現場の声募集中! 匿名可
世間に「内航の声」を届けよう

電話・ショートメール:090・6482・6503
Eメール:rashinban7@gmail.com

違う景色が見たい

(セメント船・甲板員33歳)

◯公務員を皮切りに陸を転々

文系の大学を出て、最初の仕事は公務員。お固い仕事がイヤになり、その後は色んな仕事を転々としてきた。気がつけば30歳。身体を使う仕事は船が初めてだけど、自分は飽きっぽい性質なのか?違う景色をみたいという気持ちがいつも有って、船に乗ってみようと思った。深い考えはなく、ほんの軽い気持ちですね(笑い)。

親戚の伝手で陸から海へ?

最初は親類の伝手で699トンのタンカーに紹介してもらい、1年半ほど乗った。

右も左もわからず、仕事がわからないつらさ、みじめさをとことん経験しましたね。何かするたびに周囲からボロクソに言われて…。

それでも、自分のような素人に皆さん、よく仕事を教えてくれたと今になって思う。

その船では、不満といえば、忙しいことくらいで、ずっと乗っても良かったけど、その時はとにかくいろんな船種を経験して幅を広げなければと思って、運輸局(職安)に行くことにした。職安には求人が沢山あって、すぐ今の会社が見つかったですね。

◯仕事を覚えるのが楽しい

この会社では今の船がまだ2隻目。慣れたとまではいかないけど、まあいい感じで来れている。

今乗っているのは大型のセメント船で、定員10名。

大手セメント会社傘下のオペレーターの孫請けで、ほかに小型セメント船が2隻の計3隻体制。航路は小型の方は専ら瀬戸内海、大型は関西から東海、関東へも行く。どの船も走っては、入港・荷役・出港・航海の連続でとにかく忙しい。前泊(荷役の前日に専用バースに接岸すること)を認めてくれると良いのだけど…。10名の内訳は、甲板部が職員3名・部員3名、機関部は4名。以前はマカナイ(司厨長)を入れて11名だったけど、今はマカナイがいないので自炊です。

接岸作業など忙しさのピーク時は機関部も総出で協力してくれるし、甲板部の整備作業は、なるべく揚荷中にするようにしている。

ワイヤー入れのような仕事はタンカーではしたことが無かったけど、ボースンが付きっきりで教えてくれて何とか出来るようになった。荷役の協定書など一航士が担当する事務作業が多くて、手伝ううちに大体できるようになった。

セメント船で大変なのは、エアーで圧送して揚げ荷をするので、湿気があるとパイプにセメントが固まってしまうこと。それを除去するのが大仕事です。一隻目の船では何もさせてもらえなかったけど、この船では何でもやらせてくれるので仕事を覚えられる。小型船と違って、乗組員が多い分、皆な気持ちに余裕がある感じですね。船長は忙しい時には航海当直を4直に組んで当直と当直の間を12時間確保してくれるし、船長、機関長が何かと船内融和を気遣ってくれるので居心地が良いですね。

◯自炊は大きな負担

本船は甲機合せて10名も乗っているので当然、マカナイが常時乗るものと思っていたけど、以前乗っていたマカナイがすぐ降りてからずっと自炊生活です。

会社は求人を掛けているようだけど、なかなか人がいなくて、船長は『来ても訳ありが多くてね』と言っている。訳ありの内容?それはとうてい僕の口からは言えません。

マカナイの人が作る料理はさすがにプロでおいしかったけど、自分で作るのは正直余りおいしくない。食料金は一日1200円で、各自買い出しに行く。それぞれが自分のものを買うため、どうしても割高になるので、1200円は安い。その代わりに3万円程度の欠員手当が出るのが救いと言えば救いです。

でもせっかくの上陸で、嗜好品だけならいいけど、食糧を買うのが中々大変で。食事が大きな負担になっている。

◯労働時間、給料

労働時間は一応記入して記録を残している。何か事故でもあったときに真っ先に保安庁や労務官から調べられるので。

でも、もちろん実動時間は書かない。拘束時間や待機時間をまともに書いていたら膨大な労働時間となり、大問題になってしまう。

取り前は甲板員の私で手取り丁度30万円。

船長は手取り60~70万円と聞いているけど、一航士以下はかなり落ちるようです。

ボースン始め甲板部員は皆6級を持っているけど、二航士になっても給料は4万円程度しか上がらないので、なりたがらない。基本給は、年齢に沿って僅かしか上がらないので皆、不満を持っているようです。二航士不足に対応するため、会社も一生懸命求人を出しているけど、なかなか集まらない。本船にも19歳の免状を持った若い子が見習いで乗っているけど、長期勤続者だけをことさら優遇するような仕組みなので、疑問を感じる。

◯テレビ、スマホ

テレビ映りは何とかならないもんですかね。地上波が映るのは瀬戸内海くらいで、おまけに船が動くに連れ、年がら年中チャンネルの初期設定をしなければならない。ちょっと外海に出るとBSしか駄目。定時のニュースが見られないのが、これほど落ち着かないということを初めて知りました。陸では考えられない。ニュースは専らスマホ頼りです。

スマホの船橋持ち込みは禁止されている。以前親会社の社船で、航海中のスマホ使用による注意散漫が原因で事故があったとのこと。その代わりと言っては変だけど、船橋には会社支給で緊急連絡用の携帯電話が置いてある。

◯若い人が船に定着する鍵は?

内航船に人が定着するには、決まった時期に、約束通り下船できるかどうかが大きいのじゃないですかね。

この会社に来たとき、比較的若い人が多かったので、乗組員の出入りが激しい会社かと思ったけど、60日乗船、20日の休みが守られているので今のところ安心できています。未だに船内でいじめが残っていたり、人を大事にしない会社をよく聞くけど、船員が定着しない会社は残っていけないのではと思う。

◯自分に合った船がそのうち見つかるさ

面接の時、会社は、私の経歴をみて陸上勤務はどうかと言ってきたけど、即座に断った。まずは甲板員として自信を持てるようになることが第一で、それを目標として、定着できる場所を見つけていきたい。

最初に船に乗る時、親類とか色んな人から、甲機両方の4級が取れる海技短大を勧められた。でも、この年齢だし、お金を貰いながら実地で仕事を覚えるのが先だと思い乗船を優先した。免状がなくてもなんとかやれてきたし、今はそれが正解だったと思っている。

いずれ免許は自力でも取れると勝手に思っているし、自分に合った船も、そのうち見つかると楽観的に考えています(笑い)。

(談)