軍事要塞化に抗する宮古島の闘い
清水 早子
(ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会)
サンゴ礁の島を軍事要塞化
北緯24度、隆起サンゴ礁の島、人口5万5千人の宮古島には山も川もない。川がないので、生活排水が海に流れ出ない分、サンゴ礁が発達して海は素晴らしく美しい。
島の中央部に小高い野原岳(標高約150m)があるが、これは隆起した断層帯である。宮古島は沖縄県下で最も活断層の多い島で、地震も多い。地下に水脈が流れている世界でも稀な地形の島である。飲料水は地下水。農業用水も地下ダムで地下水をせき止め、くみ上げて使っている。
この小高い野原岳には沖縄戦の戦時中に宮古島に駐屯した3万人の日本兵の司令部があった。敗戦後は米軍が駐留し、1972年本土復帰の際、自衛隊に引き継いだ。今、航空自衛隊の高機能な最新鋭のレーダー基地として運用されている。
2015年に完成した伊良部大橋で今は宮古島―伊良部島―下地島は繋がっている。この下地島には宮古空港とは別にもう一つ空港がある。滑走路3000m、管制塔の機能は成田空港以上だという。
そのため、1960年代後半の建設計画当初から米軍の軍事利用が懸念され、島を二分する反対運動があり、「基地なし復帰」を求める復帰運動の高揚の中で、当時の琉球政府の屋良朝苗主席が日本政府と1971年に覚書を交わした。「下地島空港は沖縄県の管理空港であり、軍事利用しない」と確認した「屋良覚書」である。しかし、1979年開港以来今までに沖縄県の自粛要請を無視して、米軍ヘリの飛来は300回を超えている。
1995年に進学塾講師として関西から宮古島教室へ赴任。島の子どもたちと向き合いながら、反戦行動や基地問題への取り組みを続ける中で私は、2005年頃から陸自配備の情報に接していた。
伊良部大橋の完成で下地島空港と宮古島が繋がる時が危ないと語り合っていた通り、2015年1月架橋、その5月に、当時の左藤防衛副大臣が宮古島市長・下地敏彦(本年5月12日収賄容疑で逮捕、6月2日起訴)に通知しに訪れた時から、私たちのミサイル基地に反対する運動は始まった。
住民との約束無視、工事強行
ミサイル基地配備計画は当初は北寄りの島民の飲料水の水源近くが候補地だったが、地下水保全条例に基づく審議会の「地下水汚染のおそれあり」の答申と市民の反対の声に、島の中央部の野原空自のレーダー基地近くの千代田カントリーゴルフ場(贈収賄の舞台となる)と、その20キロほど南の保良地区に変更された。
私たちは、2017年11月の造成工事の始まりから、工事現場に横断幕や旗を掲げて反対運動を開始した。毎日のように監視と抗議を続け、防衛省に工事や建設データの開示請求を行い、基地建設工事の問題点を追及してきた。簡潔に列挙すると、
①千代田の基地内には断層が走っていること。(保良の弾薬庫・射撃訓練場は両サイドを断層に挟まれていること)
②千代田の基地内には地盤に空洞があり、軟弱な箇所が数か所あり、特に燃料タンクが7基も埋設されている場所は精密な調査も地盤改良事業もされていないため、地下水汚染のおそれがあること
③千代田も、保良も、野原も、弾薬庫が民家に近すぎること、千代田の弾薬庫は約束違反であること
④地域の祈りの場である「ウタキ(御嶽)」が基地内に取り込まれ、自由に立ち入る通行権を奪われていること
⑤千代田基地内のグラウンドは、ヘリパッドにもなり、燃料施設の備蓄燃料が半分以上ジェット燃料であることは約束違反であること、などである。
幾つもの問題点を解決しないで、2019年3月、警備部隊が発足。軍用車両100台が港で陸揚げされるときは、私たちは車でバリケードを張ったり、人間の鎖で立ちはだかり、制服警官に排除されるまで8時間ほど女性が中心の阻止行動を展開した。
2020年3月、ミサイル部隊が発足。700~800名の隊員が配備。3月26日、私たちは集会とデモ行進を延べ100名の県内外の参加で敢行。千代田基地のゲート前を封鎖させた。
