竹中 正陽 (内航組合員)
昨年11月6日から高松で開かれた全国大会を傍聴した。
初めて大会を傍聴したのは、「人間性回復の闘い」の92日ストがあった1972年。以来、数多くの大会に出席・傍聴して来たが、今回が最も低調な大会だったように思う。
現場の生の声、切羽詰まった声が少なく、潮気がほとんど感じられなかったからだ。内航船が入れ出しの連続で、過密日程にあえいでいるのがウソのような、違う世界がそこにあった。
今年は中間大会ということで初日に活動報告・会計報告・活動方針の審議が行われたが、挙手者が少ないため、議長が設定した終了予定時刻18時半より大幅に早まり17時には終了。2日目の分科会も同様で、最も長い外航分科会で17時前に、水産分科会は15時、国内分科会も16時前には終了した。
議長が『発言者が少なくなったようなので、そろそろ集約に入りたいと思いますがいかがでしょうか』と問いかけると、議場から一斉に拍手が湧く。あちこちで夜の懇親会が予定されているようだった。
今年は、関東地区から外航職場委員連名で出された活動方針修正案が7本、神戸と愛媛から地区組合員の雇用を守るなど2本の決議案が出されたが、国内部関係の修正案はなかった。
以下、初日と2日目(外航分科会)を傍聴した感想を記したい。
◯初日
【全国委員総数389人中、出席340人(本人224+委任116)、他に常任役員8人、船内委員長2人、全国委員でない職場委員2人、執行部等39人】と報告があった。本人出席が6割弱、近年船内委員長の出席が減っているのが気になる。
1. 活動報告審議
例年通り、活動報告書を辿りながらの報告。これに45分を要し、審議時間として70分が用意された。しかし、議場からの発言は2件(気仙沼の大島航路組合員から組合への感謝の手紙を地方の執行部員が代読。組合奨学金を受けている人の月1万円と月1万6千円の割合を聞く質問)、実質5分で終了した。
過去1年間の組合活動全般にしては発言が少な過ぎる。代議員は組合活動の全てに満足しているのだろうか?現場に労働条件や組合の対応に対する不満、意見は皆無なのか?
それとも、遠慮してしゃべらないのか、しゃべれない雰囲気なのか?言っても無駄と感じているのか?「覇気が無い」の一言では片付けられない難しさを感じた。
2. 会計報告審議
『臨時費が予算と実績で差がある理由は?』、『混乗対策基金は何のためにあるのか?』など、3人から質問があったのみで12分足らずで終了した。
3. 活動方針審議
予定された審議時間90分のところ70分で終了。関東の外航職場委員連名の修正案2件(1号「女性船員増加の取り組み」の上から目線の修正を求めるもの。2号海難事故か船舶事故かの定義、事故件数に関する方針書の表現の誤りを是正するよう求めるもの)に多くの時間が費やされた。
目立つ執行部の「忖度」
修正案に対して関東地方支部長を含め各地の執行部が本部原案賛成の意見を連発する。曰く、『本部案の方が分かり易い』、『本部案の方がシンプル』、『修正案は本部方針に含まれている』等々。執行部が寄ってたかって修正案を叩く、関東地区大会と同様の光景が再び繰り広げられた。発言内容も地区大会とほとんど変わらない。
修正案は地区大会でかなり揉まれ、修正された。関東の執行部員は地区大会で修正案が可決する際の修文過程に参加し、賛同したのではなかったか?「忖度」の2文字が頭に浮かんだ。
対する職場委員側も次々と挙手し、『修正案の方が分かり易い』、『女性活躍の政府の考え方に合致している』、『引用原典である保安庁資料に忠実』等と、同じ主旨の発言を繰り返す。
一見活発な論議が行われているように見えても、双方とも「私たちも考え方は同じ」という姿勢のため文章表現の良し悪しの域を出ず、なかなか論争にならない。
気になったのは、執行部が発言する時は本部案賛成、職場委員は修正案賛成と、見事に分かれていることだ。「身内」を批判するのはタブーなのだろうか?
