羅針盤編集部
船長、一航士に有罪判決
事故直後より船長と一等航海士が、船舶の安全運航を危険な状態に陥らせた罪(モーリシャス2007年商船法)で逮捕・拘束・起訴されていた。
昨年12月20日(現地時間)、モーリシャスの中級裁判所は、船長と一等航海士を有罪とし、同27日、両名に懲役1年8カ月、罰金500モーリシャス・ルピー(日本円で約1340円)の刑を言い渡した。
2人は裁判で、当時船内で乗組員の誕生日パーティーを行い少量の飲酒をしたこと、船長は乗組員が家族と連絡を取れるよう携帯電話とインターネットの電波を受信するため、針路を変更してモーリシャスに接近したこと等を認め、多大な被害をもたらしたことについて謝罪した
とのこと。
BBC(英国放送協会)等によれば、27日に量刑を言い渡した判事は、両被告が「罪を認め、謝罪したという事実を考慮」したと説明。逮捕以来すでに16カ月にわたり未決勾留されていることや品行方正を理由に減刑され、1月には釈放されて帰国する模様と報道された。
また、モーリシャスの漁業相は同26日、長鋪汽船の保険会社との間で、漁師や魚の販売業者ら数百人(千人という報道もある)に、それぞれ11万2000モーリシャス・ルピー(約30万円)の賠償金を支払うことで合意したと発表した。
しかし、環境汚染への賠償を巡るモーリシャス政府との話し合いは、今なお進展していないことが報道されている。
判決について長鋪汽船は「厳粛に受け止める」と発表したのみで、その後の船長や一航士の動向や処遇、モーリシャス漁業者等の合意、モーリシャス政府との協議の進展状況等については何も発表していない。
船尾部の撤去終了
二つに割れた船体のうち、浮遊していた船首部分は、事故直後の一昨年8月にモーリシャスの沖15㎞に曳航され、水深3200ⅿに沈没させられたが、サンゴ礁に座礁し海面に顔を出していた船尾部について、今年1月21日、長鋪汽船は撤去作業が完了したと発表した。
それによると、昨年3月以降、悪天候で作業が行えない状況が続いていたが、天候が回復した昨年10月下旬より作業を再開し、12月末までに主要部分の撤去を終了。今年1月15日には周辺に散乱していた残骸の撤去も終了した。翌16日に、モーリシャス当局による潜水調査が行われ、完工が確認されたとのこと。
引き続き周辺のオイルフェンスの撤去作業を進め、1月末には完了する見込みとしている。
商船三井は、モーリシャスの子供たちにお菓子やおもちゃのクリスマスプレゼントを贈呈した記事をHPに掲載したのみで、この件や船長らへの判決については何も触れていない。
なお、事故原因について、パナマ海事庁は、事故後の9月に初期発表をしたのみで、その後正式な報告書を出していない。
また、国土交通省の運輸安全委員会は、事故直後の一昨年9月に現地調査、関係者の聴取、資料収集等を行ったものの、未だ分析中として、最終報告書はおろか途中経過報告すら行っていない。
商船三井、「航海リスク監視システム」を発表
事故の後、商船三井はフィンランドの船舶関連IT企業ナパ社および日本海事協会と共同で「座礁リスク監視システム」の開発・実験を行っていたが、今年1月26日、「航海リスク監視システム」として発表した。
船の位置・速度・針路などの状況、海象気象、海図等のデータを総合して座礁を含む航海リスクの高い海域に入ることが予想される場合に、乗組員や陸上の運航管理者にリアルタイムに警告するという。船隊を正確にモニタリングできるナパ社の「船舶性能モニタリングおよび航海最適化システム」を元に、商船三井や日本海事協会が実務者としての助言や専門知識を提供し、実船実験を行って開発したとされる。
ナパ社のシステムはクラウドベースで展開されているため、新たな機器を船に設置する必要はなく、特別な情報入力も不要で、通常の本船データで足りるとされ、既に同社の700隻を超える船隊に展開したとのこと。
商船三井は、同システムの開発を含め、再発防止策に5億円を掛けると発表していた。
環境団体の反応
◇環境NGOグリーンピースジャパンは、船首部分を海底に沈めることに対し、「大量の毒性重金属が流出し、さらに環境汚染を引き起こす」等と反対した。
また、事故直後の8月に行われた長鋪汽船と商船三井の共同記者会見で、商船三井副社長が誠意をもって解決にあたるとしながら、法律的賠償義務は船主にあり、自らは用船者の立場で法令に則った責任を履行すると強調したことを責任逃れの姿勢と批判。便宜置籍船制度の悪弊として問題視した。
そして、運航により実質利益を得ている商船三井に応分の責任を果たすよう要請、公開書簡、署名集め、本社前の要請行動などを率先して行った。
モーリシャスの被害は長鋪汽船が掛けている保険(モーリシャスが批准している1976年船主責任制限条約の上限は約20億円、日本が批准している2015年改正議定書でも約70億円)では到底まかなえないことを懸念しての行動とされる。
しかし翌9月、池田社長が記者会見を開いて事故を陳謝、10億円規模を拠出して「モーリシャス自然環境回復基金(仮称)」を設立し、法的責任だけでなく「社会的責任を負うのは当然で、前面に立って対応する」と述べたことを機に評価に転じた。
以後はCSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)の観点から、今後の具体的な活動内容について、商船三井に公開質問書を提出し、回答を得るなどしている。
(質問文および商船三井の回答書はグリーンピースHP参照)
◇企業と生物多様性イニシアティブ理事の安達直樹氏は、「長鋪汽船だけで十分な対応ができないのは明らかなので、商船三井には船主と傭船者の双方が協力して問題を解決するという新たなモデルを作って頂きたい。
それがブランド海運会社としての総合的な責任であり、さらに推し進めて環境や地域社会を守るための安全な航路選択の方針表明もぜひ行って頂きたい。
こうした道に先鞭をつけることができれば、商船三井の行動は、企業経営のあり方をより良い方向に導き、貴重な生物多様性や生態系を保全するために大きな貢献をなした会社として歴史に名を残すことになる」と述べている。
◇政府系の環境保全団体公益財団法人WWFは、現地の自然保護団体ECO SUDと共に、モーリシャス沿岸全域の自然環境変化と生物への影響、漁民への影響を長期にわたり調査を続けている。
2022・3・10
(続く)