羅針盤第25号掲載

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上陸制限、食料買い出しもままならない
(499トン貨物船・航海士)
フェリーから内航に移って10余年、フェリー時代には味わえなかった辛さに上陸の問題がある。
◯食料買い出しもままならない
小型内航船は自炊が主で、各自で食料買い出しに行くのがふつうだ。忙しい船では、荷役中にやりくりして代表者が行ったり、買い出しに一苦労だ。
最近は、プラントの安全確保とか、化学薬品を扱っているとか、何かと理由をつけて上陸を禁止する工場が増えてきた。上陸OKでも、徒歩や自転車はダメ、特定の会社のタクシーだけなどの条件をつける。家族や友人が車で荷物を届けに来てくれても、船まで持ってくることがままならない。船員が荷物を運ばなければ工場は動かないのに、感謝の気持ちがまったくない。
工場の門がすぐ近くなのに、上陸は通船のみに限定する港は本当に癪にさわる。遠回りだし、そもそも通船代が高いので船にそんな予算はない。船食が配達してくれたり、水島のように沖売りの船が来る港もあるけど、値段は高いし商品も選べない。
オペレーターは荷主に弱いから何も言えないのだろう。船員への陸側の理解が相変わらず低い。
◯船員は犯罪者?
上陸自由の岸壁でも、企業岸壁では守衛からジロジロ見られ、いろいろ聞かれたりする。船員はまるで犯罪者扱いだ。9・11(ニューヨークの貿易センタービルへの自爆攻撃)の後は、テロ対策のとばっちりで、本当に不便になった。国際条約と言うけれど、日本で船員がテロを起こしたなんて一度も聞いたことがないし、内航は別なはずだ。むやみに内航船まで広げられているのはおかしい。
◯せっかくの仮バースなのに上陸できない
通常は、荷役と航海の合間を縫って公共岸壁に「仮バース」して、食料買い出しや息抜きをする。入れ出しの多いピストン航海の船では、仮バースが唯一の楽しみだ。パチンコや競輪、居酒屋、風俗‥。
田舎の港でたまに岸壁料が無料の所もあるけど、ふつうは一日3~7千円、横浜や神戸など大きな港では1万円くらいする所もある。月3回とかに制限する会社もあり、乗組員が割り勘で岸壁料を払ったりするほど待ち焦がれているのが仮バース。
ところが、せっかくの仮バースでも、土日でゲートが閉鎖、夜9時が門限だったり。千葉のようにスーパー近くのゲートが夕方5時に閉まり正門まで2キロ近く遠回りする港、夜はタクシーが入れず重い荷物を持って埠頭を歩かなければならない港など色々ある。苫小牧の奥のバースでは町までタクシーで3千円かかる。それでも月3回仮バースできれば良い方で、航海毎の契約の船では船主が稼働率を上げたいから休む暇がなく、月1~2回、数時間の買い物で即出港なんてことも。同じ会社でも船によってまったく違う仮バース。何とかならないか。