女性船員の活躍促進論議
女性船員に関する方針案の修正を求める応酬で、面白い場面が見られた。
女性船員に関する本部方針案は次のようになっていた。
『〈女性船員の増加に向けた取り組み〉
少子高齢化が進み労働人口の減少が懸念されるわが国において、経済・社会に活力をもたらす女性の社会進出は欠かせない。(中略)海運・水産業界においては、女性船員の就業が進んでいるとはいえない。そのようななか、国土交通省海事局は、(中略)女性船員の活躍促進に向け雇用を促進するための情報の発信や働き続けられる環境の構築など、提案をとりまとめた。今後、この提案の具現化に向け、国の積極的な取り組みを求めていく。』
修正案は、下線部が労働力不足を女性の進出で補おうとする主旨が含まれていることを懸念し、文言の追加を求めていた。
ある職委が、『当社の女性船員に意見を聞いたところ「本部原案は男性目線で残念、修正ではなく削除を」との厳しい意見だった』と発言した時は、論争が深まる気配を感じて思わず身を乗り出し傾聴した。
しかし、どこがどう男性目線なのかの言及がないため本部側は黙視。逆に地方の執行部から『本部案は男性目線ではない。シンプルで分かり易い』など、文章表現の良し悪しを論じる発言が出て、職委側はそれ以上踏み込まずに終了してしまった。
修正案は、本部案が真に女性の自立やジェンダー平等の観点に立っておらず、人手不足解消策としての「女性の社会進出」という上から目線に陥っていることを懸念して、下線部の字句追加・修正を求めたはずだ。女性船員が『男性目線で残念』と言ったのもその点だろう。
そうであれば、何処がどう男性目線なのか、どういう目線が必要なのかを論議し、女性船員の具体的要求は何か、に進まなければならなかったはずだ。しかし、そうはならなかった。
結果、田中副組合長が『同じ船員として共感するところが多々ある』として本部原案の後に一部挿入するで終わった。
2号の海難事故件数に関する修正案は、本部原案の誤りが明白なため、田中副組合長は「安全対策は1丁目1番地」との理由を付してそのまま受け入れざるを得なかった。
聞き役に徹する国内部代議員
一方、最近地方の若手執行部の発言が増えているのは良い傾向のように思えた。修正案に関する質疑以外でも5人前後が発言した。ただ、いずれも『海の日固定化の進捗状況を教えて下さい』、『船員税制に関する方針案の支援体制とは何か教えて下さい』等の、本部に教えを乞う質問で、学校の教師と生徒のやりとりのように見えた。
組合大会は現場の意見・要求を出し合って論議する場なのだから、その後の意見・要望へ繋げて欲しかった。
関東地区大会と同様、審議全体を通じて国内部の代議員は、『戦没船の資料が関西地方支部にあるが、貸し出しはできないのでしょうか』と聞いた程度で、ほとんど発言せず、聞き役に徹していた。国内部門の修正案がなかったのも寂しかった。
◯2日目:外航分科会
アメリカが提唱する「有志連合」参加や、自衛隊の中東派遣を巡り、政府が決断する時期が迫っていたことから、今年は外航分科会を傍聴した。
海員組合としてどう意思表明するか、活発な論議が行われることを期待していたからだ。
自衛隊に感謝の思いは共通
しかし「有志連合」については、本部も代議員も言及することはなく、「船員の安全が最優先」「海賊対処で自衛隊に感謝」で双方とも「思いは同じ」と、従来の域を出るものではなかった。目下の政治課題のような生臭い問題に触れるのは、互いに避けているように感じた。
審議時間のほとんどが関東地区修正案3号(ペルシャ湾情勢に関し、「船員の安全が脅かされる」を挿入して欲しい)、同4号(海賊問題で、自衛隊感謝の気持ちを入れて欲しい)、同7号(日本人船員確保の項には労使協力の言葉を入れて欲しい)に費やされた。
いずれも『本部案を補強』するもので、『より分かり易くする』、『よりアピール度を増す』『関係者の協力をより得易くする』表現にするためとのこと。
初日と同様、修正案に対して各地の執行部が次々と手を揚げ、『本部案の方が分かり易い』、『修正案の主旨は本部案に含まれる』、『修正案の内容は本部案の別の箇所に書かれているので、あえて修正する必要がない』等と、本部案を持ち上げる発言を連発する。
