産別最低賃金等を求めて22年振りのストライキ(編集部)
新聞報道から
『全国の港湾労働者でつくる産業別の労働組合で、14日朝から48時間のストライキを実施した全国港湾労働組合連合会(全国港湾、約1万6千人)と全日本港湾運輸労働組合同盟(港運同盟、約1200人)が16日に記者会見し、2019年春闘の賃金改善要求に日港協が回答を拒否し続けた場合、4月末からの10連休中にもストに踏み切る考えを表明した。
全国港湾労連がスト突入 全国の港で積み下ろしできず
両労組は経営側の日本港運協会に対し、業界内の労使交渉の基準となる「産別最低賃金」の引き上げを要求している。15年春闘では月16万4千円で妥結したものの、協会側は翌16年から「独占禁止法に抵触するおそれがある」として、3年連続で回答を拒否した。
そのため両労組は、中央労働委員会にあっせんを申請。中央委は今年2月15日に「独禁法上の問題にはならない」とのあっせん案を示したが、協会側が要求に応じるきざしがないとして、22年ぶりとなる平日をふくむストに踏み切った。』(4月17日朝日新聞)
ストの結果、全国の主要な港でコンテナの荷役作業が一斉に停止。横浜港や川崎港ではターミナルゲートが閉鎖され、入港できない船舶は沖に錨泊した。
「はくおう」の無断荷役強行
スト原因の一つは、防衛省が10年間の契約でチャーターし、船員予備自衛官らを乗せて運航しているフェリー「はくおう(注1)」が、荷役に関する事前協議制(注2)を反故にし、港湾労組・港湾労働者を無視して荷役を強行したことにある。
港湾労組側の事前協議要請にもかかわらず、2月2日、「はくおう」は自衛隊の訓練車両を積んで沖縄の中城(なかぐすく)湾港に臨時入港、荷役を強行した。
本来であれば、事前協議制に基づき、船会社が臨時寄港として事前に港湾事業者の団体である一般社団法人日本港運協会(日港協)に申請し、それに基づき港湾労使が作業体制・手順などを協議して荷役が行われるべきであった。
これまでは、「はくおう」寄港の際も事前協議が実施されてきたにも関わらず、今回経営側はあえて協定破りを行い、更に、その後の組合側の是正申し入れに対しても何ら具体的に対処しなかった。
こうした日港協の姿勢を改めるよう組合側は求めている。
(注1)フェリー「はくおう」
元は、新日本海フェリーが所有していた大型カーフェリー。有事の際に民間船を活用する「機動展開構想(2013年の新防衛大綱)」に基づく特別目的会社(SPC)として、防衛省の指導により高速マリントランスポート社が作られ売却された。同社は商社双日、新日本海フェリー、津軽海峡フェリー等で構成され、「はくおう」と「なっちゃんワールド」の2隻のフェリーを10年間防衛省に提供する用船契約を結び、船員予備自衛官や民間船員を乗船させている。
(注2)事前協議制
海運業界、港運業界、港湾労組である全国港湾・港運同盟との合意に基づき、40年にわたって維持されてきた制度。
船の臨時寄港や配船変更、船型変更などがあった場合、船会社と日港協、日港協と港湾労組がそれぞれ事前に協議することで、安全円滑な荷役を図ると共に、港湾労働者の雇用・労働条件を守ることに寄与している。
国土交通省も次のように述べて、積極的にリードしてきた。
『港湾運送事業は、一旦混乱が生じれば我が国産業の生産活動や食料需給にも重大な影響を及ぼす公益性の高い事業であり、港においてこれらの業務が秩序を持って安定的に提供されることが、貿易立国である我が国にとって必要不可欠である。』
『現在、海運業界、港運業界、港湾労組の合意に基づき、コンテナ船の配船変更等における港湾における雇用の調整システムとして、海運企業と(社)日本港運協会(以下「日港協」という。)との間及び日港協と港湾労働組合との間で協議が行われる事前協議制が実施されている。
(中略)日本の港をより使いやすいものにするため、国内において関係者間で議論を行った。その結果、9年10月末に、日港協、邦船社の団体、外船社の団体及び運輸省の4者間で、改善についての合意がなされ、現行事前協議制度について大幅な改善が図られたところである。
また、あわせて事前協議制度の別方式の設定等について、運輸省はその権限を逸脱しない範囲内で関係者に助力を行うこと等を内容とする合意が、邦船社の団体、外船社の団体及び運輸省の3者間で9年10月末に行われている。』
(平成10年度、運輸経済年次報告より引用)
産別統一要求に対する日港協の対応
2月19日、全国港湾と港運同盟は、産別統一要求と併せて事前協議制違反の是正等を求めて、日港協との間で団体交渉を開始した。
