ首を切られる運命と語っていた。
燃料タンクが小さく、途中インドネシアとフィリピンに寄って燃料補給。最新設備のため数々のトラブルと警報に悩まされながら博多へ回航したが、コロナ下で海外からの入国者は公共交通を利用禁止。船出身の役員と陸勤中の船員がレンタカーを交代で運転し、2日掛けて千葉の自宅まで送ってくれた。
パナマ籍に反対した船員側
JR九州の社長は記者会見で、安全意識が子会社に浸透していなかったというが、社長は代々JR九州の天下り。隠ぺいも社長ら天下り役員が指示していた。
同船の建造に際しても、船員側は、パナマ籍・ノルウェー船級(DNⅤ)に反対したが、営業サイドに押し切られたと送ってくれた役員は語っていた。
日本籍にすると、フェリーは外航船と異なりNK船級(日本海事協会。日本の船級協会)ではなく、すべてJG(日本政府)の規制に縛られ身動きできないからという理由だ。
帰 港直後の年末、釜山航路再開の見通しが立たないという理由で、従来からあるジェットフォイル2隻の売却と、船員削減のニュースが舞い込んできた。
その後会社は、釜山航路再開までの一時的な措置として、同船を国内観光の遊覧船運航を計画したが、パナマ籍のためカボタージュ規制(船舶法3条:国内港間の輸送は自国籍船に限る)に抵触するので不可。かといって、船籍を日本籍に変更するには大変な手間を要する。
そこで思いついたのが経営困難を理由にパナマ籍のままで国内港間を就航できる、沿岸輸送特許を国交省に申請。これには、海員組合が反対したものの、国は一時的に許可した。しかし長期的展望が見通せないため、2022年には日本籍への変更をせざるを得なくなったという。「俺たち船員はあれほど反対したのに」との声が聞こえる気がした。
そしてコロナが下火となった同年末に釜山航路が再開されたものの、翌年2月に今回の亀裂・浸水となったのだった。
船員であること
短い期間だったが、寝食を共にしたあの若く優秀で、くったくのない乗組員は今どうしているだろうか。彼らも隠ぺい工作に加担させられたのだろうか。
入社する時、半ば強制的にJRの労働組合に入らされたと語っていたが、労組は守ってくれているだろうか。
映画ポセイドン・アドベンチャーの船長は、解任されるのを恐れて社長命令に屈し、台風下に全速航行して大惨事を招いた。
私たちは企業に入る前に船員である。船員として職務を全うすることと、企業に所属していることの矛盾、葛藤。頭の中でのせめぎ合いを思い出さずにはいられない。
(2025・4・20)
