カーフェリー船長インタビュー(匿名希望)

コロナの状況と対策
Q 船内のコロナ対策は?
 カーフェリーは客相手なので、寄港地の県や市の指示、カーフェリー協会のガイドラインに沿って、考えられる対策は全て取っている。
 船内はゾーン分けして各所に電気式の空間除菌装置を設置。乗組員だけ通れるグリーンゾーンには客が入れないようにしている。パブリックは掃除業者と事務部が共同して掃除するため事務部の負担が増える分、アルバイトを雇って対処している。
 希望した客にはPCR検査キットを前もって送り、発券場で全乗客に対面の健康チェック。熱が37・5度あれば乗船不可。出航後に37度以上の人や体調が悪い人は個室に入って貰い、乗船中は外に出ないようお願いしている。
 自粛期間中、レストランは時短営業でアルコールの提供や持ち込みは禁止。ワクチン接種は任意なので接種の有無は聞いていない。船内には乗組員用にすぐ結果が出る抗原検査キットを用意している。


Q 乗組員の対策は?
 客と接する事務部はもちろん、乗船中は全員個室以外は原則マスク着用。これから暑くなるので作業時の熱中症対策が大変だ。客と同様の健康チェックも1日3回やるようにしている。不要不急の外出は禁止されているので、入港しても上陸は控え、みんな船にいるようにしている。
 休暇中も家族の調子が悪いと会社に報告し、場合によって数日は乗船できないので気を遣う。コロナが流行している地域にも行くので、保育園の送迎もしないよう言われたり、病院勤めの家族がいる人は病院の要請で下船のたびに自費でPCR検査を受けている。


Q コロナ感染者は?
 大抵のフェリー会社は感染者が出た場合は公表するようにしている。当社も一度感染者が出たことがある。入港時に分かったので殺菌消毒業者の手配が間に合わず、片航は欠航で乗客ナシにした。


Q 客の文句や苦情は?
 「船内でアルコールを提供するな」「もっと対策を厳しくしろ」とか色々なことを言われる。トラックのドライバーは最近会社の指示が厳しくなったのか、酔客はいなくなった。喧嘩や迷惑行為も聞かなくなったが、マスクをしないで乗組員に大声を発したり、マスクをしてくれない人もいて、気を遣う。


Q 乗組員の不満や要望は?
 早く終わって通常に戻って欲しいの一言だ。
 客とのマスク超しの対話や距離の取り方など、細かく配慮しなければならないので本当に疲れる。休暇中も、発熱など体調が悪かったり、家族の調子が悪くても乗船できないし、欠員が生じたら会社や他の人に迷惑が掛かるので家族も気を遣っている。ワクチンは基本的には個人だけど会社も気を遣って配乗調整や自治体に頼んだりしている。 


Q 船長として気を使う事は?
 なんといっても乗組員の健康状態。最近はみんな気をつけているようで風邪を引かなくなった。家族の状態にも気を付けている。子供が風邪を引いてコロナと似たような症状になった時、結局コロナではなかったが念のため乗組員が下船させられたことがある。

コロナ以外の状況
Q 乗組員の賃金や労働条件での不満は?

 コロナ関係では気を遣うが、お客自体は少ないので、各部とも労働時間が増えているということはない。休暇も、乗船が長くなったり短くなったり安定しない面もあるが、 年間を通した休暇日数は一応労働協約通りなので大きな不満は無い。賃金に関しても、しょうがないと思っているのか、余り不満は聞かない。
 但し、事務部は別会社で協約も違うので、休暇が不規則になったり休みが少ないという不満が上がっている。事務部は空いた時間はアルコール消毒もあるので、コロナ下で負担が大きくなっている。

Q 設備や福利衛生面は?
 船内WiFiに関する要望が強い。現状ではギガ数が限られているので客優先になっていて乗組員は自由に使用できない。それと、内航に比べ乗下船の回数が多いので、乗船前に乗組員が自由に泊まれるホテル等の施設があればコロナ対策にも活用できるのではないか。


Q 若い人の定着は?
 機関部の仕事は内航もフェリーも大して変わらないので定着率は悪くないが、甲板部は結構辞めて行く。
 内航の人が中途採用で移って来てもフェリーの早いスピードに慣れないとか、会社の風土の違いを感じるようだ。部員が上の免状取っても職員になれるシステムがないので辞める人も多い。やる気のある若い人が辞めていく。


Q 職場の問題点、改善が必要な点は?
 上がつかえていたり、採用しない時期があって特定の年代が固まっている問題がある。いつまで経っても昇進できず、モチベーションを失って辞める原因になっている。
 あとは、どこの会社も同じだと思うが、ひと言で言えば船内融和。特に職長と若い人との意志疎通の問題。仕事中の命令の仕方や接する態度で摩擦が起きてパワハラになったりする。若い人は自分では言ってくれないし、周りの人は中々気がつかないか、知っていても言わないので辞める段になってようやく分かったりする。若い子に教育係を1人つけるというのは良くないと思っている。やはり、人間関係が一番難しい。
 船長の自分が気が付かなくて、若い子が辞めたいと言っていると聞くと気になる。船の仕事が面白くないのか、雰囲気がイヤなのか等々…。若い子には乗船中一度は声を掛けて話をするようにしているが、率直に喋ってくれる子もいるし、何を考えているか分からない子もいる。


Q 国は働き方改革と言っているが効果は?
 働き方改革と言ってもこれまで船内でやっていることとほとんど変わらない。変わったことと言えば、停泊中休めるときは休むようになったこと程度だ。


Q 海員組合は役立っている?
 最近の組合は何をしているのか分からない。春闘の時に来るくらいで、ありきたりの説明をするだけで帰っていく。
 乗組員も昔のように質問することもなく黙って聞いている。言ってもしょうがない、どうせ変わらないとみんな思っているのではないか。みんな意見は持っているけど、口に出して言わないようになっている。たいした賃上げもないのだから、その分組合費を下げてくれと言うのが本音かな。何か要望があったら直接会社に言う方が早い。
 コロナで、組合が何かやってくれたということもない。ワクチンにしても、寄港地で受けられるようになったと言うが、以前から会社が色々やってくれているので遅きに失した感じがする。
 こういう時こそ、一般市民や国に船員の存在をアピールできるのだから、もっと大々的に活動して欲しい。
(インタビュー・編集部)