ー裁判の経過と組合員の思い14ー

内航組合員・竹中正陽

藤澤元組合長裁判への疑問に答える
 前号の記事、「藤澤元組合長の統制処分 退職金満額を払って和解」の部分について数人から質問、疑問が出されました。
 その一つは、「あなたは、どちらの味方なのか」、「藤澤氏をかばうのか」というもの。
 底流には、「藤澤氏は組合長になったとたん周りを側近で固め、北山元中執の解雇など数々の異常人事を行った独裁者だ。今日の事態を招いた張本人をかばう必要はない」という考えがあるようです。
しかし、私は氏をかばっているのでなく、「前代未聞の暴挙」「蛮行」と非難し、氏を断罪した森田組合長・田中副組合長を筆頭とする現体制に対し、「この期に及んで、なぜ金を払うことにしたのか?」を、問い質す必要があると言っているのです。
 全ては組合費からの出費であり、私達組合員には聞く権利があり、役員には説明責任があります。
処分の正しさに自信があるなら判決を求めれば良いのであって、退職金を払う必要はありません。
そもそも藤澤氏は「退職金の支払い」を請求しておらず、裁判で求めたのは、①統制処分の無効、②組合長地位の確認、③慰謝料500万円の支払いです。しかも慰謝料はフィリピン船員のため寄付すると以前から表明しています。
 裁判の請求項目にないにもかかわらず、なぜ3000万円近くもの退職金を払う必要があるのか?長崎大会の論議はいったい何だったのか、ということです。
これは、「どちらの味方なのか」という以前の問題です。藤澤氏が悪いことをしたら当然罰せられなければならない。事実、氏は統制処分により放逐されました。
 その統制処分の是非が最終的に判断されるのが司法の場です。
 その司法の場で、是非を明らかにするよう求めずに、理由不明の大金を支払うことで決着した以上、支払いに関する責任が現役員にあることは明らかです。
 経過について補足しますと、2012年大会時の役員選挙以来、人事や組合運営を巡って藤澤氏と森田・田中氏らの意見の衝突は熾烈を極めました(2013年の長崎大会で議場に配布された「統制違反処分無効仮処分命令申立事件」に一端が記載されています)。
 翌年4月9日、森田・田中氏ら中執委は藤澤氏を統制委員会へ告発。期を一にして、従業員規定に詳細な懲戒処分規定を新設。同時に「退職手当および慰労金の減額」の条文を、「退職手当を減額もしくは支給しないことがある」に変更しました(4月1日より実施)。
 該当する場合に、「役員または執行部員が統制違反の処分に付された場合」が挙げられています。
その後同年9月20日の全国評議会で統制処分が決まると、即刻藤澤氏を解雇して組合長室を立ち退かせ、健康保険資格も喪失させました。退職金を支給する必要があるなら、本来この時点で、支給すべきですが、それは実施されませんでした。
 しかし、裁判上の作戦からか、藤澤氏が提訴(12月)し、裁判が開始された翌年2月になって、突然組合は退職金を支払うから口座番号を知らせよと藤澤氏に通知してきたとのことです。処分無効を訴えていた氏は、当然これを受け取りませんでした。
 このような経過から、私は裁判の構図を次のように見ています。
 『今や権力も地位も失った一介の老元船員が、かつての部下達の「下剋上」に遭ってドン底に落とされ、己の正しさを証明するため崖から這い上がって提訴した。
 かつての部下達はそれに怖れをなしたか、もしくは作戦からか、大会や全評の承認も取らずに大金を払うことを決めてしまった。』
 すなわち、藤澤氏が退職金を「取った」のではなく、現役員がお金を支払うことで裁判を幕引きにしてしまったのです。
 ここで、読者に一言おわびします。前号の拙文の小見出し「退職金満額を払って和解」の表現は主語があいまいで、多くの方に誤解を与えました。
 正しくは「藤澤氏、病気のためやむなく退職金満額案を受け入れ和解」でした。申し訳ありません。
組合は満額の退職金を支払うことを、藤澤氏は裁判を取り下げることを、双方交換条件として約束し、 和解が成立したものです。

 二つ目は、「結局、統制処分は正しかったのかどうか?あなたの意見は?」というものです。
 私の意見は既に、本誌や長崎大会で配布したビラに記しています。二つの処分理由(※)のうちメール事件は、メールそのものが証拠として提出されておらず、メールを受け取ったとされる中国代表部の執行部員の聴取すら統制委員会は行っていない。裁判でもメールは提出されておらず、証拠薄弱でデッチ上げ=冤罪の可能性が高い。
 もう一つの、「弁護士の意見書を中執委に提出したこと」は、規約違反でも何でもない。このような薄弱な理由で、大会で選ばれた組合長を統制処分=解雇・放逐することは、数の横暴だ。従って、統制処分は他の目的のためにするもの、というのが私の意見です。
※藤澤組合長の統制処分理由
①中執委による多数決で海外出張を禁止されたことに対し、氏が弁護士の意見書を提出したことが、中執委の権限を犯した。
②中国代表部の執行部員に送信した個人メールで、田中副組合長ら他の役員の名誉を棄損した組織分裂行為。

