新たに民間フェリー2隻を追加

 防衛省は令和6年度(2024年度)予算として、新防衛大綱の機動展開構想に基づくPFI船舶として、新たに民間フェリー2隻の長期用船費用を要求、予算案が今国会に上程された。
 政府は2022年末の閣議で、23年度~27年度までの5年間の防衛費を総額約43兆円に増額し、GDP比2%達成を決定。それに伴い新安保関連3文書(国家安全保障戦略、新防衛大綱、中期防衛力整備計画)を発表した。そこに示された民間フェリー増量体制に向け、歩を進める計画だ。
 以下、防衛省の「防衛力抜本的強化の進捗と予算」、「行政事業レビューシート等を参照した。
※PFI船舶
(Private Finance Initiative=民間資金等活用事業)防衛省と長期用船契約を結び、平時は民間輸送、有事は防衛省の指揮下に入り自衛隊や米軍輸送に当たる船。現在は「はくおう」と「ナッチャンワールド」の2隻。
※機動展開構想
 南西方面有事の際は、自衛隊に加え民間輸送力を動員して鹿児島から沖縄・与那国島に至る千キロの南西諸島に、各地から陸上自衛隊を輸送し、3週間以内に戦闘態勢構築を可能とする構想。2012年に防衛省で極秘に練られ、安倍内閣による集団的自衛権導入・安保法制制定に伴い実現化された。


一、防衛省の予算要求内容
 「国際社会は戦後最大の試練の時を迎え、既存の秩序は深刻な挑戦を受け、新たな危機の時代に突入している」との認識の下、以下の7分野で予算を要求。
1 スタンド・オフ防衛能力
2 統合防空ミサイル防衛能力
3 無人アセット防衛能力
4 領域横断作戦能力
5 指揮統制・情報関連機能
6 機動展開能力・国民保護
7 持続性・強靱性
○機動展開能力・国民保護の予算
 5年間の総防衛費43・5兆円のうち機動展開能力・国民保護の経費は2兆円。令和5年度の実績は2396億円だったが、6年度要求は倍以上の5653億円(6年度予算9兆3625億円の6%)に増額した。ちなみに、イージス艦等の防空ミサイル防衛能力は1兆2284億円となっている。
○機動展開能力予算の種類
 ①「自衛隊海上輸送群」の新設、②機動舟艇・輸送ヘリコプターの取得、③民間海上輸送力の活用、の3種に大別され、「民間輸送力の活用事業」として新たに2隻のPFI船舶の確保に305億円、同船舶を使用する部隊・装備品等の輸送訓練、港湾入港検証に10億円を充てる。
 「部外専門機関(PwCアドバイザリー合同会社)の支援を得て、次期事業に使用する候補船について、契約形態の選定に資を得た」との記述から、既に船の選定を終えている模様だ。
 一方、「令和7年12月に現PFI船舶の契約が満了することから、民間船舶を活用した輸送体制に空白を生じさせないよう、新たに2隻のPFI船舶を確保」と記し、現行の「はくおう」、「ナッチャンワールド」の契約延長については触れていない。


二、減る一方の予備自衛官
 他に、人的基盤の強化として、転職者向け募集広報活動、非任期制自衛官の採用枠の拡大、女性の採用等があり、その一つ「予備自衛官に係る施策の推進」に10・3億円を計上している。
 海上自衛隊の予備自衛官制度はPFI船舶導入に伴い平成28年に創設され、定員は予備自衛官1100名(実数は不明だが、陸海空の平均充足率は70%)、予備自衛官補21名(実数はわずか4名)となっている。
 他に海技士資格を有する技能予備自衛官制度が設けられている(定員や実数は不明)。
 しかし防衛省によれば、「安全保障環境が急速に厳しさを増しており、いざという時に自衛官と共に様々な任務に就く予備自衛官等の人材確保や体制強化は極めて重要。一方で、近年、即応予備自衛官及び予備自衛官の低充足が常態化しており、これまでも充足向上のための施策を講じてきたが、目立った向上に至っていない」とのこと。
 自衛隊出身者等を主な対象としてきた即応予備自衛官の充足率は年々下がり、現在は約50%まで低下した。
 そのため、年齢制限などの採用条件や手当・訓練期間の見直し、雇用企業への援助金拡充、自衛隊未経験者への勧誘キャンペーン等を近年行っているが、充足率は一向に改善しない。その主な理由は「仕事との両立が困難」とのことだが、大量の予算により装備面は充足出来ても、肝心の「人心」は離れていく一方だ。

(編集部)