教員・関係者に聞く

 船員の後継者不足が叫ばれる中で、小樽海上技術学校の廃校を始めとする更なる再編統合が意図されている。現状と問題点は何か。海上技術学校の教官や元教官。関係者らに話を聞いた。

Q 学生の人数、就職先など
 採用数の減少に伴い、1970年代半ばから80年代にかけて、村上・七尾・児島・粟島・門司の各海員学校が閉鎖されました。2005年に沖縄も廃校となり、現在は中卒対象の海上技術学校4校、一局卒対象の短大3校の計7校です(図参照)。

 2001年に全国の海員学校が「独立行政法人海員学校」に統合、2006年には海技大学校も統合され「独立行政法人海技教育機構」と名称を変えました。昨年4月に航海訓練所も統合されています。
 学生数や就職先などの数字は、独立行政法人・海技教育機構のホームページに出ている通りで、海大を除く7校の募集数は390名、途中の落ちこぼれはなく、ほぼ全員が卒業して行きます(図参照)。
 ほとんどが海上職で、この年の陸上への就職はわずか3名とあるように、船員不足を反映して海上の求人数は4倍位、ひとつの会社で何人も採用する所もあつて全員が就職できる状況が続いています。
 学生に人気があるのは大型のRORO船やフエリー、タグや官庁船も人気があります。内航の499トンなどの小型船に行くのはほとんどいない。表の「その他内航」は、一見すると「内航3団体」以外の、いわゆる未組織会社(海員組合に組織されていない会社)に見えますが、実際にはタグボートなどの組織会社が多く、学校にもよりますが、船員派遣会社やマンニング会社への就職はほとんどないのが現状です。

Q どんな学生が入学?学生気質は?
 海上技術学校は3年制で、卒業時に4級海技士の筆記が航機両方とも免除となり、卒業後に6カ月の実習コースに進めば4級の航機両方の乗船履歴を満たします(日述試験は通る必要がある)。卒業後すぐに就職する場合は、さらに1年9カ月の乗船履歴が必要です(この場合は航機各々の履歴が必要)。
 技術短大は2年制で、水産高校など指定校からの入学、AO試験での入学、正規の受験生の、それぞれ大体1/3ずつ。正規の受験は応募者が2〜3倍の狭き門です。割合としては高卒直後の18〜9歳が多いですが、 一般大学の卒業生、銀行など一流企業からの脱サラ組や船主の息子(後継者)など30歳以上の人も毎年1〜2割います。年輩者は「船員になる」決意が固いので目の色が違うので吸収も早い。若い連中も自然と感化され、勉強に打ち込んだりしています。
 学校も寮も飲酒禁止で、タバコは指定場所だけ。若い連中は平気で規則を破ったりしますが、年輩者が良い影響を与えています。昔は知りませんが、今は、いわゆるヨタレ学生やヤンキーは少なく、みなまじめでいい子達です。女性の割合は一割程度でしょうか。元気ではつらつとした子が多いです。
 自宅通学も認められていますが、ほとんどの学生が寮に入ります。
 寮はエアコン付きで、朝6時50分総員起こし放送、7時整列点呼の後体操と掃除、7時半朝食、8時20分から12時20分、13時20分からほ
ぼ毎日17時までは授業のために寮を開鎖。忘れ物をしても取りに行けず、減点となります。授業を抜け出す学生はおらず、寝ていたら起こします。そして週一回4時間程度の小型練習船での実習があります。
 夕食後は夜9時50分の門限まで自由時間。各自勉強や体育館でスポーツをしたり、外出も自由です。夜10時の巡検で整列確認、11時半に消灯・施錠となります。家に帰るのは土日や夏冬の休みだけ。こうした生活を一年続けて、自然と規則正しい生活習慣になります。
 2年目は旧訓練所の練習船での乗船実習が12月までの9カ月、1月から3月は海技試験勉強の座学。卒業時には全員4級の航機両方の免状が取得できていますね。

Q 教官不足?教官は大変?
 教官の仕事は忙しい上に責任が重くて大変です。朝早く学校に来て、授業の準備や校内雑務、用務員さんはいないので草刈りや小さな修理もやらなければならない。掃き掃除やペンキ塗りは学生の仕事です。
 週20〜22コマ(1コマは1時間相当)が適正と言われているのに、28〜30コマになる人もいる。それに学生の世話や就職の話などの担任の仕事、校内練習船の実習が加わる。練習船専門の職員はいないので練習船の管理も運航も全部教官の仕事。技術短大には、一流の企業や大学を出てTOEIC850点以上の学生もいれば、全く勉強しないで高校を出たばかりの子も一緒に教えなければならない。授業に工夫を凝らすのも一苦労です。
 中でも大変なのが寮の当直で、月に4回ぐらい泊まりこみで、巡検や施錠、夜中に起こされては病院に連れて行ったりして学生のめんどうを見る。「大事な子を親から預かっている」形なので、何かあれば大変ですから。
 教官は訓練所の練習船の士官や外航出身の職員がほとんどです。最近は内航からも来るけど、年中募集していてもなかなか成り手がいない。ツテを頼って勧誘してようやく足りるような状態です。以前は「50歳まで」を採用条件にしていたけど、最近は「50歳位まで」に緩めたほどです。それでも成り手はいない。誰か良い人いたら紹介して下さい。
 成り手が少ない理由は、給料の割に忙しいこともあるけど、「全国転勤可能」という採用条件も大きいと思います。早い人は1年で転勤させられてしまうので。
 一応労働組合はありますが、労働時間オーバーの問題など無頓着、活動らしいものはありません。