オール沖縄で市長選勝利
宮古島のミサイル基地の配備は、今年新たな局面に入り、深刻な事態を迎えている。
2021年1月、市民生活のみならず政治状況に大きく影響する「市長選挙」が行われた。4選目を狙う、基地推進の尖兵である下地敏彦前市長の選対に、政権の菅は自分の秘書二人を張り付かせ、自民党は人も金もつぎ込んだが、一部保守と連携したオール沖縄の推薦した座喜味一幸候補が、私たちの想定も超えて圧勝した。
その4か月後には落選した前市長は贈収賄容疑で逮捕された。基地推進の尖兵として私腹を肥やした前市長は、「防衛は国の専権事項」と口癖のように言っていたが、実は「汚職は私の専権事項」だったのだ。失墜した用済みは権力から守られることなく、逮捕起訴された。基地建設は利権の温床である。
弾薬搬入阻止で座り込み、海運5社がミサイル輸送拒否
3月、保良の弾薬庫が2棟完成、運用が始まった。予定では3棟の計画だったが、防衛省は用地の全部の取得はできていない。反対する地権者がいて係争中だ。覆道式射撃訓練場も未完成なのに、今年は開設の式典もなく運用開始の既成事実作りだけを急いだ。5月12日、前市長逮捕のニュースが翌日大きく報道されたが、同時に「(ミサイルの)弾薬搬入を17日以降に」と陰に隠れるように流れた。
ミサイル弾1発は、長さ5m、重さ700キロという物だから、海路で輸送されるだろうと私たちは、深夜、早朝の監視を続けていた。そうこうしている23日、うれしいニュースが飛び込んだ。「海運会社5社が連名で、宮古への弾薬輸送と荷役を拒否」と!期せずして生まれた市民と海運労働者の共闘だった。防衛省が弾薬搬入を公然としてから1週間も遅れている理由がわかった。
6月2日、防衛省は計画変更したのか、いきなり、「自衛隊ヘリで弾薬を搬入」と報道が。
市民の安全確保のため、詳細情報を求めていた宮古島市には回答しないで、当日午後に通告してきた。情報の入った朝から私たちは、阻止行動の準備に奔走した。急な呼びかけに集まった10数名は、ヘリパッドのある空自野原駐屯地のゲート前に座り込んだ。皆、本気だった。ミサイル車両は千代田駐屯地にすでに勢ぞろい。これで、「弾」が揃えば、いつ有事が起こっても不思議ではない。島が戦場になるかも知れないことを皆わかっているから。
陸自の大型輸送ヘリCH-47が2機、午後2時頃、到着し「荷物」を降ろした。暗くなり始めた午後7時半頃、弾薬を積んだトラックが、17キロほど離れた保良へ向かってゲートを出ようとする。私たちはトラックの前に立ちはだかり、座り込み、スクラムを組んで寝転がり、阻止した。私たちよりずっと多い数の制服警官に両手両足を持ち上げられ、排除されるまで。歴史的な非暴力不服従の実力闘争を闘った。
現代の治安維持法「重要土地調査規制法」が成立
6月11日未明、この国のあり方を変えるような悪法、「重要土地調査規制法」が国会で強行可決された。
土地の規制が本筋ではない。国の「重要施設」の機能を阻害する行為者を罰する、つまり、国策に反対す
る者を弾圧、監視、恫喝することがこの法律の本筋である。
私たちは千代田基地のゲート前に横断幕を掲げ、幟旗を立てている。この行為は基地機能を阻害していると認定されれば、私たちは懲役刑を含む処罰の対象となる。個人情報を徹底収集される。宮古島は「国境離島」という枠組みに入るため、全島が規制の対象であり、全島民が監視の対象となる。こんな現代の治安維持法が、国民の大部分が「知らない」間に成立している。こうして南方の島々は戦争に向かわされている。
今秋には、沖縄で自衛隊と米軍の大規模な共同の戦争訓練が計画されている。台湾有事に挑発的な事態を引き起こす実戦訓練である。
孤立し、打ち棄てられようとしている離島の闘いを支え、戦争を止める全国的な行動をぜひ準備していただきたい!
(2021・7・15)