ー裁判の経過と組合員の思い15ー
内航組合員・竹中正陽
各裁判の前号以降の経過を、順を追ってお知らせします。
◯海員組合の不当労働行為確定
本部ロビーに謝罪文を掲示
6月15日、中央労働委員会は都労委命令を踏襲し、海員組合の再審査請求を棄却した。海員組合の出方が注目されていたが、海員組合は取消訴訟を断念し、命令を受け入れた。この結果、労働委員会史上初めての 「労働組合による不当労働行為」が確定した。
海員組合は命令に従い、下記の謝罪文を7月10日から10日間、組合本部ロビー掲示板に掲示すると共に、従業員労組に提出した。
しかし、命令の中身はおろか、命令が出された事実すら機関誌・紙には一切報道されず、相変わらず、都合の悪いことは組合員に周知しない姿勢が続いている。
本来なら、労働組合として全従業員を集めて説明し、労働協約の締結に向けて対処すべきだと思う。従業員労組(北山等組合長)が結成されて2年が過ぎたが、海員組合は色々な難クセを付け、未だに労働協約の締結に至っていない。
平成27年7月10日
全日本海員組合従業員労働組合
組合長 北山 等 殿
全日本海員組合
組合長 森田 保己
当組合が、平成25年4月25日及び5月7日に貴組合の申し
入れた団体交渉に応じなかったことは、東京都労働委員会に
おいて不当労働行為であると認定されました。
今後、このような行為を繰り返さないように留意します。
◯石川県労委命令の再審査
海員組合「和解をお願いしたい」。中労委は応じず
海員組合が石川県労働委員会の団交応諾命令を不服として中労委に再審査請求した件は、5月28日、7月8日の2回調査が行われた。
1回目の調査で中労委は熱心に和解を薦め、海員組合側は和解に積極的に応じる態度を見せた。これに対し従業員労組は、現状海員組合は表面的に団交に応じているだけで、中身のない回答に終始し、不誠実な態度は何も変わっていない、として命令を求めた。
中労委の出方が注目されていたが、2回目の調査の冒頭で審査委員長は、「本日をもって結審したい」と表明。すぐさま海員組合の大熊顧問弁護士は、「できるなら和解をお願いしたい」と発言したが、審査委員長は海員組合側の希望に応じることなく、結審を宣言し、命令が出されることになった。
この日も海員組合側は大熊弁護士を始め7人の弁護士、松浦副組合長、勘場中執、鈴木総務部長ら5名の役職員の大所帯だった。
◯北山氏への一億円請求裁判
高裁でも海員組合が敗訴
既報のように、1月15日東京地裁は、「北山元中執のブログの重要な部分は真実であり、組合が人事等に関して違法な行為を繰り返していると言われても仕方がない」と、海員組合の訴えを棄却した。
組合は控訴したものの、高裁の審理が始まるや和解に積極的な姿勢を見せたが、和解は不調に終わり8月5日に判決が出された。高裁は、地裁より更に踏み込んで海員組合の主張を排斥した。
ブログの本文について
判決は、「裁判沙汰を公表するものにとどまり、私的な利害に関する事項に言及しているにすぎない」という海員組合の主張には「理由がない」と一蹴した。
そして、ブログ本文は、海員組合の「再生を図るとの目的をもって掲載されたことが認められる」、「重要な部分において真実であると認められる」等と認定し、「違法な処分や不当な人事等を行っていることを指摘する趣旨のものであり、意見ないし論評の域を逸脱していない」と判定した。
コメント部分について
コメントについても、地裁判決では「これらが真実でないことが明白であると認めるに足りる証拠はない」という弱い表現だったのに対し、高裁判決は「その重要な部分において真実であると認められる」と判断、より明快な表現で北山氏の主張を認めた。
そして、ブログ本文もコメントも違法ではなく、名誉棄損や業務妨害に該当しないと結論づけた。
判決の注目すべき点
判決は、労働組合の運営に批判的意見を述べることには「公共性」がある、と強調している点が注目される。少し長いが引用する。
