徳島合同労組オーシャン東九フェリー分会・分会長 古川卓治
私はオーシャン東九フェリーに入社して35年になります。甲板長として乗船勤務を続けて来ました。
今年8月13日、海員組合への苦情申立を他の乗組員にも強要したなど、5つの理由を付されて懲戒解雇されました。不当な解雇に負けず、必ず船に戻るという気持ちで10月4日徳島地裁に船員としての地位確認・賃金支払いを求めて提訴しました。
35年間お世話になった会社を訴える事になるとは、誰が想像したでしょうか。
攻撃の始まり
2022年4月に何の前触れもなく、乗船勤務中に突然会社から下船命令が出ました。事実確認もされず、下船理由も聞かされず、下船命令が出ました。
下船後の会社説明では「過重労働を行い、船内秩序を乱している情報が入ったため」という理由でした。その時「船内の私物も全て降ろして下さい。ドックメンバーからも外させてもらいました」と言われました。
その後、関係乗組員からの聴取を元に質疑応答が行われ、弁明しようとしても「ボースンが正論を言ったら下の者は何も言えない。口には出していないと言うが、態度に出ていた」等言われ、弁明の機会すら与えられませんでした。
後日、2回のパワハラ講習を受けたのち、賞罰委員会が開かれ、懲戒処分(戒告)を受けました。その時に会社に抗議文も提出しています。
船での攻防
職場には、同調圧力と言う状態が生まれると言います。同調圧力とは「集団の中で起こる心理的圧力で、個人が他人と意見や行動を合わせるように誘導される」とあります。
家族よりも多くの時間を過ごす乗組員には「船内融和」が求められます。船内融和とは、「船内のクルーが活気にあふれ、笑顔が絶えない状態を指します」とあります。笑顔の絶えない職場が理想ですが、安全面になれば話は別だと思っております。
私は安全のルールが守れていない乗組員には上司であろうと煙たがれようが、躊躇なく注意してきました。
そのため、私を鬱陶しいと思う乗組員もいたのでしょう。乗組員にどう思われようが、言うべき事は言っていこうという信念で自分なりに頑張ってきたつもりです。注意した事も主観的ではなかったのかと上司や同僚に報告・相談はしていました。
防寒着のファスナーもせず入港準備作業をする者、越権行為をする者、そのほか、たばこのポイ捨てや高齢者・身体障害者を見下す者、同僚の靴に鶏のから揚げを入れて喜んでいる者、船内秩序を乱している者にはその都度注意してきました。
しかし、2年前、懲戒処分(戒告)を受けた時に運航部長より「誰も言わない事を言うから細かいってなるんですよ」、「仕事が覚えられない若い子に細かいルールを言っても覚えられない」と言われた事は今でも頭から離れません。
私も聖人君子ではないので完璧な人間ではありません。過去に整備作業中に自身の過信で怪我をしてしまい、乗組員や会社に迷惑をかけたことがあり、その時の事を教訓に常に自問自答し、適宜上司や同僚に相談していました。船内のパワハラや乗組員の不満についても上司に相談していました。
昨年6月、職場の同調圧力を打開するため、高松会長に質問できる機会(サロン会議)があったので、乗組員の気持ちを甲板長として意見しようと決意しました。職場の先輩からは「自分だけの事を考えて何も意見するな」と忠告されましたが聞き入れませんでした。
高松会長(当時社長)には「退職者が続いているため、運航に支障が出るのでは?と乗組員は心配しています」等の質問をしましたが「貴重な意見だから文書にしてください」と言われました。会長への質問をまとめた文書は「徳島本店、船舶管理部に提出して下さい」と担当者から連絡があり、不本意ではありましたが指示に従いました。
その後、パワハラ等の実態調査のため、会社初の無記名の社内アンケートが実施されました。その結果が「職場環境の向上に向けての意見が8割だった」と聞きます。会社がどのような対策を取ったのかは分かりませんが、社内アンケートが行われてから現在まで、8名の乗組員が退職しています。まだ何名もの退職予備軍がいると聞きます。
会社の役員が私情を入れず、乗組員を平等に扱って対応していれば、8名もの退職者が出なかったのではと思っています。
船内の雰囲気も各船それぞれです。乗組員間では「この会社に何を言っても無駄、体質は変わらない」と言う諦めの意見がほとんどです。ハラスメントを受けていても乗組員の声は会社まで届かず、届いたとしても会社役員の好みで対応され、それが原因で退職していった乗組員も多く知っています。
2年前に懲戒処分(戒告)を受けた時、松本取締役より「環境のいい船を作ってください」と言われたため、復職後は環境のいい船内にしようと努力してきました。その甲斐あってかはさておき、私の乗船している船は、他船から来た乗組員からは「本船は雰囲気がいい、話がしやすい、他船へ行きたくない」という意見が多いと上司からも部下からも聞きました。
圧迫面接によるツブシ攻撃
昨年9月、休暇中に突然会社呼び出しがあり、会議室に入ると会長と役員2名がおり、聴聞会が行われました。その時に海員組合に提出予定であった苦情申立ての下案を突きつけられ、会長から「これはあなたが作られたの?どういった趣旨ですか」等の詰問が始まりました。
何で会長の手元に苦情申立て書案があるのかとパニックになり体調不良となったため、途中退席を求め、聴聞会は中断しました。それ以降の経緯は「羅針盤第43号」に記載されている通りです。
私は2年前、事実確認もされないまま下船命令が出て、突然の会社の対応に適応障害に陥りました。今まで生きてきて感じた事のない精神状態に襲われ、まさか自身がこのような精神状態になるとは夢にも思いませんでした。当時、家族や同僚も心配してくれて、それが支えになっていました。
しかし、会社からは私の適応障害を「不都合行為から逃れる為の貴殿の手法だ」「船舶管理部の執行役員に説明・報告ができず業務能力がない」とまで言われました。精神科の主治医からは「非全般型対人緊張」と診断されました。対人緊張とは「本人の努力ではコントロールできないほどに不安や恐怖が強まる点にある」と言うそうです。
そのような精神状態にも関わらず会社からは「当社からの面談を拒否し続けた」と言われました。
今年3月に本社より「貴殿を復職させる意向がない事を表明します」と書面が届きました。
家族からは、私のメンタルを心配し「もう会社辞めたら?」と言われましたが、「乗組員との約束があるため、辞める訳に行かない」と事情を説明したら、「このまま辞めるのは悔しいな」と、賛同してくれて復職の意思を後押しをしてくれました。
私がお伝えしたいこと
社内アンケートが行われても尚、何も変わっていない会社の現状と、都合の悪い事は隠蔽する会社の体質を憂慮し、乗組員に「会社の体質を変えてやる」と断言している事もあり、この裁判で乗組員のために、家族のために、自分の名誉のために何年かかろうが勝訴して船に戻る決意に変わりはありません。
現在、多くの支援者に支えられ、多方面からたくさんの励ましと応援の声を頂いております。
引き続きご支援ご指導を賜りますようお願い申し上げます。
(2024、11、26 )