憲法判断を避け、却下・棄却判決相次ぐ(編集部)
集団的自衛権の行使を可能にする安保法制の違憲性を問う裁判は、2016年以来全国22の裁判所で約7700名が提訴し闘われている(本誌22号藤丸徹陳述書、27号竹中正陽陳述書参照)。しかし、昨年4月の札幌地裁を皮切りに、11月東京(国賠訴訟)、今年に入り1月大阪、3月東京(差止訴訟)、高知と敗訴判決が相次いでいる。
このうち東京地裁の2つの判決を紹介する。
※国賠訴訟:法制定により心身の被害を被ったことに対する賠償を求めるもの。
※差止訴訟:集団的自衛権を行使するために総理大臣や防衛大臣が発する自衛隊の海外派遣等の命令と、命令に基づく具体的な出動(自衛隊の防衛出動、駆け付け警護等の国際平和協力業務、民間が行う物品役務の提供などの後方支援活動など)について、裁判所に対して「憲法違反なので中止せよ」との命令を出すよう求めるもの。
憲法判断を放棄(国賠訴訟)
昨年11月7日東京地裁は国家賠償請求を棄却(請求の理由なし)する判決を出した。
○閣議決定や法律制定それ自体は無害?
判決は安保法制が憲法違反かどうか肝心な点の判断を避け、『本件各行為は立法行為及び閣議決定であり、それ自体が原告らの生命・身体の安全に危険をもたらす行為とはいい難い』、『原告には法的保護を与えるべき利益が存在しない』という理由で請求を棄却した。
これでは、不当な閣議決定や法律制定の結果、被害を被ったとしても、国民は救済請求できないことになる。
○憲法前文の平和的生存権は権利ではない?
また、憲法前文にある「平和のうちに生存する権利を有する」については、『憲法前文を根拠として、個々の国民に対して平和的生存権という具体的権利ないし利益が保障されているものと解することはできない』と断定、平和的生存権を全面否定した。
○戦争やテロの危険性は切迫していない?
さらには、『当審における口頭弁論終結時において、我が国が他国から武力行使の対象とされているものとは認められず、客観的な意味で、原告らの主張する戦争やテロ攻撃のおそれが切迫し、原告らの生命・身体の安全が侵害される具体的な危険が発生したものとは認め難い』とした。
これでは、現実に戦争が始まるか、戦争直前の状態でない限り、裁判提訴ができないことになる。具体的な戦闘が始まったら手遅れであることは火を見るよりも明らかで、裁判所の任務放棄ともいえる判決である。
判決は、安保法制の違憲性については一言も触れなかった。
「原告らは出動命令を受ける地位にない」(差止訴訟)
今年3月13日、自衛隊出動等差止め請求事件に対し、東京地裁は請求を却下(申立がそもそも不適格)する判決を出した。
裁判では、以下の命令を出すよう求めていた(訴状より抜粋)。
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1 内閣総理大臣は、自衛隊法76条1項2号に基づき自衛隊の全部又は一部を出動させてはならない。
2 防衛大臣は、重要影響事態に際して我が国の平和及び安全を確保するための措置に関する法律の実施に関し、
(1) 同法6条1項に基づき、自ら又は他に委任して、同法3条1項2号に規定する後方支援活動として、自衛隊に属する物品の提供を実施してはならない。
(2) 同法6条2項に基づき、防衛省の機関又は自衛隊の部隊等(自衛隊法8条に規定する部隊等をいう。以下同じ。)に命じて、同法3条1項2号に規定する後方支援活動として、自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。
3 防衛大臣は、国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律の実施に関し、
(1) 同法7条1項に基づき、自ら又は他に委任して、同法3条1項2号に規定する協力支援活動として、自衛隊に属する物品の提供を実施してはならない。
(2) 同法7条2項に基づき、自衛隊の部隊等に命じて、同法3条1項2号に規定する協力支援活動として、自衛隊による役務の提供を実施させてはならない。
との判決を求める。
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却下の主な理由は、『防衛出動命令等は行政処分でないため、行政事件訴訟法上の差止請求の要件を満たさない』、『原告らは出動命令を受ける地位になく、自己の具体的な権利利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者とはいえないため原告適格性を欠く』というもの。まさに門前払いの判決だ。
また、『平和的生存権は法律上保護された具体的権利ではない』、『自らの信条や信念と反する立法等によって精神的苦痛を受けたとしても社会通念上受忍されるべきもの』、『人格権、憲法改正・決定権の侵害はいずれも認められない』などと結論し、『その余の点について判断するまでもなく』として、国賠訴訟と同様、憲法判断を避けた。
これでは、一般国民は裁判所に憲法違反の是非を問うことはできないことになる。また、たとえ自衛隊員(原告適格性を有することが明らか)であっても、出動命令の差し止めを請求する裁判はできないことになる。
東京高裁に控訴
こうした裁判所の司法の任務を放棄した姿勢に対し、原告らは東京高裁に控訴した。今後も日本が他国の戦争に加担したりテロに巻き込まれることがないよう、憲法違反の安保法制が廃止されるまで、粘り強く世間に
訴えていくことにしている。
弁護団によれば、「出動命令は行政処分ではない」「原告は自衛隊員ではないので訴える権利がない」という国民の権利を狭く捉える考え方は、国連の流れや、近年の最高裁判決の傾向にも反するとのことである。
(編集部)
集団的自衛権は憲法9条違反
元内閣法制局長官・宮崎礼壹氏の証言から(群馬地裁)
『他国防衛を本質とする集団的自衛権の行使は、他国間の紛争を解決するために、新たに武力紛争状態を発生させるものであるから、「国際紛争を解決する手段」としての「武力の行使」に明確に該当する。それゆえ集団的自衛権を行使してはならないことは長年の一貫した政府解釈であった。
昭和47年5月に真田秀夫内閣法制局第1部長が、同年9月には吉國一郎内閣法制局長官が「憲法9条の規定が容認しているのは、個別的自衛権の発動としての自衛行動だけだ」、「これは政策論として申し上げているわけではなくて、法律論として申し上げている」と述べ、「他国防衛までやるというのは憲法9条をいかに読んでも読み切れない」と念押ししていた。
これをうけ、政府は同年10月14日に「集団的自衛権の行使は憲法上許されない」とする見解を示したのである。これは単に答弁が繰り返されたという以上に、集団的自衛権は行使できないということが「国家の実践」として繰り返されてきたことを意味している。
ところが、平成27年5月27日の衆議院の特別委員会において横畠内閣法制局長官は、「昭和47年政府見解にある『外国の武力攻撃』という部分は、必ずしも我が国に対するものに限定されていない」と答弁した。なぜこのような発言をしたのか不可解であり、誤りというほかない。集団的自衛権の行使を部分的にも認める場合には、憲法改正が必要である。』