松尾俊彦著 日本の内航海運の研究

船員働き方改革の問題点把握に絶好の書
 著者は広島商船高専と東京商船大学の航海科を卒業、同大学大学院の博士課程を経て現在大阪商業大学総合経営学部教授。
 著者が『拙著は、500GT未満の小型内航船に焦点を当て、そこにおける船員問題を中心に扱ったものです。内航船員に対する国民の関心は、決して高いものではなく、2024年問題においてもトラックドライバーが話題の中心となっています。
 拙著の出版が、内航海運および内航船員への関心を高める一つのきっかけになれば、さらには、内航船員の労働環境の改善の一助になればと願っています。』と語るように、内航海運業界の歴史と政策の推移を描く中で、小型内航船で働く船員の現状を分析し、労働条件・労働環境の改善に向けての課題が分かり易い言葉で記されている。
 特に船員働き方改革を論じる11章では、トラック運転手の2024年問題、船員働き方改革策定に至る交通政策審議会の議論の流れを見た後、法改正の限界や問題点を指摘する。
 「船員法の改正は労働基準法の改正ほど大きな変更点はない。65条の労働時間の限度は変更されなかった」、「法を遵守するよう業界に働きかける内容に留まっている」、「船舶所有者とオペレーターには罰則が設けられたが、荷主については設けられていない」、「現行の安全最少定員制を労働時間を配慮した標準定員制に改正することが必要」、「荷主やオペレーターの協力がなければ、船舶所有者を苦しめるだけのものとなる可能性が大きい」等にそれは現れている。
 内航海運と言うより、「内航船員問題の研究」と名付けた方がふさわしく、船員の高齢化と船員不足、働き方改革の問題点を把握する上で絶好の書です。
 他に共著として、「内航海運」2014年晃洋書房、「モーダルシフトと内航海運」2020年海文堂出版等がある。」
目次
序章 運輸業における内航海運の位置づけと役割
1章 内航船員の高齢化と不足問題
2章 内航船員の採用と退職問題

3章 船型別に見た内航船員問
題と制度的課題
4章 戦前の管理統制と内航二法の成立
5章 船腹調整事業と成果
6章 暫定措置事業の混乱と評価
7章 次世代内航海運ビジョンと内航活性化三法
8章 内航海運の市場性と構造問題
9章 内航海運における船舶管理問題
10章 2つの内航海運政策
11章 船員の働き方改革問題
終章 今後の内航海運の課題
(編集部)

A5版208ページ
晃洋書房発行、税込3850円