書面による論争が続く

 アメリカによるビキニ水爆実験で被災した船員と遺族は、労災認定請求と国家補償請求の2つの裁判を闘っている。
 原告らは居住地の高知地裁に提訴したが、裁判所の決定で前者は全国健保協会船員保険部のある東京に、後者は原告らが住む高知に分離されてしまった。
2020年3月の提訴以来、既に3年半の歳月が流れたが、以前として両地裁での書面合戦が続いている。高齢の原告、病を抱えた元漁船員にとって裁判の長期化は、より過酷なものとなっている。


労災認定訴訟(東京)
 昨年7月の第一回、12月の第二回に続き、今年9月12日に第三回口頭弁論が東京地裁で開かれた。途中に進行協議(裁判官と双方弁護士との主張・立証や書面提出日程等の打ち合わせ)
が挟まれているものの、長い間隔を感じさせるものとなった。50席近くある広い法廷に原告の姿はなかったが、マスコミの他に第五福竜丸や広島・長崎の原爆訴訟の当事者と支援の人たちで半数近くが埋まっていた。
 この日原告側弁護士は6通目の準備書面を要旨次のように陳述し、被告である船員保険部の姿勢を批判した。
1 放射性物質による被曝
 本件で考えるべき基本的視点は、放射性物質による被曝であり、被告の使う基準は外部初期放射線を基準としたもので本件に当てはめるのは適切でない。
2 政治的に切り棄てられ放置された被害
 体制対立、アメリカへの政治的配慮等、様々な思惑の中で原告らの放射性物質による被曝は、無視され、切り捨てられ、隠ぺいされて長期間放置されてきた。その結果実態を明らかにすることが困難になっていることを踏まえ立証責任を顧慮すべきだ。被告は当時の国の機関を引き継いでおり、現在被告が国でないという理由でこの点を否定することは許されない。
3 船員保険における立証責任
 原爆症認定では、被爆者援護法には国家補償的色彩があることなどを考慮して、被爆者側の立証責任を緩めるなどして、認定対象の拡大が図られてきた。
 船員保険法には、適切な被害回復を図るためには、労災保険における労働者の生命と生活を保護するという基本趣旨があり、これらを踏まえれば、原爆症認定における起因性の判断以上に、放射性物質による被曝という特性を踏まえ、原告漁船員に緩やかに起因性を判断すべきである。
そして、次回法廷で、残された記録を中心に被ばく船員の実態を明らかにすると結んだ。
次回日程は未定。


国家補償請求裁判(高知
 日米政府の政治決着により支払われた200万ドルの「見舞金」は、第五福竜丸を除けば、汚染マグロの対価として92隻に分配されただけで、船員への補償はなかった。
 政治決着でアメリカ政府への損害賠償請求の道を断たれたことに対し、財産権の侵害(憲法29条)、水爆実験の不法行為に対する損害賠償(民法709条)を求めるこの裁判も書面合戦が続けられている。
第6回公開弁論が10月27日開かれ、国側の「そもそもアメリカにたいして国家賠償を求める法律上の根拠がない」との門前払いの主張に対し、原告側は不法行為により被害を受けた私人として、国際私法に基づく民法上の請求が可能と反論した。

549万円のクラウドファンディング
 裁判費用支援のため、昨年9月~11月に500万円を目標にクラウドファンディングが行われた結果、300名以上から計549万5千円が寄せられた。
(編集部)