Q 若者の船員定着率改善のために何が必要か?
 企業の方の本音が即戦力、忍耐力ある若者を求めるのはよく分かります。たしかに昔と比べ船会社の利益は薄く、若者を育てる余裕がないのは事実かも知れません。
 しかしそれは運賃や用船料など、対荷主の関係であって、若者の定着率が低い原因を学校や学生のせいにされるのは不本意です。
 私たちも一生懸命やっていますが、幾ら上級の海技免状を取っても、卒業してすぐに一人ワッチが出来るほど船の仕事は簡単ではないし、今の若者にも忍耐力はそれなりに備わっていると思います。私たちの若い時とさほど変わりはない。
 退職原因で多いのは、何と言っても船内の人間関係。少数定員ということもあるのでしようが、船内がギスギスしてくると、不満のハケロが一気に若者に来る。「こんなこともできないのか」「お前は船に向いていない」等々…。船内に若者が少ないせいもあるのでしようが、年配者に対する企業のメンタルケアの問題が大きいと思います。船内の雰囲気、人間関係の良い会社が好まれているし、定着率も高いと思います。
 「酒も飲まない。パチンコもやらない。風俗遊びもしない。お前頭がおかしいんじやないか?」と船で言われ、「僕異常でしようか?」と聞いてきた卒業生もいます。これも同根でしょう。夏休みなどを利用したフェリーや内航、練習船での体験実習では、船内の様子をとうてい予測できるものではありません。
 小型内航船で食事作りをさせられ嫌になったという学生もかなりいます。タグボートの場合も24時間オープン港では船で寝泊まりするため(船内居住船)、若者が1日3度の食事を作らされる船が多い。同じタグでも、こういう会社は定着率が低い。逆に食事が整っている大型フェリーは人気が高い。やはりこれも船内体制の問題と思います。
 一方こんな問題もあります。労働組合があり、予備員数も揃っている会社に越したことはないので、これまで私は、なるべく労働条件の良い組織船への就職を薦めてきました。
 しかし、そういうことは学生にはほとんど分かりようがない、というか無頓着です。最近の例ですが、「先生、良い会社と言っていたけど、この会社ブラックですよ。月50時間オーバーしても手当は30時間に固定されている。辞めたい。」と卒業生が言ってきた。
中には出入港が多く不規則な生活形態の船で、オーバータイムが月100時間になるのに、40時間分に固定している所もあるようです。船主団体との労働協約の他に、会社毎の個別協定を組合が認めている抜け道があるそうです。
 また、実質同じ会社・同じ船に乗っているのに、所属船員は2つの船主団体に分かれ、新入社員には低い労働条件の団体の労働協約が適用される例もあるとのこと。
 今の若者はこうしたことに敏感で、友達同士スマホで頻繁に連絡を取り合って、より良い条件の会社を求めて行く、もしくは陸の会社に活路を見出して行く。考えてみれば、当然過ぎるほど当然の話です。こうした問題は私たちでは対処のしようがなく、企業側の善処を望みたいと思います。

Q 根本問題は何か?
 私も外航出身ですが、数十年かけて日本の外航船員は減らされてしまった。国も企業も今になって船員が足りないと騒いでいる。今いったい何人いるのですか?船に乗っているのは千人もいないのでしょう?そこが根本の問題ですが、私たちではどうにもならない。
 学校のことで言えば、今一番問題なのは、何と言っても〃予算〃です。国は入学定員を増やすというけど予算は付けない。少ない人数で教官は大変、教頭や事務員も寮の当直に入ったり草刈りを手伝うわけです。
 小樽廃校の話も、古い校舎で耐震強度が不足しているけど建て替えるお金がないというのが理由。小樽だけでなく他にも廃校の話が出ています。航海訓練所が廃止・統合されたのも″予算〃の問題。
 国は船員数を増やすと言っても、金は掛けない。大した額とは思えないのですが、発想が違うのです。
 「独立行政法人改革等に関する基本的な方針」という平成25年12月の閣議決定というのがあって、「教育内容の高度化」「自己収入の拡大」「海運業界などの受益者負担の拡大」が謳われています。それを基に、学校の再編(海上技術学校の廃上など)、校内練習船の「集約」、練習帆船日本丸・海王丸の廃止等が検討すべき課題とされています(平成29年6月、財務省主計局の予算執行資料調査総括表の36番。財務省ホームページ参照)。
 こうした国策の発想を転換させない限り根本解決の道はないように感じています。
(10月21・26日)
インタビユー編集部