― 裁判の経過と組合員の思い 27 ―
内航組合員 竹中 正陽(まさはる)
<東京都労委>
海員組合の不当労働行為を再度断罪「従業員労組組合員ゆえの差別は許されない」
2月5日、東京都労働委員会は、海員労組(海員組合従業員労組=北山等組合長)に対する海員組合の不当労働行為を認定、左記の謝罪文を海員労組に提出すると共に、本部掲示板に新聞紙2頁大で張り出すよう命じた。
全日本海員組合従業員労働組合
組合長 北山 等 殿
全日本海員組合
組合長 森田 保己
当組合が、①貴組合の組合員大倉実氏の平成28年10月31日付再雇用職員労働契約終了に当たり、同氏の雇用を継続しなかったこと、及び、②貴組合の組合長北山等氏の29年8月31日付再雇用職員労働契約終了に当たり、同氏の雇用を継続しなかったことは、東京都労働委員会において不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないよう留意します。
(都労委が命じた謝罪文=海員組合は提出拒否)
海員労組は2013年に設立以来、組合員に対する数々の差別迫害、組合への支配介入・団交拒否を受け続けて来た。海員組合のあまりにも常軌を逸したやり方は、裁判や労働委員会の場で次々と断罪され、労働委員会から出された命令だけでも、今回で12件目となる。
本件は、執行部員の減少により交代者に事欠く事態にも拘わらず、2016~17年(H28~29)にかけて、再雇用職員として博多海員会館館長を勤めていた大倉実元関西地方支部副支部長、呉海員会館館長を勤めていた北山等元中執に対し、65歳を理由に雇用継続を拒否したもの。
会館の実質経営者である福岡市、呉市ともに、業務優秀で経営を立て直していた両氏の継続を望んだが、海員組合が執拗に阻んだため両市は困惑していた。
福岡市の場合、海員組合と同市が結んだ大倉氏出向契約が翌2018年3月末日まで残っており、かつ、海員組合は交代者を用意できなかったにもかかわらず、大倉氏を65歳の誕生日の10月末をもって解雇したため、館長不在になりかねない強引さだった。突然の事態に困った福岡市は急きょ大倉氏個人と雇用契約を結び急場をしのいだ。
呉市も同様に北山氏個人と雇用契約を結び、氏は現在も呉海員会館の館長を勤めている。
他方、同じ再雇用職員であっても、65歳を過ぎた後も多数の元執行部員が臨時雇用職員として継続勤務し、高額な賃金が支給されている者もいるとのこと。
命令は、両名の雇用拒否を「組合員ゆえの差別」「労働委員会に申し立てたことに対する報復」「組合への支配介入」と断定、次のように述べる。
大倉元執行部員について
『①28年3月の時点で福岡市港湾局の担当者は、大倉の仕事ぶりを高く評価し、同人の出向の継続を希望する旨を述べていたこと、及び②海員組合と博多海員会館との間で締結された同人の出向契約における出向期間は、その変更協議の余地は認められていたものの28年4月1日からの1年間とされていたことを踏まえると、海員組合は、大倉との雇用契約終了の直前で後任者を手配できなくなった以上、博多海員会館や福岡市の意向を確認し、同人の雇用継続が可能であればこれにより出向者の不在を暫定的に補うのが、出向先との良好な関係を維持する観点からも当然に期待される対応であったというべきである。
(中略)しかし、海員組合は、後任者の選定が遅れたZ5及びZ8の場合には、前任者の雇用延長で対応していたにもかかわらず、大倉の場合には、同人に後任者不在の状況を知らせず、雇用延長の意向確認もしないまま、福岡市に対し、後任者を手配できず、同人の雇用も継続できないと伝えて、後任者の手配を預けるという不自然な対応を行っている。(中略)同人の身分を海員組合に残すことを嫌って行った不利益な取扱いであったといわざるを得ない。』
『20年4月15日の北山の解雇から始まり、長期にわたって複数の訴訟や不当労働行為救済申立てが係属し、海員組合はこれにほぼ連続して敗訴の判決や相手方救済の命令を受け、北山は28年9月には再雇用職員としての地位を回復して復職し、再雇用契約の2年目に雇止めされたZ1についても、雇止めの無効確認等を求める訴訟の控訴審が係属していた。このように、海員組合と従業員組合との関係は、骨肉相食むごとくの対立状況にあったのである。こうしたことに鑑みると、海員組合は、(中略)同人が、激しく対立する従業員組合に加入したため、これを排除する意思に基づいたものと言わざるをえず、同人が従業員組合に加入したことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合員を排除することにより従業員組合の弱体化を企図した支配介入にも当たる。』
北山元中執について
『一方、北山は呉海員会館の黒字化に貢献し、同会館との関係にも特に問題はなかったと認められるから、同会館への出向継続の意思を表示していた北山を排除してまで、Y(注:中堅執行部員。命令書では実名)を同会館に出向させ、北山との雇用契約を終了させる措置は、その合理性に多大の疑問を抱かせるものである。前記で認定した北山及び従業員組合と海員組合との泥沼化した対立状況を踏まえると、結局、Yの出向措置は、北山を海員組合から排除することを目的とした不合理な人事措置であるといわざるを得ない。
そうすると、海員組合は、本来であれば、北山の後任者の手配は困難な状況であって、同人の雇用継続を検討すべきところ、合理性に疑問のあるYの出向措置人事を行うことによって、北山の雇用を継続しなかったものということができる。
したがって、海員組合が、北山の雇用を継続しなかったことは、従業員組合の組合長である同人を確実に排除するためであったというほかなく、同人が従業員組合の組合員であること及び従業員組合が海員組合を被申立人として労働委員会に不当労働行為救済申立てを行ったことを理由とする不利益取扱いに当たるとともに、組合員を排除することにより従業員組合の弱体化を企図した支配介入にも当たる。』
原職復帰・バックペイは不問
しかし命令は、謝罪文の提出・掲示を命じたものの、原職復帰や賃金支払いは認めなかった。その理由は、大倉・北山両氏とも、その後も市に雇用され館長として勤務したからという。
海員組合は命令を拒否
海員組合は謝罪文の提出・掲示を拒否し、中労委へ再審査を申し立てた。また従業員労組も、不当労働行為を認定しながら、原職復帰・バックペイを不問にした命令の不備を是正するよう中労委に申し立てた。10月6日15時半より調査が行われる。
この件で従業員労組側の1名に対し、海員組合は10名もの弁護士を立てている。