労働組合は労働組合法により積極的な保護を与えられており、
『法制度上このような公的な地位を付与された労働組合については、その適正な運営が期待されているというべきであり、このような観点からすれば、労働組合の運営の在り方を対象とした批判又は論評は、例えば、解散すべきであるといった厳しい批判的意見も含め、それ自体が公共の利害に関する事実に係るものであると解される。
そして、本件本文記事は、一審原告(注:海員組合を指す)において違法又は不当な人事や統制違反処分が行われ、複数の労働関係訴訟等が係属してきていることについて言及するものであるから、公共の利害に関する事実に係るものとして、違法性阻却事由のうちの公共性の要件を満たすというべきである。』(傍線は筆者)
平たく言えば、労働組合は民主主義に基づく適正な運営が求められているから、批判的意見を公表することには公共性がある。従って厳しい批判も、違法・不当な人事や処分という事実が存在する以上、一定の線を超えなければ構わない、ということだ。
これは、現状の海員組合に対する痛烈な苦言と言えるだろう。
高裁判決は最高裁判決を引用し、①公共の利害に関する事実を述べていること(公共性)、②専ら公益を図る目的であること(公益目的性)、③前提となる事実が重要部分において真実であること(真実性)、④人身攻撃等に及んでないこと、の4つが認められる意見発表は、名誉棄損に当たらない。従って、ブログ本文もコメントも、4つの要件を満たしているので違法性はない、と明快に断じている。
完敗と言って過言ではない内容にもかかわらず、海員組合は最高裁に上告したとのことである。
この裁判でも組合は、4人の顧問弁護士の他に裁判官出身の弁護士も頼むなど、計9人もの弁護士を動員している。これ以上多額の組合費をつぎ込んで一体なんの意味があるのだろうか。
提訴に当たり、藤澤組合長は反対したが、森田・田中副組合長らが中央執行委員会の多数決で通したことも明らかになっている。
船員しんぶん一面に、「偽計業務妨害で北山等氏を告発」とカラーでぶち抜いたにもかかわらず、その後の地裁・高裁判決の内容は機関誌・紙で一切報道していない。
組合員に対する報告責任すら果たしていない現状は、組合運営の私物化以外の何ものでもない。
役員は、度重なる敗訴の原因と、裁判に要した費用を大会で明らかにした上で、最終的に負けた場合の損失補てんと責任をどうするのかを組合員に問い、了承を得て進めなければならないはずだ。
それが判決に書かれている「労働組合の適正な運営」ということではないだろうか。
◯渡邊執行部員・処分無効裁判
証人尋問行われる
9月15日、竹中、渡邊執行部員本人、被告側である松浦副組合長の証人尋問が行われた。
渡邊君側の証人として出廷した私は、2004年の役員選挙戦以来、小堀・北山中執とそれに近い人達の排斥が始まり、その後無関係な執行部員・事務職員にまで排斥が次々と及び、外部出向、海外勤務、降格、解雇、懲戒処分が相次いで行われたこと。渡邊君はその犠牲者であることを証言。
権力闘争は藤澤組合長の統制処分にまで及び、その後も、『今後も組合員のためにならない執行部は排除する』と全国評議会で大内組合長が表明するなど、退職者が続出したこと。人員不足により、雇用や労働条件など労働組合本来の活動がおろそかにされている現状を訴え、組合に反省を促した。
その後渡邊君が証人席に座り、2010年の大会前に藤澤組合長・大内副組合長が関西地方支部を来訪、管内支部長が集められ、「選挙に立候補する北山は排除する。北山を支持する者は処分する。渡邊はどうなんだ」と名指しで言われたが、大阪支部管内では投票誘導をせず、自由意思による投票に任せたこと等を証言。大会翌日に、いきなり支部長解任・根室勤務が発令され、さらに赴任直後には執行部員に降格された。解任・降格理由に思い当たる節はなく、事情聴取も一切行われていない。メールや手紙で何度理由を聞いても返事がなかったという。