 三つ目の質問は、「藤澤氏の病気は何か」というものです。
 現時点で答えられるのは、体中に水疱性疾患が出る原因不明の難病ということだけです。これ以上答えるには氏の了解が必要です。
 しかし、「藤澤統制処分の本質」については、将来の組合および組合員のためにも、いずれ詳細に振り返り、教訓として残したいと思っています。
「どちらの味方なのか」について一言触れておくと、藤澤氏が組合長の権力を使って行った数々の不当な人事、組合民主主義に逆行する行為については、私は許すつもりはないし、許されるものでもありません。
 しかし、ITFの国際会議等への出張が増え、「組合長代行」に業務を分担し始めた以降のことは別に考える必要があると思っています。少なくとも、氏が少数派に転じたことが明白になった2012年の組合大会以降の件は、明らかに別ものです。
 2010年の大会で副組合長を2人に増員して以降、藤澤氏は2人の「組合長代行」に、何を、どこまで任せたのか。この点について更に事実関係を調べた上で意見を述べていきたいと思っています。

◯渡邊執行部員・処分無効裁判
東京地裁の和解決裂
 1月26日に裁判長による1回目の和解斡旋が行われた後、2月、4月に続き、5月8日に4回目の和解斡旋が行われました。裁判長の勧めもあってか、組合側は次々と譲歩し、処分の撤回も認めるようになりました。
※5月に出された組合案要旨
1 (1) 組合は渡邊が平成23年1月に遡って北道地方支部副支部長の地位にあったことを確認する。
(2) 組合は機関会議への出席停止の指示を解除する。
(3) 渡邊は中央執行委員会の決定に従い勤務に精励する。組合は渡邊を他の執行部員と同等の取り扱いをする。
(4) 組合は、減給処分を撤回する。
2(1) 組合は将来支給すべき退職手
当金の計算で不利益取扱をしない。
(2) 組合は渡邊の平成23年1月以降の標準報酬月額を訂正する。
3 組合は本件解決金として、金   ○○○円の金額を支払う。
4 組合は和解条項1の(1)及び(4)の取扱いに基づく人事をチームウェアに掲載する。(5以下は略)
 降格処分・減給処分の遡っての撤回、機関会議の出席停止措置の解除、バックペイ額を超える解決金の上乗せというこの案は、事実上の敗北宣言と言えます。
 しかし組合は、処分の撤回は認めるものの、処分理由がなかったことについては認めませんでした。渡邊執行部員が求めた「慰謝料」もしくは「謝意」の文言についても拒否し、解決金の上乗せで対処しようとしたとのことです。
両者の開きが大きいことから、最終的に裁判長は和解を断念し、証人調べを行った後に判決が出されることになりました。
6月の「裁判準備手続き」で以下の証人が決定しました。
(励ます会ニュースを一部引用)

証人尋問日程
9月15日(火)10時10分~
場所:東京地裁619号法廷
証人:
午前の部(10時10分~12時)
① 竹中正陽(機関士・組合員)
② 鈴木寿和(元海員組合大阪  支部執行部員)
午後の部(13時20分~17時)
③ 原告・渡邊長寿
④ 被告・松浦満晴(海員組合 副組合長)
◯中労委が海員組合を断罪