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パイロットの目から見た内航の現状
(内航出身 若手水先人)
海運業界が慢性的な人不足と言われ何年が過ぎただろうか。特に内航船の船員不足は著しく、関連して多くの問題が発生しているが、内航から水先人になった僕は、水先業務に及ぼす影響が気になっている。
◯船員高齢化の影響
内航総連の統計によれば、内航船員数は年々減少してきたが、最近は2万人前後でほぼ横ばいとなっており、下げ止まり?傾向と言ってよいのかも知れない。
しかし、年齢構成を見れば、それは楽観に過ぎないことが分かる。平成27年10月時点の内航船員数は約20,300人。うち50歳以上が約11,200人で全体の55%強、60歳以上は約5,400人で26%強を占める。
一方、40歳未満は約5,400人で全体の26%強に過ぎず、今後は高齢者の退職に伴う船員不足に加えて、経験の浅い船員が内航の中心になると考えられる。その結果、技術レベルの低下が危惧される。
また船員不足のため、定員を確保することすら困難になって廃業する会社が出始めているとも聞いている。この傾向が続けば、全体の隻数が減るため、一隻当たりのスケジュールが過密になることが危惧される。
また、やがて中・小型の外国船が日本国内の貨物の一部を輸送する(カボタージュ規制の緩和・撤廃の怖れ)事態を生じかねない。強制水先以下の小型外国船では水先人を乗せない船も増加すると思われる。
以上の結果、安全運航が阻害されかねない。
◯安全な当直体制が維持できるか
内航船の大半を占める499~699トンの小型船の甲板部は船長1名、航海士2名の場合が多く、当然のことだが船長も当直に入る。総トン数3千トンを超える場合でも船長が当直に入る船もある。
このような船で瀬戸内海から関門海峡へ、抜ける場合のように、狭水道を通過するたびに船長が昇橋していたのではほとんど休息をとることができない。そのため船が少ない場合は当直航海士がそのまま一人で当直を続けることも少なくない。
また内航船では朝入港して荷役を行い、夕方出港するというパターンが多く、慢性的な過重労働になっている船が多い。特に、タンカーは本船荷役が基本で乗組員全員で荷役作業を行うため、航海当直・入港作業・荷役作業・出港作業・航海当直の連続となり、休息をとることが難しい。
◯水先業務への影響
これらの問題が水先業務にどう影響するか。以下のことが考えられる。
そうでなくても、日本の港湾事情に不慣れな外国船が水先人を乗せずに航行しているのが現状で、大きな事故に至らなくても危ない場面は日常的に発生している。それが更に増加すれば事故が起きる可能性が高くなる。
またスケジュールが過密なため、少しでも早く入港して休息をとりたくて、航路内に強引に割り込んだり、避航船の立場にあるにも関わらず避航動作をとらない内航船も多い。
小型内航船の乗組員は同じ船に乗船する機会が多く、慣れに加えて操縦性能も熟知しているので、増速に時間を要する大型船の後ろに付くことを嫌う傾向にある。こうした傾向が更に増加すると思う。
これらの問題に対処するためには、自分自身がこのような背景、小型内航船や外国船の現状を理解し、より先を見通した動作が取れるよう、水先技術のレベルアップを図らなければならないと考えている。
内航海運業界の厳しい状況から、船員不足を解決する特効薬は無いかもしれない。しかし今後業界全体が盛り上がり、船員という職業が一般の人々にも知れ渡ることで日本人船員が増加し、内航船から水先人を目指す者も増え、日本海運を日本人が守り続けられることを願っています。

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特に大きな不満はない
(派遣船員 機関士、20歳台)
正社員の会社を辞めて派遣会社に移ってきたけど、特に大きな不満はありません。ボーナスがなくなったのが残念だけど、年収は前の会社と大して変わりはないので。
給料は年収幾らの契約で、年収を12で割った額が毎月払われるので、乗船中も休暇中も給料はまったく同じ、貨物船もタンカーも同じです。少ないけど一応退職金もあるし収入自体は満足しています。
休暇は70日乗船・20日休暇の割合で少し少ないけど、休暇時には他の派遣会社から臨時で人が来るので順調にとれています。派遣の人は60歳以上もザラで、年配者が多いですね。船長や機関長など要職の人は不足しているので、長く乗らされて大変そうです。
それでも、この会社は休暇計算をちゃんとしてくれるので、まだ良い方だと思います。年度末に休暇の取得状況を書いた紙が送られてきて、未消化分が翌年に持ち越されるので。ただし、休暇を多く取り過ぎた場合は、退職時にお金で返さなければならないのが???ですが。
前の会社は休暇の買い上げもなく、長く乗った人は「乗り損」でした。
乗る船は基本固定されているので、荷物を船に置いたまま休暇を取れるので助かっています。今の船は仮バースもかなりあって、上陸できるし、家に帰れることもあるので休暇に不満はありません。
ただ、たまに他の船の休暇補充要員で、タンカーやコンテナ船に行かされる時は忙しくてイヤになります。そういう船に固定されたら、別の会社を探すでしょうね。良い会社がないか、同級生を通じていつも連絡を取り合っています。

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