-裁判の経過と組合員の思い10-

内航組合員・竹中正陽

 前号で報告した後も、組合を巡る事態は一向に改善せず、自主的解決能力が喪失される中で次々と新たな訴訟が生じる状況となっている。以下、前号以降の状況について報告する。


岸本恵美さんが職場復帰
 昨年9月13日、東京地裁で休職処分と解雇の無効・バックペイ支払いの判決が出された。
 9月下旬、組合は控訴を断念し、地裁判決の受け入れを決定したが、いきなり10月1日からの「出勤命令」を出した。
 有給休暇の扱い、勤務場所・仕事内容などに関する協議に組合が応じない中で、岸本さんは小学校2年生の次男を学童保育に入れる準備等のために有給休暇を申請、10月15日に初出勤した。
 当日は、十数名の支援者から、「おめでとう」「頑張ってね」と祝福の声を掛けられ、拍手の中のうれしい初出勤となった。
 岸本さんを筆頭に萩尾弁護士と支援者が玄関ロビーに入ると、総務部長と男性職員が「お出迎え」。
事前に弁護士を通じて、「復職にあたっての要求」を文書で申し入れ、交渉を求めていたのに対し、総務部長は、「岸本さんは言った通りに業務について下さい。代理人と話をするつもりはない。代理人は代理人同士でどうぞ」と回答、従来と変わらない態度だった。
 その後岸本さんは組合が指定した通り、総務部の職員として組合本部2階の奨学金制度運営部に配属され、元気に勤務を続けている。
 しかし、解雇中の期末手当(年間賞与)の一部や、組合の謝罪が棄却されたため、岸本さんは地裁判決で棄却された部分について東京高裁に控訴した。
 高裁の第1回弁論が1月16日に行われ、双方の書面が提出された後、裁判長は即時結審を宣言、次回に判決言い渡しとなった。
 同時に裁判長は、双方に対して和解のテーブルに着くよう強力に進言し、判決日は未定のまま和解協議が行われることになった(次回和解協議は2月26日)。

藤澤組合長の仮処分却下
 9月20日、組合全国評議会は藤澤組合長の統制処分(全権利停止3ヵ月)を決定した。これに対し藤澤氏は、「本案判決に至るまで、3ヵ月の全権利の停止処分を仮に停止する」ことを求め、東京地裁に仮処分の申立てを行った。
 「本案判決に至るまで」とは、統制処分の是非が裁判の結果確定するまで長い時間がかかるため、たとえ裁判に勝っても遅きに失することが予想される。従って、裁判が確定するまでの間、とりあえず統制処分の効力を「仮に停止」することを求める、というもの。
 通常の裁判とは異なり、仮処分命令が出されるためには、
 ① 仮処分命令を出す必要がある程の、重大な権利侵害があること(被保全権利の存在)、
 ②通常の裁判結果を待っていては手遅れな程の、緊急に保護する必要性があること(切迫する危険性の存在)が必要とされている。
 従って、通常の裁判よりハードルが高いといえる。
 これに対し東京地裁は、10月30日、以下の理由で却下した。
 「(統制処分に関する組合規約は)当該処分につき不服が申し立てられた場合、まずは債務者(組合)の最高機関に属する全国大会の議を経させ、かつ、その特別多数の賛成を必要とすることによって、団結自治と統制権行使の適正を図ったものと解することができる。」「審査機関である全国大会による審議が目下、予定されている」、「審査機関の審査も未了の現段階において、保全の必要性を肯認することは相当ではない」。(カッコ内は筆者)
 このように、東京地裁は統制処分の是非について一切判断することなく、申し立てを却下した。
「大会の審議を待て」と門前払いした形だ。この結果、焦点は大会に移された。