職委側も10人近くが、入れ替わり立ち代わり、『ペルシャ湾は危機的状況になっている。船員の安全が何より大事』、『長期間炎天下で厚いジャケットで頑張ってくれている自衛隊に感謝の気持ちを伝えたい』、『自衛隊がいてVHFで日本語を聞くとホッとする』、『労使協力が何より大事』等と繰り返す。
本部側も『思いは同じ』、『自衛隊に感謝』、『これまで通り労使協力は変わらない』と答弁。特に自衛隊については、本部、執行部の代議員、職委揃って「感謝」の大合唱だった。
にもかかわらず、有志連合や政府が計画している自衛隊の独自派遣等について、本部側も代議員も触れようとしないのは何故か?不思議に思えたが、現実問題に触れると職委内部、執行部内部でも微妙に意見が分かれるので触れたくない、もしくは意見開陳するだけの準備ができていないのだろうと考えると腑に落ち、納得できた。
最終的に、修正案3号は、『論議を通じて本部側も思いは共通であることが理解できた』という理由で職委側が取り下げに応じた。4号も、『自衛隊という字句はあえて入れないが、ご希望通り昨年方針書と同様に自衛隊に感謝を伝える写真を挿入するので修正案は取り下げて欲しい』と本部側が意向を示し、職委側はこれに応じた。
職場委員の突っ張り
修正案7号(日本人船員確保)に関するやりとりで、本部と職委側で船主団体に対する姿勢が異なっていることが鮮明となり、印象に残った。
本部方針案が、「一方、関係船主団体のなかには、国際的コスト競争力に欠ける日本人船員の量的確保の推進は企業行動原理に合致しないとする意見があるなど、業界の協力姿勢が疑問視される。」とするのに対し、修正案は、「~合致しないとする意見があるものの、量的確保の問題については業界の協力が必要であることに引き続き理解を求めていく。」と追加するもの。
焦点になったのは、6月の船主協会月報巻頭言の船主協会理事長の発言(本誌29号に掲載)。
ある職場委員が、『方針案に「業界の協力姿勢が疑問視される」とあるが、関係船主団体が言ったとされる内容を説明、紹介して欲しい』と要望した。
それに対し森田組合長が挙手し、船主団体名や発言内容を紹介することはせず、『労使協力して、トン数標準税制を導入する中で、併せて日本人船員拡大を政策で謳った。政治家の皆さんにもお願いしたもの。それを今になって、ある団体の幹部から約束を破るようなことを言われたら頭にくる。今更そんなことを言うなら元に戻すという話になる。我々はフラストレーションがたまっているが、大人の対応をして表現を抑えている』と見得を切った。
しかし、ここでも初日の「女性活躍」論議と同様、理事長発言の何処がどう問題なのかに踏み入ることはなく、職委側もそれ以上船主団体幹部の発言について質したり、言及することはなく、「労使協調を」と繰り返すのが印象的だった。国交省の海事分科会船員部会等での国や船主協会の対応の問題点や、なぜ日本人船員が増えないのか、といった原因追及の論議に至らなかったのも物足りなかった。
しかし、いざ採択の段階になって、どんでん返しが起きた。本部側・職委側共に少しひねくった経過となったのだ。
職委側の『日本人船員確保のために頑張っている会社、頑張っている労務担当者もいる。労使協力が何より大事なので、「疑問視される」で文章を終わらせず、末尾に業界の理解を求める主旨の表現を入れて欲しい』という要望に対し、本部側は一転、『熱い議論に共感、修正案の主旨は受け入れ修文に応じる』と、受け入れの姿勢を見せたのだ。
しかし、採択の段階で本部側が新たに挿入するとして出した文言は「関係船主団体に責任ある対応を求めていく」というもので、職委側の意向とはだいぶニュアンスが異なっていた。
職委側は『提案者と相談したいので時間が欲しい』として、しばし休憩。その後職委側が出した結論は『組合が誰とスクラムを組むのかという問題提起の意味で出した。修正案自体を取り下げる』というもの。
突然の取り下げに、森田組合長は『そう来たか、なる程!』と感嘆して見せた。
提案者自ら取り下げたため本部側が新たに挿入するとした文言はご破算となり、結果は原案通りとなった。本部側が修正案を逆利用しようとしたのに対し、職委側がそれを察知して一矢報いた格好だ。
他の議題でも、単に表現や語句の問題にすぎず、本部案と大きな違いはないと思える場面でも、職委の人達が懸命に食い下がる場面がしばしばあった。
関東地区大会でも同様の光景が見られたが、職委の人達はなぜあれほどこだわるのか?あの突っ張りはどこから来るのか?