また従業員労組が勝利
 6月15日、中央労働委員会は従業員労組(北山等組合長)の請求を認め、「海員組合は従業員労組との団体交渉に応じなければならない」という命令を出しました。
労働組合が従業員に対して不当労働行為(労組法7条違反)を行い、中労委から是正命令を出されたのは「史上初」とのこと。海員組合が労組法に適合する労働組合であることを許認可した中労委が、今度は、海員組合の労組法違反を断罪したのです。
 今年は敗戦後70年、労働委員会の歴史も近く70年を迎えます。労働組合の組織率低下、御用組合すらも空洞化・無風化の一途をたどり、労働組合自体が国民から見放されようとしている今、組合運動に対する悪影響は計り知れません。
 ひとり海員組合だけでなく、連合を含めた日本の労働運動そのものが、更に存在意義を問われることは必死です。森田組合長、とりわけ従業員労組との交渉を仕切った田中副組合長は、ことの重大さを認識しなければなりません。
 中労委命令は田中副組合長を名指しで次のように記しています。
『さらに田中は従業員組合や北山に対して「今日も北山さんは~喧嘩腰で話されている」、「法適合組合かというのは、極めて疑問、疑念を持っている」等と発言するなど、従業員組合との円滑な団体交渉による正常な労使関係の構築を目指しているとはいえない状況であった。』
 この日は田中副組合長を筆頭に、松浦中執、鈴木総務部長ほか4名と大熊顧問弁護士の総勢8名で初めて交渉に応じ、従業員労組の北山組合長と論戦したとのこと。
その結果が不当労働行為の認定に「寄与」することになったとは皮肉としか言いようがありません。
 現在中労委で審査中の石川県の件でも、弁護士5名と松浦中執(当時)らが金沢まで出向き、その結果惨敗したとのこと。
 なぜこのような大人数で出向く必要があるのか。組合費のこれ以上の無駄使いは許されません。
従業員労組が出来たら、交渉に応じなければならないのは当然過ぎるほど当然で、早く交渉に応じていればこのような不名誉な記録は残らなかったはずです。
 不当労働行為により従業員に迷惑をかけた上に、余計な出費で組合員に損害を与えたことを役員はどう考えているのでしょうか。
 今からでも遅くありません。従業員労組に対してこの間の非を詫びて、中労委命令をすみやかに履行すべきです。命令に従わずに上訴すれば、労組法違反状態が更に続き、不名誉な記録を上塗りすることになってしまいます。
※井出本元組合長のコメント 
「労働組合として恥ずかしい。意見の違いがあっても互いに認め合い、人を大切にして進めるのが労働運動。今の海員組合はそれを忘れている。命令に率直に従い、また全ての訴訟を終結させ、正常化に向かうよう切望する。」

 そのほか、前号で紹介した石川県労働委員会で海員組合が断罪された件は、海員組合が中労委に不服申立てを行ったため、5月28日に第一回調査が行われました。
 組合側は、松浦副組合長を筆頭に4名の役職員と、関西を含む7人の弁護士が出席。次回調査は7月8日の予定です。

◯北山氏への一億円請求裁判
高裁が和解打ち切り・判決へ
 1月15日東京地裁は、「北山元中執のブログの重要な部分は真実であり、組合が人事等に関して違法な行為を繰り返していると言われても仕方がない」とする判決を出し、海員組合の訴えを棄却しました。
 その後組合が控訴したため、4月22日に東京高裁で第一回控訴審が開かれました。
 席上裁判官は、すぐさま結審を宣言し、和解の意向を尋ねたところ、組合側弁護士は積極的に応じる意向を表明。6月16日までの間に計4回の和解斡旋が行われましたが、最終的に不調に終わり、判決が出されることになりました。
 組合側は、関西を含む大勢の弁護士と本部の中執など総勢10名ほどの大所帯でした。
判決は8月5日、午後1時10分、東京高裁424号法廷で出される予定です。
 そのほか、北山元中執の再雇用拒否無効裁判は、1億円裁判の判決が出たことから急ピッチで進められ、新裁判官のもとで争点整理・証人調べに向かうことになりました。こちらも組合側は関西を含め7人もの弁護士を動員しています。
 A元執行部員の再雇用拒否裁判も、近く弁論が再開され証人調べに向かうことが予想されます。

◯竹中の組合員資格確認・組合長選挙無効裁判
組合側、和解の意向を表明
 5月15日の4回目の法廷で、組合側は裁判長に約束した反論書面を提出せず、「これ以上の反論は考えていない」と表明。更に、裁判長の問いかけに際し竹中側が「判決を求めます」と答えたのに対し、組合側弁護士は「和解もやぶさかではありません」と答えました。
 このため裁判長は、「和解と判決の両方を念頭に進めます」と述べ、次回7月3日までに双方に証人申請を行うよう指示しました。
 組合側の真意は不明ですが、他の裁判と同様に、問題をうやむやにしたまま、金銭解決で幕引きにする意向かも知れません。
 この件は、組合が突然私の組合費の受取りを拒否し、長崎大会での組合長選挙立候補届を無視したことから始まりました。
 「組合員に対する権利侵害」を仮処分裁判で訴えたところ、「定年退職=除籍」という今まで聞いたことがない理由で、私は既に組合から除籍されていたことが判明しました。
 現場組合員をデッチ上げの理由で組合から放逐した点が、他の裁判と異なっています。
 幸い、仮処分裁判で勝ち、現在は組合員に「仮に」復帰していますが、「60歳以上の求人は殆んどない」と言われ、今は未組織マン二ング会社の船で乗船を続けています。
 字数の都合で詳細は次号に。


(次号に続く)