統一要求内容は以下の通り。
①賃上げなど労働条件の改善
②産別最低賃金制度への統一回答
③65歳定年制早期実現・港湾年金制度拡充・労災補償拡充等の政策要求など。
4月11日まで6回の団体交渉を重ねられたが、日港協側は、『個別各社で対応すべきこと』、『専門委員会での対応としたい』、『産別最低賃金は独占禁止法に抵触する恐れがある』として回答拒否の対応に終始したため、組合側は日曜日である3月31日、4月7日の朝8時からの24時間ストを通告、実施した。
ストに際して、日港協側から、『すきに打てば』、『現行の最賃協定を破棄したい』等の暴言も発せられたとのこと。
港湾の産別最低賃金
船員の最低賃金は、最低賃金法に基づき、国(全国的なものは国土交通大臣、地域的なものは地方運輸局長)が決定する「法定」最賃となっている。
一方、港湾の最低賃金は港湾労使の自主交渉による「協定」最賃である点が異なる。
現在の最賃は、164000円(月23日就労、拘束8時間・実労7時間の労働者の場合)である。
最賃は創設以来37年間、度々増額されてきたが、2015年に現在の額が協定されたのを最後に、日港協側は『独占禁止法に抵触する恐れがある』として協定を拒否している。
2016年の春闘では小委員会での協議に移行し、「17年に地域最賃並みに3%UPする」ことで合意したが、17年になると日港協はこの合意も反故にした。
こうして3年連続で回答拒否が続いたため、組合側は昨年夏に中労委にあっせんを申請していた。
日港協は、中労委あっせん案も拒否
今年2月15日、中労委は日港協の主張を退け、「独占禁止法上問題なし」とするあっせん案を出した。内容は次の通り。
『団体交渉における使用者の行為は、公正取引委員会競争政策研究センター「人材と競争政策に関する検討会報告」でも確認されているとおり、独占禁止法上の問題とはならないと解されるため、労使双方は、産業別最低賃金について、真摯に協議を行い、その解決に努めること。』
4月9日の「あっせん」の場で組合側はこれを受諾したが、日港協は、「中労委の一方的な解釈であり、中労委自体がその言葉に責任を持っていない」などとして拒否した。
中労委を軽視し、かつ、公正取引委員会への問い合わせも行わない日港協の不誠実な対応に対し、組合側は4月13日(土)~16日(火)まで平日を含む72時間のストを通告。日港協の態度が変わらないため、通告通り実施された。 但し、国民生活に多大な影響を及ぼす食料品・郵便物・個人の荷物・離島航路等はスト対象外とした。
ストの争点は、①産別最低賃金制、②65歳定年制早期実現・港湾年金制度拡充・労災補償制度などの政策要求、③事前協議制の遵守・違反に対する是正措置の3点。
(ニコニコ動画、YouTubeで全国港湾・港運同盟による記者会見の模様が視聴可能)
連休のスト回避、新たな段階へ
日港協の態度が変わらないため、組合側が5月の10連休ストも準備したところ、日港協はスト回避を要請、交渉再開の姿勢を見せたことから連休中のストを回避。5月9日の中央交渉で、要旨以下の確認が為されたため、ストを延期し、団体交渉に切り替えた。
①事前協議制
事前協議制度は、港湾労働者の雇用と就労を守ることを原則とした極めて重要な制度であることを曰港協は認識し、引き続きこの制度の厳守を前提に、適正かつ厳格な運用を行っていく。
そのため、船社からの事前協議申請については、日港協として関係元請と雇用不安の有無について充分検証した上で、定例の中央事前協議会またはその小委員会を立ち上げ労使協議・検討し、必要に応じ船社に対して協力を求める事とする。
②定年延長に伴う制度の整備
65歳定年制度の実施に向けた条件整備。早期実現に向けて各企業労使で努力するよう周知する。港湾年金の支給要件については65歳の誕生曰までを対象とし、2020年4月1日より実施する。
③労災企業補償制度
負担増を含め、各企業内補償の実態把握に努めるとともに、引き続き中央安全専門委員会、必要に応じ労使政策委員会において、問題解決に向け協議する。
そして、産別制度賃金、および事前協議制度違反に関する申し入れについては、中央団交の下で、小団交を開催して協議することが約束された。
その後、最賃に関する中労委あっせん案については、日港協側が『受諾することはできない』と繰り返すのみで、あっせん受諾の見通しがつかないことから、組合側はあっせんを取り下げた。組合側は、今後次のステップに進む準備をおこなっていくとしている。
(7月1日編集部、写真はいずれも全国港湾ホームページより)