組合大会・統制処分を容認
 定期全国大会は11月6日から3日間、長崎で開催された。
 初日の来賓挨拶が終了後、通常であれば活動報告・決算報告の審議に入るところ、異例なことに議場に「統制違反処分無効仮処分申立事件」という長い名の分厚い冊子が配布された(発行者名も発行日も記されていない)。
 併せて常任役員が冊子の内容を説明、藤澤氏の仮処分申請が却下されたことを報告した。
 また統制処分の審議は最終日、全議案の審議が終了した後に行われることになった。
 藤澤氏は初日の午前11時の来場を指示され審議が始まるのを別室で待っていたが、当日審議が行われないことを知らされて出直しとなり、ホテルの予約も延長したという。
 最終日の8日、予算審議が終了した後、統制処分の審議に入り、統制委員長が処分の経過と内容を報告。その後、藤澤氏が自身の提出した「抗告理由書」を元に抗告の趣旨を説明した。
 藤澤氏は、田中副組合長らの組織運営に批判的な意見を持っていたため、中執委の場で他の役員7名から一方的につるし上げられ、聞く耳を持ってもらえなかった状況を伝え、処分理由に根拠がないことを次のように述べた。
① 弁護士に依頼した件
 「昨年始めより、ITF(国際運輸労連)関係の国際会議への出席を中執決定で阻止された。
ITFを通じた国際連帯活動は活動方針で決められたものだ。船員部会の副議長に選任されているにもかかわらず、出席を認めないのはおかしいので、専門家の意見書を、あくまで参考意見として中執委に提出した。論議するために提出したもので押し付けたりはしていない。また多数決の結果に従っているので規約違反でも何でもない。費用も自腹で払った。」
② メールの件
 「志を同じくする仲間たちと結束を固めるために、自宅のパソコンから打った仲間内の私的メールが、誰かのパソコンから勝手に押収された。しかもメール本体は提出されず、数多くのメールの中からつまみ食い的に編集されたものが証拠として提出されている。
 私はこのような文章のメールは出した覚えはないし、組織の分裂など企てたこともない。」
 また藤澤氏は、9月20日の全国評議会で処分が決まった後、即座に解雇され、組合からの退去を命じられ、健康保険証も取り上げられたことを報告した。
 代議員からは、「メールそのものを見なければ我々は判断しようがない。それがあるのか、ないのか。あるなら配布して欲しい」と意見が出されたが、それに対する本部回答は、「書簡、すなわち文書である。それを本人がメールと言った」というもので、「狐につまされたような答弁」と感じた代議員も多かった。
 「やはり権力争いに見えてしまう。皆さん志があって常任役員になられた方が多いわけです。お互いゆっくり話し合って、ゼロからスタートしてもらえないか」と訴える若手代議員の発言には、議場から拍手が湧いたという。
 統制委員を務めた代議員からは、「規約違反と統制違反は別ものだ。規約違反がすぐ統制違反になるとは限らない。規約違反については54条・106条で中執委が裁定や勧告を行うことになっている。この件で中執委は裁定や勧告を行ったのか」という注目すべき意見も出されたが、本部の回答は「106条は関係ない、我々は107条で告発した」というもので、まともな答とはいえなかった。
 また藤澤氏によれば、査問報告書を見せるよう要求したが松浦統制委員長は「規約をよく読んで下さい」と答えるのみで、この日まで査問報告書を見せてもらえず、全国評議会で弁明したくてもしようがなかったという。
 その後無記名投票に移ったが、2年前の八戸大会で問題にされた白票の扱いについて、議長は「公平を期すため、公職選挙法及び日本国憲法改正手続きに関する法律を準用し、白票は無効票として扱う」と新(珍?)解釈を表明し、数十年来引き継がれて来た「白票=有効票とする」扱いを変更した。
議場からは「公職選挙法では委任票は認められていないのではないか。委任票は除外すべきだ。委任した人は事情を何も知らないので、抗告に関する委任をしようがない」という発言があったが、議長はこれを完全に無視した。
 「公職選挙法及び日本国憲法改正手続きに関する法律」では委任票は認められておらず、不可解としかいいようがない。また、労組法では、役員選挙は出席代議員の「直接無記名投票」と規定されており、この趣旨とも矛盾する。
 無記名投票の結果、統制処分賛成304票、反対61票、白票9で、抗告は否決され、統制処分が確定した。本人出席238名、委任出席136名で、委任出席者の割合が例年より極端に増加していた(昨年は本人270人、委任91人)。
 また今大会には、昨年の大会で役員選挙に立候補した、池田、上林、谷村の3君ら海外勤務組は大会出席を認められず、外部組織への出向者の出席もなかった。

○北山元中執のパワハラ裁判
藤澤元組合長が証言

 大会後の11月13日、北山元中執が訴えていたパワハラ裁判で、組合側証人として藤澤氏が出廷した。2012年2月高裁で敗訴した結果、組合は北山氏の職場復帰を受け入れることを決定したが、配属先と仕事の内容を決めた経過、意図が争点となっていた。
 9月に行われた証人訊問において森田国際局長(当時)と松浦総務局長は、仕事の分担を決めるのは部長の任務で局長は関与していないと証言していた。
 ところが、この日藤澤氏は、「部員の仕事の内容は、担当局長の指揮の下に、部長が指示を出す。局長が知らないということはまずない」と証言した。
 また、高裁判決の受け入れについては「私が判断しました」と証言したが、総務部への配置と外航部への移動は、「田中副組合長が提案し、私も賛成した」と述べた。
 更に、仕事内容と差別扱いについては、当時北山氏が従業員規定に基づく苦情申し立てを行ったことは報告を受けていたが、「総務の方で対処するということなので、私は特に対応していません」、「担当局長から報告を受け、苦情申し立てに理由がないと判断したので、本人に対する回答は考えなかった」等と証言した。
 裁判は、次回2月14日の弁論(東京地裁415号)で結審し、春頃には判決が見込まれる。

藤澤氏が提訴
 昨年12月19日、藤澤元組合長が東京地裁に対して、「統制処分の無効・組合長の地位確認・バックペイ支払い・損害賠償金支払い・謝罪文の掲示」等を求めて裁判(本訴)を提起した。
同氏は昨年9月に解雇された後、未だに退職金も支払われていないという。また、氏によれば、ITFの国際会議等に出席できないなど、非居住組合員のための活動ができず、多大な迷惑をかけたことから、損害賠償金が支払われれば、全額をAMOSUPを通じてフィリピンの海外労働福祉庁(OWWA)に寄付するとのこと。
同裁判は2月18日から開始される。
他に1月だけでも、岸本恵美さん裁判(16日)、私の組合員資格等の仮処分審査(22日)、北山氏相手の1億円損害賠償裁判(23日)、海員労組との団体交渉(28日)、更には2月7日北山氏の再雇用拒否裁判(1時15分、東京地裁411号)と、裁判関係が毎週のように続いている。以下次号。
(1月22日)