根室では「訪船車」も与えられず、組合費の請求等の事務作業を行い、有給休暇を取る時には事務所を閉めてもよいが、管内執行委員会、水産部委員会、大会の時は「事務所を開けておけ」という業務命令により、出席できなかった。また、懲戒処分前の本部呼び出しでは、個室トイレのドアの外まで事務職員が付いて来て監視していたと証言した。
最後に証人に出た松浦副組合長は、弁護士にたしなめられると「声が太いのは地声ですから」等とふてぶてしい態度を取りつつも、渡邊君の支部長解任・降格を決めた中央執行委員会の模様を聞かれると、「理由の説明はなかった」、「組合長が提案したから賛成した」と比較的正直に?証言した。
女子事務職員一人しかいない根室事務所に執行部員を配置する理由についても、中執委では話が出なかったと証言し、人事の不当性がますます明らかになった。
なお、鈴木寿和元執行部員の尋問は、本人の都合で事前に欠席通知があり中止された。
次回12月15日の法廷で結審、来春判決の見込みとのことである
◯竹中の組合員資格確認・組合長選挙無効裁判
和解決裂・証人尋問へ
5月の第4回弁論の場で裁判長が今後の進め方を打診したところ、組合側は「和解もやぶさかではない」と表明、7月に和解あっせんが行われた。
和解あっせんは裁判所内の会議室(審判室というらしい)で行われ、真中に格式ばった大きな楕円形のテーブルがあった。
組合側はいつものように、大熊、北新居、田川の3人の顧問弁護士を始め6人の弁護士と、勘場中執、鈴木総務部長、大山関東地方支部長代行の大所帯。この日は傍聴者の入室も認められ、応援してくれる執行部OBなど15人程が傍聴に来てくれた。
真意を探るためか、意向聴取は双方別々に行われ、組合側の聴取が行われている時は、待合室で待つ格好になった。双方が同席したのは最初と最後の短時間で、質疑や会話を交わすことはなかった。
裁判長は事件について率直な感想を述べたあと、組合側は和解で解決したいように見えるということで、単刀直入にこちらの和解条件を聞いてきた。
当方は、賠償金は譲る余地があるが、組合員資格の確認と、組合規約を無視して行った一連の行為に対する謝罪要求は譲れないと回答した。その後、かなりの時間をかけて組合側の意向聴取が行われ、再度こちらの番になった。
裁判長は、「竹中さんひとりだけでなく、同様の境遇にある60歳以上の人の組合員資格の確認と解決金の支払いという内容で和解してよいのでは? それ以上は難しいと思う」、と述べ、意見を聞かれた 私は、「金額の問題ではない。従来にない勝手な規約解釈で、批判的意見を持つ組合員を排除するやり方は許されない。謝罪要求は譲れない」と率直に返事をした。
その結果、裁判長は和解あっせんを断念し、証人尋問に移ることになった。
当方は、井出本榮元組合長、三宅隆元中執、飯田忠光元船員職業紹介所事務局長、西村寿水元執行部員、現場組合員の藤田政男さん、私、の6人を証人申請したが、人
数を絞るよう求められ、最終的に
9月18日の公開法廷の場で、双方3人ずつの証人が決定した(竹中側:西村さん、藤田さん、竹中本人。組合側:松浦満晴副組合長、鈴木順三総務部長、大山浩邦関東地方支部長代行)。
現時点の裁判予定は次のとおり。
◯従業員労組による海員組合に対する損害賠償裁判
10月16日(金)午後1時半
東京地裁619号法廷
◯北山元中執の再雇用拒否無効裁判 証人尋問
10月16日(金)午後2時~
東京地裁521号法廷
証人:鈴木順三(海員組合総務部長)、原告北山等
◯阿部博元執行部員の再雇用拒否無効裁判 証人尋問
12月2日(火)午後1時~
東京地裁(法廷等は未定)
◯渡邊執行部員処分無効裁判
12月15日(火)午後4時半
東京地裁619号法廷、結審
◯竹中裁判証人尋問
1月15日(金)午前10時~
東京地裁527号法廷
証人:西村寿水さん、藤田政男さん、鈴木部長、大山代行。
注:1月29日(金)の竹中、松浦の尋問は、組合側の都合により延期申出があり、未定となりました。
(次号につづく)