当初は測りかねたが、会社に対するアピールが含まれているにしても、根底には「職委である以上、組合の単なる駒ではない」という現場代表としての自負心があるように感じた。
分科会で気にとまったこと
池谷中執(国際局長)が4号修正案に難色を示し、『海員組合が自衛隊という言葉を使用すると、様々な捉え方をする団体がある』と、自衛隊という字句を方針書に使いたくない主旨の発言をした。その後どうということなく議事が続いたが、休憩を終え議事が再開されると、池谷中執自ら、『先ほど私は、自衛隊の文言について誤解を生じかねない発言をしました。決して自衛隊の文言を使用しないという意味ではありません』と釈明した場面だ。休憩中に誰かに注意されたのか、不自然な感じを受けた。
もう一つは、組合長が挨拶の最後に、『この中で今回海に帰る人はどの位いるのかな、手を揚げて!』と職委に呼び掛けると、職委の人達は互いに顔を見合わせつつも、次々と手を揚げた場面だ。組合長は、『おう、だいぶいるね。これから海に帰る人は海員組合の応援団になって貰いたい』と余裕の挨拶で締める様は、まるで教師と生徒のように見えた。職委の人達はどう感じたのだろうか?
全国委員総数49人中49人出席(本人36、委任13)、外航の出席率の高さには感心した。
場外の雑談から
休憩中、船主関係者とおぼしき人達の雑談に背筋が凍った。
『外航大手のフィリピン人船員が肩を叩かれ、古株の船員が多数辞めていることが、フィリピン人船員の間で話題になっている。太っている船員が乗船中○カ月以内に体重を減らせと指示され、減らせないと辞めて行けと非難される。他にも色々なやり方がされている。自社が作った養成学校出の卒業生が一航機の実職を取るようになり、何かとウルサイ古手が邪魔になり、何カ月も乗せないで干す。いつまで経っても乗れないので、やがて移って行く。自社のカラーで埋めたいようだ。』、と小耳に挟んだからだ。
これが事実とすれば、かつて日本人船員が受けたのと同じ屈辱を、今、年輩のフィリピン人船員が受けていることになる。
緊急雇用対策の時代を思い出し、暗い気持ちになった。定年間際の12年間、船で苦楽を共にしたフィリピン人船員の顔が自然と浮かんだ。
しかし、こういう話は組合の公の場では一切出てこない。職場委員の人達は、職場の同僚である外国人船員の悩みや要求も是非取り上げて欲しい。
おわりに
今年は国内部方針に関する地区修正案がなかった。近年地区修正案が少ないのは、日程的に余裕がないことが影響しているように思う。
以前は9月中旬に本部方針案が船員しんぶん号外で大量に配布されて「大衆討議」に付され、10月20日過ぎの地区大会まで職場委員・全国委員が現場の意見を聞いて修正案を練る十分な余裕があった。
しかし、ここ10年来、船員しんぶん形式は廃止され、部厚く製本された方針案が9月下旬に全国委員だけに発送されるようになった。そして地区大会は10月10日頃に早められ、事前に支部に提出する締め切り日の存在もあって、修正案を練る日数が極端に少なくなっている。
今では本部方針案を見る現場組合員もほとんどなく、「大衆討議」は死語となった。
また、今年も傍聴席は会社関係者や海友婦人会、海事マスコミが占め、現場組合員らしい人がほとんど見えなかった。おそらく私ひとりだっただろう。
現在、現場組合員やOB(執行部OBも含め)が大会を傍聴しようと思えば、9月下旬に開かれる全国評議会の前日までに傍聴券を申請して許可を得なければならない。傍聴を許可されない執行部OBもいると聞く。
私が代議員として大会に出席したのは2012年が最後で、翌年の長崎大会では組合員資格をはく奪され傍聴も拒否された。幸い裁判で資格が回復されて2014年から傍聴を続けているが、毎年9月初めに組合員番号等を書いた申請書を送付して、ようやく傍聴可能となっている。この手続きは乗船中の組合員にとって一苦労だ。
このように、「開かれた組合」とは真逆のやり方が、地区大会を含め、参加する船内役員、傍聴する組合員が大幅に減っている背景にある。
こうした状況に終止符を打つためには、もう一度「大衆路線」「現場に軸足」の原点に戻り、地方の執行部員や職場委員が大衆討議の徹底、現場要求の掘り起こしをして大会に臨める日程、自由に意見が言える環境に変わらなければならない。
大会が活発でなければ、その組合が活発であるはずがない。大会をそのような場にすることは役員の義務でもあるが、現状はそれに反する施策が取られている。
この状況が続けば、組合員のための組合でなく、限りなく組合のための組合、役員のための組合に変質してしまう。代議員の人達の奮起を望む。
(内航組合員)